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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十八章 エリュシオン解放編

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第337話 町への報告

 竜郎たちは調べた情報を元に、再び冒険者ギルドを訪れた。

 証拠らしい証拠という物は持ってこれていない。なぜなら竜郎の魔法を文字通り全力で行使して、ようやく掴めるレベルの痕跡。

 普通の解析系の魔法やスキル持ちの人間では、痕跡がここにあると竜郎が目の前で言ったところで、あるかどうかすら分からないだろう。そんなものを持ってこられるわけがない。


 しかし竜郎たちは、世界最高ランクの冒険者。その言葉だけでも、そこいらの人間が持ってくる証拠以上に信用してもらえた。

 出会ったばかりであろうと、それだけの信頼がランクの高さに込められているのだ。



「まさかそんなことが、あの森で起きていたなんて……」

「ど、どこのどいつがそんなことをっ!!」



 竜郎たちの事を聞き、ここには他に大柄で禿頭の中年男性の町長も来ていたが、そちらは怒りに震え顔が真っ赤に茹で上がっている。

 冷静になれていないことが分かっているのか、鼻息を荒くしながら浮かしたお尻を椅子に預け、それ以上は黙って竜郎の言葉に耳を傾けてくれた。



「やっぱり冒険者ギルド側は、そんなことしませんよね」

「当然です。もちろん、この町の有力者たちも同様だと、私と町長が保証いたします。

 以前の生態系が一番、我々町の住人にとっても都合がよかったのですから。

 それをわざわざ乱すような真似、しようとすら思いません」



 予想していた通り、竜郎からすれば雑で自分本位なクシャスたちの縄張りの荒らし行為は、冒険者ギルド側や町も一切関与していないことが分かった。

 クシャスがいなくなれば他の魔物を捕食してくれる魔物がいなくなり、竜郎たちの領地ほどでないにしろ、かなり危険な領域が隣接した町になり果ててしまうと冒険者ギルドは予想している。

 だからこそ神経質なまでに、その状態を保とうと下手に手を出さず見守っていたのだ。


 ギルド長の女性マージェリーとしては、何らかの環境の変化。クシャスやボダ、カポスのいずれか、もしくはその全てに生物としての変化があったのではないかと考えていた。

 それなのにまさか第三者が自己の都合で踏み荒らし、人為的に環境に手を入れたことで発生した変化だと分かり愕然としていた。



「何が犯人を示すような証拠はありませんでしたか?」

「それはなかったですね。さすがにそこまで相手もバカではないようです。

 けれどおそらくですが、その者たちの狙いは珍しい毒物でもあるカポスの豆。

 であるならば何かしらそれを使ったような怪しい事件や研究が、どこかで起こっていたり、行われているのかもしれません」

「……まずは、この町の近隣の町から調べた方がよさそうですね。

 珍しいといっても、ここまでしてわざわざ遠方まで届けるほどの価値がある毒とは思えませんもの」

「強力な毒というだけなら、他にもっと強力なものもありますしね」



 竜郎たちが予想もできない特殊な使用法があれば話は変わってくるが、危険を冒してクシャスの縄張りに入り込み、さらに鮮度が落ちれば毒の効果も落ちるので、それを保ちながら国や大陸をまたいでまで運ぶとなると大掛かりすぎる。

 それほどの価値があるとは竜郎にも思えなかった。

 後ろ暗いことをしているのは相手も分かっているはずなので、それほど遠方まで隠して運ぶというリスクまで抱えて敢行するということは、さすがにないだろうとマージェリーも近隣に当たりをつける。



「こちらが予想できる範囲での使用法を考え、町や国とも連携して極秘裏に犯人の調査をしていきたいと思います」

「冒険者ギルドってそこまでやるんだね。凄いなぁ」

「ふふっ、国や土地によっては違うのかもしれませんが、少なくともここでは町の便利屋のようなこともしていますからね。

 私個人としても見過ごせませんし、最後までこの事件を追っていきたいと思います」



 愛衣の純粋な言葉に場の空気が少し和み、マージェリーはそう口にした。



「ですがもし行き詰まるようなことがあって、お力を借りたいと思ったときはその……」

「ええ、乗り掛かった舟ですし事の顛末も気になりますから、必要とあらばカサピスティ王都の冒険者ギルドに知らせを出してください。

 そうすれば僕らと確実に連絡が取れると思いますので」

「カサピスティの王都ですね。はい、分かりました。重ね重ね、ありがとうございます」

「かたじけない! 町の住民の代表として、私からも感謝を」



 竜郎たちは別に警察ではない。今回はその原因を突き止めるまでが仕事であり、犯人を探し捕まえることは含まれていない。

 頼まれれば手伝うこともあるだろうが、近隣の町の出来事を調べるなら冒険者ギルドや町側の有力者たちの方が調べやすいだろう。


 なので一旦、ここで竜郎たちの仕事は終了だ。またマージェリーや町長たちでも手に余る不明な事や、相手が出て来たときにでも呼んでくれればいい。

 もう場所は覚えたので竜郎さえいれば一瞬で、ここへ転移することだってできるのだから大した手間でもない。


 そのような内容で話がまとまり、あとは解散かという流れになったところで、ふとマージェリーが何とも言えない顔で笑ったのを竜郎が視界の端にとらえた。



「どうかしましたか? マージェリーさん」

「ああ、いえ、すみません……。タツロウさんたちの調査結果を改めて見ていたのですが、本当に恐ろしいほどギルド側が出した調査隊の足取りを、ピッタリと言い当てていたもので」

「え? それって駄目だったのかな?」

「いいえ、アイさん。そうではないのです。

 その調査隊の中には私が手塩にかけて育てた弟子もいましたし、細心の注意を払って痕跡を消しているはずです。

 なのにタツロウさんたちの力の前では、こうもハッキリと分かってしまうほどの跡が残っていたのだなと、自分たちの力量への自信が少しだけ揺らいでしまったのです。

 世界最高ランクにまで上り詰めるほどの人物たちと、比べるほうがおかしいのでしょうが」



 竜郎は分かりやすいように、正式な理由で来ていた調査隊の足取りも完璧に伝えていた。

 それらのルートは極秘扱いだったため、そこから漏れているとも考えづらい。

 ということはささっと行って帰って来られる程度の時間で、竜郎たちからすれば見つけられてしまう程度の実力だったのだなと、少しだけショックを受けてしまったようだ。


 だがここで「ごめんなさい」や「頑張ってください」などと言うのは、あまりにも空気が読めなさ過ぎる。

 竜郎たちも何とも言えない乾いた笑いを浮かべながら、冒険者ギルドを後にした。



「よし、報告もこれで終わりだな」

「うーん……クシャスを全部パパが従魔にしちゃえば、全部解決だったんじゃないのかな? なんでそうしなかったの?」

「あー……それも考えたんだがなぁ。海の件もあるし、やたらめったらに俺たちが手を出すのも良くないと思ったんだよ、ニーナ」



 竜郎たちが今の領地に居ついたことで海の生態系が乱れ、別の海域へと危険な魔物が流れてしまったのではないか──という疑惑がつい最近発覚したばかり。

 その対策もとってはいるが、まだ手探り状態で、本当にそれでいいのかも、長期的に見ていかなければ判断が付かない。

 良くも悪くも、竜郎たちの力は強すぎるのだ。


 そんなところで、もしクシャスを全て従えてしまった場合。竜郎は町に行かせないよう厳命することもできるし、逆に守るように命じることもできる。

 そうなればこれから数十年後に起こりうる、生息域拡大の懸念も全て晴れるのかもしれない。


 だがそうすることでまた竜郎たちが思いもよらない方向にその余波がいき、そのせいで人が死ぬことだってあり得てしまうことも知っている。

 もしもすぐに変化がなかったとしても数十年後、数百年後に何かが起こるかもしれない。



「それにだ。ここは俺たちの普段いる場所でも、何らかの縁がある場所というわけでもないから、何かあっても直ぐには気づきにくい。

 だからここでは、できるだけ現地の人に解決してもらうのが一番なのかなってな」

「それがいいのかもしれないね。けっきょく僕たちは、他所者でしかないんだから」

「まあねぇ。関係の薄い人たちのところまで、何でもかんでも力づくで解決してくのも良くないのかも」

「とはいえ、もうけっこう俺たちは好き勝手やってるから、食ややりたいことに関して妥協するつもりはないけどな」

「「あう!」」

「美味しいものは大事だもんね! ニーナもそれは、よく分かるよ!」



 散々好き勝手やっているのだから今更感はあるが、少しくらいは気を使っていこうと努力目標を掲げるくらいはしてもいいだろう。

 それだけで変わるほどの力を、竜郎たちは有しているのだから。



「最終的にそれしかないってなったのなら、それもやぶさかではないしな。

 とりあえず今は町の人やギルドに犯人捜しは任せて、こっちはこっちで本来の目的を遂行していこう」

「だね。新しい美味しい魔物を早く復活させないと!」

「豆となるといろいろと可能性も広がりそうだからね。僕も楽しみだよ」

「ニーナも!」「かーでも!」「あーめも!」

「他にも途中で何種か手に入れる必要があるから、ぱぱっとそっちは済ませて行こう」

「たつろー、そっちは時間かかりそお?」

「いいや。カポス以外は、探すのに苦戦するような魔物じゃないはずだ。すぐに見つかるさ」



 そう宣言した通り、ニーナの背に乗り一行は残りの必要な魔物の素材をすぐに集め終わった。

 残りは生息域に行けば、すぐに見つかるような魔物ばかりだったのだ。


 必要な素材を全て集めてきた竜郎は、それをブルーシートの上に並べ、準備を調え終わる。



「なんだか変なことになりはしたが、もともとの目的はこれで無事達成だ。

 他の横やりが入る前に、『カデポエ』の復活というか」

「おー!」「やったー!」

「「かえぽぇ!」」

「いよいよだね」



 皆の期待に満ちた声を背に受けながら竜郎は、カデポエの復活をさせるべく魔物の創造スキルを発動したのであった。

次も木曜日更新予定です!

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