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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十五章 はらぺこドラゴン編

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第287話 届かぬ力

 ルカピを捕ろうとしていると見せかけていると、竜郎とカルディナの空間魔法気配を探る探査魔法は、その反応を検知した。



『来たっ!』

『ピュィーー!(頭上に注意よ!)』



 まんまとこちらの思惑に嵌まってくれたのはいいが、ここで逃がしては意味がないので念話だけで警戒を促し、まだ弱いフリは続けておく。

 カルディナが言ったように頭上からまずは先制攻撃とばかりに、人間大サイズの岩が転送されゴロゴロいくつも落ちてくる。


 そのせいでルカピたちが竜郎たちを襲うのを諦め、さっさと海の中へと逃げて行ってしまう。

 ニーナなどは名残惜しそうに「あー……」と、最後までそれを見送っていた。


 だがただの岩ごときが自由落下して頭に当たっても、楓や菖蒲でさえ大した痛痒は与えられない。



『愛衣、本命が下からくるぞ』

『あいあい~』



 だがあえて上を見ながらそれらを避けていると、空間を切り裂くように本体の腕だけが伸びてきて、長い爪が愛衣の下から襲い掛かってきた。

 彼女が真っ先に狙われたのは小さな子供を抱いている上に、見た目は普通の人種であることも関係していたのかもしれない。



「ァアア」

「おっと」



 分かっていなくとも当たる愛衣ではなかったが、竜郎の念話で来ることが分かっていたため、危なげなく空を蹴って移動しあっさりとその爪をかわす。

 頭上からの岩で仕留める気はさらさらなく、それに注意を引き付け不意打ち部分転移で足元から殺す──というのが最も簡単で嵌めやすい手だったようだが、しょせんは雑魚専門の戦法でしかない。


 岩の頭上転送落としから、対象はランダムでの下方向からの爪斬りをしばらく続けるが、一向に効果はでない。

 当たりそうなのに絶妙に運がいいのか避けられてしまうという、竜郎たちがワザとそう思わせるように躱しているとも知らず、もどかしさを味わいながら魔王種のイライラが募っていき──。



「ァァァァァアァアアアァァァァ……」

『来たな』




 大きさは三メートル弱の人型魔物。

 人型だが人と比べると手足が細く長くヒョロヒョロとした肉体。手足に生えた名剣のような長い五本の爪が、太陽光に反射して鈍く輝いている。

 全身はまるで鏡面のようで、海の上に浮かべば周囲の風景を映し、視覚での認識がしづらい外見。

 目玉が体のあちこちについており、その全てが怒りに染まった視線を竜郎たちにぶつけながら、本当に自分の見立てが正しいのかと間近でその力を探るようにも見つめてくる。



『なんか全身鏡みたいになってるっすね~』

『光でピカピカしてるし、日中だとけっこう目立つ外見だねぇ。

 よし、あいつの名前はミラピカに決定だね!』

『みらぴか? 呼びやすーい!』

『ん、なんか甘そうな感じになった気がする』

『なんか一気に弱そうに思えてきたが……まあ、なんでもいいか』

『ピューーーィ、ピューーーイ? ピューーー(そうなるとパパが魔卵で産み出したら、ミー太かミー子って名前になるのかしら? なんだか猫みたいね)』

「ァァァアアア…………」



 竜郎たちがそんなアホなことを念話で話し合っているとも知らずに、観察を続けながら首をわずかに傾げるミラピカ。

 見立てが間違っていた場合でも、ちゃんと逃げる準備は万端に整えてきていると、怒っている魔物にしては慎重な状態だ。


 そんなミラピカの見立てでは、向こうはこちらを絶対に倒せないわけではないだろうが、自分が本気を出して相手にすれば少し面倒な程度の存在で間違いはなさそう。

 一番警戒しなければならない厄介なドラゴン(リュルレア)は寝ているのか動く気配はないので、ここでコイツらを蹴散らすくらいは大丈夫そう。

 と、ミラピカは竜郎たちの狙い通りに勘違いしてくれる。


 だが……なぜか本能が攻撃を仕掛けようという意志を邪魔してくるも、それを捻じ伏せ自分の見立てを信じて動き出す。



「ァアアアアアアアアアアア!!」

「わぁ~。ニーナ、びっくりしちゃった」

「けっこうエグイ攻撃してくるな。当たらないように気を付けてくれ」



 至近距離でのみ使える、空間を刳り貫く攻撃。

 手に宿した時空属性の力で、対象のいる空間ごとえぐり取る凶悪なスキルだ。

 ある程度格上の存在であろうと、防御や鎧などの防具を無視して相手にダメージを与えることができてしまう。


 だがしかし、いくら格上相手にも致命傷を与えられる恐ろしいスキルであろうと、竜郎たちとミラピカでは実力差がありすぎて、その攻撃ですらダメージを与えられはしない。

 まだ幼い楓や菖蒲であれば魔王種というその種の頂点に立つだけの実力を発揮し、ダメージを与えることはできるだろうが、愛衣やアテナがしっかりと抱きかかえ守っている時点で何をどうしようと、この二人に攻撃が届くことはありえない。


 竜郎が当たるなと指示を出したのは攻撃を当てたのにダメージが通らないことで、格上などという騒ぎではなく、比べることすらおこがましかったのだと悟られないようにするため。



「うわーあぶないっす~」

「ァァァアァァァアアァ!!!」



 なので相変わらずのらりくらりとミラピカの攻撃を、当てられるという希望を持たせる程度の動きで躱しながら、下手な演技を続けていく。

 両手足の爪を伸ばしながら、空間を湾曲させて縦横無尽に向きを変え、四方八方から襲い掛かってくる爪の攻撃も。



「ピュィーーー(あぶなーい)」

「アアアアアアアアッ!!」



 掌底で空間の捩じれを敵の体内に打ち込み、内臓をぐちゃぐちゃに掻きまわす攻撃も。



「ん、危険……かも」

「アガガガガアアアアアアアアアアッ!!!」



 空間に作り出した見えない魔力の透明壁のキューブに閉じ込め、それを縮めることで圧殺する攻撃も。



「ぎゃうー危なかったー」

「ァアアア…………?」



 どれもこれも一般的な強者なら一撃で、躱すことすら考える前に殺せる速度、威力を持ったそれらが、全てあと少しというところでことごとくが躱されてしまった。


 その後もあの手この手で攻撃を試みるが、全て意味をなさず、あと一歩で躱される。

 さすがにここまで来ると、ミラピカもおかしいことに気が付きはじめる。

 実はこいつら、自分をおちょくっているだけで、本当は強いのではと。だが──。



「──もう遅い」

「ァアアッ!?」



 相手が夢中になって竜郎たちを追いかけている間に、竜郎は周辺の空間を自分の時空魔法で遮断し、その内部を全て自身の時空属性を宿した竜力で埋め尽くしていた。

 ばれないように少しずつ少しずつ、丁寧にやっていたせいで時間がかかったが、何とか相手が冷静になる前に囲い込みは終了する。


 こうすることで竜郎が満たした竜力を押しのけるだけの出力で時空魔法を展開できなければ、どんなに頑張ろうとも時空への干渉は一切できなくなる。

 当然、この魔王種に竜郎の力を一瞬でも上回れる力など持ち合わせてはいない。

 ここに至ってようやく、完全にリュルレアと同じくらい手を出してはいけない化け物たちだったのだと理解した。



「これで終わりだ。後はリュルレアさんをここに呼べば、俺たちの仕事も──ん?」

「──ァアアアッ!」



 これで終わりだと気を抜いた瞬間に、ミラピカは自分の切り札をここで切った。

 竜郎の竜力を押しのけてでも脱走を可能にする、この種の王だけが持つ権能スキル──《我ノ支配空間》が発動したのだ。



「はぁっ!?」

「────ッ!!」



 空間魔法による干渉をできなくしたはずなのに、突如として黒い穴がミラピカの前に現れた。

 ミラピカは生存本能に従って、戦おう、抗おうなどとは一切考えず、ただ逃げるということに全力を注ぎ、その穴の中へと脱兎のごとく飛び込んだ。



「愛衣、カルディナ、アテナ!!」

「うん!」「ピュィーー!」「了解っす!」




 その一言で何がしたいのか一瞬で理解した三人。愛衣は竜郎にくっついて、称号の効果で彼を強化する。

 カルディナとアテナは竜郎の分霊神器の力で融合し、翼とトラの足をモチーフにした足鎧となって、竜郎の力をさらに引き上げる。



「ん、この子たちは任せて」

「ニーナにもね!」

「「うっうー!」」



 楓と菖蒲はヘスティアとニーナがしっかり預かり保護してくれる。

 それを横目に、竜郎は今まさに閉じようとしているミラピカが入っていった穴を、解魔法を使って全力で解析──コンマ一秒にも満たない時間で終了。

 どんな効果を持つスキルなのかを一瞬で理解し、《浸食の理》も用いて本気で干渉して穴をそのまま空間に固定してしまう。



「ここまで来て逃がすかっ!!」



 調べた限りでは、その穴の中は通路と部屋がいくつもあり、その先には出口がいくつもあった。

 その先は距離も高低差も関係なく、ミラピカが望んだ場所に繋がっており、奴はそこから脱出し、竜郎の影響範囲外で転移を使って逃げようという魂胆のようだった。


 けれどそうは問屋が卸さない。今の竜郎ならばミラピカの移動する速さよりも先に、このスキルに干渉して掌握することも可能。

 ミラピカが出ようとしている出口を次々と潰していき、ミラピカが持つこの特殊空間への権限すら奪って逆に閉じ込める。

 これは特殊なスキルで、出口以外からは中から転移で外にでることすらできないので、そこを封じられてしまうとどうすることもできないのだ。

 そのこともちゃんと竜郎は把握済み。



「後は──移動するぞ!」



 この場にいる仲間全員を引き連れ、雪山の頂上──大人しく待っていてくれたリュルレアの前に転移。



「あら、突然強さが増したかと思えばタツロウくん、そんなこともできたのね」



 突如超絶強化されて帰ってきた竜郎に目を丸くしながらそう口にしているリュルレアを横目に、竜郎はこの空間を一気に自分の魔法と竜力で染め上げ遮断し、時空への干渉権を完全に掌握しておく。

 さらに中で閉じ込められ、あたふたしているミラピカを追い立てるように、隅から特殊空間を壊していく。

 当然中にいて出られないミラピカは何が起こっているのかもわからず、残っている空間へと急いで移動していく。



「ここに出口を繋げるので、後は任せます! リュルレアさん!」

「なるほど、私の出番みたいね。任せなさい」



 内部を破壊しながらリュルレアの正面に出口を用意。

 あとは間違って竜郎がミラピカを殺してしまわないようにだけ気を付けながら、特殊空間を破壊していく。

 ミラピカは訳もわからないままに中を走らされ、這う這うの体で自分が作り出した覚えもない出口に向かってダイブした。



「ようやく、ちゃんと会えたわね♪

 私、と~~~~~~~~~っても、会いたかったのよ?」

「ァ…………ァァ……………………ァァ……」



 満面の笑みを浮かべるリュルレアに対して、魔王種というその種の頂点に立つものであるはずのミラピカは、必死に転移をしようと試みるもできず、ガクガクとその体を震わせる。


 この魔王種専用のスキルは二つ同時には展開できないと知っているため、竜郎が先ほどの特殊空間を完全に壊さず中途半端に残滓を残したまま固定していた。

 そのため再度《我ノ支配空間》を使って逃げ出すこともできない。まさに八方塞がりとはこのことだろう。



「それじゃあ────さようなら♪」

「────」



 今の竜郎でさえ、ほとんど発動したタイミングが読めないほど完璧な魔法。

 ミラピカはその体を魂ごと凍死させられ、一瞬でその生命を絶たれた。

 その氷はすぐに溶け生前の姿そのままが綺麗に残るも…………その命が戻ることは二度となかった。

次も木曜更新予定です!

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