第368話 ゴミ処理島
明けましておめでとうございます!
最後の六つ目の島。戦時中に実験などで活用されていた、軍事施設が残された場所。
地雷などの未処理の危険物や、兵器実験の跡や残骸なども放置されたまま残されているため、一般人が来るにはいささか物騒な島である。
そんな島を自分たちに都合のいいように改造しに、竜郎たちはやってきた。
「ここには、ゴミ処理場を作るんだよね」
「どこか一つは、そういう施設が欲しかったからな」
大前提として美味しい魔物素材の廃棄部分などの、異世界特有の物質を地球のあちこちに捨てる訳にはいかない。
そういったゴミなども含め気軽に捨てられる場所は、今後より活発に動いていくのであれば必要になってくるだろう。
「毎回ゴミが出るたびに、パパがあちこちいって回収するのも大変だしね」
「ある程度溜まってから一気に回収して、資源にするなり消したりするほうが楽だしな──と、カルディナ、ミネルヴァ。作業お疲れ様」
「ピュィィイ♪」
「主様たちこそ、作業お疲れ様です」
この島には先にカルディナとミネルヴァがやってきており、魔道具の設置はもちろんのこと、地雷などの放置された爆発物の回収も既に済ませておいてくれていた。
さらに二人の探知能力をフルに用いてこの島一帯の金属の鉱床を掘り出して、金や銀、銅や亜鉛などを竜郎の《無限アイテムフィールド》に送っておいてもくれた。
根こそぎ掘り返した際に出た地下の空洞は、ひとまず潰さないように軽く補強だけしておいてもくれている。
面倒なことを済ませてくれた二人へ労いの言葉を投げかけると、竜郎は解魔法で測量しながら周囲の光景を見渡していく。
「いちおう歴史的な文化財というか、人類の歴史を残すという意味ではこういうのも貴重で残しておいた方が良いのかも知れないが……」
「まぁウリエルちゃんが少し調べた限りでも、結構ここでエグいことしてたみたいだし、無くしたほうが私らの気分的にも楽だよね」
「どうせオレたち以外が、見ることも来ることも、覚えていることさえもない場所になるわけだからな」
戦争の時代を記す一つの資料として残してはどうか。なんていう意見も身内間での話し合いで出たは出たのだが、「ではそれを誰に見せるんだ?」という一言で軍事関係の施設は更地にすることが決定した。
「施設として利用するにも、竜水晶ほどの耐久もありませんしね」
「あんな建物じゃ、ニーナがちょっと勢いつけて着地しただけでふっ飛んじゃいそうだし、ちょっとヨワヨワすぎるよね」
「ニーナのそれに耐えられる建造物のほうが少ないけどな」
建物をそのまま使うにしても、わざわざ崩れないよう補修し直す必要がある。
ならば全て無くして一から作りあげた方が、竜郎たちにとっては手っ取り早い。
そんなこともあって施設の形を残しておく理由がなくなり、壊して資源化することになったのだ。
「それじゃあ、どうする? 私が殴って壊して来よっか?」
「「あう!」」
「ニーナもお手伝いするよ!」
「あー……そうだな。それじゃあ、四人に頼もうか」
「「はーい」」「「うっうー!」」
巨大な家すら《無限アイテムフィールド》に入れておけるのだから、魔法で綺麗に基礎土台から掘り起こしてしまったほうが良いようにも思えたが、どうせ資源化してしまうのだからと遊びも兼ねて四人に壊していってもらうことにした。
竜郎は、その瓦礫を魔法で吸い寄せて回収するだけでいい。
ようやく自分の仕事ができたとばかりに、愛衣も気合を入れて施設に向かってジャンプする。
「とおっ!」
「おみごと」
「えへへ、それほどでもあるかな」
愛衣の拳が巨大な古びた建造物に当たると、その衝撃が地下にまで伝わりバラバラになって崩れ去る。
力任せに殴るのではなく、瓦礫が吹き飛ばないように打撃の衝撃を伝播させるスキルを行使したのだ。
おかげで無闇矢鱈に瓦礫が散らばることもなく、その場に瓦礫が綺麗に残り回収がとても楽だった。
「「きゃふーー♪」」
「壊すの楽しいねー!」
「あはは……豪快だねぇ、三人とも」
「ま、まぁ……あっちはあっちで楽しそうだし、好きにしてくれればいいさ」
愛衣が器用なことをして施設を一つ潰したのとは裏腹に、楓や菖蒲、ニーナたちは好き勝手に壊して良いオモチャと判断したようで、後で回収する竜郎のことは度外視した派手な立ち回りで建造物をボコボコにしていた。
当然のように回収予定の瓦礫はあちこちに飛んでいき、竜郎の手間が増えているだけのような気がしなくもないが、子供たちが楽しそうに笑っているので良しとした。
愛衣たちの手にかかれば、この規模の建造物であろうと壊し切るのにそう時間を要することもない。
ものの数分で全てが瓦礫の山と化していた。
散らばった瓦礫は竜郎の貧乏性魂をいかんなく発揮して、見えないほど小さなガラス片に至るまで完璧に回収し資源に変えた。
そうして殺風景な島に早変わりしたところで、まずは島全体を整地していく。
ニーナたちの破壊によってできた凹みも均し、地下の空洞は埋めるように大地をプレスして地盤も強化。
建設図案を確認しながら穴の位置を調整していき、綺麗に整えられた光景に竜郎はひとまず満足ぢ息をつく。
「ふう。これでよしっと。じゃあ月読、ここが最後の建造物だ。一緒に頑張ろうな」
『──、────。───(はい。頑張りましょう。お父さん)』
景色を塗り替えるような勢いで、竜郎と月読で一気に巨大な施設を作り上げていく。
「おぉ……なんか威圧感が凄いね」
「どっしりした感じがカッコいいかも!」
「「うぅ~~!」」
それは見ようによっては要塞のようにも見える、真新しい金属……のような質感でできた総竜水晶製の巨大建造物。
磨かれたアルミ合金のような美しい銀の外装が、夕日に照らされ輝いている。
建物周辺の通路なども同じような質感の竜水晶で統一されており、全体的なフォルムはまるで中世のような印象もあたえながら、どこかSFチックな印象も抱かせる──そんな少し特殊なデザインをした建物になっていた。
「それじゃあ、中も少し確認していくとしよう」
「いいねぇ、中がどんなになってるのか私も見てみたい」
基礎的な部分を作り上げた後は、中へと入って各ゴミの処理層を確認していく。
中はまだ明かりを取り付けていないため暗く、竜郎が光魔法で照らして進む。
「中は外見以上にSFっぽいな」
「なんかワクワクしてくる感じがするね。こういうところを見てると」
内部は白い通路で繋がっており、よりSF風な変わったデザインとなっている。
まるでSF映画の中に入り込んだような感覚に胸を高鳴らせ、各処理層に不備がないか探検がてら目視で確認していく。
「明かりをちゃんとつければ、もっと雰囲気が出そうだな」
「そしたら、もう一回見に来たいね」
内部は何層かに分かれており、他の所有する島々や自宅、アメリカにある別邸などで出たプライベートなゴミも含めて捨てられる層。
今はウリエルが交渉中ではあるが将来を見越して用意した、各国の処理しきれない溢れたゴミを集める層。
そして鉱床を掘り起こしてできた穴を利用して作られた地下には、化学系廃棄物や放射性廃棄物など、処理するのだけでも手間がかかるような危険物を集める層が作られている。
全て竜水晶製なので火災や爆発が起きてもびくともせず、何百年経とうと何を入れようと劣化もしない。安全性はお墨付きだ。
竜郎が回収しに来たときは、各層のゴミがパッケージ化されて最下層に運ばれてくるため、そこに行くだけですぐに全ての層のゴミが回収可能な作りになっている。
各層のゴミ捨て場に繋がる通路は何本か用意されており、大型トラックも余裕で通れるほどの広さも確保してある。
そのため廃棄物を運んできた業者がモヤ子の繋げた入り口を通って、そのまま乗り付け、積み荷を捨てることも出来るような設計だ。
「後で空間魔法を利用して見た目以上に広い体積にもするつもりだし、圧縮装置も実装される。
それだけやればいくらあちこち世界中のゴミがここに集められても、余裕で収容できるはずだ」
「あっちは安く手軽にゴミが捨てられて、こっちは資源と複製ポイントが手に入るんだから、まさに持ちつ持たれつな関係だね」
「こっちのゴミから取れた資源は売っても使っても良いわけだし、俺たちにはほぼデメリットもないと良いこと尽くめだな」
ここはリアと助手の奈々によって後日複雑な魔道具が設置される予定だが、基礎的な内装はデザイン面以外シンプルなものである。
同じような通路や広いだけのごみ処理層があるだけで、特に時間をかけて見るような場所もなく、一通り確認し終わった竜郎たちはそのまま屋上に出て最後に外の景色を眺めていく。
「ここも中々いい景色だね。ゴミ処理場だとは思えないくらいだよ」
「ゴミを処理するところって言っても、見た目まで残念な感じする必要もないからな」
日もすっかり落ち、星が瞬きはじめた頃合い。二人手を繋ぎ、島からの夜景を楽しんでいると……「ぐぅぅぅ~~~」という腹の虫の音がすぐ後ろから聞こえてきた。
振り返ると、ニーナがお腹を擦ってうつむいている。
「ニーナお腹空いちゃった」
「かーでも!」
「あーめもー」
「ふふっ、そうだね。そろそろお家に帰ろっか」
「ちゃんとお手伝いもしてくれたし、今日はいつもよりいっぱい食べていいからな」
「ほんと!?」
「「あうあう!!」」
楓や菖蒲はともかく、ニーナに無制限に食べさせてしまうと、せっかく量産中の食材が目減りしてウリエルたちが調整してくれているものにも狂いが生じてしまう。
そのため普段はある程度制限させてもらっているのだが、今日くらいはとそれを緩くすることを約束した。
もう家で料理を作って待っているフローラにも報告済みなため、今頃は美味しい匂いを家中に広げている頃だろう。
「なんだか俺もお腹が空いてきたし、さっさと帰ろうか」
「そうだね。フローラちゃんの料理、今から楽しみだなぁ」
モヤ子の通路を通るより、自宅であれば直ぐイメージできるのだから自分で転移して帰ったほうが手っ取り早い。
竜郎は転移の魔法を発動し、屋上に一緒に来ていた全員を連れて、一気に自宅の玄関へと帰還した。
予想していた通り、色々な種類の美味しそうな料理の香りが玄関まで届いてきている。
竜郎や愛衣までも腹を鳴らし、手を洗って急いでリビングへと直行。
「竜郎も月読ちゃんもお疲れ様。それじゃあ、いっただきまーす!」
「頂きます」
「────」
「いただきまーーす!」
「「いまままーーす!」」
既に今日の作業を終え、帰って食事をはじめている仲間たちに混ざりながら、竜郎たちも目一杯その日の夕食を楽しんだのだった。
次話も木曜更新予定です!




