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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十九章 無人島開拓編

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第354話 今のうちに

 竜郎たちは、約五ヵ月強ぶりに異世界から日本に帰還した。

 これで今日本にいるのは竜郎と愛衣にその両親たち。カルディナたち魔力体生物組。リアにレーラ。楓と菖蒲とニーナ。ウリエル、アーサー、フローラ、ランスロット、ミネルヴァ、フレイヤ、千子、エンター。そしてこちらでお酒の飲み方を研究するため今も日本を巡っているガウェインと、かなりの大所帯となっている。


 その理由としては、ウリエルからの提案からはじまった。

 曰く、これから竜郎たちは地球でも様々な国の限られた富裕層や有力者たちと繋がり、美味しい魔物食材をメインにその版図を広げていくつもりというのなら、竜郎と愛衣だけでエーイリとアンという宇宙人としてそれらの人々とやり取りするのは大変だ。

 なにせ二人は学生としての身分もあるのだから、地球にいる間はそちらにできるだけ専念できるようにしたい。

 となればそういった面倒なやりとりを推進させる、あるいは補助する、自分も含めた仲間たちを一緒に連れて行ってほしい──という提案から。


 こちらで最初に縁を持った世界的大富豪ライト家を中心にまとめてもらう手筈は調いつつあるが、こちら側からも調整役は必要だ。なんでもかんでも他人にぶん投げて、知らぬ間に厄介なことになっていても困る。

 世界中に繋がりが広がっていくとなると、それなりの人数も必要だろう。


 それに正直に言ってしまえば、今やそういった有力者たちとのやりとりや堅苦しい交渉事はウリエルたちの方が優れているといわざるを得ない。

 竜郎や愛衣が美味しい魔物食材の復活に精を出している間に、エリュシオン設立に関わってくれていた仲間たちは、王侯貴族と何度もそういった小難しいやりとりをしてきてくれたのだから。

 元の種族的な優秀さも相まって、ただの地球人などスキルに頼らずともいくらでも手玉に取ることも可能だろう。


 こうして異世界で鍛えられたウリエルたちが全面的に協力してくれるようになったことで、これからは地球の海千山千の有力者たちとのやりとりへの不安やストレスから解放された。

 レーラも面白そうだからと、手伝ってくれることになっている。

 竜郎と愛衣は彼女たちを認識阻害を利用した似たような宇宙人像を被せた上で、ライト一家や他の地球人の協力者たちに紹介も済ませていき、安心して期末テストに向けて集中することができた。


 異世界で食材探しばかりしていたわけでもなく、しっかりとテスト勉強も済ませておいたため二人とも普段よりいい成績で学期末を終え、冬休みへと気持ちよく入っていけた。

 日本でも大きなイベントと化しているクリスマスには、日本にもあるが規模が段違いのアメリカの某有名遊園地にデートしに行ったり、大晦日は皆で集まってまったり年を越し、お正月には祖父母の家に挨拶に行ったりして年始を過ごし、残り少ない冬休みを今はのんびりと過ごしていた──そんなある土曜の夜のこと。

 竜郎はリビングのこたつに入って、両親と向き合っていた。



「ってことで、そろそろ父さんと母さんの若い頃の姿を、ウサ子に見せておきたいと思うんだがいいか?」

「どうしたんだ急に。まだ父さんたちはそこまで老けてないぞ」

「そうよ。竜郎が用意してくれた水も使った美容液を使ってから、お肌の調子もいいんだから」

「いや、今すぐ若い頃の肉体にっていうわけじゃないんだ。この前の正月に爺ちゃん、婆ちゃんに会いに行っただろ?」

「ああそうだな。お、そういえば父さん、竜郎から貰った毛生え薬の効果がもう出てきたって滅茶苦茶喜んでるぞ」



 どれほど死滅した毛根も復活させる異世界で開発した強力な毛生え薬。頭髪が寂しくなっていた祖父に竜郎がそれをプレゼントした。

 本来であれば一瞬で若々しい髪が生えそろう絶大な効果を発揮するものなのだが、それではあまりにも異常すぎる。

 ご近所や友人がみれば逆に不気味に思うか、カツラを被ったかと言われるのがオチなので地球仕様にリアが手を加えた。あえて少しずつ、けれど毎日分かる程度に効果出るように調整されたものに。


 それによって竜郎の祖父の頭には既に目で見てすぐ分かるほどの効果が出てきており、わざわざ仁へ経過報告を写真付きで送ってくるほど喜んでいるのだとか。



「それはよかった。けど俺が言いたいのはそっちの件じゃなくて、爺ちゃんと話したんだけどさ。

 やっぱり歳を取ってくると若い頃の記憶って薄れていくものだろ?」

「そりゃあそうでしょうね。それも含めて歳をとるってことでしょうし」

「でだ。俺が魔法で過去に行くとなった場合、かなり正確に昔の2人がいた時代の光景を覚えておいてもらわないと過去転移は安定しない」



 レーラなどを経由して異世界では千年以上も過去に転移したこともあったが、彼女はやはり特別で普通の地球人類とはまさに頭の出来が違う。

 もともと永遠の時を生きる種族として神に創られただけあって、その記憶力も高く過去の出来事をそうそう薄れさせたりもしない。

 だからこそ過去転移も簡単に上手くいった。だが一般的な地球人は十年どころか数年前のことでも思い出しにくくなっていく。

 それでも強烈に残っている記憶の断片はあるだろうし、そういった情報を通して過去へ飛ぶことはできる。

 だがそれも老いとともにどんどん精度が落ちていくことを、祖父母たちとの会話で気づかされた。



「なるほどな。できるだけ俺たちの記憶の鮮度が高いうちに済ませておこうってことか」

「今はまだいいみたいだけど、そのうち若い頃の肉体に戻りたいんだろ?」

「そうねぇ。普通に普通の人生をこっちで生きていくだけっていうなら、仁君とそのままお爺ちゃんお婆ちゃんになって……っていう余生も素敵ねって思ってたけど、あっちの世界も楽しいことが一杯あるし、もう人一人分の人生じゃ足りなさそうなのよね」

「そうそう! やりたいことも増えたしな」

「じゃあ決まりってことで。今からでもいいか? 愛衣の方にも今、あっちの両親に話してもらってるところなんだが」

「私は構わないわよ。仁君もそれでいいよね?」

「ああ、そういうことなら問題ないぞ。ちなみに過去のものを持って帰るっていうのは……?」

「ダメだな。見るだけ。こっちの世界は異世界みたいに神様があれこれ調整や管理してくれるようなところじゃないし、俺たちが呼吸する分の空気も用意していこうかと思ってるくらいだし」

「過去の酸素すら吸うなってことなのね」

「なら地面に足跡一つ残せないか」

「俺もこっちでの過去転移ははじめてだし、そのくらい慎重にしながらやっておきたい」



 はじめての地球での過去転移なのでできるだけ未来のものを残さないよう、過去のものを消費しないよう心がけての過去転移を竜郎は考えている。

 心配し過ぎだとは思うものの、神などいなくてもバランスが取れている世界だからこそ気をつけたいのだ。



「となると俺が学生の頃に嵌まってたアーケードを買って来るってのも無理か。こっちだといくら探してもなかったんだよなぁ」

「ちょっとあれだが、リアがれば再現はできそうだけどな。

 あとはウサ子が記憶すればどれだけ壊れてても、部品一つでも見つかれば見た記憶の状態に復元できると思うけど」

「あー……あらためて私の息子と義娘は何でもありだと思い知らされるわねぇ」

「頼もしい限りじゃないか。あ、なら化石から恐竜を復元とかもできるんじゃ──」

「──いやいや、誰がそんな昔の記憶を持ってるっていうんだよ。

 俺の転移魔法だって、なんの記憶情報もなしにいけるほど優秀じゃないぞ」



 竜郎すら超えるエーゲリアならあるいは……とも思ったが、わざわざそんな面倒なことをして過去の生き物を復活させるメリットが見いだせない。



「ジュラシックなパークみたいなのがあれば、面白そうだと思ったんだけどなぁ」

「仁君ったら、いつまでたっても男の子みたいなこと言うんだから。異世界自体がもうそれみたいなものでしょ。恐竜みたいなのだって普通にいる世界なんだし」

「ははっ、それもそうか」



 とはいえ竜郎も男の子だ。恐竜なんかに多少心惹かれるところがあるのも事実。

 疑似的に〝そういう感じ〟に魔物をいじって生み出すことはできるが、実際にそれが本当の姿というわけでもない。

 図鑑に載っている姿も骨格や化石の状態からの推測に過ぎず、本当の過去の生き物たちの姿を実際に見ることができたら、それはそれで面白いだろうなとふと考えてしまった。




 愛衣の方も両親に話し、さっそく両家揃ったところで過去転移の時間と相成った。

 まずは竜郎の両親──仁と美波から。竜郎の魔法で結界を作り、その中にたっぷりと圧縮した空気を取り込みいざ転移。

 楓と菖蒲はニーナに見守られて寝てしまっているので、今回はお留守番だ。



「賢い子たちだけど、それでもまだ小さいからね」

「ああ見えても竜王種に連なる子たちだからな。その気がなくても、ふとしたことで何か大きな痕跡が残る可能性も零じゃない」



 なのでわざと寝入った頃合いを見計らっての行動だ。

 ウサ子を《強化改造牧場・改》から呼び出し、リアもサポート要員として一緒に行くので両親たちと一緒にいる。

 波佐見家と八敷家が一緒に行く必要はないのだが、過去転移に全員で慣れてもらう意味もかねて一緒に行くことになった。

 それぞれの若い頃を見たい──なんていう、双方の好奇心もあってのことだが、それくらいならまあいいかと竜郎も許可したしだいだ。



「じゃあまずは父さんたちの方から片付けて行こう」

「おう、俺と美波は学生時代から一緒だからな。一石二鳥だ」

「ふふっ、若い頃の仁君かぁ、楽しみ」



 目的の場所は2人共通の思い出の場所。1人だけの記憶でなく、2人分の記憶で補強し合えるため竜郎としても心強いので安パイとして最初を選んだ。

 両親が強く思い描く時代と場所の記憶を頼りに、竜郎は日本の数十年前の過去。2人がまだ高校生だった頃の時代へと転移した。



「……おぉっ」「あぁっ」

「ここが美波ちゃんたちの思い出の場所かぁ。雰囲気のいい場所ね」

「本当に。僕も常連になりたいくらい落ち着くよ」



 転移した先はとある喫茶店。

 竜郎たちの生きる本来の時代からすればかなりレトロな雰囲気だが、この時代ならば当たり前の内装をした小さな店だ。

 正直面白いものはないのだが、愛衣の両親たちがいうように落ち着く雰囲気のいい店ではあった。


 そんな店内に認識阻害もかかった状態でやってきた仁と美波は、目を潤ませ……なんなら美波の方は一粒の涙すら流してその光景に感動していた。



「えっと、そんなに感動する場所なの? 仁さん、美波さん」

「そりゃあそうだぜ! 愛衣ちゃん」

「そうよ、愛衣ちゃん」

「そ、そうなんだ」



 その感動っぷりに竜郎も含め、愛衣やリアも少し驚いた。



「ここはな……父さんと母さんの思い出の場所なんだ。けど俺たちが大学に入ったくらいの頃に潰れちまったんだよ」

「解体されてる光景を見たときは凄く心が痛くなったのを覚えているわ」



 学校帰りにちょっと喫茶店でお茶をして、たわいもない会話をする。

 そんななんてことのない時間を過ごすだけの場所だったが、この2人にとっては互いの青春を彩ってくれたかけがえのない場所でもあった。



「ああ、本当に懐かしいな……。ほら竜郎、あっちの窓際の席、だいたいいっつも俺たちはあそこに座ってたんだ」

「奥側が仁君で、手前が私で向かい合ってね。本当に懐かしい……」



 竜郎にそんなことをいいながら、2人は当時いつも座っていたテーブル席に近寄っていく。

 空気すら遮断しているので懐かし香りも音も楽しむことはできないが、それでももう二度と見れないと思っていた思い出の空間にやって来られて、学生に戻ったような気分で仁と美波は自然と手を繋いでいた。



「あ、あれってもしかして」



 仁と美波が思い出に浸っていると、カラカランというベルの音を鳴らしながら、若々しいカップルが入ってきたことにリアが真っ先に気が付いた。

 竜郎もその2人の学生の顔を見て、思わず笑みがこぼれた。



「間違いなくそうだろうな。写真で見たことある」

「あははっ。仁さんとたつろー、あんま似てないかも」

「竜郎は私に似てるわよね」

「そんなことないさ。俺と耳の形とかそっくりだろ。足の形とか」

「マニアックな場所ばっかり父さんに似たのか……」



 店主とも顔なじみなようで、軽く挨拶をかわしながら若い方の竜郎の両親がいつもの席に真っすぐやって来る。

 こちらは見えていないが、進行方向にいると邪魔なので少し仁と美波を後ろに下がらせた。



「ウサ子、あの二人のことを記憶してくれ」



 大人しく足元でじっとしていたウサ子に竜郎が頼み、若かりし頃の仁と美波が席に着きたわいもない会話をしている二人の姿かたち状態までもそっくりそのまま、手に持った先端に星を付けた玩具の杖──のようなもので完全に記憶していった。



「いや、ほんと。ありがとな。いいものが見れた」

「私からもありがとう、竜郎」



 用事を済ませるとすぐに現代に帰還した。帰還するなり竜郎は両親に抱きしめられてしまう。



「別にいいって。だから放してくれ」

「ふふっ、たつろーったら照れちゃってる。かわいいなぁ」



 両親に抱きしめられて周囲の視線を気にする竜郎に、愛衣はニコニコしながらその光景を見守った。

 一度で竜郎の両親の方は済ませられたので、今度は愛衣の両親の過去の姿を見に行くことに。

 正和と美鈴は成人してから出会っているので、今度は別々の場所に行く必要がある。



「うわっ、懐かし! 愛衣、見て。昔はお母さんあのアパートに住んでたんだよ」

「へぇ~」



 愛衣の母が学生時代に両親と住んでいたアパート。今はそのアパートも取り壊され、新しい建物が建てられているので既になくなってしまっている。

 だが過去に来たことを証明するように、美鈴が子供時代を過ごした風景そのままの場所に転移してきた。


 よく美波が通っていた道に出て少し待っていると、学校から友人たちとおしゃべりしながらやって来る、学生服を着た美鈴を見つけた。

 母をそのまま若くした女子学生に、愛衣が思わず大声を上げてしまう。



「わっか!?」

「そりゃそうよ。どうよ、なかなか可愛いでしょ」

「ほんとに。僕も写真で見たことはあったけど、実際に見るのとじゃ大違いだ。愛衣はお母さんに似て良かったね」

「えへへ、そうかな」

「確かに愛衣にも少し似てるな……」

「似てるからって私に惚れちゃダメよ? 竜郎くん♪」

「もう! 何言ってんの! お母さん!!」



 そんな一幕を繰り広げながら、ウサ子はしっかりと美波の若かりし頃の状態を記憶し、一度現代に戻ってから最後に正和の過去へと転移した。



「うーん……? なんかお父さんの過去風景、私も知ってる感じなんだけど」

「まあ僕の実家は今も昔も田舎だからねぇ。けど今はあそこの辺りにコンビニが建ってるはずだろ」

「あらほんとねぇ、確かにないわ。それによく見たら、お父さんの実家も新築みたい」

「ほんとだ! ボロじゃない!」

「愛衣……ボロって……。いやまあ、僕の実家は今や相当なおんぼろなのは確かだけど」



 正和の過去は田畑の広がる田舎の風景をバックに、それなりに新しい立派な木造一戸建ての住居がドンと佇んでいる場所だった。



「この時間帯なら僕は多分……」



 無駄に広い庭にある納屋のような場所にむかって正和の後に続いていくと、その納屋の前で若かりし頃の正和が、収穫した農作物を入れるコンテナを椅子にして読書に勤しんでいた。



「ああ、あなたって感じだわ」

「だろ。僕もそう思うよ」



 学生時代の正和は顔立ちは決して悪くないのに、全体的に野暮ったい恰好をした少年だった。

 時代もあるのだろうが眼鏡も黒縁の大きなもので、顔の輪郭にあっていない。格好も言ってしまえばかなりダサい。

 だがその朴訥な感じが美鈴には笑ってしまうほど、自分の夫だと確信を持ち、愛衣の両親は2人顔を合わせて笑っていた。


 昔を楽しんでいる間に、ここでもウサ子が正和の昔の状態を記憶し終わり、竜郎たちは無事に両親たちの過去の情報を集めることに成功したのだった。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 若かりし両親のデータつつがなく取得完了 地球のセレブ達との交渉要員確保 今まで張った伏線が順調に回収されて、行動の自由というか普通の学生生活が楽しめる状況が整えられつつありますな
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