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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第321話 アウフェバルグ到来

 美味しい魔物を二種も増やすことに成功し、その後はアウフェバルグとの約束の期日──21日の生属性の日が来るまで、竜水晶製の大網の様子を確認しつつ日夜畜産業に勤しんだ。



「なんだかんだで一週間なんて、あっという間だったな」

「だねぇ。ソータ君、大丈夫そう?」

「アア、コレクライデ オクシテシマエバ、オレハ コノヤリニ ミステラレテシマウ」



 そして来たる当日。三メートルサイズまで縮小した状態で暴れ槍を手に持ち、蒼太は堂々とした態度で、以前使者を迎え入れた砂浜に立っていた。


 彼らの神にも等しいアルムフェイルの槍を賜ったのだから、蒼太もそれに相応しい人物であらねばならないと思ったのだろう。

 最近はいつも修行のために疲れている姿ばかりが印象的だったが、今日ばかりはキリリとして勇ましい姿を見せてくれている。



『出掛け際にニーナちゃんに、カッコいいね! って言われたのもきいてるのかも』

『まあ……それはあるだろうな。俺も愛衣にそんなこと言われたら、嬉しいしい』

『ふふっ、たつろーはいっつもカッコいいよ』

『ありがとう。愛衣も、いつだって可愛いよ』

『ありがと、私も嬉しいな』

「「あう?」」



 念話で密かにイチャイチャし、視線を合わせて微笑み合う竜郎と愛衣に、砂遊びをしていた楓と菖蒲は「何してんだろ?」と不思議そうにしている。


 ちなみに出掛け際というのは、今日はニーナには遠くに行ってもらっていたから。

 以前に使者として来た緑深家の分家の家長──サロンスト。彼よりも更にアルムフェイルに近しい直系筋の、それも神格を得られるほど優秀な龍が来る。

 となれば少し離れた程度では、ニーナという唯一空席の九星家の長に相応しい──白天の座を継いだ存在がいると気づかれかねない。

 そんな考えの元、今回ニーナにはエーゲリアに連れられ、エーゲリア島にまで行ってもらっていた。


 その別れ際、竜郎たちが見送りしている最中に、いつも以上に胸を張って堂々としている蒼太の姿をみて、ニーナは無邪気に彼を「今日はカッコいいね!」と他意は一切なく純粋に褒めたのだ。

 おかげで蒼太はさらにキリッと格好をつけて張り切って、アウフェバルグにも負けない威厳に満ち溢れた龍としての姿を見せつけていた。


 相手になめられるよりはいいだろうと、竜郎と愛衣もあえて何も言わず温かく見守っている。

 そして竜郎も槍を受け取った蒼太の主として恥ずかしくないよう、カルディナと融合して翼を生やし、存在を竜として待ち構えていた。



『来たようです。その力から見て、アウフェバルグ氏で間違いないかと』

『分かった、ありがとう』



 海から件の竜たちが来たことを、ミネルヴァによって念話で伝えられる。



「いよいよ来るってさ」

「どんな人なんだろ。アウフェバルグさんって」

「まあどんな人だろうと、あのエルチャー?だっけか? アイツらよりはマシだろ」

「イシュタルちゃんの話だと、かなり堅物っていうか、真面目な人らしいしね」



 ある意味では盛大に失礼をかました前科者がいてくれたおかげで、竜郎たちの印象のハードルはかなり低くなっていた。

 最初があれだっただけに、礼節をもって接してくれたサロンストたちへの印象も相対的に三割くらいは増しているほどに。

 その一点においてだけは、星九家の者たちにとっては良かったのかもしれない。



「アレガ、アウフェバルグ ドノカ」

「あの中じゃ神格を持っているのは一人しかいないし、間違いないだろうな」

「お~大分ちっこくなってくれてるけど、確かにアルムフェイルさんにめっちゃ似てるかも」

「ソレニ ケハイモ、カナリ ニテイル」



 肉眼で確認できる範囲にまでやってきて、その様子がはっきりと竜郎たちにも見えてくる。


 今回は緑深本家による正式な面会というていを取っているので、使者だけの時よりもさらに人数も多く物々しい。


 まず先頭には五体の上級竜が深緑色の旗を構え、中央を守るように両脇にさらに六体ずつ上級竜と上級龍が配置されている。

 後ろにももちろん五体の旗を持った竜がいた。

 そして中央には◇型にサロンストを含めた四体の緑深ゆかりの龍たちが並び、彼らのど真ん中にアウフェバルグが──と一番アルムフェイルによく似た気配と姿を持つ神格龍が堂々とこちらにやってきている。


 アウフェバルグとしても、槍を授かれなかった悔しさが強く強く心に圧し掛かっていれど、それを滲ませることはない。

 それどころか槍を授かれなかったとしても、の御方の直系として相応しい人物だと見せつけるために、その気配を微塵も隠すことなくこちらにその存在感を訴えかけてきていた。



『正直あの辺で養殖しているララネストに影響が出るかもしれないから、もう少し抑えてくれると嬉しいんだけどなぁ』

『まあまあ、向こうにも面子ってやつもあるんだろうし、今回は仕方ないよ。

 この程度の人が、あのアルムフェイルさんの子孫さん? なんて思われたくは、絶対にないんだろうしさ』

『だな』



 念話でそんな会話をしている間に、先頭にいた旗持ちの五体が辿り着き、砂浜の上で頭を下げ、アウフェバルグ一行だという旨と、出迎えや受け入れてくれたことへの感謝の口上を述べる。

 そうして竜郎たちの許しを得てから脇にはけていき、押し出されるように中央にいるアウフェバルグたちが前に出てきた。


 竜郎たちはよく分かっていないが、それは彼らにとって最上級の礼を持った対応。

 竜王たちにも匹敵する家格を持つ緑深本家の、それも神格を得たアウフェバルグの一行が、ここまで礼を尽くすことなど真竜とその直属の眷属たちくらいにしかあり得ない。


 見知ったサロンストが一度前に出て竜郎たちに頭を下げ、優雅に後ろに下がって他三体と一緒に控えると、ようやく本丸が最前に現れた。



「お初にお目にかかる。私の名はアウフェバルグ。

 此度は私の我がままを受け入れ、こうして面会の場を用意してくれたことに、感謝の意を伝えたい」



 さすがに竜郎たちの立場がよく分からないというのもあって、彼も立場上敬語だけは避けていたが、軽く見ている様子は微塵もない。

 どころか予想以上に強い気配を持つ竜郎に驚き、自分の隠しもしない気配に恐れることなく自然体で純粋な眼差しを向けてくる幼女2人にまた驚き、内心では「いったいなんなんだ、ここの者たちは……」と唖然としていた。

 もちろん、それを表に出すほど彼は若くないので、態度だけは堂々としていたが。



「こちらこそ、お会いできて光栄です。アウフェバルグさん。

 僕の名前はタツロウです。我々は、あなた方を歓迎します」

「ありがとう、タツロウ殿」



 直接その声を聴いて余計に、絶対に竜郎には勝てそうにないと実感し、武人としての悔しさを味わいながら、それでも表面上はそのままに礼を述べた。



「それでこっちは──」



 そのまま竜郎はその場のメンバーを順番に紹介していく。愛衣もそうだしやはり楓と菖蒲の異質さが気になってはいるようだが、さすがにこの世に生まれなかった竜王種にまで気づけはしないので問題はなかった。

 それになにより、今回はその幼い人竜の子を見に来たのではないのだから。



「そしてこっちの龍が──」

「ナヲ ソータ トイウ。コノ ヤリヲ ウケツイダ モノダ」

「──そうか、貴殿がソータ殿か」



 アウフェバルグも見たことがある、彼が最も尊敬するアルムフェイルの槍に拒絶されることなく、その手に掲げてみせる蒼太に力強い視線を向けた。

 蒼太もここで目をそらすことは、譲り受けたものとしてあってはならないと、同じように気配を周囲に解き放ちながら受けてたつ。


 並みの竜では気絶するほどの神格龍同士の気迫のぶつけ合いに、控えている上級竜たちの中でも苦しそうにするものまで出てくる始末。

 だがそんな中でも、そのやりとりを面白そうにキャッキャと見つめて喜ぶ楓と菖蒲は、緑深家側の面々には余計に異様に思えた。

 蒼太の主である竜郎の元にいる者たちは、たとえ幼子であろうと恐ろしい存在なのだと身に染みて伝わる程度には。



「なるほど……確かに、槍をあの御方から直接譲り受けるだけのことはある。

 まさかこの世界に、これほどの龍が名を知られることなく潜んでいたとは……驚きだ。

 しかもその若さで、その強さ。余程の修羅場をくぐってきた猛者であると察してあまりある。

 私が貴殿ほどの年かさのころは、まだ神格も得られず、その強さには到底及ばぬものだったというのに……。

 槍を授けていただけなかったのは、己の不甲斐なさ故にと実感するばかりだ」

「いやぁ……、それはどうでしょうね」



 蒼太はかなり特殊な例だ。竜郎たちと一緒にいたおかげで、神々から依怙贔屓えこひいきされていると言えなくもないのだから。

 修羅場は確かにくぐっているが、だからといって恵まれた産まれといえど、それと普通の環境で神格を得たアウフェバルグと比べるというのも違うだろう。


 だが竜郎のその発言は、ただ自分に気を使って言ってくれたのだろうとアウフェバルグは判断し、余計に恥ずかしい思いを抱えながら体から力を抜いて首を振った。



「いや、これはもう私の完敗だ。自分で言うのもなんだが、生まれ持った資質はソータ殿より私の方が上のはずなのだ。

 それなのにこの結果だというのだから、言い訳のしようもない。

 その宝具を賜れなかったことへの悔しさはぬぐえはしないが、それでもこれだけ若く、私よりもずっと有望な者が受け継ぐというのなら、諦めもつこうというもの……。

 より相応しい者がいるのなら、家や位など関係なく、より相応しい者へ。それが自然の流れだろう。

 さすがはアルムフェイル様。どれだけ歳を重ねようと、その慧眼は衰えることを知らないのだな。

 私もそのお力に少しでも近づけるよう、これからも日々努力していこうと思う。そもそもアルムフェイル様は──」

「は、はあ……」



 竜郎たちが何かをいう隙も与えず、勝手に納得してくれたかと思えば、今度はいかにアルムフェイルという存在が素晴らしいのか語りだす。

 邪険に扱うわけにもいかないので、とりあえず相槌はうっているが、正直もういいよと止めてやりたい気分になる程度には長々と。



『あはは……お付きの人たちも似た者みたいだし……、これはもう諦めて最後まで聞こっか』

『なんか、お付きの人らも目をキラキラさせてるしな……。それに──』

「ムゥ──ソンナコトガ!」

「そうなのだ! ソータ殿。それでだな、アルムフェイル様は──」

「「うっうー!!」

「おおっ、小さいというのに、その凄さが伝わるか! さすがアルムフェイル様だ!!」」

『蒼太も楓も菖蒲も興味津々なようだし、なにか槍を扱うヒントにもなるかもしれないし、直系の子孫が語るアルムフェイルさんの英雄譚を聞かせてもらうとするかぁ……』

『だね。でも意外とお話としては面白くはあるかも』

『それは確かに──』



 結局そのまま竜郎たちは実に三時間にも渡るアルムフェイル英雄譚をずっと聞くはめになり、話を聞くのに疲れた楓と菖蒲は最終的に寝てしまう。

 それを好機とみて竜郎が「この子たちも続きが聞きたいだろうし、今回のところはもうそのへんで!」と止めることで、ようやく区切りをつけてくれたのだった



「う、うむ……それもそうか。ようやく序盤の話が済んだところなのだが、残念だ。ここからだというのに……」

(まだ序盤だったのかよっ!)

明けましておめでとうございます!前回はお休みしてしまい申し訳ないです!

次からはこれまで通り、木曜日更新ができると思います!

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