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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第312話 スパッド討伐報告

 なにやらやっていたようだが、自分たちの畑やその近辺で戦闘が行われた様子も、スパッドが出てきた気配も痕跡もなく、どうなっているのだろうと不思議がっていたスミス一家に、まず最初に終わったことを伝えていく。



「え? ほんとにもう終わったのか? 特に何かしてたようにも見えなかったんだが」

「ほんとにねぇ。気づいたらもう空き地の方に行ってしまってたし」

「事前に説明していた通り、教えてもらった空き地に魔法でおびき出して、そこで全滅させたんです」

「そんなことできるのねぇ。なら今までの人たちも、そうしてくれればよかったのに」

「そうだなぁ。酷いときは討伐でとんでもねぇ被害が、作物に出たところだってあったってのに」

「いや、それは難しいと思うよ。たつろーだから、できたことなんだから」



 さすがに神格まで得ている竜郎と他の一般冒険者たちを比べてしまうのは気の毒すぎる。これを基準に批判されてしまうのは可哀そうだと、愛衣がちゃんとフォローをいれておく。


 実際におびき出す手段があろうと、全てを根絶やしするとなれば強制的に孵化させる方法も必要。

 そこまでできても大量に地中に埋まっていた物体が消えるのだから、何もしなければ地面が広範囲でへこむ。

 竜郎は無理やり魔法で補強していたので、地上に影響がなかっただけなのだ。素人が下手にやれば、別の二次災害に繋がる可能性もある。

 そんなこともあって、この方法は特別だとしっかりと彼らにも理解してもらう。



「ってことは、やっぱすげー冒険者だったってことか。なんだか、そのままの料金じゃ悪い気がするな」

「気にしないでください。それでいちおう、証拠はお見せしておきますね。あの辺でいいですか?」

「ん? 別に疑ってなんていないからいいんだが、見せてくれるっていうなら見てみようか。畑の外で物が置いてないとこならどこでもいいぞ」

「分かりました」

「「「「──っ!?」」」」



 証拠にもなるからと、綺麗に殺して素材として回収した数百体のスパッドの死体の山が溢れ出す。

 多くても3、40体ほどを想像していた家族4人は、目の前の光景に言葉もなく呆然と立ち尽くす。



「この辺りにいるスパッドは地中にあった卵ごと全て始末したので、おそらく外から誰かが持ち込んだりしない限り、来年からこの辺りで出てくることもないはずです」

「へ、へぇ~それはありが………………ぇえっ!? なんっ──なんだって!? それはホントか!? ハサミさん!」

「ええ、保証します。もしそれで出てくるようなら、冒険者ギルド伝手に僕らを呼んでください。

 期待させるようなことを言ったのだから、もし違った場合は必ず責任を持って無料で直ぐ駆け付け、スパッド討伐を請け負いますから」

「それほど言い切れるのか……。あの~、もしかしてハサミさんたちは高ランクの冒険者だったりするんですか? やっぱり」



 高ランクともなれば、同じ依頼でも依頼料を上乗せされても文句は言えない実力者だ。

 もしそうならばもう少し色を付けてもいい。また、今後出てこないというのなら周辺の農家たちと出し合って、報酬額を引き上げるべきなのではという気持ちまで湧いてきてしまう。

 そういうところで開き直れないところも、この家族の性根の良さが現れていた。



「そこそこやる冒険者くらいに思ってくれればいいですよ。変に気を使わないでください」

「そうか? そう言うなら気にしないけどよ。……けど、そうか。もう毎年毎年スパッドの心配をする必要もなくなったのか……そうか…………」



 ここで農家を営んでいる者が、ずっと頭を悩ませ続けてきた大きな問題がスパッドだった。

 それ以外は土壌から天候まで、作物を育てるのに最高の土地だというのにだ。


 だがもう次からは、翌年からはどこの畑だ、来年もまた食い散らかされるのか。いつ冒険者が駆除してくれるのか、その費用や被害額も考えて貯蓄しなければ──などという不安から今後解放される。

 今はまだ実感も少ないが、この死骸の山を見させられれば信じるしかない。

 目に見えない重りが突如消え去ったかのような開放感がジワジワと湧き上がり、スミス夫婦の目じりに涙が浮かんできた。



「あり……ありがとうっ、ハサミさん。またうちの野菜が食いたくなったら、いつでも来てくれな!」

「ええ、そのときは是非」

「絶対来てよ! いつでも歓迎するからね!」

「うん、そのときはよろしくね!」



 竜郎たちはそう言ってスパッドをキレイさっぱり回収し直すと、冒険者ギルドにも寄らなければいけないと、もっと礼を言わせてくれと言わんばかりに引き留めようとする一家から離れていく。

 スパッドから解放されたスミス一家はどこまでも晴れやかで、竜郎たちが見えなくなるまでいつまでも手を振ってくれた。



「こういうのも悪くないね。やっぱり感謝されるのは嬉しいや」

「そうだな。もとは自分たちのためだったとはいえ、あれだけ喜んでくれる人がいるってのは、こっちも嬉しくなってくる」

「これもフォルテとアルスのおかげだね! 凄かったよ! 二人とも」

「そうだな。ありがとう」

「ありがとね」

「「フィリリリ~~♪」」



 姉や父や母から褒められ、フォルテもアルスも珍しくテンション高めに上機嫌に鳴く。

 楓と菖蒲も「私たちも手伝ったよ!」と主張してくるので、そちらもちゃんと褒めながら冒険者ギルドに辿り着いた。


 いつからか分からないが、ずっと入り口で待機していたらしきガタイのいい壮年の男性──ここのギルド長だという人物に挨拶をされ、そのまま奥の部屋に通され事の顛末をここでも伝えていく。



「そんなに大量のスパッドが、ここには眠っていたのですね……。

 毎年出てこなくなるまで狩っているというのに、どうりでいなくならないわけですよ」

「ですがもう、次に出てくることはないはずです。けれどもし、それでも出てきたときは先ほど言ったように──」

「カサピスティにある冒険者ギルドに連絡を取ればいいのですね。

 分かりました。しかし、よろしいのですか? あなた方も他の事業に手を出していると噂で聞いておりますし、お忙しいのでは?

 私はこの町を愛していますが、他人から見ればただの辺境の畑のためでしかないのです。それなのに、わざわざお呼びだてするのも何だか……」

「ここまで根絶やしにしてもまだ出てくるようなら、逆にその原因も知りたいですからね。遠慮なく呼び出してください」

「……そうですか。いやぁ、世界最高ランクの冒険者にそう言っていただけると、心強いです。

 今回は本当に、ありがとうございました。我々も教えていただいた情報をしっかりと記録し、今後の活動に役立てていこうと思います」

「その情報が役立つのなら、こちらも嬉しいです。では報酬もいただきましたし、僕らはこれでお暇を──」

「ああ、待ってください! これほどのことをしてくれたのですから、町長にも知らせたり、国にだって──」



 なんだかこのままここにいれば、どんどんとお偉いさんの挨拶を受ける羽目になりそうだと察した竜郎は、笑顔できっぱり断ってギルドを後にし、とっとと町から出て行った。



「ふぅ……、これで大丈夫だろう」

「だね。堅苦しいのは私も嫌だし、ちびちゃんたちも退屈だろうし。

 でもこれでスパッドの素材は手に入れられたし、お野菜の魔物復活に大きく近づいたってことでいいんだよね?」

「そうだな。ないとかなり面倒な手順になっていただろうし、これでほぼ確実に復活までの道ができたと思っていい」

「やったー! ニーナ楽しみ!」

「「かーでも!」「あーめも!」

「「フィリリリー♪」」



 まだ復活してもいないのに、ニーナもちびっ子たちも大興奮だ。竜郎も楽しみではあるが、その有様に思わず苦笑がこぼれてしまう。



「とはいえ、まだ必要な細々とした素材も集めなくちゃいけないんだけどな」

「次は、その細かいのを集めてく感じ?」

「いや、どうせなら一番重要な素材を集めきれそうなら集めておこう。

 その方が精神的にも楽だしな。面倒なのから、先に片づけたい」

「それもそっか」

「じゃあ次は、どこに行けばいいの? パパ」

「次は温暖な海域にいるウーウって言われてる魔物が必要になる。だからあっちに向かって飛んでほしい」

「え? 次って果物の魔物の素材になるんだよね? 海の中にいる魔物なの?」



 魚介系ならばわかるが、なぜ海に果物が? と愛衣もニーナも首を傾げる。



「大丈夫、新しい美味しい果物の魔物の素材で合ってる。

 とりあえず、それを見てみればどんな果物か分かるよ」

「むぅ、気になるけどそうだね。楽しみは後に取っておこっか。じゃあニーナちゃん! お願い!」

「任せて!」

「「うっうー!」」「「フィリィイ~~」」



 事前に聞いてしまうより、直接見て判明したほうが面白いかと愛衣たちも納得し、竜郎たちは次の美味しい魔物の復活に必要な魔物──『ウーウ』を求めてスパッドのいた町の上空から飛び去ったのだった。

次も木曜日更新予定です!

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