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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二十章 食への感謝祭編

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第380話 後始末

 等級神がいうには、本来であればこのゾンビを消すのにはかなりの手間がかかるらしい。なので放っておいたという側面ある程度には。

 けれど竜郎であれば、その面倒な手間を一気にショートカットして消し去ることも出来るという。



(俺ならってことは、俺が使えるスキルが関係してそうだな)

『そのとおりじゃ。タツロウがも有しておる《侵食の理》の力で、あのバグを侵食し完全に手中に納め世界の大きな流れから切り離し、その存在を上書きしてただのゾンビに変えてしまえばいい。あとは分かるじゃろ?』

(そうしてただのゾンビにして倒せば、もう二度とこの世に発生することもないと。

 あー……けどもう数体しか残ってないから、全部片付けるなら改めて湧き直すのを待つ必要があるのか。今日中に全部消して報告ってのは無理そうだな)

『そうでもないぞ。それらもおぬしの持つスキル──《世界力魔物変換》で強制的に湧き直させることも出来る。

強固に染み付いた名残じゃからな。意識して強引に変えようとしない限り、適当に世界力を集めて魔物化するだけで自動的にゾンビとして復活してくれるじゃろうて。

 ただし集める量が多ければ、その分強化されて復活してしまう恐れはあるが……まぁタツロウたちであればわざと無茶なことでもしない限り、多少量の調整を間違えても問題はあるまい。

 強いゾンビと戦いたいと思ったとしても、このあたりはそこまで濃度も高くないからのう。ほどほどに集めれば良い』

(なるほど。それなら今日中に終わらせられそうだ。別に強いゾンビと戦いたい欲もないから…………あ、でも楓たちの運動にはいいかもしれないから少しだけ強くしておこうかな)

『別に構わぬが、ほどほどにな。倒しそこねて逃げられるなんてこともないじゃろうが、もしそうなれば強化された個体が町に向かう恐れもあるからな。

 侵食し終わった存在は、もはやここに縛られることもないからのう。近隣住民の脅威になるのは本意ではないじゃろう?』

(ああ、分かってるよ。さすがに人様に迷惑をかけないよう、きっちり最後の1体までうちで責任持って片付けるから安心してくれ)

『ならばもう何も言う必要はないかのう。ではこれで会話を終わらせるが、最後にもう一度言っておこう。

 できるだけ先に話した人物に関わろうとするのではないぞ?

 お主たちの味方をする神々のほうが圧倒的に多いじゃろうが、同じ世界の管理者同士で揉めるのも嫌じゃかろうのう。

 むこうもお主たちのようなものには会いたくないであろうし、お互いに距離を取り合うのが正解じゃろう』

(向こうは俺たちのことを知ってるのか?)

『お主たちも、こちらの世界で随分と有名になったからのう。

 そしてこれだけの力と勢力を持っていて、神々と関係ないと言うほうが不自然だとあやつならすぐに感づく。同じく神と接したことのある数少ない存在じゃしな。

 儂らが直接何かをあやつに言うことはないが、自己保身にも長けておる故に自衛のため避けると予想しておるだけじゃよ』

(なるほどな。それならそれでこっちも助かるってもんだ。忠告ありがとう、等級神。心に留めておく)



 別れ際の念押しからも、よほど関わってほしくない人物なんだろうというのがうかがえる。

 神々や真竜やクリアエルフなど神が関わっている、またはお気に入りの人物と仲良く、それができないのなら不干渉を貫くのがこちらの世界で楽しくやっていくコツだ。

 竜郎としてもわざわざ等級神に悩みのタネを植え付けたくはないため、あちらがちょっかいを掛けてこない限りはこちらは何もするつもりはない。

 むしろ思想的に相容れないが、手を出しにくい存在がいることが知れたのが大きいとプラスに考え、改めてこの一件について皆に情報を共有していった。



「氷神様にも話を聞いたのだけれど、私の性格的にあまり好きになれそうにない人物だから、気づかないようそれとなく痕跡から離れた場所に誘導していたらしいわ。

 他のクリアエルフたちも嫌う人が多そうだし、同様に近づかないように気を使ってくれていたみたい。

 気づいてもさっきのタツロウくんの話のように、近づかないほうがいいと警告していたらしいわ。むやみに話を広めないように──ともね」

「まさに腫れ物扱いですの」



 話を広めたことで、件の人物があちこちで警戒され不自由な目にあうのは、その人物を気に入っている神からしても面白くない。

 クリアエルフの創造主であるそれぞれの属性を司る神々も、等級神同様に揉めたくない相手。

 少なくとも竜郎たちと関係の深い神々からは、まさに今、奈々が言ったような腫れ物として認識されてもいるようだ。



「触らぬ神に祟りなしって言うしね。さすがに私たちもどんな神様でも仲悪くはなりたくないし、ここだけたつろーが処理したら忘れちゃったほうがいいかもね」

「ですね。物質神様に聞いた限りでも、極悪非道の限りを尽くしている──といったような人でもないようですし」



 レーラとリアはそれぞれの親しい神からも話を聞いたようで、やはりそちらも似たようなものだった。



「この世界の安定の一助となった功労者らしいし、ある程度の配慮はするべきなんだろう。

 こっちも別に関係ないところで何かしてる分には干渉したくもないから、この先も会うことはないはずだ。あちらさんも俺たちを避けてくれてるらしいし」

「ねぇ、たつろー。なんか改めてそう言っちゃうと、フラグみたいに聞こえない?」

「い、嫌なこと言うなよ。そんなわけないって。これからは知ったうえで、俺たちも避けるつもりなんだしな」



 愛衣にそういわれ嫌な予感がしてしまったが、こういうのは気にすれば気にするほどフラグを引き寄せてしまうものだと気持ちを切り替え手を叩く。

 暇そうに欠伸をしていた幼竜たちの目が、ぱちりと開き直り竜郎に向けられた。



「というわけでゾンビ退治の時間だ。楓たちはまだ運動したいみたいだし、ちょうどいいだろう」



 そういって竜郎はその場にしゃがみ込むと、手にフローラお手製のお菓子を出して見せていく。

 幼竜たちは目をキラキラと輝かせ、竜郎の周りに駆け寄ってくる。



「パパたちのお手伝いしてくれたら、これをご褒美にあげよう。いいか?」

「「うっうー!」」「「クォオオー!」」



 最初に前払いで少し渡すと、幼竜たちは口にそれを頬張りながらゾンビに視線をロックオン。

 だがまだ侵食していないため、これで倒してしまっても意味はない。

 そのため竜郎は《侵食の理》で残り数体のゾンビたちの存在を自分のものに書き換え、世界にこびりついた状態から切り離す。



「よし、いいぞ」

「まぁそうなりますよね」

「瞬殺ですの」



 竜郎が言い終わる前に、ゾンビは4人の幼竜たちによって消滅した。文字通り跡形もなく木っ端微塵に。

 だがこれはまだまだ小手調べだ。竜郎は少し多めに世界力をかき集めながら、《世界力魔物変換》を行使していく。

 すると竜郎がなにをするでもなく、勝手にゾンビたちが徘徊していた辺りに湧き出した。



「なんだかさっきのゾンビと比べると随分力が強いような気がするのだけど……、ほんとにあれをやれば大丈夫なの? タツロウくん」

「ああ、等級神がいうにはそのはずだ。じゃあイルバ、アルバ。パパが作業している間、あいつらの動きを止めてくれ」

「「クォ~」」



 生み出されゾンビは見た目こそ変わりなかったが、その体に込められた力の密度が数段上がっていた。

 この状態で徘徊していたとなると、冒険者ギルドとしても楽観視できないレベルだ。

 少なくとも最初の頃のように、ある程度戦闘経験がある者であれば誰でも安全に狩れる──なんていうゾンビではなくなった。

 それだけパワーもスピードも段違いになっている。



「とはいえ、この子らからしたら誤差でしかないみたいだが」

「だねぇ」



 だが簡単にイルバとアルバの呪眼に囚われ、身動き一つできないままに竜郎の《侵食の理》によってこの世界の循環から切り離されていく。

 きっちり30体近いゾンビ全てを侵食し終わると、竜郎は後ろに下がる。



「もういいぞ」



 竜郎の声を合図に4人は、ほぼ同時にそれぞれ飛び出した。

 楓と菖蒲は拳や脚に竜力を纏い、襲いくるゾンビたちを舞うように仕留めていく。

 イルバとアルバは短い手足の見た目に反して俊敏に動き、黒い呪力が込められた爪や尻尾で薙ぎ払い、口から小規模な竜力収束砲まで吐き出して怪獣さながらのダイナミックな動きで消し飛ばす。



「ちょっとした運動にすらなってるかも妖しいですの」

「すごいですよね。本能で最適な動きを見つけ出しては、即時効率の良い形に適応していくんですから。

 誰に習ったわけでもなく、本当にお手本のような動きでとても綺麗です」



 やはりと言うべきか、そこまで強化して生み出したところで幼竜たちには何の障害にもならず、おやつを早く食べたいという一心から戦闘がはじまり3秒程度で全てが視界から消え去った。



「これで終わりってことでいいかな」

『うむ、完璧じゃな。もうそこに湧くことはないじゃろう』



 等級神からもそうお墨付きを得ることができたので、竜郎は安心して報告ができると喜び幼竜たちに用意していたお菓子を渡す。

 幼竜たちがお菓子を食べている間に撤収作業を終えた竜郎たちは、カルディナや奈々、リアはカルディナ城に送ってから、そのまま先の密林の最寄りの町に戻って冒険者ギルドへの報告をしに行くことに。

 冒険者ギルドに着くともの珍しさもあり完全に顔を覚えられており、職員にすぐにギルド長の部屋まで通され、全て片付いたとギルド側に伝えた。



「本当ですか!?」

「はい。少し特殊な方法で難しかったですが、たまたま対処できる方法を見つけられたのでやってみました。

 ですが一応経過を見ておいていただけると助かります。また湧いたときは、カサピスティの冒険者ギルド、もしくは新しく同国にできたエリュシオンという町の冒険者ギルドに伝えてください。そのときはまた調査に来ますので」

「分かりました。しかしその顔からすると、相当に自信があるようですね」

「はい。もう二度と、あそこで同じゾンビが湧き出すといった現象は起きないと確信してますので」

「そうですか。あなたがたがそこまで言ってくださるなら、もう安心です。

 しかし……まさか長年、世代を超えてこの町で気味悪がられていた未知の現象が、たった半日も経たずに解決されてしまうとは……これが世界最高の冒険者なのだと改めて思い知らされました。

 本当に、ありがとうございます。この町の一住民としても、感謝の気持でいっぱいです」

「いえ、お役に立てたようで何よりです」



 何度もお礼を言われ、報酬の話もそこそこに適当に対処法はぼかして伝え、竜郎たちは気持ちよく冒険者ギルドを後にした。



「やっぱりこの町の人たちは、ずっと気になってたんだろうね」

「脅威がないといっても、気持ち悪かったでしょうしね」

「俺もあんなのが無限湧きする場所が、自分の暮らす町の付近にあったら嫌だからな。

 やっぱり解決できて良かったよ。ってことで後は──」

「「うまま!!」」

「「クォッ、クォー!」」

「ああ、そうだ。早速帰って、新しい美味しい魔物を再びこの世界に蘇らせよう」

「わーい、やったー!」

「ふふっ、私も楽しみだわ」



 難航するかと思ったゾンビ無限湧き騒動も、無事に解決し何の憂いもなくなった。

 後は今回回収したギュラータンの素材から、自分たちもまったくの未知であるアルマジロ肉を食べるべく、少し町から離れた場所で竜郎たちも転移でカルディナ城へと帰還した。

次も木曜日更新予定です!

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