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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二十章 食への感謝祭編

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第383話 ゲームセンターの日常

 地下鉄の駅まで降りてくると、まばらに住民たちが次の魔導列車を待っているのが視界に入ってくる。

 庁舎近くなため貴族も多く、皆お行儀よく静かなものだ。

 竜郎たちのことも当然知っているのだろうが、気を使ってか話しかけてくることもない。


 地下鉄は町の収益も絶好調なため、通常車両は住民でなくても無料で乗り放題。

 旅行客向けにお金を払えば中等席、上等席などよりよい席やサービスの提供を受けることができる一日フリーパス券。

 また貴族は税金の額が多いため、貴族車両に乗り放題となってそれぞれのニーズに合わせ車両分けされている。

 竜郎たちも顔パスで貴族車両に乗ることはできるのだが、時間的にも別段混んでいるわけでもないため、普段通りの町を見るためにもと一般車両に乗り込んだ。



「最初は物珍しさもあってずっと混んでたって話も聞いたけど、だいぶ落ち着いたみたいだね」

「この町に来た人の目的は他にあるわけだしな。ダンジョンしかり、食しかり」

「地下だから景色がどうのっていう楽しみもないわけだし、そりゃすぐ飽きちゃうよね。あ、あの広告のお店美味しそうじゃない? 今度行ってみない?」

「「あうあう!」」

「そうだな。どんな味なのか気になるところではあるし。ちなみに今度だからな? 楓、菖蒲」

「「うぅ…………」」



 地下鉄一般車内には地球で見られるような広告が、貼られていたり吊るされたりしていた。

 広告効果はかなり高いようで、既にあちこちの車両で順番待ちの状態なんだとか。

 この広告費用のおかげもあり、無料の一般車両が圧倒的に一番人数が多い中でも、整備費用や人件費、燃料費など含めても黒字運営を成立させ、広告主側とウィンウィンな関係を築いていた。。

 その効果を証明するかのように、愛衣も座席から見える広告の飲食店の美味しそうな料理の絵を見て、新しいお店を知り行くことを決めていた。



「ここで乗り換えだね」

「「う~?」」

「ほら、降りるぞ。楓、菖蒲」



 たいして時間もかからず、一番大きな地下鉄の交差点ともいえる中央駅に到着。駅構内は売店も充実しており、その中の飲食店に引き寄せられそうになる子供たちを抱っこして抱えながら目的の駅に向かう列車に乗り換える。



「ここだな。冒険者たちの間で話題になってるゲームセンターは」

「まぁそうなるだろうなって、ダンジョン帰りに寄れそうなところに設置してあるしね」



 冒険者たちに人気のスポットとして報告のあった系列のゲームセンターに、竜郎たちは入っていく。

 中はいかにも冒険者と言わんばかりの筋骨隆々の大男や、高そうなローブや杖を持った魔法使いなど、ゲームセンターという響きが似合いそうにない人物たちで盛り上がっており、さっそくその会話が一場面が竜郎たちの耳にも届いてくる。



「よっしゃ、897点だ!! どうだ? 今日の飯はお前らのおごりで決まりだな!」

「くそー! まじかよ。また腕を上げてんな」

「待て待て。まだ俺は殴ってねぇぞ。そこでお前の点数なんて超えてやらぁ」

『あれはパンチングマシーンだね。897点って結構凄いんじゃないの、あの人』

『ここはレベル10ダンジョンに挑めるような人たちの、通り道だからな。それも当然だろう。

 俺たちみたいな特殊な例をのぞけば、かなり上位にいそうな人たちなんだろうし』



 そのパンチングマシーンにはじまり、ここのゲームセンターには、こうして具体的に強さを数値化してくれるようなゲームが多くあり、揉め事があったりすればここで白黒つけたり、今遊んでいる男たちのように何かを掛けて勝負をしたりできるのが、盛況な理由の一つだ。



「おらっ、901点! それみたことか」

「まじかよ! くそっ」

「「う?」」

「なんだ? 2人ともやってみたくなったのか?」



 ワイワイと盛り上がる男たちを見て楽しそうと思ったのか、楓と菖蒲が興味を持ったようだ。

 竜郎にやりたいとせがむように、ズボンの裾を引っ張ってきた。



「やってもいいけど、あんまり思いっきりやっちゃ駄目だからね?

 リアちゃんがいうには、こういうとこのは生産性を重視して私たち基準で作ってないらしいから」

「それでも呆れるくらい頑丈らしいけどな。毎日レベル10ダンジョンに挑めるような人たちに殴られても、びくともしていないし」



 ちょうどその男たちも終わったようなので、システムから出したお金をコイン両替して、パンチングマシーンに4人で近寄っていく。

 どうみてもひ弱そうではあるが、さすがは上位の冒険者たちと言うべきか。竜郎や愛衣を見ても外見だけでは判断できないと、誰なのか分かっていない者たちも興味深げな視線を向けてくる。

 だが挑戦するのが幼女たちだと分かり、興味を失ったかのようにギャラリーたちの何割かはすぐ去っていってしまう。



「あんなちっちぇ奴らがやんのか。お前の記録が抜かれたりしてな? がははっ」

「あん? んなわけねーだろが。もし抜かれたら今日は逆に俺がお前らの飯を驕ってやるよ」

「そりゃありがてーや。よっ、嬢ちゃん! 頑張れよー」

「ははっ、あの背じゃ殴るとこに届きもしねーだろうな」

「いやだが……あの子ら普通じゃない気が…………?」



 先程今日のご飯を賭けてスコアを競っていた冒険者たちが、子どものお遊びだろうとからかうように声援を送ってきた。

 楓と菖蒲はそれを素直に受け取り手を振ると、周りの他の冒険者たちも微笑ましげに見守ってくれる。

 そんな中、先に私だと竜郎がコインを投入して準備が終わったところで楓が前に立つ。



「う!」



 立ったままでは届かない位置に打撃力を測定する装置があるため、軽くジャンプしてから小さな右拳を振り抜いた。

 その拳からは想像できない、ズゴンッという重苦しい音が響き、普通の子供でないとまったく気づいていなかった冒険者たちの顔から「え?」と一気に動揺が広がっていく。

 そして設置された大きなモニターには、「6,077点 NEW Record!!」と目立つ色彩で大々的に新記録が表示されていた。

 これでも彼女にとっては、軽く殴った程度の力でしかない。


 これには先程どうせ無理だと、スコア勝負で勝ったはずの冒険者も口をあんぐりと開け動けないでいる中、続いて菖蒲がパンチングマシーンの前に立つ。



「あう!」



 さすがは姉妹というべきか、フォームもほぼ同じなまま装置を殴り「6,078点 NEW Record!!」とさり気なく姉の記録を塗り替えた。



『あれ狙ってやっただろ。意外と負けず嫌いだな、菖蒲も』

『あの歳で器用なことするもんだね。1点差を狙って出すなんてさ。さすが竜お──ありゃりゃ、楓ちゃんがもう一回やりたがってるよ?』



 次にやりたがっている人物もいないため、それならいいかとニ回目も挑戦させることに。

 今度は楓が「あーちゃ!」と菖蒲からやらせてから、同じようにまた1点差で妹の記録を抜いて得意げにしていた。

 そうなるとまた菖蒲が──と収拾がつかなくなりそうだったため、「じゃあママがやってお終いね」と愛衣が強引に流れを断ち切ってくれる。



「てい」

「「「「「────ぇっ?」」」」」

「「まっま! つおー!!」」



 愛のスコアは「9,073,921点! NEW Record!!」と表示されていた。

 なんとも気の抜けた声とは相反する、ズゴンッとマシーンごと貫くような音を響かせて。

 もちろん、まったく本気ではない。手を抜いたうえで利き腕でもない左手で軽く殴っただけ。

 楓たちでも、もっと力を込めれば同等のスコアを出すことだってできる。しかし極限まで手加減したうえでの勝負だと分かってのやり取りだったため、2人も「さすが私たちのママだ!」と絶賛し先程の1点差での争いも忘れてくれた。



「下三桁でも俺の記録より上だ………………えぇ………………」

「まあ元気出せよ。別に俺たちが最強だなんて思ってもいねーだろ? そんなの忘れて、さっさと飯食いに行こうぜ」

「そうそう。今日はお前が俺たち全員におごってくれるみてーだしな」

「ごっちゃんです! いやーすまねぇな!」

「あっ、いや、さっきのは冗談…………」



 冗談で通じるはずもなく、楓にしっかり記録を抜かれたため、軽口を叩いてしまった冒険者は痛い出費を味わうこととなった。

 だがそんなこととは知らずに、竜郎たちはさらに奥の方へと入っていく。



「さっきのやつの魔法版か」

「たつろー、やってみる?」

「せっかくだし、ちょっと遊んでみようかな」



 しっかりとした仕切りの先には大きな的が有り、そこに魔法を当てるとその威力を数値化して出してくれるというパンチングマシーンの魔法版のようなゲームコーナーがあった。

 竜郎ならばもっと器用に手加減もできるため、愛衣たちほど非常識な数値にもならない。

 スコア荒らしにならないようにと現在のトップスコアを確認していると、突然ローブを着た謎のおじさんが話しかけてきた。



「なんだ小僧。お前がやるのか?」

「え? ああ、はい。せっかく来たんで」

「くっくっく、その分じゃ私の記録は抜けんだろうな。

 だが安心しろ。たまにはと寄ってみたが、前に出した私の記録は未だ誰にも抜かれていないのだからな。

 それが普通のことなんだ。落ち込まないようにな。はーはっはっは!」

「はぁ……」



 どうやらそのおじさんはマジックアタックマシーンとでもいうべきゲームで、現在スコア一位の魔法使いであるらしい。

 そしておじさんはレベル10ダンジョンに通うような冒険者たちだらけの、この場所にあるゲームセンターで一位を張り続けていられていることが自慢のようだ。酔ってもいるのか、顔も赤く明らかに調子に乗っている。

 だが竜郎はスコア比べなどにまったく興味がなく、おじさんの自尊心を傷つけないように気をつけようと的の正面に立って人指し指を一本そちらに突き出す。



「はっはっは! おいおい、杖を使っていなかったと言い訳をする気か?

 情けないお坊ちゃんだ。なぁ、そこの君。あんな小僧はやめて、私と組まないか? 私と来ればもっと良い生活をさせてやるぞ? どうだ?」

「興味なーい。あっちいってよ、おじさん」

「いやいや。私はここの、げぇむせんたぁで一位を取れる実力者だぞ。いいから一緒に食事でも行こうじゃな──」



 愛衣の手に触れようとした瞬間、後方で強烈な光が巻き起こる。

 竜郎の指先から強烈なレーザー光線が放たれ、何をやっても傷一つつかなかった的の中心が少し焦げ付いていた。

 スコアも当然、トップスコアを三桁以上の差をつけて塗り替えている。愛衣にちょっかいをだされて、苛立ってしまったのだからしかたがない。

 それでも壊さぬように注意して、手加減できているのだから良いほうだろう。

 竜郎はスコアを指さしながら、愛衣のパンチが飛ぶ前におじさんの肩を掴む。



「おい、おっさん。もう一位じゃなくなったみたいだぞ。残念だったな。分かったら、さっさと愛衣から離れろ」

「ば、ばば、馬鹿なっ! 装置が壊れてるに違いない!! いいか? そこで見てろ? 今ここで証明してやるからな!!」

「はいはい。好きにしてみろよ」



 騒いでいたせいでギャラリーが増えてきたが、お構いなしにおじさんはコインを入れて的の前に立つと、背負っていた野太く身の丈よりも大きな杖を取り出し構えていく。



『あれ? ねぇ、たつろー。あの杖ってもしかして』

『ああ、リアが作ったやつみたいだな。見た感じ、実用性を捨てて威力全振りに補正してくれる固定砲台型の杖みたいだ』

『おじさんの腕プルプルしてるし、魔法使いの人が持ち歩くようにはできてないっぽいね』



 消費魔力も魔法の発動時間も大幅に跳ね上がり、その杖自体も重くなってしまった。

 だがそれでも威力を追求してみたいとリアが趣味で作った、変な装備シリーズの一つである。

 その代わりに威力は本来の実力を大幅に強化した一撃を放てるようになるという、まさに一撃に全てを込めるためだけに作られたと言っても過言ではないピーキーな杖だ。



『最低でもあれを手に入れられるくらいの実力者が、あんなの使えばそりゃスコアで一位をキープするのも難しくないよな』

『別にずるしてるわけでもないから、いいんだけどね。私たちにウザ絡みしてこなければの話だけど』

「お、おかしいっ! こわれ、壊れてるはずなんだぁああっ!!」



 酔ったうえで魔力も一発で尽きて倒れながら騒ぐおじさんは、ゲームセンターのスタッフによって回収されていった。

 その騒ぎの一端を担ってしまったため、竜郎たちも微妙に居づらくなってきて、もうここを出ていこうかと2人で念話で相談していると、見知った人物に声をかけられ振り返る。



「なんだー……ショックですー。あなたたちですかー……。凄い人たちが来てるって教えてもらったので、すぐに来たのに残念ですよー」

「玉藻?」「玉藻ちゃん?」

「私もいるよ」

「「よーちゃ」」



 そこには何故かダンジョンの個である、玉藻とその片割れ陽子が立っていた。

次も木曜日更新予定です!

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