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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第319話 二種の同時試食

 イモ系といいながらトウモロコシのような見た目をした美味しい魔物──ソラヌムから、まずは食べていくことにする。

 最初はいつものように素材の味をそのままにということで、生でいってみることに。


 まだ環境による変化は起きていないので、今回食べるのはありままの原種。

 無理やり変えることもできなくもなさそうだったが、やはり自然に変わった方が美味しそうだからと、今回は一種だけにしておいた。

 スティック状に竜郎が適当に切ったソラヌムを一本摘まんで、口の中へとそれぞれ放り込んでいく。



「んーっ!」



 食感はシャキシャキと歯ごたえがある、まさに生のイモといったものだった。

 生なので薄味なのではと少し思っていたところもあったのだが、そこはさすが美味しい魔物というべきか。

 火も通さず塩も振らず、ただそのままでも噛めば噛むほど上品なイモの香りと甘みが口の中一杯に広がっていく。

 味はジャガイモが一番近そうだが、それとも違った独自の旨味のようなものも感じられる。

 ガツンと特大の一撃を──いうよりは、ジワジワと包み込んでいくような味わい深さのある一品だ。



「「うままっ! うまうまっ」」

「「フィィリッ!?」」



 楓と菖蒲は一心不乱に、皿の上のイモスティックを手でつかんでモシャモシャと食べていく。

 いつもはのんびりとしているフォルテとアルスも、この時ばかりは機敏な反応を見せ尻尾を器用に扱いパクパクと口の中へ。



「ムシャムシャムシャ──」



 そしてニーナはお預けを食らっていたこともあってか、本気の戦場に挑むかのような鋭い視線と覇気をまき散らしながら、モシャモシャと口の中へと放り込み続けていた。

 楓たちやフォルテたちが竜王種の子でなければ、美味しい魔物食材を前にしても恐がって逃げてしまっていたであろうほどの剣幕だ。


 その一方で竜郎と愛衣は一本一本丁寧に、味わう様にいただいていった。



「けっこう切ったはずなのに、もう無くなったな……」

「パパ! おかわり!!」

「まあ待て待て、落ち着くんだニーナ。イモは無限の可能性があるから、味わうのが生だけじゃもったいない」

「今度はどんな風に食べるつもりなの? たつろー」

「イモと言えば茹では、欠かせないだろう」



 というわけで竜郎は巨大な鍋を取り出し、大きめに切ったスラヌスの塊を放り込み、魔法で一気に水を注いで煮立てていった。

 解魔法で火の通りを確認している間も、先ほどまで口の中に広がっていたソラヌムの香りが周囲に漂い生唾が口内に溜まっていく。



「よし、こんなもんかな」

「ニーナ、もう待ちきれないよ!」

「はいはい。ニーナちゃんには、この一番おっきなのをあげよう」

「わーい! ママ大好き!」

「かーでも!」「あーめも!」「「フィリリリーー!」」

「分かってるよ。順番にな、順番に」



 荒ぶるニーナたちを鎮めながら竜郎と愛衣で、それぞれにホクホクに煮立ったソラヌムを分けていった。

 今回も調味料の類は一切用いておらず、本当にただ火が通るまで茹でただけの、素材そのままの味でいただいていく。



「んんっ!」



 口の中に入れた瞬間、ホクホクとした食感のソラヌムが崩れて舌の上に広がっていく。

 ただ茹でただけだというのに生のときと趣がガラリと変わり、ギュッと濃厚になったイモの香りと味が一気に押し寄せてきた。

 先の奥ゆかしさは吹き飛び、優しい味わいなのにガツッとくる美味しさだ。


 火傷などする繊細な者は誰もいないので、熱々なのに気にすることなくモリモリ平らげていってしまった。



「これ凄いね。私は生よりこっちの方が好きかも」

「ニーナも!」

「「フィリリリィ」」

「フォルテとアルスは、生の方がいいみたいだな。

 俺はどちらかといえば、茹でたほうが好きなんだが」

「「うっうー!」」



 フォルテとアルスも美味しかったようだが、どちらかを選べと言われれば彼らは生の方がよかったようだ。

 植物系の種族というのも関係があったりするのだろうかと思いつつ、竜郎はソラヌムのもう一つの調理法──揚げの準備にとりかかっていった。



「フライドポテトだ!」

「フライドポテトというか……まあ、ただの素揚げなんだけどな」



 加熱した油の入った大きなフライパンに、手ごろなサイズに切ったソラヌムをゴロゴロと投入し揚げていく。

 パチパチと耳に心地よい音を聞きながら、皆でソワソワ待ちながらカリカリになるまで待つ。



「よし、これくらいでいいはずだ」



 解魔法で揚げ具合も完璧に確認していたので、焦げることもなくしっかりと全部が揚げ終わった。

 高級の部類に入るいい油を使ってはいるが、今回は美味しい魔物由来のものではない、普通にこちらで市販されているものを使用。


 油を吸ったキッチンペーパーの上に乗せられた、湯気が上がる素揚げにされたソラヌムを、何もつけずに皆が同時に口の中へ。



「んっ!?」



 カリッとした表面の奥にあるホクホクとした食感。特に何か味付けしたわけでもないのに、ハッキリとした旨味が舌の上に広がっていく。

 湯でたときにはまだあった、あの優しい味わいは完全に消え去り、さらに味が濃くジャンキーな、子供が特に好きそうな味に変化していた。



「「うままままままーーーーー!!!」」



 これには楓と菖蒲も大興奮。今までの中で一番のリアクションを見せながら、目をキラキラと輝かせ頬張っていく。

 揚げたての熱も関係なくハムスターのように頬を一杯に膨らませ、モシャモシャとその小さな体のどこに入っているのかと言いたくなるほど次々に。


 ニーナも一番分かりやすい美味しさに、ニコニコだ。



「「フィリリリリィイイー」」



 だがその一方で、美味しいことは間違いないが、これは邪道ではないかと生食派のフォルテとアルスは唸りながら、それでもモグモグと自分たちの分はしっかりと食べていた。



「フォルテたちみたいに植物系の種族の人たちは──モグモグ、普通に生で食べたほうがいいのかもな──モグモグ」

「そういう人にはサラダとかにして──モグモグ、食べてもらうのが──モグモグ、一番なのかもね──モグモグ。

 このお芋、おいしぃ~~♪」



 竜郎と愛衣も病みつきなる揚げソラヌムに魅了されながら、最後まで何も付けずにそのままの味を楽しんでいった。



「よし、ひとまずソラヌムの試食はここまでにしておくか。

 後はフローラみたいに料理がちゃんとできる人が、もっと美味しくしてくれるのを楽しみに待つとしよう」

「だね! ニーナ今からもうワクワクが止まらないよ!」

「あははっ、私も楽しみ。にしても素人が適当に手を加えただけでこのレベルなんだから、ほんと美味しい魔物食材って凄いよね。

 生でも、ちゃんと美味しいんだもん」

「まあ逆に言えば生だったり、ちょっと手を加えるだけでこんなにも味わいが変わる魅力があったからこそ、絶滅してしまったんだろうけどな」

「美味しすぎるのも考えものだねぇ。それじゃあ最後に──」

「ああ、食後のデザートといこう」

「「あうあう!!」」「「フィリリリーー!」」



 ちびっ子たちから待ってました言わんばかりの声援を貰いながら、竜郎は皆の分だけブドウ系の魔物──『ウーリァ』の鮮やかな黄緑色の果実の集合体を取り出していく。



「想像より表面は硬いんだよな」

「ほんとだ。見た目は柔らかそうなのに不思議だね」



 中は柔らかそうな果実が詰まっているが、その表面は爪で軽く叩けばカツカツと音が鳴る程に硬かった。

 そんな一粒一粒が地球のブドウとは比べ物にならない、ミカンほどもある巨大な実が結集してできた球体を崩していき、差し出される手の上に竜郎が乗せていく。



「ん、ありがと」

「……いつの間に」

「甘いものへの嗅覚はやっぱり半端ないねぇ……」



 いつの間にか差し出されていた手の数が増えており、ちゃっかりとヘスティアもその果実を受け取っていた。

 まずは今回素材探しに行ったメンバーでの試食会という運びだったのだが、ここで「お前は違うだろ」などとケチ臭いことを言う者もいない。

 竜郎と愛衣は苦笑しながら、しょうがないなぁと彼女もそのまま受け入れた。



「それじゃあ、食べていくぞ。せーの────っ!!!」

「んん………………っ」



 ガリッと硬い皮を歯で破れば、甘酸っぱいマスカット系の味がする果汁が口の中に流れ込んでくる。

 そのまま果汁を飲み込みながら果実にかじりついていけば、クラクラするほど濃厚で甘く、酸味のある味が一気に駆け抜けていく。


 さらに皮。こちらはブドウと思っていれば苦いものというイメージがあったのだが、そんなことは全くなく、むしろ逆。

 砂糖でコーティングした飴のようにどこまでも甘く、果実の酸味と混ざって絶妙にその味を引き立ててくれていた。


 これには甘いものが何よりも大好きなヘスティアも耐え切れず、普段は見せないようなだらしのない顔で、うっとりとその味に浸っていた。



「これを食べちゃったら、もう地球のブドウが食べられないかも……」

「充分そっちのだって美味しかったんだけどな。もうそういうのも超越してる…………ズルすぎるだろ、これは……」



 マスカット系統の味なのは確かなのだが、何をどうしてこうなったのか理解できないほど、その美味しさは筆舌に尽くしがたいほど突き抜けていた。



「こんなに甘いなら、皮だけ加工して砂糖みたいなのも作れるんじゃない?」

「ん、アイちゃん、それ採用」

「いや勝手に決めるなよ……、ヘスティア。

 でもまあ、それも良いかもしれないな。この皮だけだと甘すぎるほど甘いし」

「んぅ……、私はこの皮だけでもいける」

「あはは……、さすがに私も皮だけじゃきついかなぁ」



 果実も最高だが皮の部分も相当なもので、大量にそれだけを口にすれば甘すぎるが、ちゃんと量を守って食べれば最上級の砂糖にすら勝てそうなポテンシャルは持っていた。


 まさかこの果物から砂糖の代替品まで作れそうとは思っておらず、多種多様な形に変化するイモ系のソラヌムと共に、このウーリァの秘めたポテンシャルの高さに竜郎もまた面白くなってきたなと、新たに加わった食材の量産を急ピッチで進めていくことを心に誓った。

次も木曜更新予定です!

ですが年末年始辺りの私の予定がなかなかに忙しそうで、もしかすると急な休みや予告なく投稿日の変更が行われる可能性もあるかもしれません。

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