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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十九章 無人島開拓編

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第355話 ウリエルからの経過報告にて

 両親たちの若かりし頃の情報も確保し終わり、残りの冬休みはのんびりと過ごした。

 それから三学期もはじまり竜郎と愛衣は、友人たちと共にただの学生生活を謳歌していた。

 富豪たちとのやりとりをウリエルたちが代わってくれたおかげで、あちこちに飛び回る必要もなくなり随分と普段の生活に専念できた。

 それこそ異世界に落とされたあの日より前の日常を取り戻したかのような、本当に当たり前にあった日常を。


 やはり人数も増えた上に、表に出るのが竜郎たちだけだったときよりも効率よく立ち回ってくれているおかげで、ここ一月程度の間で随分と人脈も竜郎たちですら知っている日本の企業の社長など、ライト一家からはじまった繋がりが大陸も国も超え今や世界中に広がっていた。



『しっかりと全員信頼できるかどうかも調べておきましたので、人選にも問題はないかと』



 念話の先で全ての弟妹たちを取りまとめてくれているウリエルが、自信満々にそう竜郎と愛衣へ伝えてきた。

 しっかりと手分けしてリアお手製の魔道具で、呪魔法による強制人品鑑定までしている。なので心の奥底では実は……、なんていう人物は記憶も取り去り除外されている。

 そのため今現在リストに入っている面々は数こそ多くはないが、非常に口が堅い者たちばかりだ。



『まあバレても、たつろーならどうとでもできるんだろけどねぇ。

 けど最初に徹底しておいた方が、後々のことも考えれば楽だよね』



 地球人類は魔法への抵抗はゼロなので、異世界よりももっと隠ぺいするのは簡単だ。

 途中で竜郎たちの出す食も含めた商品を前に欲望にかられ、なんらかの面倒事を起こそうとする者も出てきても対処はできるが、そういう人物がいないに越したことはないので人を厳選するのは重要だろう。



『道の方はこっちの世界でも問題なさそうだったか?』

『はい。モヤ子の力で世界中どこでも、秘密のレストランに繋がるようになりました』



 異世界の方でも輸送手段として今や大活躍中の、時空魔法系統の力を持つ魔王種──モヤ美。

 であればせっかくなので地球用の子も生み出しておいた方がいいのではないかと、モヤ子を新たに生み出していた。

 その子が世界中に扉を設置し、お客としてリスト入りした人物たちの中でもさらに限られた人間しか知らない極秘の場所に作られたレストランへ直通で行けるようにした。


 扉はお客に渡した鍵を持っているかどうかでモヤ子が判断し、彼女の《我ノ支配空間・極》の中に通すかどうか判断しているので、それがなければ絶対に何をしても開かない扉となりリスト外の人間が勝手に来ることは不可能。

 ただモヤ子の扉を通ることは不可能でも、場所を秘匿している実際に地球上のどこかに実在するレストランに直接入られてしまう可能性はゼロではない。

 とはいえそちらも有力者たちの権力や財力によって厳重にガードされているので、一般人がフラリと入ることは無理なのだが。



『ふふっ、世界中に設置された扉が一つのレストランに繋がってるとか、本当にファンタジーって感じだよね』

『まあ実際魔法だの魔物だの使ってるわけだから、間違ってないしな』



 報告によれば既にレストランで働く料理人たちも決まり、今は開店に向けて竜郎たちが持ち込んだ食材を使った料理の味の調整段階で、あと少しで舌の肥えた富豪たちに出せるものに仕上がりそうとのこと。

 レストランではあるが、そこで異世界産の芸術作品や宝石の取引もできるようにする計画もあり、今後の竜郎たちの地球における資産も跳ね上がることが確定したといっていい。



『なんにしても順調そうだね! ありがと、ウリエルちゃん!』

『いえ、私だけの力ではなく弟妹たちも頑張ってくれたおかげですから』



 特に面倒くさがり屋のフレイヤは早くやれば早く終われると、早々にさぼることはできないと察して能力をフル活動。

 やる気を出せば誰よりも優秀な彼女の全力はすさまじく、恐ろしく効率的に事を進めることに貢献してくれた。



『落ち着いたらフレイヤも含めて、皆でダラダラ過ごす長期休暇を作ってもいいかもな』

『私は特に必要ないのですが……』

『ダメだよ、体は平気でも自分の時間も大切にしなきゃ。

 頼り切っちゃってる私たちが言えることじゃないかもだけどさ』

『そんなことはありません。主様たちは、こちらの生活も大事でしょうし』



 竜郎たちが地球に帰るためにどれだけ頑張ったのかも、ウリエルはよく知っている。

 そんな彼らが地球での日常を過ごしてほしいというのは、彼女の願いでもあるのだ。

 今の竜郎たちの日常は学生の今だからこそ味わえるものなのだから、小難しいことは、学生が終わってからでも十分だろうと。



『ああ、そうだ。それと今回は報告もあったのですが、我々側のこの地球で名乗る表側の組織名を考えてもらいたいのですが、なにかありませんか?』

『組織名? じゃあ波竜なみたつ結社!』

『いやいや、俺の個人情報丸出しじゃないか』

『ああ、そっか。さすがにそれじゃあ不味いよね』

『それだけで主様の元まで辿り着けるとも思えませんが、せめてもう少しひねった方がいいかもしれませんね』

『結社って言うのもちょっとあれだしな。普通に会社の名前みたいな感じでいいんじゃないか』

『会社かぁ。それじゃあねぇ……』



 その後も愛衣がいつものネーミングセンスを発揮していろいろと提案してくれたが、そのままだとらちが明かなそうだったので、竜郎も少しずつ修正案を出していき──。



『それじゃあ愛衣の名字の八敷の〝八〟と、俺の名字の波佐見の〝波〟を使って〝八波〟……だとあまりにもそのままだから、英語にして〝Eight Waves〟で決まりということでいいか?』

『異議なーし!』

『私たちの星ではこういう意味が~みたいな由来をでっち上げておけば、普通に納得してくれそうな組織名ですね。

 では今後はそれで進めていきたいと思います』



 竜郎としては竜郎だけの組織ではないので、せめて愛衣の要素も入れたいと思ったからこその名前である。

 愛衣はもちろん意外と竜郎もこの名前を気に入っており、ウリエルはそのことにしっかりと気が付いていた。



『これで今回の要件は…………あ、すみません。重要な件がもう一つありました』

『重要な件? もうあらかた聞いたと思うが』

『だよね。私も特に思い浮かばないなぁ。ウリエルちゃん、その重要な件ってなあに?』

『はい、それはですね。無人島です!』

『『無人島?』』



 やりましたよ! と言わんばかりにウリエルは言ってきたが、予想外のワードに竜郎も愛衣も一緒に首をかしげていた。



『無人島がどうかしたのか?』

『あれ? 以前言っていましたよね。無人島が欲しいと』

『あー、そういえば言ってたな。他のことで忘れてた』



 種族を隠すことなく、力を隠すことなく、竜郎たちが完全に好きにできて自由でいられる場所が地球にも欲しい。

 百年経っても二百年経っても生きている人間はこちらにはいないため、いずれ戸籍上の波佐見竜郎が死んだときに住み着く、誰にも見つからない場所が欲しい。

 そんな願いから竜郎は以前から無人島をいつか買えたらなあと、いつだったかウリエルにも話していたことを思い出す。



『え? もしかして無人島の件も交渉してくれてたの?』

『はい。既に交渉はほぼ終わりました。各国にいる顧客たちが大人の力……というより、大人げない力を使っていくつか候補を確保していただきました。

 あとは気に入ったところを決めるだけで、手続きが済むようになっております』

『もうそこまで話が進んでたのか……知らなかった』

『先にご報告しておいた方がよろしかったですか?』

『いいや、もっとちゃんとまとまった資金ができてからと思ってたからさ。驚いただけだ』

『そうでしたか。良かったです。そこでですね、主様方のお時間の都合がよろしいときに、どこがいいのか候補地の視察に行こうと思っているのですが……どうでしょうか?』

『おお! なんか楽しそー!』

『候補はいくつあるんだ?』

『今のところ6ヶ所紹介していただいております。気に入ったのなら、その全てをとも言っていただいております』

『気前がいいねぇ。宇宙人に渡せる無人島なんて、けっこう探すのも大変だったろうに。ちなみに資金はどこから出てるの?』

『レストラン経営などの利益から天引きということで、決めさせていただきました。無利子無担保で』

『そっち側もそれくらいの利益は平気で出ると踏んでのことなんだろうな。分かった。こっちは土日なら普通に暇だし大丈夫だ。だよな? 愛衣』

『うん。むしろ長いこと待たされる方がウズウズしちゃうからね。早く見てみたい! 私たちの終の棲家になるかもしれない無人島を!』

『ふふっ、承知しました。では次の土日で回れるよう手配しておきますね』

『ああ、よろしく頼む。いつも本当にありがとな、ウリエル』

『いえ! 主様のためならなんということもございません!』

『あはは、相変わらずだねぇ。ウリエルちゃんは』

『もちろんです』



 こうしてウリエルたちの尽力もあり、竜郎たちは自分たちの島となる無人島の視察という、ただの一般人であった頃ではまずできなかったであろう出来事を、次の休日にすることになった。

 久しぶりの非日常の気配の到来に、竜郎も愛衣も当日まで待ち遠しい気分で過ごしていったのだった。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
ついにEight Wavesの名前が出てきたとなるとBMOの時代に近づいてきたということでしょうか? レベルイーターの最後で気が付いてたら会社ができてたというのはウリエルの頑張りということだったんで…
[一言] BMOのEW社はこうやってできたわけですかあ
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