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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編

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第447話 答え合わせ

 ノースリンネという、果物類の美味しい魔物食材最後の一種を無事に、この世界に復活させることができた竜郎たち。

 見た目は全く違うがバナナを泣けるほど美味しくしたような最高の味に感動した後は、今回の旅で気になっていたことへの答え合わせをしに行くことにした。


 それはどこへ──と言われれば、もちろん今もカルディナ城で逗留しているエーゲリアのところである。

 イシュタルの妹にして、四代目イフィゲニア帝国皇帝と目されるユスティティアにとっては叔母になる、この世界で現存する真竜では四人目となる存在の卵を、安心して孵化できるよう快適に過ごしてもらっているところだ。

 なにせここはイフィゲニア帝国にも引けを取らない安全な場所であり、エーゲリアの大好きなニーナが甲斐甲斐しく世話をしてくれて、なおかつ食事も超極上。

 イシュタルすら「私もそこで孵化させたかった」と、羨むほどの厚遇ぶりでエーゲリアはこの世の春を謳歌していた。



「お姉ちゃん、大丈夫? つらくなぁい?」

「ええ、大丈夫よ。ニーナちゃんが一緒にいてくれると、苦しいのなんて吹っ飛んじゃうから」

「えへへ、そうかな」

「はぁ……可愛すぎるわ……」



 竜の姿でもゆったりできる特大の広さの部屋に入ると、ニーナをうっとりと見つめるエーゲリアがそこにいた。

 真竜の卵を抱えてはいるが、ちょっとくらいぶつけても壊れるこたぁないわとばかりに、割と雑に扱っている。



『将来あの子がグレたりしないか心配だな……』

『ま、まぁ……二人目だし? 余裕があるってことじゃないかな?』

『ヒヒーーンヒヒンヒーーン(実際に弱ってるかどうかも怪しいけどね)』



 エーゲリアを訪ねてきたのはもちろん、今回の旅に同行したオーベロン以外の全員だ。

 さすがに戦いと酒以外にたいした興味も示さないガウェインも、ここまできたらちゃんとした答えを聞いてスッキリしたいと思い、一緒に付いてきていた。



『生まれるまでは真竜といえど弱るって話だったんだが、ありゃ今でも歯が立つ気がしねーぞ。

 やっぱり次元が違うぜ、あの竜は』

『ん、もはや神レベル。敵対しようと考えることすら馬鹿らしい』



 イシュタルがユスティティアの卵を抱えているとき、随分と弱っていたのを見ていた竜郎たちは、そのあまりの余裕ぶりに苦笑してしまう。



『イシュタルももう俺たちより強くなってるはずなのに、それでもエーゲリアさんと比べるとここまで違うんだな』

『さっすが、さいつよドラゴンさんだよね』



 なんて竜郎たちが観察していると、気づいていたのだろうが、ニーナに夢中でそれどころではなかったエーゲリアが、ようやくこちらに意識を向けてくれた。



「あら、いらっしゃい。どうかした? お夕飯にはまだ早いんじゃないかしら」

「あはは、お姉ちゃん、さっきお昼ご飯食べたばっかりなのに、食いしん坊さんなんだからぁ」

「ふふふ、そういうニーナちゃんだって、ご飯が今出てきても食べられるでしょ?」

「もっちろん! パパ、ママ、皆もおかえり!」

「ただいま、ニーナ」

「たっだいま! ニーナちゃんもエーゲリアさんのお世話頑張ってて偉いね!」

「ギャウ♪」



 褒めるように竜郎と愛衣がニーナの頭を撫でると、幸せそうに彼女は目を細めた。

 そんな姿すら愛おしいと、エーゲリアは顔が蕩けていた。



「なんか、前より悪化してねーか? こんなもんだったっけか?」

「ずっとニーナちゃんと一緒にいられるから、愛情が爆発しちゃったのかもしれないわね」

「あー……」



 イェレナの言葉に、一同納得してしまった。



「つまり過剰摂取でオーバーフロー的な感じか」

「ん、分かりやすい」

「ヒヒーーーン? ヒヒンヒヒヒンヒヒーン(まぁそれはもういいんじゃない? そろそろエーゲリアさんに聞いてみようよ)」

「それもそうだな。エーゲリアさん、残念ながら夕飯のお誘いじゃなくてですね、少し今回の旅で気になったことがあったので、お話を聞きに来たんです」

「そうなの? なにかしら。どうぞ、聞いてちょうだい。

 ここまで盛大にお世話をしてくれているし、大抵のことなら話してあげられると思うわよ」

「なら遠慮なく。ヘスパー・トワイライトという芸術家を、エーゲリアさんは知ってますよね?」

「懐かしい名前ね……。ええ、もちろん知っているわよ」



 言葉通り、どこか昔を懐かしみながらも、寂しそうに遠くを見つめるような瞳で、彼女は天井を見上げていた。



「そう……彼にまつわる何かが、今回のタツロウくんたちの旅に関わったのね」

「はい。実は世界災凶絶景七選という、元はエーゲリアさんが全て所持していたという作品が話題に上がって、俺たちはその全ての地を訪れて実際にこの目でその絶景を見て回ってきたんです」

「まあ! そうなの! そういうことなら私も誘ってくれればよかったのに……。ニーナちゃんと一緒に見たかったわ」

「ギャウ? そんなに凄い所だったの?」

「うん、凄かったよ。今度、ニーナちゃんも行こうね」

「うん! 絶対に行く! そのときは、お姉ちゃんも一緒に行こうね」

「ええ、もちろんよ! 全部詳しくガイドしてあげるわ!」

「ということは、エーゲリア様も全て周られたことがあるのですね?」

「もちろんよ。何せ私は、お母様とニーリナたち九星の皆と一緒にその全てを最後に回ったのだから」

「最後に……?」

「ええ、お母様との最後の思い出にと、あなたたちのいうヘスパー・トワイライトが、世界各地で見つけてきた不思議で美しい光景を、見て回ったのよ」

「じゃあもちろん、ヘスパー・トワイライトが何者なのかも知っているんですね?」

「ええ、さっきも似たようなことを言ったけど、もちろん詳しく知っているわ。彼のことはね。

 世界災凶絶景七選の作品だって、本人に直接渡されたものなわけだし」

「じゃあじゃあ、教えてエーゲリアさん! トワイライトさんって、何者だったの?」

「誰だと思う?」



 竜郎たちがおおよそ見当がついていると気が付いたのか、悪戯っ子のような茶目っ気のある瞳を向けてきた。



「ん、九星の誰か?」

「最後の『黄昏に眠る光滝の大空洞』だったか?

 そこへの協力ぶりだとか、真竜への尊敬度合いとか見る限り、そうとしか思えねーよな」

「ヒヒーーン(右に同じくー)」



 こちら側の考察を聞いて、楽しそうにうんうんとエーゲリアは頷いている。

 完全に暇つぶしのための、話題作りにされているようだ。



「じゃあその九星の誰かだった場合、誰だと思う?」

「それは……まぁ…………、グエシスさんじゃないですか?」

「本当にそれでいい?」

「え? ええ、はい。それでいいですけど……」



 いいから早く言ってよと思わず言いたくなるようなを置いてから、エーゲリアは重そうな口を開いて答えを聞かせてくれた。



「せいか~~い! けどよく分かったわね。

 性別が男らしいと思ったとしても、四分の一をあっさり当てるなんて驚きよ。

 具体的に誰かに繋がりそうなものって、あったかしら……?」

「それについては、最後の『黄昏に眠る光滝の大空洞』で見た、グエシスさんの像の出来具合の違和感で──っていう感じですね」

「違和感って、タツロウくんたちも、随分と審美眼が磨かれているのね。

 あの誤差にしか思えない、他との違いを見極められたなんて」

「あははっ、私たちじゃないよ。エーゲリアさん。実は芸術が大好きな王様と、一緒に回ったんだよ」

「んん?」



 どういう状況?と首を傾げるエーゲリアに、ニーナにもお土産話を聞かせるつもりで、今回七つの危険地帯を巡ってきたわけを話していった。

 どの美味しい魔物食材を復活させようとしての事かは、まだ秘密にして。

 その過程で、グエシスの像だけ出来が他よりも劣っているとオーベロンが気づいたことも伝えておいた。



「あははっ、面白い王がいたものね。

 けれどそれだけ芸術を愛しているだけあって、その目は確かなようね」

「ん、じゃあ自分の像だから手を抜いたってことであってる?」

「手を抜いた……というわけではないわ。

 ただちょっと変わっている人だったから、逆に自分を作るのが難しかったらしいわ。

 最後の最後までもう一度、あれを作り直したほうがいいか。

 けれどお母様が見たものを、後から変えるのは……とか、一人でずっと悩んでいたようだし」

「自分……の像……なのに……難しい……の……? 不思議……」



 ここまでずっと黙って聞いていたルナも、さすがに気になったのか口を挟んできた。



「ええ、自分だからこそ、難しかったのでしょうね。

 製作過程も少し見させてもらっていたけど、自分の像のときは彼ったら『私というのは、なんなのだ? 私というものを、いったいどう表現すればいいのだ?』って、ず~~っとブツブツ呟いていたし。

 他の九星の像を作るときは、迷いなんてなく、一心不乱に作り上げていたっていうのにね。

 芸術家というものは不思議なものよね。それとも彼が変わっていただけなのかしらね」

「ではグエシス様は、自分の像だからと言って、手を抜いていたわけではなかったんですね」

「当たり前じゃない。お母様に捧げるために作り上げたものを、グエシスが妥協するわけがないもの。

 全身全霊を尽くして作り上げたけれど、最後まで自分というものを理解できなかったから──というのが、あの像の出来が少し鈍ってしまった原因よ」

「う~ん、さすがゲージュツ。奥が深いってやつだね!」

「さっすがニーナちゃん! よく分かってるわね! 天才じゃないかしら!!」

「ギャウ~♪」



 ただそれっぽいことを言いたかっただけのようにしか竜郎には見えなかったのだが、ニーナも嬉しそうにしていたため、竜郎は黙って生暖かい視線を送るだけにとどめた。



「えっと、じゃあとにかく、六番目の九星の人が、ヘスパー・トワイライトさんだったってことで確定! ってことでいいんだよね? エーゲリアさん」

「ええ、それで合ってるわ。薄暮はくぼのグエシス。

 彼こそが、今でも語り継がれる芸術家──ヘスパー・トワイライトだったのよ」



 エーゲリアのその言葉に、ようやくちゃんとした答えが聞けたと、竜郎たちは喉につかえた小骨が取れたかのように、一斉にスッキリした気分で息を吐いた。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
やっぱ、薄暮さんよね。 黄昏(夕暮れ)がトワイライトと翻訳されるのは知ってたけど、薄明(明け方)もトワイライトと訳せるって知ったのは、「.hack//」のおかげ。
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