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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編

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第433話 遥か昔の遺物

 美しかったけれど何とも言えない気持ちにさせられながら、それでもオーベロンの希望で黄金都市のあちこちを回りながら、ついでジャンヌに撮影してもらい、『輝砂の嵐と黄金遺跡』を後にする竜郎たち。


 世界災凶絶景七選もついに半分を切った。

 次に目指すのは5つ目──『虹繭に包まれた槍山』。

 直接空から行くのが一番の近道だが、例の如く不測の事態が起きて見られなくなったり、その景色を壊してしまったら困るため、ちゃんと距離をとってジャンヌに着陸してもらう。



「上からチラッと見たときも思ったけど、凄い地形だね」

「「とげとげっ! きゃっきゃっ♪」」

「どういう経緯があって、こんな土地になったのかしら」

「ヒヒーーン(不思議だよねー)」



 槍山というくらいなので、尖った山があるだろうことは予想していた。

 だがそんなレベルではなく、上から見ればその辺り一帯全てがハリネズミのように刺々しい山が連なっていた。

 しかもそれは上から見ただけでは分からないような、大きな槍山同士の間でもご丁寧に統一されており、今竜郎たちが立っている場所も足つぼマットどころか、普通に立ってしまうと靴底と一緒に肉を貫くほど尖った石がびっしりと生えていた。


 その尖った石と石の僅かな隙間でも生命力豊かに苔や草が生え、よく見ないと分からないよう隠れてしまっているというのもタチが悪い。

 先に探査魔法で地形を調べていなければ、そのままオーベロンを下に降ろして足に大怪我を負わせてしまっていたところだ。

 だが楓と菖蒲にとっては足つぼマット程にも痛みを感じていないのか、感触が面白いと裸足で駆け回っている。



「凄いですな……。私など結界で体全体が守られていると分かっていても、ここを裸足で駆け回る勇気はありますまい……」

「あの子たちはまぁ……特別ですから、気にしないほうがいいですよ」



 とはいえただ尖った石の山肌くらいなら、竜王種なんていう真竜やその眷属を除けば最上位の竜種でなくとも、下位のドラゴンでもある程度成長すれば平気で歩けるレベルでしかない。

 これくらいならそれなりに鍛えた冒険者、レベル10のダンジョンに挑めるような者たちであれば、散歩気分で歩いて行ける脅威レベルでしかない場所だ。



「ですがそんな甘い場所ではありません……よね?」

「ですね。裾野辺りならこの程度の脅威でしかないですが、上に行くほどに土地の殺意が高まっていく──とでもいいか。

 とにかく触れたもの全てを貫こうとする力が、強くなっていくんです」

「つまり上に登っていくほどに、より強く守らなければ踏み込んだ際に足を貫かれてしまう──というわけですな」

「はい。どれくらいヤバいかというと、レベル10ダンジョンに安定して挑んで稼げる冒険者であっても、『虹繭に包まれた槍山』が見える場所どころか、その半分辺りですら登れなくなるでしょうね」

「そ、それほどですか……。やはり世界災凶名乗るに相応しい場所──といったところでしょうか」

「なん……だか……変……な……場所…………」



 まだここは鍛えた常人なら立っていられる場所だが、上に行くにつれて刺々しい足元がどんどん魔力を帯びていく。

 その魔力によって見た目以上に貫通力も増していき、分厚い金属で足底を守ろうとしてもいずれ貫かれ、竜郎がやっているような魔法障壁を半端な力でやっても貫かれ、肉も骨も軽く貫通してその場に縫い付けられたまま死に絶えてしまう。


 しかし、であるなら人生で一度、自分さえ見られればいい。

 環境がそれで変わることになって、その景色が失われようとも関係ない。

 そのような考えで竜郎たちがジャンヌに運ばれここまで来たように、そのまま空路でトワイライトが描いた景色の場所まで行ってしまえばいい──といいたいところだが、そんなズルは許してもらえない。


 この山の貫こうとする殺意を舐めてはいけない。

 頂上付近ともなればそれはもう、なんの恨みがあるのかと呪いたくなるほど確殺の力を込めて、上を通るものを引っ張ってくる。

 ジャンヌであればその力さえも抗えるが、逆に言えばそのレベルでなければとてもではないが空からも陸からも頂上付近へ行けはしない。

 その凶悪的な力のおかげで、この山に住める魔物はいないが、物理的な危険度でいえばこれまでの中でもトップクラスに物騒な場所と言っていいだろう。



「なんつーか聞けば聞くほどだな。実はここもダンジョンだった場所だとか、そんなオチじゃねぇか?」



 ダンジョンを管理しているルナですら奇異に感じられる、特殊な力場が働いている場所。

 そういうところが、『黄金樹と星闇の天蓋』のことを皆に思い起こさせた。

 だが竜郎はそんなガウェインの言葉に対し、首を横に振る。



「いや、そういうのじゃないみたいだな」

「ん、その言い方だと実はもう分かってる?」

「この山が何なのかは、今調べたからなんとなくな。

 そうだな……皆が気になってるって言うなら、オーベロン陛下」

「はい、なんでしょう」

「ちょっと寄り道になりますが、他では見られない光景をついでに見に行くというのはどうですか?

 綺麗な場所かどうかは保証できませんが、世にも珍しいことだけは確かです」



 オーベロンなら勝手にそちらを優先しても怒りはしないだろうが、一応このトワイライトの聖地巡礼旅は彼が望み、それを叶えるためにはじまったもの。

 話を先に通しておくのが筋であり、嫌なら竜郎たちだけで後からここに来てもいいのだからと、彼にうかがいをたてた。

 しかしそんなものは必要なかったと、彼の表情を見れば一目瞭然だった。



「行きましょう! どうせ老い先短い命、今この時にしか見られぬものがあるというのなら、生きているうちにこの目で視られるものは全て見ておきたいのです!」

「なら決まりですね。ジャンヌ、申し訳ないけどもう一度皆を乗せてくれるか?

 ちょっと山は広いから、それなりに距離があるんだ」

「ヒヒーーン!(もちろんいいよ!)」



 今はトワイライトの手記にのっとり、最も絵の場所に行くのに都合がいいルートに繋がる場所にいた。

 けれど竜郎が解析探査し発見したとある場所は、そこから離れた場所にある。

 またジャンヌに空駕籠を背負ってもらい、竜郎たちはもう一度空を飛び、その場所を目指し飛んで行った。



「ここからは飛んでいけないので、歩きです。行きましょう」

「は、はい」



 やってきたのは、この槍山脈地帯の端に近い場所。

 そこで降りた竜郎たちは、自然にできたであろう洞窟に入っていく。

 ここはここでかなり危険で、刺し貫く力は働いていないが、だからこそ魔物が住み着いている。

 こんなところに住み着いているだけあり、どれもレベルが高い。

 真っ暗で何も見えないからと、明かりでも灯せば一斉に獲物だと襲い掛かってくるだろう。

 オーベロンは暗闇を恐がっていたが、それでもガウェインが担いでくれたおかげで、道中も問題なく突き進むことができた。

 そしてある程度進んだ先に、大きく開けた場所があった。

 地底湖のようになっている場所で、自然と雨が入り込んで小さな湖ができたであろう場所。

 そこに大きな岩のようなものが、コケまみれになって転がっていた。

 だがそれが岩でないことを、竜郎が光で照らせばオーベロンもすぐに気が付いた。



「あれは……目? いやしかし、あんな大きなものがあるはず……」

「それであってますよ。特殊な目を持っていたからか、化石化して残ったんでしょうね。

 頭蓋骨は時の流れでその下に埋まってます」

「えっと……つまりどういうことなの? たつろー」

「さっき俺たちがいた槍山脈地帯は、全て遥か昔に存在した巨大なモンスターの甲羅の上だったんだよ。

 トゲトゲの甲羅を持つ、亀みたいな魔物だと思ってくれていい」

「それが本当だとすると、あり得ないほどの大きさだったことになるのだけど……。

 それにそれが本当だったとしても、あの貫こうとする力がその魔物由来だとすると、これで生きているというの?」

「いいや、死んではいるよ。おそらく首をここで落とされてね。

 ほら、ちょうどあの辺りに首の付け根がある」

「付け根があるって言われても、デカすぎてわっかんねぇな。

 だがそれでも、とんでもねぇ力を持った魔物だったことは分かるぜ。

 誰が倒したんだ? 俺が戦いたかったぜ。いやむしろ、倒した奴と戦いてぇ! 誰なんだいったい」

「ん、こんなの倒せるのはそういないはず」

「あなた方でもそういうほどの魔物だった……ということですか……」



 オーベロンは体を震わせ、ガウェインにさらに近寄った。



『時代的にイフィゲニアさんとか、九星の誰かだろうな。もしかしたらエーゲリアさんかもしれないけど』

『ヒヒーーンヒヒーーン、ヒヒヒーーーン(クリアエルフの誰かっていうのもありそうだけど、首を一刀両断って感じだしね)』

『私でもかなり本気でやらないと、一刀両断は難しそうな相手だったんじゃないかな?』

『くそっ、その時代に生まれたかったぜ!』

『ん、私は大変そうだから、こんなのが普通に生まれてくるような時代に生まれなくて良かった』

『俺もこんなのが闊歩しているような時代に、一番最初この世界に落とされていたとしたら、生き残れる自信はないな』

『だねぇ。最初の頃の私たちじゃ、手も足も出せずにぷちっと潰されちゃってたよ、絶対』



 今の竜郎たちであれば、一対一であろうと勝つことはできたはずだ。

 それでもふざけて相手にできるような存在ではなく、本気を出さざるを得ないほどの怪物級モンスターであったことは間違いないと、死体からでも察することができた。

 成熟した竜王種でも一対一では、相手取るには苦労しただろう。

 これが生まれるような騒乱の時代が確かにあったのだと、その死体が直に竜郎たちに教えてくれているようだった。



「でも……死んでる……の……に……力が……残ってる……。

 ゾンビ化して……る……ように……も見えない……けど……?」

「それは俺も気になってるんだ。でもおそらく、その答えは頂上にある気がする」

「おおっ、そーなんだ! なんだか余計に、頂上の景色が気になってきちゃったよ!!」

「私も確かに気になるわね。なら早くいきましょう」

「そうだな。ここには、これ以上見るものもなさそうだし」



 できればその魔物の素材を回収し魔卵を作り出せないかとも思ったが、何がどう作用しているのか分からない今の段階で、無理に頭部の化石を掘り起こすのはよくないと判断し、竜郎は皆を連れて来た道を戻っていく。

 それからまたジャンヌの空駕籠に乗せてもらい、最初に着陸した場所へと戻っていった。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
トゲなどの剣山的な奴は、密度が厚くなればなるほど、それぞれにかかる圧力が減るから、実は1本の方が危ないとか。 どのくらいの密度なんだろうか? 鋭さは相当だろうけども。 こう、バラバラの実でバラバラに…
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