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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第307話 イシュタルからの報告

 ネオスを受け入れた翌日。

 昨日は夜食の際に「ぼくがこんなに美味しいものを食べてもいいんですか!? しかも毎日!? なんでですか!?」などと不可思議な騒がれ方をされはしたものの、おおむね順調に経過した。

 ミネルヴァの報告を聞く限りでも彼は頭がよく、一度話したことは全て覚え、何も言われずとも自分でどうやれば効率的に仕事をこなせるのか考えだせる柔軟性も持ち合わせている、とても優秀な人物だと評価していた。

 この分なら自分の趣味でもある情報収集にもっと集中できそうだと、ミネルヴァが笑みを浮かべるほどに。


 そして今、竜郎たちは美味しい魔物の畜産に勤しんでおり、順調にその数を増やし続けていた。



『今日はこれくらいだったが、この調子なら大丈夫そうか?』

『はい。このペースなら町が本格的に開放されても、十分な供給が見込めるはずです』



 エーゲリアを受け入れたときのためというのもあるが、町が完全に開放されれば美味しい魔物食材もより必要になってくる。

 竜郎たちの目指す町は全てのレベルが揃い、死ぬこともない特殊なダンジョンという目玉要素がある。

 しかし自分たちの野望……というより欲望である食道楽の町も目指しているのだから、食材の供給を怠るわけにはいかない。

 様々な才能を持つ料理人たちの元で、いろいろな形として出てきてくれることを竜郎を含め仲間たちも皆、願っているのだ。

 そのとき──町が開放される近い未来の事も想定に入れて、今の内から竜郎は頑張っていた。


 ウリエルに報告をし確認もとったところで、今日もノルマをこなしたぞと背筋をグッと伸ばしていると……来訪者からアイへ連絡が入る。



「イシュタルちゃんが、私たちに話があるって。今、食堂にいるみたい」

「イシュタルが? このタイミングだし、アウフェバルグさんかイシュタルの創卵の話だろうな。行ってみよう」

「「いーたん?」」

「そうだよ。いーたん来たんだって」

「「いーたん! いーたん!」」

「いつも思うが、帝国民がこれを聞いたら怒りそうだよな」

「ふふ、でもここは帝国とは関係のない場所だからね。

 それにイシュタルちゃんも気にしてないみたいだし、いいんじゃない?」

「まあ、そうなんだけどな」



 人の呼び名がころころ変わることもあるのだが、今のところ楓と菖蒲に『いーたん』で定着されてしまっているイシュタルの元へと、竜郎と愛衣で手を繋いで歩いていく。

 彼女の国で幼子であろうと『いーたん』呼ばわりする者がいれば問題だろうが、楓たちはイシュタルにとって親友の子供くらいの扱いになっているので、はじめは驚いていたが今ではすっかりそれを受け入れてしまっている。


 領地内の畜産場からカルディナ城に戻り、そのまま食堂に行ってみれば遅めの昼食を城の住民のような振る舞いでモグモグと食べているイシュタルと、そのお付きとしてついてきている側近眷属にして紅鱗の女性竜人──ミーティアを発見。

 さっそく4人で近寄っていくと、イシュタルが軽く手をあげ挨拶してきた。



「突然、来てすまないな」

「イシュタルちゃんなら、いつでも大歓迎だよ」

「それに最近は来れてなかったみたいだが、ちょっと前までは普通に今みたいに食べに来てたじゃないか。今更だ。それで話っていうのは?」

「それなんだが、アウフェバルグが来る日が決まったとか?」

「今日も入れて十日後の昼頃に決まったな」

「ああ、私もそう聞いている。

 おそらく奴のことだから問題が起きることもないだろうから、そのあたりのことは心配していないんだが……念のため私も万全の状態の方がいいだろう?」

「そりゃあ、イシュタルちゃんが万全にこしたことはないよね。

 変な感じで話がこじれたりしても厄介だろうし」

「そうなのだ。奴も我が国では重要な人物だからな。妙な禍根をアイたちと残してほしくない。

 というわけでアウフェバルグの件が片付いてから、私は創卵に入ろうと思う」

「そうか、いよいよか」



 イシュタル側の方でも既に準備は整い、後はもう創卵に入るだけという状態になっていた。

 竜王たち全員にも会い、残りの面倒事が起こる可能性がある蒼太と暴れ槍関係のアウフェバルグ。ここさえ乗り切れば竜郎たち関係の話で、しばらくイシュタルが気にかけるような大きなこともない。

 それで安心して次代の真竜の卵を創造することができると考えたわけである。



「イシュタルちゃんの子供かぁ。どんな子が生まれるんだろ。きっと可愛いんだろうなぁ」



 愛衣の言葉にイシュタルの近くで控えていたミーティアが、こっそりと頷いているのが竜郎には見えたが黙っておく。



「ふっ、タツロウやアイたちの力まで取り込んだ私の子だ。きっと私すら超える優秀な子になるに違いない」

「そうやって生まれる前から期待一杯な目で見てると、その子にとってプレッシャーにならないか?」

「む? そうか? まあしばらくは私が皇帝として国を治めていくのだ。ゆっくりと育ってくれればいい」

「うちにも連れて来てね。美味しいもの沢山食べさせてあげるし、遊び相手にも困らないと思うよ」

「そうだな。イシュタルやエーゲリアさんの子供なら大歓迎だ」

「それはいいな。ここならば安全なのは間違いないうえに、我が子がじゃれ付いて死ぬような者もいない」



 大人になってから本気で争えば時と共に分が悪くなっていくだろうが、幼子同士でじゃれ付くくらいなら竜郎のところにいる幼竜たちでも充分に真竜の相手になれる。

 ほぼ同い年同士、竜にとっては秒の差程度しかないのだ。仲良くやっていけることだろう。


 さらにカルディナとミネルヴァが常に周囲を探り、危険な存在がいれば即座に対応できるので警護面でも皇女の受け入れに適している。

 世界広しと言えど、ここ以上に安全な場所となるとエーゲリアの側くらいしかないのだから。



「卵ができたら、がんばって私も力を注ぐからね!」

「ああ、そのときは頼むぞ、アイ」



 竜郎たちのところにはあらゆる神格持ちが目白押し。それらの力を得て生まれる我が子の誕生を、イシュタルも心待ちにしながら食事を終えた。



「では仕事があることだし、そろそろ私は帰って──ああ、そうだ。ネオスという竜を引き取ったらしいが、どうだ?

 ここでもやっていけそうか? 無理そうなら私からドルシオン王家に言うこともできるが」

「まだ昨日引き取ったばかりだが、ネオスはかなり優秀だとミネルヴァも太鼓判を押してくれてるくらいだ。

 今更返せと言われても返したくないくらいには有望な子だよ」

「そうそう。ネオスくん、すっごく頭がいいんだから!」

「…………それほどなのか。そうなってくると、今度は逆に惜しくなってきたな。うちでも雇いたかったくらいだ。なあ? ミーティア」

「そうですね。優秀な人材は、どれだけいても困りませんから」

「イフィゲニア帝国の女帝様に惜しがられた竜なんだぞって言ったら、ネオスは驚きそうだな」

「ふふふっ、いつかもっと自分に自信が持てるようになったら言ってあげてもいいかもね」

「そのときにうちの国に士官したがっていたら、私に声をかけてくれていいからな?」

「そうならないよう、うちで手厚く優遇していくつもりだから心配ご無用だ。

 とはいえ……本人が心からそれを望むなら、どんな道でも応援する気ではあるけどな」



 最後に軽くネオスのことに触れてから、イシュタルたちは転移装置で帰って行った。

 モヤ美の転移はさすがに竜郎の一存で好き勝手できてしまうが、転移装置なら双方で制限がかけられるので、イシュタルのような存在にはそちらのほうが都合がいい。



「しかしもうイシュタルのところに子供か。どうせなら何か、お祝いみたいなことを俺たちでもしていいかもしれないな」

「それいいかも! 卵を創るとすっごく調子が悪くなるみたいだし、ここはやっぱり美味しい魔物でたっぷり栄養を取ってもらうのが私たちらしくていいんじゃない?」

「だがお祝いみたいな感じにするなら、どうせなら目新しい方が驚きもしていいかもしれない……。

 いっちょもう一種、それまでに集めてくるのもいいか……?」

「「うままっ!?」」

「あはは、この子たちも食いしん坊さんだねぇ」



 美味しい魔物というフレーズから、なんとなくまたパパが新たな食材を生み出そうとしているぞと感づいたようだ。

 イシュタルと話している間は、大人しくフローラお手製のデザートを食べていたというのに目を輝かせて反応する。



「そう。うままだ。さて、そうなると何がいいか。

 栄養を付けてもらうなら野菜系か?」

「産後……ってわけじゃないけど、そういう感じならフルーツっていうのもありじゃない?」

「ちょうどその二種は、どっちも一種類しかまだ手に入れてないからな。

 時間もないことだし、手っ取り早く済みそうな方にしてみるか」



 肉、魚介、野菜、果物、その他で分類している美味しい魔物シリーズで、まだ一種しか手に入れないのは野菜と果物だ。

 そこで簡単な方はどっちだろうかと竜郎は、《魔物大事典》のスキルを使って調べていく。



「うーん、別にそこまでどっちも難しい感じではなさそうだ」

「なら両方いっちゃう?」

「時間的にいけそうなら、それもいいかもな」



 新しく種を増やせばまたそれらを増産する仕事が増えるので、できれば一種ずつ段階を踏みたいところではあったが、ここは親友へのお祝いだと竜郎も心を決める。



「あ……でもそうなるとエーゲリアさんのときも、二種用意することになるのかな?」

「あの人も相当な、はらぺこドラゴンだからなぁ。娘よりも少ないと拗ねそうだ。

 セリュウスさんの精神衛生のためにも、そっちのときも頑張らないといけないかもなぁ……」

「そうなるとイシュタルちゃんに渡すときも、多めに渡せるように用意しておいた方がいいかもね。

 だってイシュタルの守りには、エーゲリアさんがつくんだし」

「いやいや、いくら何でも娘へのお祝いの品を遠慮なく食べたりは…………………………」



 竜郎の脳裏に、これまでのエーゲリアの行動が走馬灯のように駆け抜けていく。



「…………うん、多めに用意することにしよう」

「だよねぇ」

次も木曜更新予定です!

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