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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第306話 ネオスの仕事場

 竜種の中では最下級クラスの力しか持たないが、戦う力を代償にしたかのように非常に知能が発達していたことで、魔竜から知能を持った人間の竜として世界に認められたという珍しい経緯を持つネオス。

 ファン太だけを迎えに行ったつもりが、そんな思わぬ人材も一緒に連れてくることになった。

 以前竜郎が治療したことで何か恩返しをさせてくれというのと、仲良くなったファン太と同じ場所にいたいと彼自身が熱望したからだ。


 竜郎たちとしても人材不足が深刻化してきているので、将来に期待を持てる優秀な頭脳を持ち、尚且つ信頼のおける存在が来てくれるのはありがたい。



「これから町のこととかも関わることが増えてくるだろうし、美味しい魔物食材とかの発注でも忙しくなる。お言葉に甘えて頼りにさせてもらうからな、ネオス」

「きょ、恐縮です」

「パオーーン」

「あはは、本人よりファン太の方が嬉しそうにしてるね」



 ドロシーとアーシェはドルシオン王国の王妃クローシェとまだ遊んでいたいというので、一先ず竜郎たちだけファン太とネオスを連れて帰ってきていた。

 ネオスの件は寝耳に水だったこともあり、皆に紹介していく必要もあったからだ。



「それでもう一度聞きたいんだが、本当に今日から仕事を覚えたいのか? ネオス。

 別にしばらくのんびりして、ここに慣れてからでもいいんだぞ?」

「いえ! はやく色んなことができるようになりたいんです! お願いします!」

「そう言うならいいんだが、うちはブラック企業じゃない。

 ちゃんと疲れたら休憩すること。疲れてなくても、頃合いを見て休憩をはさむこと。分かったか?」

「はい! ですが弱いと言ってもぼくだって竜です! 休憩なんてなくても睡眠と食事以外働いても──」

「だめだよ、ネオスくん。うちはアットホームな職場なんだから」

「いや……愛衣。その文句は逆にブラックに聞こえるから止めてくれ……」

「えー?」



 竜種最弱と名乗れそうなほど弱いとはいえ、ネオスは自分で言う通りあらゆる才能に恵まれた種の頂点──ドラゴンである。

 竜郎たちの領土内では一般的に危険とされるモンスターがあちこちから湧くので、下手にネオスがお散歩でもしようものなら死んでしまう危険性もなくはない。

 だがそれでも竜なので、一般的な種族の最弱とはわけが違う。


 まだネオスは幼いというのもあるので弱すぎるほど弱いが、これから普通に鍛えていくだけでも、一般的な冒険者の中では上級に手が届く程度には強くなれる。

 なので普通の人のように休む必要もなく働き続けることもできるが、ネオスは竜郎たちがリゲンハイトに信頼されているからこそ託してもらえた子でもある。

 寝食以外は働き続けろと言うのは、さすがにまずいだろう。



「とはいえ身内──とくにウリエルも、もっと楽にしてあげないと不味いんだけどなぁ」

「他の子たちも、なんだかんだ忙しそうだしねぇ」



 ネオスという優秀な頭脳を持つ人材が来てくれたのはいいが、それでもまだ不足しているのは変わりない。

 イシュタルたちのところに新たな真竜が生まれようとしているように、こちらも新たな人材を創造していかなければならないだろうと改めて思い知らされる。


 とはいえ今はネオスの方が重要だ。

 特に幼竜たちは同じドラゴンだからと挨拶がてら、じゃれつきでもしようものならネオスなど一瞬であの世へ直行してしまう。

 子供とはいえ楓や菖蒲も含め、竜郎たちのところにいる幼竜たちは上級竜すらも超える竜王種たちなのだから。

 上級竜に位置するファン太ですらも、その子たちのじゃれ付きを相手にするのは厳しいだろう。


 なので不幸な事故が起きる前に、竜郎たちはネオスにじゃれ付いてはいけませんと、しっかり幼竜たちに紹介し理解してもらうことに努めた。

 あとは仲間たちにもしっかりあいさつ回りをしておき、困っていたら助けてあげてほしいとも言っておいた。



「ふぅ、これでここでも生活はできるだろう」

「あ、ありがとうございます……。というか、なんでここはあんなに強い人ばかり────いえ、なんでもありません」



 エルカロイで働くリグンアロフの部下たちも、魔竜と接するということでかなり強いとされる竜が大勢いた。

 だがそんな職員たちすら鼻で笑うほどの、ネオスが竜郎たちの仲間の中でも上位の実力者なのだろうと思っていたファン太ですら小指でひねれる存在ばかり紹介され、ネオスは実は別世界に飛ばされたのではと、意外と近い答えに現実逃避しそうになっていた。

 だがそれを詳しく聞くのも恐くなり、彼は急いでそれを撤回する。

 知能が芽生えたばかりだというのに、もうそういう考えができるところも頭のいい証拠だろう。



「まあ……うちはいろいろと特殊なんだ。おいおい慣れてくれればいい。みんな気のいい人ばかりだから」

「ですね。皆さん新参者の、ぼくにもとても優しかったです。とくにアーサーさんなんて──」

「パッ──パオ~~~~ン!!」



 竜郎と繋がる眷属のパスごしに話を理解していたファン太が、「それはない! そいつだけは近づいてはいけないぞ、ネオス!」とばかりに首を一生懸命横に振る。


 

「え? どうしたんですか? ファン太さん」

「あははっ、ファン太はアーサー君が苦手なんだよ。ちょっと、たつろーが生み出したときに色々あってね」

「生み出した……? ──けど、そうなんですね。とても優しそうな人でしたけど」



 上級竜をこともなげに生み出せるような軽い言い方が気にはなったが、ネオスは頑張ってそこもスルーした。

 おかげで一生懸命ファン太が伝えようとするアーサーの恐さも、一切彼に伝わることはなかった。



「パオ~~~ン……」



 実際に竜郎のことを侮辱でもしない限り、アーサーの懐は広く温厚。

 彼もウリエルのように竜郎たちの代行としてあちこち赴くことも多く、その温和な笑顔とスマートで上品な立ち居振る舞いで密かに恋焦がれる女性のファンも大勢いるほどだ。

 だが生まれて直ぐ苛烈な説教を受けたトラウマがあり、ファン太からすれば逆らってはいけない、怒らせてはいけない人物ナンバーワンなのは変わりようのない真実なのだろう。



「さてと。それじゃあ仕事の方なんだけど、まずはミネルヴァの下について資料の整理を任せたいと思ってる。

 そこから、できそうなことを探していくって感じだな」

「できないなら、できないって言ってくれていいからね?

 あと分からないことがあっても、ミネルヴァちゃんに聞けばだいたい教えてもらえるからね」

「はい!」



 町のことに対する報告書もそうだし、いろいろな国や組織、団体との契約書や取引の記録。ミネルヴァが趣味で集めている領地内のあらゆる情報などなど……、カルディナ城に資料室兼図書室まで新たに設けてみたはいいものの、日ごとに増えていくので整理が追いついていない状況なのだ。


 そこでまずはネオスに簡単な整理から頼み、彼に向いていそうなら司書のようなことを頼んでもいいかもしれないと仲間たちからアドバイスを受けそう決めた。

 カルディナ城内の仕事になるので、安全も確保されている。

 だがそうなると、外での仕事のファン太とはここで一度お別れだ。



「では行ってきます! ファンタさん!」

「パオーーン!」



 俺も俺の仕事をしてくるぜと、久しぶりに竜郎たちの領地に帰ってきて領空侵犯してくる不届きな魔物や人間がいないかの警戒任務に素直に向かっていく。

 前まではそれを頼まれても、やりたくないけど命令なら仕方がないといった雰囲気が滲み出ていたのだが、今はネオスに良いところも見せたいのか張り切って本来竜郎が生み出した目的である任務のために去っていった。



「変われば変わるもんだな」

「そうだね。ふふっ、別竜みたい。でもあっちの方が、良いと思うよ」

「だな。あのままだと絶対にどこかで、やばいことになってただろうし」

「や、やばいこと……?」



 そんなファン太の後ろ姿を見送り、竜郎たちはネオスと共にカルディナ城の中にある図書室へと向かった。

 楓や菖蒲も絵本があるところだと認識しているので、今日はどれを読んでもらおうかなと嫌がらずに付いてきてくれる



「うわぁ……すごいっ。本格的ですね」

「図書室って名前を付けたしな。ちゃんと本も、あちこちから集めたりしてるんだ」

「こっちはこっちで増設が必要になりそうなくらい増えて来てるけどね」



 図書室というだけあって、広めに面積を取り本棚をいくつも並べて世界各地の本がぎっしりと詰まっていた。

 その中には地球の本もあったりと、かなりバリエーションは豊か。

 こちらはとりあえずそれっぽく仕分けて入れているだけなので、目的の本を探すには苦労している状態なのだが……。


 けれど本が好きなのか、ネオスのテンションは今日一と言っていいほど上がっていた。



「あとは整理してほしい資料なんだが……」



 竜郎が図書室の奥の方へとネオスを誘っていくと、高く積まれた資料の山がごった返していた。

 そこには、もはや自分の部屋よりも長くここにいるミネルヴァが椅子に座って待っている。



「こんにちは、ネオスさん。今日から、よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします! で、ですがこれは……」

「これでも一応、最低限は分けているのですけどね。

 ですが少し手が足りなくて……。私も他のこともしていますし」

「さっきも言ったけど、これをいっぺんにやる必要はないからね。

 少しずつ他の人が見やすいように仕分けて、整理して棚にしまっていってくれればいいから」

「わ、分かりました! ぼく、皆さんのお役に立てるよう頑張ります!」

「あんまり気張りすぎないようにな。直ぐに疲れるぞ?」

「はい!」



 分かっているんだかと言いたくなるほど肩に力をいれた返事に竜郎は苦笑しつつ、後はミネルヴァに任せ、今日の楓たちのお休みの絵本を借りてから図書室を後にした。

次も木曜更新予定です!

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