第431話 銅色の砂漠
続いて到着したのは砂漠地帯。
カルラルブで砂漠は見てきたが、ここは少し奇妙な砂漠だ。
まず広範囲にぽっかり砂漠化しているだけで、その周囲はちゃんと緑にあふれている。
気候や土地の状態を鑑みれば、普通そこは砂漠になんてなるはずがない場所だった。
「ですがその周囲は周囲で厄介な魔物が多いため、ろくな調査もできていない状態らしいのです」
「なるほど……」
竜郎たちが今いるのは、その緑の大地と砂漠の境界線。
確かに緑が広がっている大地の方の魔物たちは、一般的な冒険者や騎士たちでは対処は難しい危険地帯だった。
とはいえそこに貴重な資源が埋まっているわけでも、希少な魔物がいるわけでもない。
開拓するメリットがほとんどないのに、貴重な人材や資金を消費したい人間などおらず、ここは誰も近づかい無人の地となっている。
そしてそんな誰も近寄らない場所の先にある砂漠のどこかに、トワイライトの絵のモデルになった景色があるらしい。
「「きらきらっ」」
「ふふっ、砂もキラキラで変わってるね」
「銅を砂にしたみたいな……不思議な砂漠ね」
砂漠の粒一つ一つが金属質で銅色をしていた。
だが別に銅どころか金属というわけでもなく、砂のような何かだ。
「砂は特に害はなさそうだな。毒というわけではないようだし、多少吸い込んでも問題ない。
それよりも問題なのは──この異常な乾燥か」
特殊な砂に目を奪われて、不用意にその砂漠に踏み入れば、その者は一瞬で体中の水分を奪われミイラになる。
試しにいらない魔物の素材を竜郎が砂漠へ放り投げると、焼かれるようなジュッという音をあげながら一瞬で干物になってしまう。
解魔法で調べてみても、水分がまったくなくなってしまっている。
「こんな感じだから、この砂漠の方には分かる範囲では魔物どころか生き物の反応が一つもない」
「そりゃあ、こんなとこにわざわざ住もうなんて考えないもんね」
「乾燥地帯というより、強制乾燥地帯といったところかしら」
「ははっ、酒のつまみに干物を作るにはちょうどいいかもしれねぇな」
「ヒヒーーンヒヒンヒヒーーン(わざわざここで作る必要なんてないけどね)」
「ん、同感」
ガウェインが冗談めかしたことをいい、それにジャンヌとヘスティアが反応している間に、竜郎は探査魔法を飛ばしてトワイライトの痕跡を探す。
この座標から少し進んだところにあると、オーベロンが言っていた。
それを信じて少し探してみれば、あっさりとモノリスをみつける。
「砂が積もって見えないな」
だが砂に完全に埋もれてしまっていたため、竜郎は風魔法でモノリスを吹き飛ばさないよう注意しながら砂をどかしていく。
「魔物……埋まって……た…………」
「「からから!」」
だが埋まっていたのはモノリスだけではない。
砂漠の周りにある自然豊かな方に住んでいた魔物であろう干物が、砂の中から姿を現す。
砂漠との境界線に近いため、何かの拍子に入って干物になってしまった魔物たちなのだろうと竜郎は納得する。
「雪山で凍った死体がそのままずっと残ってるみたいなものか」
「ミイラだし、埋まって風化しないならこうなっちゃうんだね」
とくに必要なわけではないが、もったいない精神が発動し、ミイラ化した魔物たちも竜郎が回収。
自分たちの周りには蒸発の力が働かないよう、また竜郎が障壁を張りなおし、砂漠へと踏み出していく。
「ん、砂がサラサラ」
「普通に歩いたら、そのまま沈んでいきそうな所ね」
そもそも強制乾燥してしまうため普通の生き物は入っただけで死ぬが、たとえ生き延びられたとしても底なし沼のように、粒子の細かい銅砂に呑み込まれ窒息死する。
殺意が高すぎるこの場所にオーベロンは引きつった顔をしているが、竜郎たちは気にせずモノリスの前に到着する。
「砂嵐を見つけ、行きつく場所を暴くべし──か」
「とりあえず砂嵐を見つけろってことでいいのかな?」
「ああ、それが一番の近道…………なんだ?」
竜郎の探査魔法に、大量の魔物の反応が引っ掛かる。
「お、敵か? 喧嘩なら買うぜ」
「ん、暴れちゃダメ。できるだけ荒らさず行く」
一つ前の複数のモンスターたちの生活が最高の景色に繋がっていたように、ここも何が奇跡の景色を作り出すか分かったものではない。
障壁で覆った自分たちに自ら銅砂をかけて隠れ観察していると、緑の大地の方から二メートルはあろう金属光沢をもつ琥珀色のアリ型魔物が列をなし、背中に倒した別の魔物を担いで砂漠に向かってきているのが見えた。
死んでいる者もいたが、まだ半死状態で生きているものもいる。
「あのままでは、あのアリたちもミイラになってしまうのではないですか?」
「それに……して……は……迷い……が……ない……」
アリたちは勝手知ったる我が道を行くように真っすぐ進み続け、いよいよ水分を全て奪いつくされる砂漠に足を踏み入れた。
しかしそのアリたちはなんの影響も受けず、砂漠に入ることができていた。
細かな銅砂もアメンボのような特殊な足の構造をしており、しっかりと砂の上を魔物を担いでも沈まずに移動できている。
だがその背中に背負っている獲物は、そんな特殊な構造や力は持っていない。
アリたち以外全員水分を抜かれて一瞬で干からびてしまう。
生きていた魔物もそれが止どめとなって、アリの背中で干物になっていた。
「ヒヒーーン、ヒヒンヒヒンヒヒヒーン(むしろアリたちにとっては、長持ちする保存食作りになってるんじゃないかな?)」
「うーん、アリさんなのに賢いのかも? でも今はいったい何してるんだろ? ずっとグルグル同じ所回ってるけど」
「何というか、全員で魔力を放出してる感じはあるが……」
ミイラ化した魔物を担いだ状態で、アリたちは一定の間隔で綺麗に並んで同じところをグルグルと周回しはじめる。
一見意味不明な行動に愛衣は首をかしげているが、竜郎は何か魔法を使う気でいるだろうことは分かった。
「「「「「あ……」」」」」
五分くらいずっと同じことをしているのを、竜郎たちは暇そうに眺めていたら、ようやくアリたちの魔法が完成した。
完成するとまるで竜巻のような風が発生し、銅砂を巻き上げながら砂嵐となる。
アリたちはそれに乗って、さらに砂漠の奥へと向かって飛んでいってしまう。
思わず皆が口を開き、その光景をただ見つめていた。
「えっと……もしかしてなくてもあれじゃないかしら」
「ん、立派な砂嵐だった。ついてかなくていいの?」
「ついていったほうがいいんだろうな。よし、みんな出発だ。
でも解魔法で居場所は把握できてるから、慌てていく必要もないからな」
「「あう!」」
「意外とすぐ見つかったな。ラッキーだったぜ」
「ほんとうですな!」
竜郎たちは被っていた銅砂を振り落とし砂漠の上に出ると、アリたちが去っていた方へと進みはじめた。
次も木曜日更新予定です!




