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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第305話 ファン太を迎えに

 蒼太の様子も確認できたので、竜郎たちは象竜──ファン太を迎えに行くためにドルシオン王国の魔竜調教施設エルカロイに行く準備を進めていく。



「やっぱり行くならドロシーちゃんたちも連れて行ってあげた方がいいよね」



 竜王家の大きな悩みの種の一つとしてあげられる嫁婿問題。全くの同種で別の者から生まれた竜郎側の幼竜たちは、これまでの歴史の中でも類を見ない最高のお相手だ。

 だがエーゲリアやイシュタルたちも釘を刺してくれているおかげで、むりに婚約や結婚を迫ることもできないため、正攻法で仲良くなって本人に承諾してもらうしかない。

 そのためどこの竜王たちも、それぞれの幼竜たちと今の内から親交を深めようとし、連れていくとどこも諸手を上げて歓迎してくれるのだ。



「そうだな。あとはファン太もお世話になったし、菓子折り代わりに美味しい食材も包んで渡しておこう」



 歓迎という意味では、美味しい食材もそうなのでお礼の意味も込めて多めに竜郎は美味しい食材を見繕って王族に渡すに相応しく加工した箱に詰めていく。

 それからドロシーとアーシェを探してから合流し、竜郎はカルディナに頼んで竜化してから王族の保有地内に与えられた敷地へと飛んだ。

 ニーナはニーナで極秘扱いなので、彼女はお留守番だ。


 保有地に竜郎たちが来るとすぐに王族側が分かるようになっている上に、城のすぐ側なのでアクセスもいいとあって王子であるドロシーたちと同じドルシオン種のリゲンハイトがすぐさまやって来る。



「お義父様! よくぞこられました!」

「リゲンハイトさんも元気そうで何よりですよ」

「まったく、私とお義父様の仲なのですから、もっと気さくに接してくれてもいいのですよ?」

「まだ、お義父様になるかどうかも決まっていないですからね。本当にそうなったら考えますよ」

「ううむ。さすがお義父様、一筋縄でいきませんか。

 お義母さまにドロシー嬢、アーシェ嬢、アヤメ嬢にカエデ嬢もよくぞ参られました。ゆっくりお過ごしくださいませ」

「うん、ありがとう。リゲンハイトさん」



 竜郎と会うたびに、そのようにしてじゃれ付いてくるリゲンハイトを適当にあしらい、さっそく本題へと入っていく。



「ファン太をそろそろ引き取ってもいいと聞いてきたんですけど、あの弱者を見下すような態度を取らなくなったということですか?」

「ええ、もちろんです。でなければ、そのことでお呼びだてなどしませんよ。

 ふふふっ、まあその件について一つ話したいこともあるのですがね」

「話したいこと?」

「ええ、少し相談といいますか、なんといいますか。それはエルカロイに行ってから話したほうがいいでしょう」

「なるほど?」



 気になる言い方をするが、エルカロイに行けばすぐに分かるかととりあえずは納得しておき、竜郎はお礼として美味しい魔物食材の詰め合わせセットを《無限アイテムフィールド》から出して渡していく。

 箱はちゃんとドラゴンサイズ。竜郎より数倍大きい物を用意してきた。



「ファン太を預かってくれてありがとうございました。新しく手に入った食材も入ってますから、好きに使ってください」

「いやいや、そんな。お礼など良かったのですけどね。ただお義父様の気持ちを無下にするわけにも参りません。これはありがたく、私の新作料理に使わせてもらいます」

「料理の方は順調なの? リゲンハイトさん」

「いやはや、これがやってみるとなかなかに面白く、様々な食材を取り寄せて研究をしている最中なのですよ、お義母様。

 まだまだフローラさんの料理には及びませんとも。あとはアーロン?という方。あの方も素晴らしいですな。ぜひ一度話を聞きたいところです」



 美味しい魔物食材をつかった料理に竜郎たちと出会ったことで目覚めたリゲンハイトは、たまにフローラとも情報のやり取りをしつつ美食の探求にも励んでいた。

 王子としての責務や、弱きを救う世直し業の傍らで、短い時間しか取れないはずなのに、その実力はフローラですら驚くほど上達してきていた。

 あらゆる分野において天才の名をほしいままにしているだけはあるといった所だろう。



「アーロンさんは一般人ですから、さすがに竜王国の王子様相手だと厳しいと思いますよ。止めておいてあげてください」

「そうですか……。残念です」



 ただ彼の料理のレシピがフローラに追いついたそのときには、レシピ交換で竜郎たちにも恩恵があるということもあって、なるべくなら協力したいところではあった。

 世直し業のときの変装魔道具でも使ってくれれば、アーロンとも話せるかもしれないと密かに竜郎はアーロンとリゲンハイトの語りの場を用意できないかと考えた。

 ただ今は他にやるべきことがあるので、その件についてはひとまず隅に置いておく。


 リゲンハイトがウキウキしながら信頼のおける、ドロシーたちのことも知っている部下に食材を運ばせるよう手配をしてから、いよいよファン太がお世話になったエルカロイへと移動を開始する。


 婚約も正式に決まっていないのに、エルカロイの職員にドロシーたちの存在がばれると不味いので彼女たちは未来のお義母さま候補の現王妃──クローフェと一緒にお留守番していることになった。


 クローフェは神格を授かった上位の雷龍なので、ドロシーとアーシェが全力でじゃれ付いても平気な存在。安心して任せることができる。

 またドロシーたちもここに来るようになって、リゲンハイトよりもむしろクローフェと親しくなっているので異存はなさそうだ。彼女たちにとっては、王妃様も遊んでくれるお姉さんくらいの認識らしい。

 クローフェもクローフェで、神格を得る前からやんごとない産まれであったこともあり、これほど無邪気に接してこられることもそうなく、楽しいそうだ。


 ドロシーたちはそちらに任せ、カルディナと繋がり竜化した竜郎と愛衣、楓と菖蒲というそれはそれで職員からすれば謎の存在としてエルカロイの門をリゲンハイトに連れられ潜り抜ける。


 行先はリゲンハイトの祖父であるリグンアロフの研究室。そこにファン太はいるそうだ。まっすぐ彼の案内の元、竜郎たちは不思議そうなものをみるような視線をスルーしながら辿り着いた。



「おお! タツロウくん! よく来たな! やっと私の研究を手伝ってくれる気に──」

「なってません。今日はファン太を引き取りに来たんですよ、リグンアロフさん」

「昨日も、そう説明しましたよね? おじい様」

「──チッ。分かっとるわい。ちょっと聞いてみただけだ。ファンタならほれ、そこにおるぞ」

「パ、パオーン」



 以前までのファン太であれば、普段から俺様はここにいるぜ!と無駄にいきっていたというのに、今は遠慮がちに竜郎たちの方へと進み出てくる。



『ただ今だけそういう演技をしてるって感じもないな』

『うん。なんかそういうのが、前よりも板についてるって感じがするね』



 長年魔竜を研究し、調教し続けたエルカロイ。その知識の粋を集めた教育とは、ここまで凄いのかと竜郎も愛衣も改めて驚いた。



「久しぶりだな、ファン太。元気にしてたか?」

「パオーーン」



 以前までならアーサーたちの目がなければ「聞くまでもねーだろ、主様よぉ」くらいの太々しさが滲みだしていたのだが、今はそれもなく竜郎の言葉にも礼儀正しく応対する。



「凄いですね。ちょっとでも見下す性格が治ればと思ってたんですが、ここまで良くなるとは……驚きです。

 ありがとうございました、リグンアロフさん」

「なに気にすることもない。確かに我々の知識や経験からなる魔竜への教育術も施しはしたが、それ以上にそ奴に影響を与えたやつがおったのだよ」

「影響を与えた……? それはいったい」

「それこそが、ここでお話ししたかった件に繋がるのです。お義父様。少々お待ちを」

「はあ」



 よく分からないままにファン太と久々の再会を味わいながら、適当にリグンアロフの研究したいなオーラを華麗にスルーし待っていると、奥の部屋へ行ったリゲンハイトが小さな竜を連れて戻ってきた。



「あれ? その子ってもしかして」

「さすがはお義母様。ご慧眼ですな。この子は、以前お義父様が癒しをほどこした魔竜──だった子です。ほら、ご挨拶を」

「は、はじめまして。ぼくの名前はネオスです。たつろーさん、あのときは本当にありがとうございました」

「パ、パオーン」



 心無い竜に虐待を受け、酷い状態でリゲンハイトに救出された幼き魔竜がいた。

 その魔竜に以前エルカロイに来たときに出会い、竜郎が力技で失った部位すらも癒したことがあった。



「驚いた……確実に人間に至れる子だとは聞いてたけど、もう人間に至ったのか。

 ネオス君? だったかな。どういたしまして、君とこうして話せるようになって嬉しいよ」

「は、はい! あのときは失礼な態度をとってしまいすいませんでした」

「言葉使いも流暢だねぇ。すごいや」

「パオーン、パオン」

「……それはそれとして、さっきからファン太は何なんだ……?」

「パオン?」



 ネオスが挨拶できたときは良かったとばかりに安堵し、愛衣がネオスを褒めればそうでしょうともと自分のことのように喜んでいた。

 以前のファン太からすれば、ネオスはとても弱い存在で見下す対象だ。なにせネオスは下級竜の中でも最弱クラス。下手をすれば亜竜にすら瞬殺されるレベルの弱者なのだから、上級竜のファン太がここまで気に掛ける所など想像もできなかった。



「実はな、タツロウくん。そやつがここまで早く性根を叩き直せたのは、ここにいるネオスと出会ったからでもあるのだ」

「そうなんですか?」

「ああ。実はタツロウくんたちが去ってからのことなんじゃが──」



 竜郎たちがあの日去ってから、ファン太は表面上だけ取り繕ってさっさと家に返してもらおうと考え生活していた。

 しかしそんな浅い考えなどお見通しなリグンアロフは、そう簡単に行くと思うなよと考えていたという。


 リグンアロフはなかなかに癖のあるやつだと長期戦を覚悟していたのだが、ある日、リゲンハイトに連れられてやってきたネオスと出会った。

 最初は雑魚が俺に近づくんじゃねぇと威嚇しようとしたが、その威嚇だけで死にそうなほどに弱いことに気が付き、すぐに止めた。

 ファン太とて悪戯に命を摘み取ろうとまでは考えていない。上か下かをはっきり決めて、下のやつはこき使ってやろう位に考えていただけなのだから。


 今までファン太の周りには竜郎たちやエーゲリアという絶対強者ばかりで、そんな貧弱な存在が身近に来たこともなく、酷く印象に残った。

 それからファン太はここでの舎弟にしてやろうとネオスと接するようになるが、ネオスはネオスで特別な子でもあった。


 自分にはない発想をいくつも持ち、こうすれば要領良く過ごしていけるということを何度もファン太に示し続ける。

 ファン太はそれから自分が睨むだけで死ぬであろうか弱き存在に、本当にいろんなことを教わるようになっていく。


 そうしてファン太の中の常識が変わっていった。

 強い者は何をしても許され、弱い者には何をする権利も価値もない。そんなある意味自然界ではまかり通っていた常識が、例えどれだけ弱い者であろうとも自分にない凄いものを持っているやつはいるのだ──と。


 そこから劇的にファン太は変わっていった。弱くてもこいつにも何か凄いものがあるかもしれないと思うようになり、段々とただ強いだけでは世界はまわっていかないのだということも何となくではあったが理解できるようになっていった。

 そしてそれを教えてくれたネオスと、ファン太は無二の友となったのだ。


 だからこそファン太は、ネオスが上手くできるだろうかと自分事以上に心配していたというわけである。



「そんなことが……。ネオス君。ありがとう」

「い、いえ。ぼくもファン太さんのおかげで、いろんなことを学べていますから!」

「そうなの?」

「はい。ぼくはファンタさんと過ごすようになって、勇気と自信を貰いました。

 彼のように強くなることができなくでも、共に並んで行けるようもっと知識を身につけよう。そう思うようになってから一気にぼくの世界は広がりました。

 恐いものを恐いと言い続けていても何も進まない。力がないならそれは俺がやってやる、その代わり難しいことはお前がやってくれと、魔竜時代に言ってくれたんです」

「ファン太が……大人になったんだな。お前も」

「パオーーン」



 よせやいとファン太は照れたように笑うが、以前のような傲慢さは微塵も感じさせない。

 ファン太の野性味のある価値観からネオスは恐怖を乗り越える術を学び、ネオスの理知的な思考からファン太は強さ以外の力を学び、互いに互いを認め合って成長した結果なのだろう。



「だから、たつろうさん。お願いです。ファン太さんを連れていくのなら、ぼくも連れて行ってくれないでしょうか。

 まだぼくは何もできません。ですがきっとファン太さんと一緒に、お役に立てるようになってみせます!

 それにあのとき、痛くて痛くて嫌になりそうな日々を、それでも怖くて治療すら受けられなかったぼくを救ってくれたことを、いまでも覚えています。その恩をかえさせてください! おねがいします!」

「パオ~~ン……」

「えっと……」



 そういう展開になるのかとネオスと一緒に頭を下げてくるファン太を見つめてから、視線をリグンアロフとリゲンハイトに移していく。

 救ったという点で言えば一番の功労者はリゲンハイトだ。そしてその後の彼の生活の場を提供していたのはリグンアロフだ。

 こうはいってくれているが、竜郎の一存で連れていくわけにはいかないだろうと。


 だが王家の二人は、そんなことは気にしてもいなかった。



「彼の未来は彼のもの。そう望むのなら、私はどこにでも羽ばたいていってほしいと思っています。

 だからお義父様たちがいいというのなら、是非この子も連れて行ってあげてください」

「私も魔竜が人に至るまでの経緯や、弱い存在が傲慢な魔竜の心を変えたという貴重な事例を研究させてもらった。

 そうしたいというのなら、私も気になどせんよ」

「そうですか……。なら一緒に来るか?」

「はい!」「パオーーン!」

「うちはネオスにとっては、ちょっと危険な所にあるからファン太。お前がちゃんと守ってあげるんだぞ?」

「パオン!」



 任せてくれ! とファン太は強く頷いた。

 まさかこういう形で更生するとは思っていなかったのだが、これはこれでいいのかもしれないと、竜郎は愛衣と顔を見合わせ互いに微笑んだのだった。

次も木曜更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字が多すぎです。
[一言] きれいなジャイアンになってないか、コイツ
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