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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十八章 エリュシオン解放編

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第336話 調査結果からの推測

 調査に興味のないニーナに楓と菖蒲の世話を任せ、しばらく竜郎たちが調査していくと、さっそく怪しい痕跡を発見する。それは──。



「ここまで来るときに辿った調査隊とは別に、この森のこの近辺をうろついている人間らしき存在の跡があった」

「え? そうなの? たつろー」

「ああ、俺たちが入ってきた南方面とは別に、北東方面から入って来てる人間がいるみたいなんだ」

「調査隊がそちらまで調べたってことはないのかい?」

「少なくとも俺たちの来た道を通ってきた調査隊とは、別の部隊であるのは間違いないですね。

 こちらも痕跡は丁寧に消せていますが、それぞれ消し方の特徴が違っているので、別部隊と考えるのが妥当かと」

「そこまで分かるものなのか……。僕も植物から痕跡が探れないか確かめてみたけど、何も分からなかったっていうのに。

 解魔法というのも便利なものだね。僕も覚えてみようかな」

「なんだかんだ情報も武器になりますからね。

 植物を育てるうえでも役に立つでしょうし、SPが余ってるなら取得するのもありかもしれませんよ」



 農業に使えそうなものばかりを優先して取得していたが、そういうのもいいかもしれないと竜郎の解析能力を見て正和は興味を示す。

 竜郎の父である仁は好奇心旺盛でわりと気軽に取得していくので、あまりSPの余裕はないが、正和の場合は慎重派というのもあり、まだまだSPも充分余っている。

 なので直ぐに実用レベルまで、解魔法を上げることもできるだろう。



「それで話を戻すが、調査隊並みにここの魔物たちに気づかれずに行動できる何者かがいたのは確かだった。

 そちらも冒険者ギルド側が出した別の調査隊っていう可能性も考えたんだが……」

「だが?」

「調査隊にしては変なことをしているみたいなんだ」



 そういって竜郎は皆を引き連れ、森の奥地に生える完全に成熟した巨木の魔物──ボダの前にやってきた。



「ほらここ。何か刃物で切って採取した痕跡がある。明らかにクシャスがもぎ取ったものではないし、人為的なものだ」

「ん~~~? うーん、確かに断面が綺麗すぎるかも?」



 竜郎が指し示したのは、その成熟したボダに巻き付き寄生する豆の魔物『カポス』。そのツルの一部。

 クシャスは引っ張って無理やり引きちぎるように実った豆のさやを取って食べているのは、先ほど観察して見た通りだ。

 けれど竜郎が指摘した部分は、切れ味のいい刃物でさやを採取したような跡が見受けられた。



「それに人間の血の臭いもちょっとだけするかも!」

「よく分かったな、ニーナ。解魔法を使わなきゃ、俺は全く分からなかったのに」

「ニーナはお姉ちゃんだからね!」

「「にーねちゃ、すおい!」」

「えへへ~」



 カポスも姿は豆科の植物なれど、その本質は魔物だ。

 けれどここでは自分で狩りをするのが難しいからこそ、自分の寄生元のためにクシャスに自分の実を分けているにすぎない。

 それが予期せぬ、なんのメリットもない相手であれば当然、勝手に実を取ろうとすれば抵抗する。

 具体的にはそのツルで絡めとって締め上げたり、鞭のようにツルを振るって叩き殺したりして、自分もしくは寄生元の養分にしていた。

 もちろん、ボダだって黙っていない。


 ここでは何者かに対して抵抗した跡も見られ、そのときの戦闘の痕跡ができるだけ消してはいるが残っていた。



「調査隊はできるだけ刺激しないよう、その姿を最後まで隠し通したまま現状のクシャスたちの生態を観測し、ギルドに情報を渡すことを目的にしていたはずだ」

「僕らが冒険者ギルドで聞いた話では、確かにそうだね」

「ええ、なのにこいつらはわざわざ自分たちから手を出して、その存在をばらしてる。

 これだけみても調査とは違う、別の目的を持ってここにきているんじゃないかと推測できる。

 それに他にも奇妙な点が」

「まだあるの?」

「ああ、今度はこっちだ」



 次に竜郎が皆を連れてやってきたのは、町の方に向かって少し南下した地点。そこでしゃがみこみ、土魔法で少し地面を掘っていく。

 そうして出てきたのは、シワシワにしおれた植物の種のようなもの。



「それはなんなの? たつろー」

「これはカポスの死んだ豆粒だよ。俺は最初、これはクシャスが落としていったものじゃないかと思って気にしていなかった。

 けどちゃんと調べてみると、あからさまに魔物がやったにしては不自然すぎたんだ」



 竜郎はそれから土魔法を使って、同じものを他にも見つけ拾い集めていく。

 その頻度と間隔からして、どうみても食べ残しをクシャスが落としたにしては規則的すぎた。

 それではまるで誰かが豆粒を意図的に撒いているようではないか──と。



「でも、そんなことして何の意味があるのかな?

 ニーナなら豆は食べちゃう方がいいと思うけど」

「ふむふむ。名探偵愛衣ちゃんの予想だと、おそらくこれは町への恨みのある人物の犯行だね!

 きっとあれで、クシャスを町に行かせようとしてたんだよ!」

「うーん、それだとさすがに距離がありすぎるし、そこまでできる能力があるなら、もっと他にやりようがあると僕は思うな」

「むー、じゃあお父さんは何だと思うの?」

「竜郎くん、これは町まで続いているのかな?」

「いいえ、もう少し先まで続いているだけで、一定のところから先は一切見なくなりましたから」

「だとするとむしろ僕らみたいに、豆に興味があって来たから……とかかな?」

「豆に興味があったのに、豆を落としてくの? なんかおかしくない? 捨ててるじゃん」

「豆を採るにしてもクシャスが邪魔だから、一時的に離れてもらうようこっそり集めた豆を落として誘導した。

 そしてクシャスが離れて、脅威の少ないボダとカポスだけになったところで乱獲し大量に豆を手に入れる──とかじゃないのかなってね。

 そう僕は思ってしまったけど、竜郎くんはどうだい?」

「俺もそんな感じじゃないかなと思いましたね。

 あの豆は珍しい毒物であり、クシャスが作り出す強力な毒の元でもある。

 なら食べるという目的がなくとも、一定の需要はありそうだしな。

 それを良いことに使うか、悪いことに使うかは別として」

「毒が良いことにも使えるの?」

「毒を使って厄介な人類に害成す魔物の討伐に使ったり、使いようによっては何かに効く新薬にだってなるかもしれない。

 たとえそういう使い方だったとしても、クシャスを刺激したくない町は反対するだろうし、隠れてやろうと思っても不思議じゃないからな。

 ただ明らかに町への配慮がないようだし、採取に来ていた人物たち、もしくはその雇い主がいるのなら、悪いことに使っていそうではあるが」

「ってことは、この豆まきが分布の拡大の原因になっていると、竜郎くんは思うんだね?」

「はい、だと思います。この豆粒はいうなればカポスの種ですからね。

 撒いてそこに寄生できる植物があれば、おのずとそこから栄養を取って成長することもできるので」



 ただカポスの大食漢に耐えられる植物は少なく、ボダという寄生先がいなければ育つのは難しい魔物でもある。

 けれどボダもしゅの繁栄を本能として宿している、立派な生き物だ。

 カポスを寄生させることで、この森で食料を得られると遺伝子レベルで学習していた場合、そこにカポスの種があるならと自分の身から株分けし、そこに生やそうとしてもおかしくはない。

 そうして生えた若木の苗に、クシャスがエサを与えれば分布の拡大に繋がる可能性はあるだろう。



「でもそれだと、いつかは限界が来て止まりそうじゃない?

 人の手がないと、けっきょくは分布は広がらないってことなんだしさ」

「ボダとカポスは増えれば、その分クシャスも増えるわけだからね。

 そのうち今はこの森を行き来できる実力者でも、いずれ対応できなくなる日も来るはずなんだから。

 だとすると結局町まで来ることは数十年先もなく、ある一定の範囲で拡大は止まると考えてもいいのかもしれないね」

「それならいいですけど……もしもクシャスが、その繁殖の方法を学んでしまったらどうなりますかね?

 理由は分からずとも、こうすれば自分に必要なボダとカポスが増えると学んでしまえば、自分からその活動範囲と種の繁栄のために豆を撒きはじめることだってあるかもしれないですし」



 クシャスは魔物の中では、そこそこ頭のいい部類に入っている。

 地球でもカラスやサルが経験から学ぶように、このクシャスもまたそれを覚えてしまう可能性もあるということだ。



「これって調査隊の人は気づかなかったのかな?」

「痕跡からある程度の日時を読み取るに、調査隊が去ったすぐ後に密猟者? たちは来ているみたいだ。

 定期的にやっているとはいえ、危険なことだしある程度、日をまたいで調査をしているに違いない。

 なら調査が終わった後に来れば、しばらくは来ないから時間と共にそいつらの痕跡も薄れていく。

 そうなるとクシャスに見つからないよう細心の注意を払って調査している調査隊では、ちょっとこれを見つけるのは無理だと思う。

 クリアエルフ並みの実力者が調査隊にいたのならその限りではないが……、だったら俺たちが来る前に冒険者ギルドも把握しているはずだしな」

「あ、そっか。今はパパが魔法でニーナたちを認識されないようにしてるから、ここで普通にいられるんだもんね」

「あーね。たつろーみたいな人がいないと、安心してゆっくり調査もできないのかぁ。

 なら、その薄れた痕跡を調べるのも難しいのかも」

「そういうわけだな。なんにしても、一度帰ってこのことを報告したほうがいいだろう。

 密猟者ではなく、なにかしら冒険者ギルド側が意図してやっていたってことも絶対にないわけじゃないんだし。

 最低限怪しいと思える奴らが行き来した精確な道順と去っていった方向だけ確かめて、ギルドに一度戻ろう」



 竜郎の意見に誰も異存はなく、その後、調査隊とは別の部隊が行き来していった場所、その方角に行った先にある町。

 それらを一通り確かめ終わると、竜郎たちは一度来た道を戻り、死の森から元の町へと帰還したのであった。

 もちろん、ちゃっかりとカポスの豆は必要な分だけ採取して。

次も木曜日更新予定です!

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