第361話 普通島の開拓へ
波佐見家に帰ってからさっそく夕食がてら皆で食卓を囲み賑やかに美味しい料理に下包みを打ちつつ、今回巡った6つの島について話あった。
結果としては──。
「じゃあ満場一致で、全部買い取るということで決定だな」
「ではそのように先方には、連絡させていただきますね」
「まさか6つも開拓することになるなんて思ってもみなかったね。けどこれから楽しくなりそう」
──と、まさにフレイヤが何度か言っていた通りの結果となった。
「意外にどんな島でもやりたいことが出てきたんだよな」
「実用的なのから趣味的なのまで、私たちにはいろいろ必要そうだったしねぇ」
「ウリエルさん。島はどれくらいで開拓しても良くなるのかな?」
「そうですね。二週間もあれば向こうが良きように、全て手を回してくれると思います」
「あなた、そんなに畑が欲しかったのねぇ」
「あはは……ステータスを得てから仕事でもまったく疲れなくなったから、体力も余ってしまってね」
正和は早く大きな土地で農業がしたいと既に張り切っており、妻の美鈴に呆れられ頬を掻いた。
「どこの区画をどうするかとかも皆で決めるんだから、それまでやたらめったら耕しちゃダメだよ、お父さん」
「さ、さすがにそれくらいは分かってるよ。僕も大人なんだからね」
「ほんとかなぁ? ならいいんだけど」
とはいえ大枠として6つの島のどこを、どう利用するかは既に話し合いが終わっている。
なのであとは具体的にそれぞれの島に、何をどこに作り、どう開拓していくかを決めていくことになる。
「島の地図はもうできているから、それを参考に皆の希望も聞かせてもらって、島が手に入ったら早速開拓開始といこう」
島の視察の際に解魔法で高低差までキッチリと調べ上げた、詳細な地図はちゃっかりできあがっている。
それらを人数分竜郎が配っていき、各々がどうしたいのかを書き込んで提出してもらい、数週間の間にすり合わせていく。
そうして出来上がった皆の意見を具体的にまとめ上げ、島を開拓していく予定だ。
「魔法やらなんやらいろいろとあるから、撤去も組み立てもそこまで面倒なわけでもないし、皆自由に書いていってほしい」
そうして正式にかつ秘密裏に島が竜郎たちの物になるまでの間に、それぞれの案を元に話し合い、6つの島の完成予想図ができあがったのだった。
視察に向かった日から二週間が経ち、島も全て正式にこちらのものとなったのでいよいよ本格的に島に入って手を入れていくことができるようになった。
まずは竜郎が各所に飛んでいき、モヤ子に6つの島全てを《我ノ支配空間・極》で繋いでもらい、自由に自宅から全島に行き来できるよう扉を設置し通路を開いてもらう。
それから事前に決めていた通り、竜郎たちは作業のために散っていく。
「まずはお掃除からなんだけどね」
「陸地からかなり離れてるっていうのに、漂流物がかなり堆積しているんだよな。リアの方は任せても大丈夫そうか?」
「はい。ただ認識阻害用の魔道具を各所にセットして起動するだけですから」
群島のように断崖絶壁の場所ならまだしも、他の島の海岸沿いにはどこかからか流れ着いてきた木々なども含むゴミ類が多数流れ着いてきていた。
開拓の邪魔なうえに景観も損なうため、まずは近海を漂うものも含めてそういったゴミ類の掃除からはじめることに。
ゴミを一つも逃さず位置を割り出すのに竜郎、カルディナ、ミネルヴァはそれぞれ別の島に分かれて作業する。
ゴミ回収要員としては、風魔法で掃除機のように吸い寄せられるジャンヌに、念動スキルによる遠隔回収ができる天照と竜郎の母──美波。
それぞれ索敵要員とタッグを組んで《アイテムボックス》に入れ、竜郎の《無限アイテムフィールド》に送って処理してもらう。
その一方でリア、奈々、ウリエルたちをそれぞれのリーダーとして別チームに分かれ、残りの時間の都合が付いた者たちと共に手に入れた6つの島を完全に認識できなくし、上陸することもできないよう魔道具の設置をしていく作業を並行して開始していく。
「ぶーん! ぶーん!」
「ふふっ、ゴミが空飛んでるねぇ」
愛衣は楓と菖蒲のお世話をしながら、竜郎から得られた情報を元にジャンヌがゴミを風で吸い込みかき集めていく光景を眺める。
次々とゴミだけが器用にジャンヌの魔法で吸い上げられ、竜郎の《無限アイテムフィールド》へ回収されていく様子が面白かったのかちびっ子二人ははしゃいでいた。
魔法やスキル無しで作業していれば何日もかかりそうな大規模な島の清掃作業も、異世界パワーのゴリ押しで三十分もかからず砂浜や土に埋もれ、岩の隙間に挟まっていた小さなプラスチック片すら逃さず綺麗に回収し終わった。
「自動でゴミを集めておくための魔道具も、海に浮かべておいた方がいいかもしれませんね」
「あちこちでポイポイとゴミを海にほかしすぎや。さすがにうちも驚いたわ」
「1年や2年で積み重なったってわけでもないだろうけど、それでもなかなかだったよね。
見たこともない飲み物のペットボトルとか、そもそもよく分からないものとかも沢山あったし」
リアたちも設置が済み戻ってくると、綺麗になった海岸沿いを見てどこかスッキリとした表情をしていた。
だが放置していればまたどこぞの大陸や船から捨てられたゴミが流れつきかねないと、その対策の必要性も考えさせられるものでもあった。
「とりあえずは島の開拓を優先だけどな。魔道具の方は大丈夫そうか?」
「はい。問題なく起動して、この島を完全に隠せました。今の状態ならこれからどれだけ地形を変えようと、もう誰にもバレることはないです」
まったく異世界の魔法に抵抗がないため、機械越しであろうと認識阻害を防ぐ術は地球人類にはない。
そのため衛星写真であろうと認識できなくなり、完全にこの島は地球から切り離されたといっても過言ではない状態になった。
「なら開拓に移っていっても良さそうだね」
「いいね! 畑の開拓は僕に任せてほしい」
「はい。じゃあ予定していた場所の開拓をお願いします」
「腕が鳴るよ! ふふ~~ん♪ 待っててくれよ~!」
一番最初に訪れた特に特徴のない島を、仮名として『普通島』と名付けていた。
この島の主な役割は農業。まさに正和にはうってつけ。本領発揮できる島である。
比較的平らで土を大きく削る必要性もそこまでないため、正和一人で農地開拓も可能。
魔法用の杖を担いで久方ぶりの大規模な土いじりができるとばかりに鼻歌を奏でつつ、意気揚々と広く確保されている農地予定区画へと立ち去って行った。
「じゃああっちは正和さんに任せて、俺たちは管理用のコテージとキャンプ地用の整地をしていこう」
「あとはアーサー君たち用の、訓練施設とかも必要なんだよね。月読ちゃん、頑張ってね」
「────(お任せを)」
この島は気候も安定した普通の島だからこそ、農業をメインにしつつも長閑な自然を楽しむ目的でも使うことに決まった。
そのため陸地や浜辺でキャンプや魚釣り、バーベキューなんかもできるように土地を整理していく。
だが普通に寝泊りできる場所も欲しいと、ちゃんとした住居も建築予定だ。
アーサーやランスロット御所望の戦闘訓練ができる場所もついでに確保しておく計画まである。
月読による竜水晶製の訓練場なので、二人が多少暴れても問題ない強度の物ができあがることだろう。
「まずは海の方からやっていくか」
「じゃあ私たちは水場を作ってきますね」
魔道具設置組は、島のあちこちで水が使えるよう設置していくためまた竜郎や愛衣と別れていく。
竜郎たちもそちらに遅れぬようにと、まずは砂浜方面の整地に向かっていった。
次も木曜日更新予定です!




