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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二十章 食への感謝祭編

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第375話 リオンたちの相談

 竜郎や愛衣の高校も、リアや奈々の小学校も春休みに入った。

 春休み中には竜郎と愛衣もエーイリとアンとして、秘密を知る富豪たちをほぼ全員集めた食事会などをして情報交換をしたり、交渉の真似事などしたりと、少しはウリエルたちの苦労も減らせたかなと思えたところで、いよいよまた異世界に行くこととなった。

 竜郎と愛衣は大学受験に向けて勉強に必要なものを用意し、準備は万端だ。



「こっちでいろんな食材も増やしたし、またあっちの料理人さんたちに持っていくのも楽しみだね」

「こっちはこっちで創意工夫がはじまってるしな。微妙に地球と異世界だと考え方が違うっていうか、発想や調理法も変わってたりして面白いよな」



 宇宙人としての活動で、地球の料理人たちが新たな未知の食材で、現代科学を利用した調理法など挑戦的な料理も味わわせてもらったりもしたが、そちらはそちらで竜郎たちも楽しめた。

 そして異世界は異世界で、科学ではなく魔法やスキルがある。地球ではない奇想天外な調理法もたくさんあり、そこでしか作れない味もある。



「どっちも楽しめるなんて最高だね!」

「ああ、最高の贅沢だ」



 フローラの強い要望で地球の料理人たちが使っていた機材や薬品なども購入したりと、彼女はどちらの料理人たちとも交流を持って地球異世界のハイブリッド料理人になろうとしているため、そちらもそちらでどんな化学反応を起こしてくれるか楽しみだったりもする。


 仲間たちや両親たちも持ち込みたいものは、自分の《アイテムボックス》にしまいこんで全員集合。

 日本中のバーを探訪していたガウェインも、今回は異世界に戻る予定なのでしっかりといる。

 彼は出来上がったエリュシオンの町中での、食事や飲食を楽しみにしているようだ。



「それじゃあ、行くとしよう」



 竜郎の異世界転移で、皆一斉に異世界へと旅立った。


 カルディナ城に戻ってくると、おのおの好きに解散していく。

 竜郎と愛衣も一時的に異世界に戻ったことはあったが、ちゃんと帰ってきたのは地球時間で110日程度前のこと。

 とりあえずは久しぶりの異世界の空気を吸おうと、楓や菖蒲を連れてカルディナ城の外を一緒にお散歩していくことに。


 そんなふうにのんびり過ごしていると、カルディナ城内の図書館兼資料室で司書や文書係のようなことをしてくれている、魔竜調教施設エルカロイから引き取った元魔竜──ネオスが城の方からやってくるのが見えた。

 なんだろうとこちらからも近づいていくと、相対するなりガバっとその小さな体で頭を下げた。



「お散歩中すいません!」

「そんなことで謝らなくていいってば。ネオスくんは相変わらず真面目だねぇ」

「い、いや、そんな。恐縮です」

「それでどうしたんだ。俺たちになにか用か? 休みが取りたいなら、別に許可なんて取らなくても勝手に休んでくれていいんだからな?」

「ああいえ、そういうわけではないんです。実はファンタさん経由で、エリュシオンからお手紙が届きました。

 カサピスティ王家の封蝋が入ったものだったので、早めに目を通してもらった方が良いかなと持ってきました」



 リオンたち側から竜郎たち宛ての手紙を投函すると、カルディナ城側の町外に設置された箱に送られるという単純な仕掛けのポストをエリュシオンに新たに設けた。

 そこへ投函された荷物や手紙は、領空侵犯対策でネオスの兄貴分として精神的に成長してくれた魔竜──ファン太が、竜郎たちの領地内を飛び回ってパトロールするついでに回収してくれる手はずとなっていた。

 そして回収してきたものは、資料や書類の整理などを任せられているネオスに届けられる──といった具合だ。

 受け取り係はネオスである必要はなかったのだが、彼ら一人と一体の希望もあって任せることにした。

 そのやり取りの際に、彼らは交友を温めているようだ。


 さてここで王家の封蝋がもつ手紙の意味は、町の収支報告や開発計画などの公的な情報ではなく、ハウルやリオンたち王族の誰かの相談事など個人的な内容が多い。

 なのでこういうときはネオスも勝手に開かず竜郎や愛衣、もしくはウリエルやアーサーに渡すようにしていた。


 竜郎は「わざわざありがとう」とお礼がてら、地球で生み出した地球の高級食材モドキを使った料理の試食品を数品差し出した。



「い、いえ、そんな。十分毎日美味しいものも頂いてますし、お給金だってあんなに──」

「いいんだよ。こっちでも、いろんな人に味見してもらいたかったからな。

 食べたら後でフローラに感想を言ってあげると喜ぶぞ」

「そうそう。だから遠慮なく食べちゃってね」

「そ、そういうことなら……」

「「あう…………」」



 ネオスも美味しいものは大好きだ。

 そういうことなら遠慮なくと受け取ったのだが、それを楓と菖蒲がじっと潤んだ瞳で見つめてくるため口にすることができない。



「えっと……お嬢様方が食べますか?」

「あう!」

「こら。あう! じゃないだろ。これはネオスのものだ。あとで楓と菖蒲にもあげるから我慢しなさい」

「「あーう」」

「我慢できて偉いねー」

「「あう!」」

「ほら、今のうちに食べちゃってくれ」

「は、はい! いただきます!」



 愛衣が全力で楓と菖蒲をあやしている間に、竜郎は封蝋を剥がして手紙を読んでいく。

 内容を要約すると、町のことで直接相談したいことがあるから、近いうちに来てくれると嬉しい──といったもの。



「うーん、なら明日でいいんじゃない? 特に用事なかったよね」

「そのはずだ。今から行っても迷惑だろうしな。ということでせっかく持ってきてくれたのに悪いが、手紙は資料室で保管しておいてくれるか?」

「ふぁい──ングッ。どうせ戻るところでしたので、手間でもなんでもありませんよ!」



 試食品をあっという間に平らげると、ネオスは元気よく自分の仕事場へと去っていった。


 翌日。さっそくリオンたちがいる庁舎に足を運ぶと、すぐに応接室に通された。そこでのんびりと、出されたお茶とお茶菓子を口にししばし待つ。



「「うまま!」」

「これ、また新しいお菓子だね」

「ああ、しかも美味い。新しい食材を求めてここまでやってきたような、意欲的な人ばっかりがこの街に集まっているからか、どんどん新作が出てくるな。

 味も舌のこえたこの子たちが満足いくくらいのを、ポンポン出してくるし」



 これこそまさに竜郎たちが望んでいたこと。町を作ろうと思った大きな理由の一つ。

 美味しく目新しい食べ物が次々生まれていくのを目の当たりにし、本当にここを町にしてよかったと心から尽力してくれたリオンたちへ称賛を送った。

 そうして待っていると、数分程度でリオンとルイーズがやってきた。挨拶もそこそこに、さっそく本題に入っていく。



「実は今、この町で祭りを開いてはどうかという案が出ているんだ」

「「まつり?」」



 祭りと呼んでも差し支えないほど盛り上がったエリュシオンの創設式典から、まださほど経っていない。

 それなのにお祭りをもう開くのかと、竜郎と愛衣も首を傾げた。



「ああ、別に式典のときのような町全体で周辺諸国も巻き込んで──といった規模のものじゃなくて、定期的に盛り上がる行事をやらないかという感じだね」

「というと、具体的にはどんな感じのものを想像しているんだ?」

「この町は、タツロウたちが言っていた3つの柱で成り立っている。ダンジョン、美味しい料理、見たこともない遊びといったね」

「そうだな。まさかこんなに上手くいってくれるなんて、俺も思ってなかったよ」

「なら良かった。それでその3つの柱はどれも好調でね、そのおかげでカサピスティ王国は建国以来最大の好景気を迎えている」



 美味しいものが食べたい、遊技場で遊びたい。でもそのためにはお金がいるから、ダンジョンで稼ごう。

 その流れが完璧に仕上がっており、ダンジョン産の素材や、世界中で地球でいう石油のように燃料として用いられる魔石が毎日大量に放出されることで、この町だけでなく国全体が盛り上がっていた。

 周辺の町はもちろんのこと、エリュシオンまでの道中にある町々も経済が前以上に回るようになり、国は税収が膨れ上がる。

 他にも海外へ魔石や魔物素材を輸出したりと、もはや竜郎たちに足を向けて眠られないほどカサピスティは儲かっていた。



「だけどその分やっかみも多くてね、ある程度周りに還元できる仕組みを考えたかったんだ」

「なるほど。それで小さい催し物を定期的に開いて、お金を使っていくと」

「そういうことだね」



 竜郎たちも芸術家たちのパトロンをしたり、慈善団体などに寄付をしたりと、お金を貯めすぎて経済が停滞しないように気をつけている。

 今回のリオンの提案も、そういったことの一つでもあるのだろうと竜郎は察した。



「今考えているのは、ダンジョンに挑む者たちには、闘技大会を。美味しい物に大食い大会を。遊戯には遊戯大会といった感じだね。

 優勝者や上位入賞を果たしたものには、町から賞金も出そうと思ってる」

「なんだか面白そうだね。闘技大会は私たちも出ていいの? アーサーくんたちとか、興味ありそうじゃない?」

「いやぁ……それは…………なぁ?」

「ああ……、正直それは辞退してほしい」

「ごめんね、アイちゃん」

「そっかぁ。まぁ、別に私は出なくてもいいんだけどね」



 竜郎たちが出たら、それはもう大会どころではない。次からもう誰も出てくれなくなってしまうだろう。



「俺たちは出ないとしても、そっちは強さをある程度分けてやってもいいかもしれないな」

「ああ、それは私も考えていた。強さの指標を決めるのは、難しそうだけどね。あとは子供部門なんかを設けても面白いかもしれない」

「「あう?」」

「いや、君たちも遠慮してもらえると……」



 まだシステムすらインストールされていない幼女だが、ダンジョンに挑んでいる大の大人でも普通に負ける。そんな子たちが子供の大会に出るなど、バランスブレイカーもいいところだ。

 戦っているところをリオンたちは見たことはないが、只者でない力を宿していることだけは分かっていた。



「じゃあ、それはそれでいいとしてだよ? 大食い大会は美味しいもの食材を使っちゃうのかな?

 それはちょっともったいなくない? 高いんだし、せっかくなら味わって食べてもらいたいよ」

「だよね。私もアイちゃんたちならそう言うと思って、少し考えてみたの。聞いてくれる?」

「うん、いいよ。ルイーズちゃん」



 ルイーズの提案によれば、ただバクバクと出された料理を食べるだけではもったいないし、王侯貴族たちからすれば品もない。

 そこで大食いとはいっているが、他にも要素を付け加えようと考えていた。

 まず1つ目は、どれだけ美味しそうに食べられるのか。2つ目は、どれだけ上品に食べられるのか。そして三つ目は、その上でどれだけ多く食べられるのか。

 それらのポイントをもとに審査員の主観も交えて面白おかしく審査し、勝敗をつけようというもの。



「まだ大雑把な考えだけど、こんなところでどうかなって。

 いかにその料理が美味しいのかアピールしてもらえれば、その料理を出したお店の宣伝にもなるでしょ?

 上品さは別に貴族的でなくても、自分が思う上品さを表現してもらえればいい。

 多く食べられても、少しでもお皿に食べられる部分が残っていれば減点対象ってすれば、全部キレイに食べてももらえるから」

「それなら皆、美味しい魔物食材も味わってくれそうだね!」

「だな。ちょっと闘技大会と比べると盛り上がりにかけそうな気もするが、やり方次第ではそっちも面白くなりそうだ。

 それに食べ物を無駄にされるより、そういった競技性のある大会のほうが作ってる側としても気持ちがいい」



 食品業界に携わるようになってから、余計に竜郎や愛衣は食べ物を残すことに抵抗を覚えるようになっていた。

 今ではお椀に残った米粒だって綺麗に食べるし、魚もできるだけ綺麗に骨を取って食べるようになっているほどに。



「ただそれだと大食い大会というのはおかしい気もしているから、そのあたりの名前も考え直したいところではあるけどね」

「そうだねぇ。他の人より全然食べれなくても、前2つでぶっちぎりのポイントを稼げちゃえば優勝できるかもしれないってことだしね」

「量の比重を多くしてしまうと、やっぱり味わえなくなってしまいそうだしね」

「うーん、ならもう食への感謝を伝える大会ってことで、食への感謝祭とかでいいんじゃないか?

 他もダンジョンへの感謝祭とか、遊びへの感謝……はおかしいか?」

「食への感謝祭……か。いいかもしれないな。他2つも似たような感じで調整していいかもしれない」

「俺は適当に言っただけなんだが……いいのか?」

「案外こういうのは、そういうふうに気軽に決めたほうが嵌まることも多いんだよ。

 ただの大食いではないところも、食へ感謝を伝えるためというのなら、そういったルールも納得させやすいだろうしね」



 最後に遊戯の大会については、リオンがロボバトル大会を激推ししてきた。



「お兄様がやりたいだけでしょ……」

「妹よ。たしかに私が嵌っている遊びではあるが、そんな浅い考えは持っていないよ。

 私は、その大会に出るつもりはないからね」

「あれ? そうなんだ。ルイーズちゃんと一緒で、私もリオンくんが出たいからだと思ってた」

「案外そういうところで競技を広めて、ライバルを育てようとか考えてるんじゃないか?」

「うぐっ、さ、さすがタツロウ。鋭いね」

「ほんとにそうなのかよ……」

「この分野に関しては、他のボードゲームなどと比べてとっつきづらいと思われているようで、競技人口がまだ少ないんだ……。

 そこでこういう大会で良さを広め、私とやりあえる相手を生み出したいんだ。今のところ私と張りあえるのは、ルイーズくらいしかいなくてね」



 ちなみにルイーズが強いのは、毎回のように兄の対戦相手をさせられているからである。



「それって職権乱用ってやつじゃないのか?」

「なにをいう。権力とはこういうときに使うんだよ」



 言い訳もせずにリオンは堂々と認めてしまい、竜郎も愛衣も何も言えなくなった。

 貴族社会では、ある程度権力者がわがままを通すなど珍しくもない。

 竜郎たちとしてもリアのおもちゃが売れてくれるならメリットもあるし、ロボットバトルは大会としての見栄えもよく見るのも普通に楽しい。

 別に誰かから賄賂を受け取って不公平を敷く──などと、そういった悪事に手を染めているわけでもないため、別にいいかと納得してしまったのだ。



「それでどうかな? こういった催し物を定期的に開くのは反対かい?」

「俺は別にいいよ。愛衣は?」

「私もいいと思う」



 町の運営はほぼ丸投げしているくせに、やたらと口を出すつもりもない。

 ウリエルたちにも念話で話を通していたが、別に反対意見も上がってこなかった。



「それなら良かった。それでここからが相談なんだけど、タツロウたちには是非、最初の食の感謝祭の目玉となる料理に使う、目新しい食材を出してもらえないかと思っているんだ。駄目だろうか?」

「毎回開く度に新しいものを──なんて言われると困るが、最初だけなら問題ないぞ。

 ちょうどまた、新しい美味しい魔物を見つけてこようと思っていたところでもあったしな」

「それは、ありがたい!」



 今後定期的に行われるなら、新しい食材ができたときの宣伝にもなりそうだと打算的なことも考えつつ、竜郎たちはエリュシオンでのお祭り大会計画に全面的に賛同の意を告げたのだった。

次も木曜日更新予定です!

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[気になる点] ロボ持ってない人は貸出とかになるのかなw [一言] 職権乱用の乱は濫って書くらしいですよ
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