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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十九章 無人島開拓編

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第366話 火山島1

 五つ目の島は火山を有しているため、『火山島』と仮名を付けた場所。

 モヤ子が繋いでくれた道を通り、竜郎たちはその地へ上陸した。

 先に来た仲間たちが認識阻害の魔道具を起動してくれているため、心置きなくすぐにでも作業を開始することができる状態だ。



「ここには温泉旅館を建てるんだよね?」

「ああ、せっかく温泉が出るなら作らなきゃ損だろう」

「でっかくてアツアツのお風呂で、温泉玉子ってやつを作るんだよね? ニーナ楽しみだなぁ」

「「おんしぇーたまお!」」

「……別に温泉卵を生産するための施設じゃないからな?」

「あははっ、この子たちはほんと、食べることばっかりだね」

「まったくだ。ほら、ニーナたちは飴でも食べて落ち着いてくれ」

「わーい、ありがとーパパ」

「「パッパ! しゅき!!」」



 たった一度の食事に大枚を叩いてでも食べたいと思わせるほどの、最上級の料理を毎日お腹いっぱい食べられているというのに、ただの温泉玉子にまで興味を示すニーナに楓たち。

 ニーナはともかくとして、幼児の頃からこれだと大人になってからはもっと凄いことになるのではないか──なんていう一抹の不安が竜郎の脳裏にこみ上げてくる。

 だがそんなことを呑気に考えていては日が暮れてしまうと、竜郎は直ぐに温泉旅館づくりへと切り替えた。



「水源掘りやお湯を巡らせる魔道具の設置、水質チェックなんかも先に来て作業してくれていたエンターたちがやってくれたっていう話だし、俺たちは作るだけでいいな」

「──(ですね)」



 竜郎は皆で案を出し合って書き上げた図面と完成図を月読と見つめながら、解魔法で精確に測量し範囲を指定。まずは凸凹だらけの地面を、平らに慣らしていく。

 歩道に当たる場所には一部の狂いもなくカットされた、揃いの石畳風竜水晶を敷いていく。



「おー、これだけでも何か絵になる風景だね」

「後ろに見える小さな火山とか周りの海とかが、いい味を出してくれてるよな」



 敷地の確保ができたら、今度は建物づくりに入っていく。

 しっかりと土台を埋め込みながら、竜郎たちの身内しか使わないというのに、こんなに大きい必要があるのか? と一部で疑問が上がるほど巨大になってしまった温泉旅館が、あっという間に目の前に建設された。



「大きいとは分かっていたが、こうして直に見ると本当に巨大な建物だな」

「立派な温泉旅館……。これが私たち専用のプライベート旅館だなんて、凄いことになったもんだねぇ」



 巨大な温泉旅館の見た目の様式は、まさに純和風。

 古くからの伝統続く、古式ゆかしい温泉旅館でございますと言わんばかりの風体だ。

 純木造建築にしか見えないが、やはりこちらも全て竜水晶でできている。


 外装はできたので、竜郎たちは中へと入っていく。

 立派な門構えをくぐり、全て完璧に質感を竜水晶で再現した広い板張り玄関へ。ワックスをかけたばかりのように、光沢が目に眩しいくらいだ。

 全員ここで靴を脱いでから上がり、奥の廊下を通って中庭スペースへと出ていく。

 まだ建物を設置しただけなので、ここは何もなくぽっかりと不自然な光景が広がっているだけだ。



「次はここだな。今度はこんな感じで行くぞ」

「────(了解です)」



 何もなかった殺風景な空間が、竜郎と月読によって立派な日本庭園に生まれ変わっていく。

 あえて不揃いな形にして並べた石の歩道に、真っ白な砂利が一面に敷かれ、日本庭園に生えているような庭木に植物が綺麗に剪定された状態で生えている。

 設置された大きな岩にはコケも張り付き、長い年月そこにあったかのようである。

 小さな池まであり、赤い柱の橋も小粋に掛けられていた。



「うわぁ、ホントに良くできてる」



 さっそく綺麗に敷かれた砂利道に踏み入り、足跡を付けて遊びだした楓と菖蒲はニーナに任せ、愛衣は中庭に突如生えた草木を感心しながらペタペタ触れる。



「だよな。これが全部竜水晶でできてるなんて、俺も言われなきゃ信じられないくらいのクオリティだ。さすが月読」

「────(恐縮です)」



 そう。石の歩道や砂利に岩もそうだが、ここにある草木やコケに至るまで全て竜水晶でできた作り物。

 竜郎もイヌマキと呼ばれる木にそっくりなオブジェに、軽く手を添えるようにして触れてみたが、伝わってくる感触は木そのもの。木肌や葉の柔らかさまで完璧に再現されている。



「お父さんも日本庭園までは、そこまで惹かれなかったみたいだしね」

「正和さんは育てたり収穫するのが、一番好きみたいだしな。

 それに今も色々と育ててくれてるし、ここまで任せるってのも大変だろ」

「日本庭園って管理するの大変らしいしねぇ」



 竜郎たちならば、ちゃんとした図面やイメージ図があれば、本物の植物を用いた日本庭園の再現も不可能ではない。

 だが本物の植物を使ってしまうと、どうしても枝が伸びたり葉が落ちたりと景観が変化する。

 静寂の美とも言える細部にわたり整えられた草木だからこそ、少しの乱れが印象を大きく変えてしまうというもの。

 せっかくここに来て綺麗な庭園でも見ようかと覗いてみれば、あちこち葉が落ち伸び放題になった枝葉が広がる光景。これでは作らないほうが、ましとすらいっていい。

 だからこそ竜郎たちは思い切って全てを竜水晶で作った、人工の植物を植えることに決めたのだ。



「池の方も水が汚れないように、あとで掃除してくれるコイみたいな見た目の魔物でも創って放流しておこう」

「お魚はニーナ大好物だよ?」

「食べちゃだめだよ、ニーナちゃん。お掃除兼、観賞用のお魚なんだから」

「「あう……」」



 魚だろうが何だろうが、美味しければ何でも大好物だろうに。というツッコミは入れずに、食べ物と関係ないのかと肩を落とす楓と菖蒲を連れ、いよいよこの島一番のメインどころ、温泉づくりへと入っていった。

次話は木曜日更新予定です!


執筆中PCがブルースクリーンになって落ち、この話のデータが最初の一行目以外全部飛びました泣

内容は覚えていましたが時間的に全て書き直すことができず、火山島の話は二部構成に分けさせていただきます。申し訳ない……。

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