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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第325話 イシュタルからの報告

 最近の大きな懸念事項でもあったアウフェバルグとの邂逅も、竜郎たち側の視点で見れば無事に終えることができた。

 本人はかなりしょぼくれてしまったが、それでも自暴自棄になって己を失うこともなかったのだから、十分に無事といってもいいだろう。


 あれから暴れ槍も前より心を開いてくれているようで、最近はなんだか調子がいいと蒼太も嬉しそうだ。

 というのも暴れ槍自身、ずっと抱えてきたアウフェバルグの想いを断ち切るという、主ができなかったことをやれた。

 そのことで機嫌がいいというのと、それを成すために蒼太の力を借りた恩義ができたというのが大きかったのだ。

 その点においては素直に、蒼太にも感謝の念を抱ける程度には。


 とにもかくにも、竜郎たちにとってはいい方向に進んでいったということで、いよいよ次の大イベントの気配が近づいてきていた。



「イシュタルも、もう直ぐ母親か」

「ふふっ、イシュタルちゃんの赤ちゃんって、どんな子になるんだろうね」

「ニーナの弟や妹たちみたいに可愛いよ! 絶対!」

「「あう!」」



 既にアウフェバルグの一件から数日が経ち、竜郎たちはいつも通り畜産に力を入れ、ダンジョンの町の件の報告を聞いたり、魔物園や遊園地のお世話やメンテナンスをこなしていた。

 ダンジョンの町の方はカサピスティ側が決めた選りすぐりの人員が移住し終わり、まだ活気にあふれているとまではいえないが、既に人々が行き交い町としての形を成してきていた。

 あとはダンジョンや食、遊びを目当てにやってくる、外部の人間を受け入れる準備を整えられれば、いよいよカサピスティ王国内に、正式に新たな町が樹立することになる。



「そういえば町といえば、魔物園とか遊園地、あとは地下鉄とかのデザインコンペの件ってどうなってるんだっけ?」

「そっちは参加者はもう確定したな。これ以上増えることはない。

 あとは実際に現地を見て、それぞれの感性で作品を出していってもらい、最後に平等に審査していくって感じになってる」



 未だに魔物園と遊園地は要所要所が殺風景なのは変わらないが、既にそのデザイン案を出す人員は竜郎たちが支援している若き芸術家の卵たち、ホルムズ側、カサピスティ側、商会ギルド側での選出が終わっていた。

 ホルムズ側は職人協同組合が、竜郎たちの希望に沿いそうな芸術家たちもと勧められた結果だ。


 だが人員が決まっても、やはり写真を見ただけでは無理があると、実際にどんな場所なのか実感してもらったほうがいいと竜郎たちやリオンたちは考えた。

 なので芸術家たちが納得のいく作品を提出できるよう、実際に中に入って見学できるよう手配をしてもらったりもしていた。


 今現在はそれぞれの側についている芸術家たちが全身全霊で頭を振り絞り、自分の作品を取り入れてもらえるよう考えている真っ最中。

 最初は得体のしれない施設のデザインと言われ、パトロンである貴族や商会の命令で仕事だからと引き受けていた者もいたが、今では選ばれた誰もが血眼になって必死にやっていた。


 その芸術家たちも気が付いたのだ。もしもここに自分の作品が一部分だけでも認められれば、それは自分の作品が後世にまで残り続け、末代まで語り草になるであろう大きなチャンスに違いないと。


 竜郎などは「さすが選ばれた人たちだけあって皆、熱心だな」と感心したりもしていたが、ここで野心を燃やせない者はそもそも、この場に来るための選考にすら名前が上がらなかっただろう。



「畜産業も順調に数を増やしたり、外に売ったりもできてるみたいだし、町の方もリオンたちのおかげで抜かりなく事が進んでる。

 だから俺たちの方は、このままいけば問題なく、願った通りになっていってくれるだろうな」

「ハウルさんたちが選んだ料理人の人たちも、美味しい魔物食材の研究に入ってるみたいだしね!

 どんな美味しい料理屋さんができるんだろ。今から楽しみだなぁ……」

「ニーナも楽しみ! 毎日お小遣い持って行っちゃうかも!」

「「うっうー! たのちみ!!」」



 楓と菖蒲も美味しい料理の話題だと理解し、両腕を上げて大はしゃぎする。



「まあ、イシュタルたちの方は、それどころじゃあないみたいだけどな」

「だねぇ……」



 竜郎たちの方は順風満帆。今からもう様々な分野の料理人たちが作り出す、フローラが作った物とはまた違う新しい料理に思いをはせられるくらい平和だった。


 けれどその一方で、イフィゲニア帝国側の上層部はピリピリしはじめ、かなり慌ただしそうだ。



「昨日お昼を食べに来たときも、イシュタルちゃん大変だってボヤいてたしね」

「エーゲリアお姉ちゃんも、しばらくニーナと遊べそうにないって悲しんでたよ」

「だろうな。イシュタルが卵を抱えている間は、実質エーゲリアさんが一時的に皇帝に戻されるようなもんなんだろうし」



 慌ただしい理由はもちろん、イシュタルの次の代の真竜の卵の創造。

 一度生み出してしまえば、生まれるまでイシュタルは卵に集中することになるので、それまでに自分がやっておかなければならないことや最低限の引継ぎなどを、通常業務と並行してあれやこれやとこなしていた。

 エーゲリアもこれもいい経験だと、下手に手伝ったりもしてくれないからと。


 そしてイシュタルが機能できない間は、エーゲリアが娘の代わりに舵を取る。

 あの帝国の上に立つのは真竜以外、絶対に許されないからだ。



「俺たちは真竜の卵ができたら、それに竜力をいれる手伝いをすればいいだけから、そっちも大変じゃないからな。

 イシュタルには、せめて食事くらいは楽しんでもらいたいよ、ほんとに」

「あはは……、本人も今は食事くらいしか楽しみがないってボヤいてたっけ」



 だがいざ生まれてからも、イシュタルは忙殺されることになるのが決まっていた。

 将来イシュタルの次に世界最大の竜の帝国をしょって立つ、皇女の誕生を国に知らせたり、お披露目の式典を開いたり──他にも子供が無事に生まれたことで、やらなければならないことが沢山でてくる。

 我が子という存在は楽しみではあるが、それらを考えると今から頭が重いイシュタルなのであった。



「やっぱりお祝いの品として、新しい美味しい魔物食材を手に入れたのは正解だったな」

「だねだね! それも二つも! これで少しでも力を付けてくれるといいなぁ」



 そちらの準備も既にイシュタルに加えエーゲリアの分も含め、渡す分は確保済み。

 竜郎の《無限アイテムフィールド》内で、きっちりと梱包され、いつでも渡す準備はできている。


 あとは本当にイシュタルたち側からのアクション待ち。

 向こうが動き出してくれれば、竜郎たちもいつでも協力できるよう手筈は整っていた。


 ──と、今まさにイシュタルのことを、その卵のことを考えていると、その本人から念話が入ってきた。



『ちょっと今いいか?』

『うん、いいよ。どったの? イシュタルちゃん。もうお腹すいちゃった?』

『私を母上のように言うんじゃない。ようやくこっちの調整が終わったから、その報告をと思ってな』

『ってことは、ついにやるってことか?』

『ああ、そうだ。既に母上にも、島から出て城に入ってもらっている。

 あとは三日ほど完全な休みをとって体を十分に休めてから、私の調子がより万全なときを見極め真竜の卵の創造に入ろうと思う』



 最近は忙殺されていてストレスが溜まっていたというのもあるが、やはり次代の真竜を生み出すというのは、帝国にとっても、エーゲリアにとっても、神々にとっても重要なこと。

 イシュタルも竜の中でも特に頑丈な真竜ではあるが、どんなささいな影響も及ばせまいと、エーゲリアがイシュタルに休みをとるよう告げたのだ。



『体調が万全な時ってことは、具体的な日時は決めないってことか?』

『ああ、真竜といえど多少は、その日によって力にムラもあるからな』

『けどもう、いよいよってのは本当なんだよね? イシュタルちゃん、頑張って!!』

『ありがとう、アイ』

『がんばって! ニーナも応援してるよ!』

『ああ、ニーナもありがとう』

『英気を養えるように、イシュタルの元気が出そうな食材も大量に用意してるからな』

『それは本当に助かる。いざ創造してしまえば、後はもうほとんど城に引きこもるしかなくなるからな。ありがとう、タツロウ』



 こうしていよいよイシュタルによる、この世界で四体目の真竜が生まれるという一大イベントまでの期日が、本格的に近づいてきたを竜郎たちも知った。

 念話で二、三、竜郎たちの協力の件も軽く触れ、またそのときになったら連絡を入れると約束を貰い、イシュタルとの会話が終わる。



「なんか私まで緊張してきちゃった」

「俺もだ。俺たちのことってわけじゃないのにな」



 竜郎と愛衣もこう言っているが、それは神々も同じことであった。

 なぜなら今までのエーゲリアやイシュタルが生まれたときとは、決定的に違う点があったから。


 その二人のときは、竜郎たちという極めて特異な存在はいなかった。

 今まではイフィゲニア帝国と比べられるほどの、一大勢力はなかったのだ。

 そんな力を半分とはいえ注がれて生まれてくる真竜とは、いったいどれほどのものとなるのか。

 新たな真竜の誕生に、この世界を管理している神々の注目も一心に集まっていた。

次も木曜日更新予定です!

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