第359話 無人島の視察へ4
群島を見学し終わり、ジャンヌに5つ目の島の上空まで運んでもらった。
窓から下から覗き込めば、大きさはそこまで大きくはなく、どちらかといえば小さい方に分類される島が見えた。
そこは緑溢れる島というわけでもなく、コケで緑がかった場所はあるものの全体的に黒い岩肌がのぞく無人の地が広がっているだけ。
ただここには他にはない、非常に特徴的なシンボルとも呼べるものが島の北西部に存在していた。
「あれって……ちっちゃいけど火山……かな?」
「確かに噴火跡みたいな窪んだ所があるな」
「あの島は火山を有した島ですね。住むにしても噴火のリスクが絶対にないわけではありませんし、やはり他の大陸などからも孤立しているせいか、ずっと放置されていたようです」
空から覗き込めば火口にマグマが見える──なんていうあからさまな火山ではないが、天辺付近がお椀型に凹みクレーターができていた。
過去百年以内での噴火こそないが、火山自体は内部で生きているであろうと思われる火山島だ。
「もし万が一いつか噴火したところで、私たちならどうとでもなるっす」
「マグマなんてちょっと熱いかな程度ですの」
「火山灰や火山ガスなどが出ても処理は魔道具や魔法で何とかなりますし、火山岩が空から降って来ても怪我すらしないでしょうからね」
「もし建物を建てても、竜水晶ならへっちゃらだしね♪」
異世界で得たステータスの力さえあれば、噴火に巻き込まれても余裕で生き残れるので火山島であろうと竜郎たちに危険はない。
大陸や島も一番近いものでも相当に距離があり、費用面のことからも研究や記録を取るための機材が設置されているわけでもない完全に放置されているような島。
竜郎たちが購入しても問題のない、かつ他にない特徴を有した場所として候補に出されたようだ。
「だけどあえて火山のある島を開拓する意味があるかと言われれば、微妙じゃないかい?」
「その辺りも含めて一度降りて調べてみましょうか」
正和の言葉ももっともだが、ここにしかない面白いものが見つかるかもしれないと竜郎たちは島へと降りて視察を開始する。
「む、何か妙な臭いがするのだ」
「火山ガスがどこかからか漏れているのではないか?」
ランスロットとアーサーが鼻をくんくんと鳴らし、微かに漂う他の島にはなかった香りに反応を示す。
「ねえ、これって温泉とかにある硫黄の香りじゃないかしら?」
「そうよね。いつだったか旅行で行った温泉街でもこんな臭いがしてたもの」
一方で美鈴と美波は知った臭いに、まさかと期待を込めた視線を竜郎へと向けてきた。
竜郎も火山と聞いてそこが気になってはいたので、すぐに探査魔法を使って島の地下も含めた全体を調べていく。
「母さんたちの期待通り、島の地下に温泉脈が通ってるな。水質も良さそうだし、掘れば簡単に温泉が作れそうだ」
「温泉とはいいですわね。私のくつろぎお昼寝スポットにピッタリですの」
「温泉でお昼寝スポット? 湯舟の中で眠る気なん?」
「ポカポカしてて気持ちよさそうですわ!」
「いやお風呂で寝ちゃダメだからね。それくらいで今更どうにかなる私たちじゃないにしてもさ。
けど、でっかいプライベート温泉があるってのはいいかも?」
「湯に浸かりながら一杯ってのもいいものだしなぁ。ねぇ、正和さん」
「僕は仁さんほどお酒が強いわけじゃないけど、のんびりそうやってくつろぐのは確かに魅力的ですねぇ」
仁は既に妄想の中の湯につかり、何も持っていない手でくいっとおちょこ一杯飲み干すようなジェスチャーをして頬を緩ませている。
正和もそういう楽しみは嫌いではないようで、こちらも想像の羽根を広げ目を瞑って妄想の湯に浸かる。
「ニーナは温泉玉子ってやつ食べてみたい!」
「「おーせん、たみゃお!」」
「やっぱりニーナたちは温泉よりも食い気か。
まあでもそうなってくると、もしここを開拓するとしたら温泉旅館みたいな建物をドンと建ててみるのも面白そうだな」
「あははっ、皆で誰の目も気にせずくつろげる旅館っていうのがあっても楽しそうだね」
「俺たちももっと歳をとったら、今より温泉好きになってるかもしれないしな」
竜郎や愛衣よりもその両親たちが、温泉と聞いてかなりこの島の開拓に乗り気になっていた。
その血を受け継ぐ自分たちも、いくつかそれと同じくらい温泉好きになる可能性が高いだろうと苦笑しながらその四人を竜郎は見つめた。
「けどそれぞれ違う特徴の島ばかり用意してくれるものだから、どれもこれもと欲しくなってくるな」
「はっはっは、こちらの世界での協力者たちも中々目の付け所が良いな!」
「いちおう私たちは宇宙人扱いされていますから、どのような所を好むか分からなかったからとにかく種類を──という事情もあったのでしょうけどね」
富豪たちを褒めたたえるエンターに、ミネルヴァが冷静にそう返しながら彼女もカルディナと一緒に周囲の探索を終えた。
「とくに温泉と火山以外は特筆すべきところはないようですし、やはり使うとするなら温泉旅館のような使い方が一番のようですね。この島は」
「ピュィーーー(そうね)」
「温泉が出るってだけで、もう十分すぎるほどの利点だしな」
他に利用方法があるならば温泉旅館を建てるという計画を見直す可能性もあったが、島自体もさほど大きくなく、本当に温泉を掘るためだけに用意されたかのような泉脈以外は見るところのない島だった。
なのでもしここを手に入れた暁には、本当にそれだけに特化した場所になるだろう。
「温泉といっても湯舟を変えるだけで趣も変わってくるからな。
作るってなったら、どうせなら色んな温泉旅館のいいところを真似てみたらどうだ? 竜郎」
「まあ俺たちのセンスでこねくり回すより、そういう繁盛してるところからイメージを借りてくるのはありかもな」
「写真だけとかならネット直ぐ出てくるだろうしね」
ただ様々な要素を混ぜすぎて、ゴチャゴチャしないように気を付けなければいけない。いつか生まれる自分の子や孫にダサいと言われるのは、竜郎も嫌なのだ。
竜郎はそういったセンスが高いリアやランスロットの助けを、建てるなら全面的に借りた方がいいだろうと結論付ける。
「お湯は関係ないけど、サウナなんかもあると僕は嬉しいかなぁ」
「ああ、今サウナって流行ってますよねぇ。でも私は足湯なんかも素敵かなって思うわ」
「あっ、私もちょうどそれ思ってたところよ、美鈴ちゃん」
「でしょー!」
『うーん、もうなんか手に入れた気でいるねぇ。お母さんたち』
『あれを見せられると今更ここは買わないなんて言えないよなぁ』
どこよりも乗り気になっている親たちの水を差すのも気が引けて、竜郎と愛衣の中でもこの島を手に入れることはほぼ確定となった。
その後はもしも温泉旅館を建てるならと空からの写真や地形を記録してから、最後の6つ目の島へと移動を開始した。
次も木曜日更新予定です!




