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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編

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第411話 トワイライト

明けましておめでとうございます!

 突然でてきた聞き覚えの無い『世界災凶絶景七選』という言葉に、竜郎たちはなんのことだと首をかしげていたが、仲間内で一人だけその存在について知っている人物がいた。



「世界災凶絶景七選? ……それって確か、ヘスパー・トワイライトの絵画のことかしら?」

「おおっ、ご存知でしたか! さすが偉大なる芸術家だけはありますな。

 彼を敬愛する者は世界中に種族問わずいるとは、真のようです」

「い、いやぁ、別に私は聞いことがあるっていうだけで、敬愛しているわけじゃ……」



 知っていたのは妖精郷から派遣され、竜郎たちのところにある妖精樹の調査研究をしているイェレナ・シュルヤニエミ。

 さすが竜郎たちより、ずっと長く生きているだけあり博識だと感心する。

 ただ本人はまるで同士を見つけたかのように目を輝かせるオーベロンに、引いてしまう程度の興味しかないようだが……。



「イェレナさん、そのせかいさいきょーなんちゃらって、そんなに有名なの?」

「そうねぇ。有名と言えば有名よ。もっと名の知れた画家は大勢いるけれど、ヘスパー・トワイライトの絵画の愛好家は熱狂的な人が多い印象ね」

「あー……ね」



 愛衣は納得したように、オーベロンの方を見る。しかし熱狂的なのはオーベロンだけでなく、息子のフーガロンのほうもそうだったらしい。

 「世界災凶絶景七選? 私も見たいんだが? 父上だけずるくね?」という感情が、欲望が、王族だというのに一切隠し切れていない。

 だが竜郎たちはあえて気付かぬふりをして、もう少し世界災凶絶景七選とやらについて聞いていくことにした。



「世界災凶絶景七選というのは、へスパー・トワイライトという画家の描いた風景画?のようなものだという認識で間違いないですか?」

「その通りです。彼は他にも何作か世に作品を残しておりますが、やはりトワイライトを語る上で、世界災凶絶景七選は外せません。彼の代表作と言ってもいいでしょう」

「じゃあそれ自体が、1枚の作品なのでしょうか。それとも七選というくらいですし、7枚の連作とか?」

「7枚の連作です。故にトワイライトの愛好家は、その全てを集めようと全財産をなげうって破滅した者もいるのだとか」

「ああ、陛下が所有しているわけではないんですね」

「現在公的にどこにあるのか分かっているのは、2枚のみなのです。ですが……」



 ニヤリとオーベロンはそこで笑う。それにイェレナがまさかと驚いた顔をする。

 その表情にオーベロンは鼻を膨らませ、満足そうに指を1本立てた。



「7枚のうちの1枚は、我が国が極秘裏に所有しています」

「世界災凶絶景七選の1枚を!? 本当に!?」

「それ……凄い……の……?」

「それはそうよ。今だって大罪を犯してでも欲しいっていう人もいるくらいだし、公表している国はどんな相手からも守る自信がある大国だけよ。

 下手すれば1枚の絵のためだけに、戦争を起こしてくる王様だっているかもしれないのだし。

 それくらいトワイライトの作品は、熱狂的すぎる愛好家たちを魅了してやまないの」

「ええ、ですから我が国は一切公表してしません。ここにいる者以外、他の王子たちすら知らせておりませんので、どうかこのことはご内密に」



 それだけこちらのことを信じての事なのだろうが、竜郎にはかなり重たい秘密を暴露されたとしか思えず乾いた笑いしか出てこなかった。



『ん、凄い絵って言うなら、泥棒に入られた形跡がある国に保管は心配』

『別にどうでもいいだろ。絵なんか食えねーし、酒のつまみの方がいいぜ。

 ヘスティアだって、甘味の方がいいだろ?』

『ん、当然。甘い物の前にはどんな名画も無力』

『ヒヒーーン(2人とも極端すぎー)』

『イェレナさんの反応を見るに、かなり凄い事みたいだしヘスティアの言いたいことは分かるが、まぁ別に俺も絵とかは興味ないしそこはいいだろう』

『そんなに凄い絵なら、一回くらいは見てみたい気もするけどね』



 良くも悪くも花より団子なメンバーばかりなため、もの凄い世界的な名画がこの国に隠されていると聞いてもそれほどの感動はなかった。

 愛衣が言うように、あるなら見てみたいかもなぁくらいの気持ちしか抱かない。



「けどここでその話題が出てくるということは、つまりその絵画が7枚揃っているところ見てみたいと、そういうことですか?」

「あー、私たちが頼めば隠してる人もこっそり貸してくれるかも? みたいな?」



 竜郎たちの世界的な信頼度は、神の威光もあって並ぶものがいないほど。所有者が分かっているのなら、頼めば貸してくれる可能性も高い。

 だがどうやら、そういう方向の話ではなかったようだ。



「い、いえ、それはそれで非常に、ひじょ~~~に魅力的な案ではあるのですが、私が望むのはその7枚の絵画に描かれた風景を、この目で直に見たいのです。

 あれほどの名画の元になった風景を、この目で見られるのなら死ぬ前に是非にと。

 しかし連作の題名から分かるように……」

「災凶なんて穏便じゃない名前が付けられているくらいですし、かなり危なそうな場所ではありますよね」

「そうなのです。それはそれは恐ろしい場所にあるらしいのです。

 ですがその危険を越えた先には、その命すら懸ける価値のある光景が広がっているのだとか。

 私は昔からその光景を、自分の目で見るのが夢でした。

 けれど次代の王となるべく育てられ、王としてこれまで生きてきた私は、簡単に命を賭けていい身分ではありません。

 この国のため民のため、レーテシャローフロスティのためにも、その責務を全うする必要がありました。

 ですが今、息子であるフーガロンが王位を継ぐことが決まりました。

 フーガロンであれば、私がいなくとも立派にこの国を背負っていってくれるに違いないと確信しております。

 ならばもう、この老い先短い私は自由に夢を見てもいいのではないか。そう思ったのです」

「でもさ。ちょっと思ったんだけど、そこって聞く感じだとかなり危険な場所なんだよね?」

「ええ、それはもう。ですがハサミ様たちであれば、何とかなるのではないでしょうか?

 もしも少しでも危険を感じたのなら、私の命は無視して捨ておいても構いません。

 ですからどうか、私を夢にまでみた世界災凶絶景七選の場所まで連れて行ってくださいませんかっ」

「いや、うん。それはたつろーたちと後で相談するとしてだよ? 私が気になってるのは──」

「そんな危険な場所で、トワイライトが呑気に絵を描く余裕なんてあったのか。ってことだよな」

「そうそう。見た景色をずっと覚えてられる人もいるらしいけどさ、それでも見られる場所までトワイライトさんは行けたってことなの? 冒険者でもない画家さんなのに?」



 まだどれほどの危険度なのかは定かではないが、画家にしてはあまりにもアグレッシブすぎるのではないかと、そんな疑問がどうしても愛衣は拭えなかった。

 ともすればそんな景色など実際はないのではないかと、そう思ってしまうほどに。

 そしてそれは愛衣でなくても、他の皆が考えていることだったらしく……イェレナが補足を入れてくれた。



「そうなのよね。世界災凶絶景七選って、トワイライトが妄想の中で見た景色を描いたっていう説が一番濃厚らしいのよ」

「あん? じゃあ無理じゃねーかよ」

「妄想……の……世界は……いけない……ね……」



 まさかの妄想説が出てきて、なんだないのかと竜郎たちが思いはじめたところに、事の発端でもあるオーベロンが首を横に振った。



「いやいや、実はそうではないようなのです。実はトワイライトの手記を偶然入手する機会に恵まれまして、それを読んでいくとどう考えても現実にあった景色としか思えないのですよ」

「トワイライトの手記ぃ……? そんなものをどうやって。それこそ大発見じゃない」



 さすがに偽物だろうとイェレナは胡散臭そうに、オーベロンの言葉に否定的な態度を取るが、本人はどこまでも自信ありげだ。



「お疑いになられるのも、無理はないでしょう。ですが当家が所有する本物と、手記に使われていたインクがどうやら同じもののようなのですよ。

 自慢ではありませんが、私の審美眼はそこいらの鑑定士以上だと自負しております。

 そのためのスキルとて、いくつも取得しています。故にまず間違いないかと」

「インクが……? それが本当なら確かに信憑性のある証拠になりそうね……。

 にしても本物の世界災凶絶景七選の1枚に、トワイライトの手記なんて、本当にどこぞの誰かに凄腕暗殺者を送り込まれてもおかしくないわよ。どうやって手に入れたのやら……」

「絵だけじゃなくて、手記もそんなに価値があるんですか? イェレナさん」

「それはそうよ。トワイライトは名前と作品こそ知られているけれど、どんな種族で本当に男だったかも定かではない謎多き人物なの。

 数万年以上昔の人というのもあるけれど、不自然なほど痕跡が残っていないのよね。

 だから手記なんて……と思ったのだけど、インクが同じとなると……」



 先ほどから妙にインクにこだわるなと、竜郎が気になっていると先にヘスティアがその疑問を口にしてくれた。



「ん、インクが同じなんてそんなに証拠になるもの?」

「だよな。作り方なんて全部、大して変わんねーだろ」

「それがそうでもないのですよ。トワイライトの作品に使われているインクは、何から色を取っているのか分からない、正体不明のインクなのです」

「トワイライトのインクは、不朽の色なんて言われているわよね。

 どんな環境に晒されていても絵画には汚れも傷一つすら付かず、永久に色褪せず、当時そのままの鮮烈な色で有り続ける。

 その神秘性も人気の一つと言われているわ。不朽、不滅、永遠の象徴なんて言っている人もいるようだから」

「でもそんな素晴らしいインクは、何から作られているのか。原料の一つも分からないと」

「どんなに高位の解魔法使いが調べても、それが何なのかさっぱり分からないらしいの。

 その絵画に使われた、全ての色のインクがね」

「私も研究してなんとかトワイライトの色を、インクを作り出せないかと試してみたこともありましたが、結局はあの色を完全に再現することはできませんでした。

 世界災凶絶景七選の7枚の複製画は多く出回っていますし、中には本物を騙る贋作も出回ってもいますが、そのインクのおかげで偽物と騙されて購入するものは滅多にいないくらいです」

「なるほど。その謎のインクはトワイライトを示す証拠でもあって、その手記と思われるものにも同じインクが使われていたから、本人のものだと陛下も断定したと。

 確かにそう聞くと、かなり信憑性のある証拠かもしれませんね」

「そうなのです。内容は手記……というよりは覚書のようなものだったのですが、実際にそこに描かれている最初の道のりは確認できています」



 実際に行って確かめさせることはオーベロンもできなかったようだが、手記の内容に書かれた世界災凶絶景七選の光景に行く着くまでの入り口のような場所は、全て完璧に現在も存在を確認できた。

 その先まではいけなかったが、明らかに行ったことがあるような、曖昧なものではなく正確な記録として記述されているという。



「どうやらトワイライトの想い人……なのですかね。誰か大切な人に、その絶景を見せたいと彼の心情をつづった文章がありました。

 おそらくその誰かを連れてきたいとトワイライトが考え、そのとき迷わぬように覚書を取ったのではないかと私は考えています」

「そうなってくると、場所もハッキリしていると考えていいんですね? そこにたどり着くまでの道のりも」

「はい。なにせトワイライトの生きていた時代はかなりの昔ですから、そのまままったく同じような道が残っているかどうかは賭けではありますが、当時の情報はしっかりと持っております」



 絵画の場所がこの世界のどこにあるのか。そこから探すことになるのかと思ってもいたが、その手記のおかげで意外に手間はなさそうだ。



『どうする? 俺は別に手伝ってもいいかなと思ってるんだけど。

 もちろん先にどんな場所なのか、ちゃんと調べてからにはなるが』

『本当に危なかったら神様が教えてくれるだろうし、私たちなら大抵のことは力づくで解決できちゃうだろうしね』

『まぁ乗り掛かった舟ってやつだ。このじいさんの護衛くらいなら、やってやってもいいぜ。マスター。

 その代わり酒を何本か譲ってくれると嬉しいんだがよ』

『労働に対価はつきものだからな。俺もガウェインが見ててくれるなら、安心して他の事に集中できるから助かる』

『ん! それなら私もおじーちゃん見ててあげる! フローラおねーちゃんの甘味所望!』

『ヒヒーン、ヒヒン、ヒヒーーン。ヒヒン、ヒヒン、ヒヒヒーーン(本当にこの2人はブレないねー。私はダディたちが行きたいなら、ついてくよ)』



 仲間たちは特に問題なさそうだ。愛衣が言うように理不尽な世界の謎法則や、サヴァナのような要注意人物が関わっているなどの危険があれば、等級神や武神、魔神たちが事前に教えてくれる。

 今も特に何も言ってこないことからも、竜郎たちなら特に危険のない場所なのだろうと予想がつく。

 ならば芸術にどっぷりと使ったオーベロンが、命を懸けてでも見たいというその絶景。竜郎や愛衣も少し見てみたいと、興味が湧いてきた。



「イェレナさんや、ルナはどう思う? 行ってみたいか?」

「……興味……ある……。外の世界の……美しい……光景……見て……みたい……」

「そうねぇ。タツローくんたちがいるなら危ないこともないだろうし、連れて行ってくれるなら私も見てみたいわ。もちろん無理のない範囲でだけれど」

「「あう!」」



 ちびっ子たちは竜郎たちが行くなら、どこにだってついていく気満々だ。

 イェレナの従魔たちも似たようなもので、主人が行くのならどこにでもと反応を示す。



「分かりました。正直俺自身も興味が湧いてきたので、一緒にいってみましょうか。その世界災凶絶景七選とやらに」

「本当ですか!!」

「ならば私もっ」

「お前は王の責務があるだろう! ここで大人しく父の土産話でも待っておれ!」

「ならば王位は弟のミズガロンに──」



 王位を弟に譲ってまでついて来ようとするフーガロンには脱帽の一言だが、さすがにそれはもうややこしすぎる。

 連れていくのはオーベロン一人だけと竜郎がハッキリ告げて、フーガロンには大人しく引いてもらった。

 さすがにそこまで、この親子の事情に付き合ってなどいられない。



「父上っ──どんな場所だったのか。詳細に教えてくださいねっ──うぅぅ…………」

「任せておくのだ。このオーベロン・イウ・シャルォウ。一世一代の命がけの絶景探し。無事にやり遂げてみせよう」

「とりあえず話はまとまった……のかな?」

「まとまったんじゃないか? これでようやく話が進んでくれるはずだ」



 思えばただ一体の魔物が欲しいと頼みに来ただけなのに、とんでもない回り道をさせられているなと竜郎は溜息をつきたくなりもした

 けれど世界災凶絶景七選という、未知のスポットには興味がある。

 いい場所なら今度は両親や他の仲間たちも連れて、皆でそこに行くのもいいだろうと、観光気分で謎の画家ヘスパー・トワイライトの軌跡を追う旅に行くことがここに決まった。

次回も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
そういえばさ、タツロー達が所有する島の1つがメッチャヤバい天候のヤツじゃなかったっけ?
あれ??なんかおっかない絵を描いた画家はどっかにもいましたよね…
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