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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第330話 結果発表

 町の方から会場に戻ってくると、そこには選考に関わった面子だけでなく、芸術家たちや推薦した者たちも含め全員が揃っていた。


 身分の高い者たちばかりなのもあってか、ある意味主役であるはずの芸術家たちは、他の者たちより少し離れた後ろの方で並んでいる。

 自分が選ばれるに決まっていると自信満々な表情をしているものや、ひたすら天に祈りを捧げているもの。

 燃え尽きたように呆然としているもの、不安そうに胃のあたりを押さえているものがいたりと三者三様十人十色な様子で立っていた。


 その一方で芸術家たちを推薦した側のものたちは、その芸術家たちよりもヒリついた緊張感を漂わせている。



『なんで作品を作った本人たちより意気込んでるのかな? あの人たち』

『私は平民の出なのでよく分かりませんが、貴族たちからすれば、こういった世界的にも初めてで珍しい施設のデザインを、自分のお抱えの芸術家が担ったということが凄く栄誉な事なんだと思いますよ』

『自分がパトロンとなり目を付けた芸術家の活躍ってのは、自分の見る目の良さをアピールするにはうってつけだろうしな』

『それに大国カサピスティの王家肝いりの案件ってだけでも、箔は付くだろうしね♪』

『我からすると自分の力でないのに何故? と思ってしまうのだ』

『貴族からすれば、そういうのも自分の力なんだと思うぞ。ランスロット』

『そういうものか。よく分からぬのだ。しかし貴族以外も何やら緊張している者もいるが、アレはどういうことなのだ?』



 ランスロットが念話をしながら、視線でその一角を指し示す。

 そこには貴族たちではなく、ヘルダムド国のホルムズからやってきた職人協同組合の組合長とその補佐二人。

 この二人は下手をすればカサピスティの貴族たちよりも、緊張感をみなぎらせていた。



『そんなに自分の組合に所属する人が選ばれて欲しいのかな?』

『それをいうなら商会ギルド側も同じだと思うけどな』

『私としてはホルムズは故郷なので、一人くらいは選ばれたら嬉しいですけど……それにしても異様ですよね』



 などと念話で話している間に全員が集まっていることをスタッフが確認し終わり、結果発表の時がやってきた。

 痛いほど圧のこもった視線も平然と受け流し、堂々とウリエルが皆の前に歩いていき、会場の壇上に立つ。

 彼女は一呼吸置いてから、スルスルと結果が書かれた丸められた紙を伸ばし良くとおる美しい声を発した。



「これより選ばれた項目、作家名、作品名を読み上げていきます。

 これらは厳正な多数決により決まった物であり、一切の不正はなかったと、ここに断言いたします」



 ようは後から文句を言っても、聞く耳持たないからねという意味だ。

 とはいえ何重にも不正ができないよう対策をしたことも周知している。

 その上で後から不平をいうような連中は、そもそもこの場に呼ばれもしないだろう。

 身分も何も関係なく、誰しもがここでの結果に異議はないとウリエルに頷き返した。


 全体を見渡しそれを確認するとウリエルがいよいよ紙に書かれた項目を、上から順に読み上げていった。


 デザインが採用されることが確定した者たちは、自分の名前が出た瞬間に様々な反応を見せていく。

 当然だとばかりに頷くだけだったり、大声を上げて喜んだり、泣いてしまったり、口が開きっぱなしになったりなどなど……。


 そしてウリエルが一切の感情を込めずに放った「──以上です」の言葉を耳にした選ばれなかった者たちは、この世の終わりかのような表情で床に崩れ落ち立ち上がれなくなってしまう。



「「あう……?」」

「誰かが選ばれれば、その逆の立場の人だって絶対にいるからな。可哀そうだけど、そっとしておいてあげよう」



 そんな大人たちを心配そうに見つめる楓と菖蒲の優しさに、竜郎と愛衣はよしよしと彼女たちの頭を撫でて褒めた。



「心の友が出資している若者も選ばれたようだな。良かったではないか」

「正直まわりは第一線で活躍しているような芸術家ばかりだし、その卵たちじゃ一人も選ばれないかもしれない──とも思ってたんだけどな。

 たった一人とはいえ、凄いことだと思うよ」

「しかも花形のマスコットキャラだしね。ほんとに凄いよ」

「ですね。まさか私や姉さんが気に入った、あの可愛らしい作品が選ばれるとは思っていなかったですし」

「うぬぅ……、我はもう少しカッコイイ方が好みだったのだ」

「あはは♪ ランちゃんが不満を言ってどうするの。ウリ姉様に怒られちゃうぞ♪」

「それは勘弁なのだっ」



 竜郎たちが一番候補者を連れてきていたのだが、ただ一人を除き他は全滅で一作品も選ばれることはなかった。

 しかしその、たった一人だけが魔物園と遊園地共通のマスコットキャラクターのデザインを通してみせた。

 それは竜郎や愛衣が思い描くマスコットキャラクター像に一番近かった作品だ。

 二位と僅差で選ばれなかった、それよりリアルよりな作品があったのだが、グッズ化を展開していく予定という情報も持っていた商会ギルドも、そのデザインの秀逸でありながらシンプルであるという点に生産コストがチラつき、思わずそちらに票をいれたことで、この作品になったという経緯があった。



「あとはホルムズ側の芸術家たちも何人か選ばれていましたね。組合長たちも魂が抜けたみたいに、ホッとしていますよ」

「ほんとだな。まあ話を持ち掛けた俺たち側としても、喜んでくれたなら何よりだ」



 結果発表で会場が明暗に別れ盛り上がり盛り下がっているところで、パンパンとウリエルが手を叩いて静寂を取り戻させる。

 それからまとめと閉めの挨拶を述べ、ウリエルは結果の書かれた紙をリオンに渡し、自分の仕事は終わったと竜郎たちの元へと戻ってきた。



「ようやくデザインに関しても、まとまりましたね。主様」

「あとはそれを元に形を作っていけば、遊園地も魔物園もとりあえず完成ってことになりそうだな」

「全部を実現したら、どんな感じになるのか今から楽しみだなぁ」



 実際に形にしながら、デザインを出してきた芸術家たちと微調整をしていく必要はあるが、一番の問題であった殺風景な景色はこれで完全にさよならできる。

 そのことに竜郎たちが喜んでいると、町の運営を任されているリオンが簡単な打ち合わせを終えてから近寄って来るのが見えた。



「ふぅ……私のお抱えの芸術家は誰一人として選ばれなかったよ。父上のお抱えは選ばれたというのに……はあ…………」

「それはなんというか……残念だったな」

「本当にな。けどタツロウたちのところは、一人選ばれたんだろう? おめでとう」



 残念がってはいるが、そこでグチグチ言ったりせず素直におめでとうの言葉が言えるところが、次期王としての器というところか。

 竜郎もありがとうと返すと、リオンは思い出したかのように本題を切り出してくる。



「そうそう、そろそろアレを決めないといけないと思っていたんだ。私が決めるのもなんだし、そっちで決めてくれないか? タツロウ」

「ん? アレってなんだ?」

「それはもちろん、この町の名前だよ。

 いつまでもダンジョンの町──ではダメだろう?

 これで全ての全体像も見えただろうし、そろそろちゃんとしたものを決めてほしい」

「あー……確かにダンジョンの町って私たちはいっつも言ってたけど、ダンジョンだけの町ってわけでもないし、正式な名前があっても良いかもね。私も張り切っちゃうよ!」

「おお、そうだな! 名づけ名人なら、きっと素晴らしい名前が出てくるはずだ」

「えへへ、そうかなあ。そうだなぁ…………じゃあ──」



 シュワちゃんの中では、愛衣は名づけの名人ということになってしまっている。その期待に応えようと、愛衣が町の名前を提案しようとした。



「ちょっと待った。それは一旦、持ち帰って皆で決めよう」

「それもそっか、そうだよね。ここでポンって決めるようなものでもないし」



 このままではみょうちくりんな名前になってしまいそうな予感がし、竜郎がそれを止めた。

 この先もずっと残っていくであろう町の名前が、そんなに気軽に決められたのでは住んでくれる人にも悪いだろうと。



「じゃあ近いうちに決めて来る。それでいいか? リオン」

「ああ、それでいいよ。タツロウ」



 こうして竜郎たちの町は、また完成に一歩近づいた。




 ホルムズの職人たちが、竜郎たちの手がける事業のデザインをいくつか勝ち取った。

 その報告は職人協同組合の組合長により、まっさきにヘルダムドの王へと最速の方法で伝えられた。



「でかした!! さすがはホルムズの職人だ!! 私は信じていたぞ!!」



 結果を知ったヘルダムドの王は、大声を上げて椅子から立ち上がり喜びに打ち震える。



「我が国が誇る宝──ともいえる芸術家たちが、他国の一大事業に関わることになるのだ。

 ハウル王とて町ができた暁には、私を招待してもいいはずだろう。お前もそう思うな?」

「は、はい。もちろんです、陛下」

「ならば『町ができたら私を呼べよ』と、遠回しにハウル王に手紙を出すのだ。できるな?」

「承知いたしました」



 ハウルは一番この大陸で懇意にしているのはカサピスティ王国だと示したい──ということもあって、ヘルダムドの国王が竜郎たちに会おうとするのを水面下で妨害していた。

 その妨害工作にヘルダムド側も気が付いていたが、カサピスティの方が大国ということもあり後手に回り、なかなかその機会に恵まれなかった。

 しかしこれで、その突破口も見えたとヘルダムド国王ははしゃぐ。


 その顔は欲望まみれだが、別に彼は悪いことを考えているわけではない。

 ただ神の御使いであろう竜郎や愛衣という、最大級の選ばれし英雄とどうしても話がしたいだけ。同じ空間に一瞬だけでもいいから、立ってみたいだけ。

 だがこれまですれ違いや他国の妨害により、それすらも上手くできなかった。



「これでようやく…………握手はしてもらえるだろう。それに手形も貰えると、私のコレクションが……他にも何か………………。

 ふふ──ふははっ──ふはははっ!! 今から楽しみで仕方がないな!!

 よし、その選ばれた職人たちは人間国宝として称えよう!! すぐに手はずを整えろ!

 それと職人協同組合へ、私の私財から寄付金をだしておけ。いいな!」

「は──はっ!!」



 ようやく掴んだ好機。絶対に逃すものかと、ヘルダムドの国王は上機嫌でハウル王へ圧をかけるべく動き出したのだった。

次も木曜日更新予定です!

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[気になる点] 地獄の爆裂王、名前だけでキャラが立ってるな
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