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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二十章 食への感謝祭編

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第379話 不老の天才

 結局竜郎たちだけでは解明できそうになかったため、助っ人としてリアとカルディナ。そしてリアと一緒についてきた奈々が、新たに謎の無限湧きするゾンビのいる場所まで追加でやってきた。



「忙しいのにごめんな、リア」

「別に構いませんよ、兄さん。普段やってる物作りだって、仕事というより趣味感覚でやってるだけですしね」

「暇さえあれば珍妙なものを作ってますの」

「ふふっ、それが私たちのダンジョンの報酬にもなってるんだよね」

「リオンから聞いてる冒険者たちの評判的には、かなり好評みたいだな」



 竜郎たちのダンジョン内で販売もしているリアお手製武器は、手に入れられれば実用性も高く、他の人に売って儲けることも出来ると既にエリュシオンの町でも評判になっていた。

 火属性の魔物の素材で見た目もそれっぽいのに氷属性の武器だったり、水属性の魔物の素材から作った水属性を宿していそうな見た目なのに純雷属性防具だったり──などなど、本来であれば逆に面倒で難易度が高いことを再現することに嵌っているおかげで、奈々から言わせれば珍妙な武具ばかりが大量に生み出され続けている。

 しかしそんな人知を超えた無駄技術が逆にいいと、ダンジョンがある町の名前をとって『エリュシオンシリーズ』というブランド名までついてコレクターも既にいたりする。



「本当ならリアシリーズと呼ばれてもおかしくなかったですの。名前が出せないのが残念ですの」

「私はむしろ今のほうが良いですけどね。別に歴史に名前を刻みたいなんて願望もないですし。

 それで兄さんが言っていた例のゾンビというのは、あそこで歩いているので間違いないですか?」

「ああ、俺の解魔法じゃ解析しきれなかったんだ。頼めるか?」

「ええ。任せてください」

「カルディナちゃんもお願いね」

「ピユィ~」



 竜郎とカルディナ、それぞれ単体での解析性能に大差はないが、念の為カルディナにも個別調査をしてもらうことにした。

 2人がゾンビに向かっていく背中を、他の面々は邪魔をしないよう見送っていく。



「確かにアンデッドという割に、わたくしのような邪悪さが足りない気がしますの」

「邪悪さが足りないっていうのはよく分からないが、邪属性に振り切ってる奈々にしか分からない感覚ってのもあるのかもしれないな」

「だからこそ、聖属性に対しても耐性があるのかもしれないわね」



 さっそくリアが《万象解識眼》で調べている間に、奈々がゾンビを観察してまっさきに何かこれは違うと感じていた。

 ゾンビといえばアンデッド。アンデッドといえば邪属性。その中の上位の存在である奈々からすると、最底辺の弱小ゾンビといえど同じ系譜に属する存在ではないと。


 さすがにその種族的な感覚は持ち合わせていないレーラは、興味深そうに記録としてペンを走らせる。

 地球から持ってきたタブレットの扱いももう習熟したといっていいが、基本的には紙媒体で保管するのが好きなようだ。



「あ、リアちゃんたち調べ終わったみたいだね。戻ってきたよ」

「けどどこか腑に落ちてない表情をしてますの」

「ホントだな。どうしたんだろ」



 リアにしては長い時間の調査が終わり、竜郎たちがゾンビたちの注意を無駄に引かないよう下がっていた場所に戻ってきた。

 しかしこの世のありとあらゆる事象や物質を見抜くことが出来る特別な目を持ち、今回もそれですぐに解決するだろうと思いきや、どうやらことはそう単純でもないようだ。



「兄さんたちから事前に聞いていた情報以上に分かったこともありますが、少し不可解な点もありました」

「じゃあまずは、その新しく分かった情報を先に教えてくれるか?」

「はい。どうやらあれは、世界のバグと言っても良い現象のようです。

 兄さんが言っていた〝この世界に刻まれた染みのよう〟という言葉もあながち間違いではないとも言えますね」

「ではあれは、本当に染みだったということなのかしら?」

「そうですね。特殊すぎる殺され方で死んだために、世界ですら死んだと認識しきれずに中途半端な形で残されてしまった形が、ゾンビのような見た目だっただけというオチです」

「う、うん? えっと……よく分かんないけど、そもそもあれはゾンビじゃないってことなの? リアちゃん」

「ですね。魂すらない抜け殻で、生前の情報を模倣して中途半端に世界が再現し続けることで、まるでゲームのように同じ個体が無限に湧いてしまうんです。

 中途半端に強いという個体は、生前それくらいの強さがあった人ということなんでしょうね。

 とはいえ完全に再現できないでしょうから、力量も劣化しているでしょうけど」

「……そんな殺され方ってありえますの?」

「そうよね。私も長い間生きてきたなかでいろんな死を見てきたけれど、こんなのは知らないもの」



 幼竜たち以外の竜郎たちの視線が、残り少なくなったゾンビたちへと向けられる。

 ただのゾンビだと思っていたときは、なんとも思っていなかった者たち。けれどそうじゃないと知った今、そこに徘徊するそれらが妙に気味悪く思えてきてしまう。



「残念ながら、奈々やレーラさんの質問には私にも詳しく答えられません。

 ただあのゾンビたちは相当昔にここに住んでいた方たちの模造品であり、何らかの方法で寿命という概念だけを抜き取られて死んだ……ということだけは分かりました」

「寿命という…………概念? ちょっとよく分からない表現だな。ただ寿命を吸い取った──っていうのとは違うのか?」

「確かに、そっちの言い方のほうが分かりやすいかも。でもあえてリアちゃんは、そっちで言ったんだよね?」

「はい。ですが実を言うと、私もよく分かっていません。ただそう表現するのが妥当かなと思っただけですし」

「でも妙ですの。リアの目はこの世界が記憶し知っている情報であれば、理解できるという超級のスキル。

 そんな目でも見抜けないとなると、あれはこの世界も認識できない事象ということになってしまいますの」

「それは異常事態よね。世界の管理者たる神々が、そんな何かも分からないバグを放置するとは考え難いのに、現状見るに特に何もしていないんだもの。けれどあるいは……」



 そこでレーラは考察を一度止め、意味ありげな視線をリアへと向ける。

 もちろんそれは彼女が嘘を言っているのではないかというものではなく、別の理由に思い至ったから。

 それを見て竜郎も、レーラが何をいいたいのか気がついた。



「そうか。世界はこれが何か分かっていても、リアにも分からなくなる状況っていうのがあるな」

「え? どゆこと? そんなのって………………あ、もしかしてそういうこと?」



 愛衣がリアの方を見ると、彼女は苦笑しながら頷いた。それで合っているはずだと。



「はい。意図的にその管理者たち──神々に情報を隠されています。どうやらあまり我々に知ってほしい情報ではないみたいですね」

「今更わたくしたちに隠し事ですの?」

「自分で言うのも何だけれど、信頼されていないわけではないと思うの。だからこれは、知らなくてもいいこともある……と案に告げられているのかしらね」

「何でもかんでも俺たちに話さないといけない、なんてことはないしな。知ることで逆に面倒になったり、嫌な目に遭う可能性だってゼロじゃない」



 竜郎たちは、神々とも良好な関係を築けているという自信はある。なので意地悪や意味もなく情報を秘匿することはないと考えていい。

 これはあえて竜郎たちのために隠してくれていると考えたほうが、自然だろうと結論付けた。



「今までも兄さんが生み出した魔物が世界にとってもはじめてで、最初は何も理解できなかったなんてことも有りましたし、そういうときの感覚といえばいいのでしょうか。そういう場合ならそうだと私は分かると思っています。

 ですが今回の場合は、そのページだけ抜き取られているかのような、不自然すぎる空白があるように感じられたんです。

 なので今回のこの事象は、意図的に神々から隠されたと思っていいかと」

「このちっぽけなゾンビについて調べるだけだったはずが、随分と壮大な話になってきたものですの」

「だな。さすがに俺も、そこまでのものとは考えてもいなかった」

「けどそうなってくると、どうしようね。これ以上調べられないってゆーなら、このゾンビさんたちはこれからも永遠にここを徘徊するってことで、あのおじいちゃんギルド長に報告しないといけないよね」

「それならそれでいいのではないかしら。別に世界最高ランクの冒険者であっても、できないことはできないと言ったっていいのだし。

とくに今回のこれは危険度もさほど高くもないし、神々が放置していいと考えているなら問題もないと思うわ」



 これまで依頼達成率100%を維持し続けてきたが、別段それにこだわっていたわけでもない。

 竜郎からすれば解決できたからしてきただけで、無理なら無理と素直にいうことにも抵抗はなかった。

 ただ奈々だけは「せっかくの記録がこんな形で終わってしまうのは残念ですの」と、少しだけ悔しそうにしていたからか、幼竜たち4人が慰めるように彼女の足元に張り付いていた。



「まぁ仕方ないさ。解決できないなら、ここにいつまでもいたって仕方がない。ぱぱっと報告して、新しい美味しい魔物を──」

『解決するだけであれば、問題はないぞ。タツロウよ』

「ん? 等級神?」



 気持ちを切り替え、美味しい魔物でも食べて忘れてしまおうと竜郎が提案し終わる前に、件の情報を秘匿している側──神である一柱。等級神が彼の脳内へ直接語りかけてきた。



『そうじゃ。儂じゃ。それは別段放置していても問題はないし、どちらかといえば世界のプラスになっている気がしなくもない程度には意味もあったからそのままにしていただけ。ただそれを消し去る労力に見合わないから残していただけ──くらいの問題でしかないのじゃよ。

 だからタツロウたちが消し去りたいというのであれば、その方法を教えるのもやぶさかではない』

(それなら確かにありがたくはあるんだが……そんなに軽い感じのものなのに、なんでリアの目でも分からないレベルで秘匿してるんだ? ってのは聞いてもいいのか?)

『あまり聞いて気持ちの良い話ではないし、いくつか伏せさせてもらうこともあっていいのなら、話せる範囲で話すのは構わない。それでもよいかのう?』

(……正直気になっているから、そうしてもらえると助かる)

『分かった。そうじゃな、事のはじまりは──』



 等級神がなぜこのような状態に至ったのか、竜郎に説明しはじめた。竜郎はさらにそれを愛衣たちに聞かせていくという形で、情報を共有していく。


 それはずっと昔のこと。まだまだ世界力も今より不安定で、神々は日々どうすればより安定してくれるかと頭を悩ませていた時代。

 一人の天才による執念が、人の寿命を奪い自分に移し替える技術を開発した。

 その人物は長寿を手に入れるためだけに、自分の生まれ育った村人全員。親兄弟もろとも供物にして、その分だけ自分の寿命を大幅に伸ばすことに成功する。


 だがそのあまりにも見事な移し替えに世界すら認識しきれず、無限にその残滓を写し続けるというバグが発生してしまう。

 とはいえ奪った人物からすれば、得られた結果が全てだ。だからどうしたという感想しか出てくることはなく、そのまま放置して次の供物を探しに旅に出た。



(確かに気持ちのいい話ではないな。けどじゃあ、ここの人たちはその村の人なのか?)

『いいや、別の被害者たちじゃよ。あまり他の村や町と交流を持たない少数民族だったから、都合がいいと供物に選ばれたんじゃろうな』

(ってことは、ここみたいな無限ゾンビスポットが他にもあると?)

『全部で四箇所ある。気になるなら冒険者ギルドで情報を集めてもらえば、全てどこにあるか分かるかもしれんぞ。

 害はタツロウたちが知っている以上のことはない故に、全て対処する必要もないがの』

(そうなのか……。じゃあ気が向いたら調べてみるよ)



 今回のように頼まれたら対処するくらいの気持ちでそう答え、等級神から続きを聞いていく。

 神々は最初、そんなバグを残されては世界が不安定になってしまうのではないか。そう危険視してすぐにそれを調べたという。

 だが得られたのは、むしろこの世界を安定化させるために有益な情報で、そのバグ自体もゾンビのようなものが徘徊しているという気持ち悪さを除けば、いくら殺されても世界力を極微量に消費して復活し続けるという、プラスかマイナスか言えばプラスでしかないことも判明した。



『そやつが生み出した技術は、我々ですら目から鱗が落ちるような発想と概念に基づいていた。

 そのおかげで世界力の効率的な循環方法や、ダンジョンの中で生まれる魔物たちを最高率で生成する技術などもより高度な次元に押し上げられた。

 知的生命体を生み出すことの一つに、我々にない発想を求めていたこともあったのじゃが……このときは本当に〝人間〟を創造してよかったと思ったものじゃよ。

 まぁ……その逆に世界を不安定にするような力を生み出すものもおるから、大変なんじゃがな』

(けどその天才とやらは、等級神たち神々のためになることをしてくれたと)

『そうじゃ。我々が、そやつに借りを感じるほどにな。あの技術のお陰で、世界の安定もずいぶんと進んだものじゃよ。

 同じ人間であるタツロウたちからすれば、最悪のことをしている人物ではあるんじゃろうがな』

(それはな。何人も人の命を奪って、自分の寿命を伸ばしているようなやつなんだから。人の法でいえば重罪だろ)

『じゃろうな。じゃが儂らからすれば、そこは重要ではないのだ。

 不快に思うかもしれないが、人が何人死のうとも、その結果世界が安定するなら我々は受け入れる』

(そういう立場だしな。等級神たちは)



 世界の管理者である神々は、人にとっての正義ではない。

 人にとって悪だとしても、どれだけの重罪人であろうと、神々の視点からすれば功労者にもなりうる。

 そのいい例が、このゾンビたちの生みの親というわけである。

 自分のお気に入りである神格者などに手でも出さない限り神々は怒ることもなく、それどころか褒め称えたいとすら思ったという。



(けどやたらめったら供物にさせられたら、いずれ人間側の大幅な減少で世界の安定に支障が出てきそうではあるよな。けどそいつは、たった四箇所で活動を止めている。ってことは、もしかして神側が釘を刺したとか?)

『相変わらず察しが良いのう。そやつはこの世界のために貢献したという大きな功を持つ。

 そのきっかけともなった御業を上から押し付けるように止めさせるのもどうかということで、こちらからその大規模な寿命の奪取をやめるのであれば、不老の力を授けようと提案したんじゃ』

(それが一番丸いか。それでそいつは受け入れたと。もしかして今も生きてるのか?)

『うむ。その通りじゃ。今も生きて、人から寿命をもらっておるよ』

(……………………は? 不老にしたんじゃなかったのか?)

『人の欲望に終わりはないということじゃ。不老を手にしたら、今度は力を欲した。

 じゃがその者は頭は良いが、種族的にも力に恵まれているというわけでもなかったからのう』

(続けられたら意味ないじゃ──いや、そうか。神から許される形に変えたのか)



 竜郎は奪取と言っていたのが、もらうという言葉に変わっていたことに気が付き、もっと穏便な世界力の安定に影響のない範囲での寿命の入手手段に切り替えたのだろうと推測する。



『本当に頭の回るやつじゃよ。少し我々と話しただけで、人がやってはいけない境界線をすぐに見抜いたのじゃからな』



 その人物は不老にすぐに飛びつき、今度は神々の怒りに触れられない範囲で寿命をもらう方法を考え、それを別の力に変える方法も思いついた。

 手を変え品を変えと本当に器用なやつだと、神々ですら感心したという。



(できれば近づきたくない、面倒くさい臭いがプンプンするやつだな……。

 どんなやつなのか教えてくれたりしないか?)

『それはできん。あやつは今も同じ人間からすれば、あまり気持ちの良いことをしてはいないとはいえ、あやつもこの世界に貢献した人物の一人。

 それでも儂は双方の間で揉め事が起きたとなればタツロウたちの肩を持つが、あやつを気に入り肩を持ちそうな神も少数ながらいる。

 じゃから、あまりおぬしたちとの接点を作りたくはないのじゃよ。互いに不干渉であってほしいのじゃ』

(あー……やっぱり面倒そうなやつだな。分かった。こっちに害がない限り、探さないしそいつの情報も集めないでおく)



 この件は全員に周知して、それらしき人物がいてもできるだけ無視しようと竜郎は心に決めた。

 こちらに害のない限り無駄に等級神たち神々の間で、不和をもたらすような事をしなくてもいいだろうと。



(ってことで、このゾンビを消す方法だけ教えてくれ)

『うむ。それならお安い御用じゃよ。世界力を消費してくれるとはいえ、そんなものでは誤差の範囲でしかないから影響もないしの』



 ことの経緯だけをこうして知った竜郎は、それ以上その人物についての情報を聞くのは止め、今必要なことだけを最後に等級神に聞いていった。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] こういう感想でメタな視点から語るのはどうなのかなといつも迷うんですがw 旗がたったのか別の流れを垣間見たのか……
[気になる点] 狂わないように神がしたのかな?…なら神父様もしてあげてほしかった(T_T) なんだかんだ言っても役に立つ奴を(役にたった)優遇するのは当たり前か(´・ω・`)
[良い点] まあ人から寿命を、というからアレな印象を受けるだけで。 命を長引かせるために、食物を得るように寿命を得ているだけだもんなぁ(なお所業) しかも神にすら有用かつ、引き際と別の選択肢を取れ…
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