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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編

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第424話 苦行

 先にこちらに来ていた魂も、側で白い空間のときと同じように真っすぐゆっくり進んでいるのを発見する。



「洗浄された魂じゃないと、別の場所に送られるっていう線もなさそうだね」

「なん……か……苦し……そう……?」

「苦しい? 魂だけになってんのに、熱さなんか感じられねぇだろ」



 竜郎からみても、とくに相も変わらずのんびり進み続ける魔物の魂が苦しんでいるかどうかなど分からない。目でよく見ても、特に何か変わった様子もない。

 それに物理的な熱さや寒さなど、体の無い存在にどう味わえというのだ。


 しかしルナが言うなら、説得力はあった。

 彼女には竜郎たちのダンジョンの管理をしてもらっているが、その姿はそのダンジョンのボスであった幽霊の魔物からきている。

 それに彼女は妖精樹の化身でもあるため、竜郎たちと見えているものがそもそも違うのかもしれない。



「あー……なるほど、そういうことか」

「ヒヒーーン?(どーゆーこと?)」

「これはただ熱いだけの空間ってわけでもないみたいだ。こうして──」



 竜郎は解析して分かったことを順を追って説明するために、適当な紙ごみを取り出し自分たちを守っている障壁の外に放り出す。

 するとその紙は、一瞬で灰になって散っていく。何が言いたいんだろうと、灰になったゴミから全員が竜郎へ視線を戻す。



「現実にも影響するほどの火やマグマや熱波ではあるんだが、どちらかというと精神的な炎……って言えばいいのか。

 現実に染み出しているだけで、ここに見える全部は実在していない」

「えーと……つまりこれら全てが幻……ということですか?」

「幻と言ったほうが分かりやすいんですが、幻でもなくてですね。

 幽霊みたいな炎とでもいえばいいんですかね。でも似たような存在の魂は燃やさないんですが……。

 あー……俺もこんなの初めてなので、ちょっと表現が下手ですみません」

「いえ、そんな。なるほど、幽霊のような炎……。

 だからルナ殿が言うように、魂もこの熱さを味わっている可能性があるということなんですね」

「そうです。というか可能性どころか、ほぼ確定でこの熱さを感じていると思います。

 記憶が何もないので感情というものは読めませんが、調べた感じでは強い精神的疲労を味わっているのは間違いないようです」



 ストレスや苦痛によるとてつもない重圧が、このちっぽけな無垢な魂に圧し掛かっている。

 人でいえば常に肌が焼かれ爛れ、目の水分も蒸発するほどの業火に永遠と燃やし尽くされることもなく、その苦しみと痛みを感じ続ける状態を強いられていると言っていい。



「記憶は消されて、餓死させられて、肉体まで奪われた挙句にその魂は焼かれる苦しみを味わわせられるってことでしょう?

 酷い場所ね……趣味が悪いったらないわ」

「でも何のために、そんなことしてるんだろ? ぶっちゃけ意味なくない?

 苦しいは苦しいんだろうけど、感情がないなら痛いとかも思わないだろうし」

「そこが謎なんだよな。ただもし記憶の洗浄もせずに、こんなところに魂を入れられたら精神が壊れて魂ごと消え去るだろうし………………それが目的か?」

「ん、苦痛に耐えられるように、記憶を洗浄してあげた(・・・)?」

「その可能性が出てきた。ある意味では記憶の洗浄は、この空間の良心というか、親切心でもあるの……か?」

「いや聞かれても分かんないよ。それにいっぱい意地悪するために、やったっていうこともあるんじゃない?」

「もしそうなら、これを作った存在の正気を疑うわ……。

 あ、そうだ。オーベロン陛下、ここにはトワイライトのヒントとかはないのかしら?」

「え? ああ、そういえば……赤い部屋の記述があった気が……。

 読んでいるときは赤い部屋? と首を傾げたものですが、おそらく左側のどこかにトワイライトの目印があるはずです」

「左側……ですね。お、あった。マグマに埋もれてる」



 両サイドに流れるうちの左側のマグマの下に、焼かれることなく平気で立っている白い石板が隠されていた。

 魔法でマグマをどけて見てみると、トワイライトのメッセージがそこに刻まれているのが分かる。



「先導役を見繕い、そのまま進め。一本道。近道など考えず、きちんと進めばいずれ辿り着く──か」

「ヒヒンヒヒーーーン(このままで合ってるみたいだね)」

「みたいだな。先導役っていうのは、ここにいる魂たちのことだろう。

 だが順番通りってことは、この妙な空間がまだまだ続いていそうだな……」

「ん、見てるだけで暑苦しいから早く次に行きたい」

「それもそうだな。さっきみたいに、適当な魂に道を示してもらうとしよう」

「「あう!」」



 竜郎は探査魔法でできるだけ進んでいる、おそらく最前列で進む魂を見つけ、風の魔力で押して先を急ぐ。

 先ほどの移動で感覚は掴めたので、今度はもっと速く飛んで魂を押し進めた。

 竜郎と愛衣におんぶされて、アトラクション気分で楓と菖蒲は楽しそうだった。



「おっと、ここがチェックポイントか」

「おー、またお地蔵さんみたいなのが出てきたね」



 ここでも魂が引き寄せられるように床に向かう場所があり、その魂が近づくと地蔵のような石像と、それが大事そうに抱える皿と石ころが現れる。

 最初の地蔵と造形も大きさも、解魔法で測ったが寸分たがわずコピーしたように一緒だ。

 魂はまた皿から何の変哲もない小石を一つ吸い込むと、扉が開き見えない向こう側へと消えていった。



「俺たちも行こう」

「うん。じゃあ私はこの石にしよっと。ちょっとハート形っぽいし」

「うー…………あう!」

「う!」

「あははっ、二人のも変な形だね」



 別に形など関係ないのだろうが、愛衣と同じように楓と菖蒲も自分の好きな形を選んでいた。

 それを見ていたヘスティアも、ソフトクリームと竜郎には全くそう見えないが、彼女的にはそう見えなくもない石を取っていた。

 竜郎は別に何でもいいので適当に取り、オーベロンも石ころに美しさは感じられないようで適当に取っていた。


 そうして全員が二つ目の石を確保してから、またその場所に空間の管を通して次へと進む。



「これはまた極端だな……」

「ん、アイスクリームがずっと溶けなさそう。ちょっと好きかも」

「溶けねぇっていうか、固まりすぎて逆に不味そうだろ。こんなとこ」

「ん、それは言えてる……。あの柔らかさも大事だった」



 三つ目の場所は、灼熱地獄とは真逆の氷雪地獄といったところか。

 常に前が見えないほど吹雪ふぶいているのに、何故か積もる気配のないまっすぐ伸びた通路。

 その両脇の空間は雪と氷で埋め尽くされ、凄まじい冷気が全域に渦巻よう吹き荒れている。

 竜郎がただの水を障壁の外に出してみれば、それは一瞬で凍り付いて落ちても砕けることはない硬い氷になっていた。



「ここも……魂……苦し……そう……」

「やっぱりここもそうなのね」

「調べた限りでも、それで間違いないみたいだ。

 ここにある雪も氷も冷気も普通じゃない。魂でも苦痛を感じる特殊なものだ」



 やはりここも一つ前と同じ。

 しかも苦痛なく一瞬で凍り付くようなものではなく、人であれば全身凍傷を負い、細胞が壊死えししていく苦痛をずっと味わわされるような苦行を、この魂たちは行っていることになる。

 たとえ死なず本当に体が傷つくわけではないと言われても、たとえそれでどんなに大金が貰えると言われても、普通の人なら絶対に断る壮絶な苦痛。

 耐えるなど不可能。一分も精神が保てれば、超人だと誇って良いレベルの苦痛を何日も何か月も、何年もここを通っていく魂たちは味わっている。



「正気の沙汰じゃないな」

「まぁ、現に正気じゃないわけだしね。魂くんたちはさ」

「そんなとこに、自ら来てる俺らも大概じゃねぇか?」

「まったくもってその通りだよ。ガウェイン」



 たとえ竜郎の魔法で大丈夫だと分かっていても、常人なら帰りたいと思うような場所。

 寒さは感じなくても、視覚だけでも妙に寒さを感じさせる圧がその雪や氷にはあった。



「陛下は大丈夫ですか?」

「ええ。芸術のためなら、その程度の精神的な圧など跳ね除けられますとも」

「それはそれで凄いわね……」

「ん、さすがずっと王様やってただけある」



 そこも同じように最前列の魂の所まで行き、それにガイドしてもらい第三チェックポイントの地蔵を見つけ石をまた拾う。

 そして竜郎がそこに空間の管を通し、保険をかけてから扉をくぐった。


 次の場所は真っ暗な場所。それに耳鳴りがするほど、静かな場所でもあった。



「暗いだけか? …………皆どうした?」



 近くにいるのは分かっているのに、何も見えず誰の声も聞こえない。



「音も聞こえないのか。ならこれは……だめか」



 光の魔法を障壁の外に出して照らそうとしても、照らす前に光は暗闇に吸い込まれて明るくできない。



「ならこれで────どうだ? 聞こえるか?」

「聞こえた! はーなんか嫌な場所だね」



 障壁の内側ならどうだと個人個人で作っていた障壁を、一つの大きな障壁にして皆を包み込みなおし、その中に光の玉を浮かべればちゃんと闇に消されず、周囲を照らすことができた。

 《無限アイテムフィールド》に空気もたくさん詰めているので、密封した障壁内でも酸欠を起こす心配もない。



「い、一瞬でしたが頭がおかしくなりそうでした……。

 暗闇と無音というのは、ここまで恐ろしいものだったんですね……」

「ってことは、そういう苦痛をここでは魂は味わってるってことか。

 あの手この手とご苦労なこった」



 ここを行く魂たちは、ずっと続く暗闇と無音の道を、何年もかけてたった一人で進み続けるという苦行を味わっている。

 肉体の苦痛というよりは精神の苦痛。ならば感情の無い魂たちは、楽勝かと竜郎が状態をチェックしてみれば、しっかりとそれを苦痛と認識し、とてつもないストレスがかかっていた。



「ここに偶然迷い込んだ人たちは、本当に災難だったというかなんというか……」

「ヒヒーーンヒヒーーンヒヒン(いっそ普通に殺してくれたほうが楽だよね)」

「生き地獄ってやつだね。まぁ……死んでるんだけどさ」

「中途半端に魂として生きてるって感じはするから、ある意味生き地獄と言ってもいいのかもしれないな……」



 その後も太陽が照り付ける灼熱の砂漠や、ずっと耳を塞ぎたくなるような騒音がなっている空間などなど、肉体や精神をこれでもかと苛め抜くような苦行のオンパレードがひたすら続く。

 竜郎たちはずっと障壁であらゆる苦痛から守れ、それを直接味わうことはなかったが、ただその空間を見ているだけで気分が滅入り、ナーバスな気分に陥りそうになりながらも、皆で雑談をしながらなんとか進み続けることができた。

次も木曜日更新予定です!

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