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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十五章 はらぺこドラゴン編

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第284話 リュルレア

 先に片づけておきたいことも済ませ、過去へ行くための準備も済ませ、竜郎はカルディナを自身の中に入れ、念のため竜化しておく。

 他の皆もニーナ、楓、菖蒲以外はリアが作ってくれた、自身専用の武器を手に持ち戦闘準備も万端だ。

 カンポの町から離れた山の中腹辺り、ここならプークスの影響で誰も来ないのはわかっていたが、注意深く人目がないことも解魔法で確認する。



「ニーナも、おばーちゃんが使ってた武器着けたかったなぁ」

「いや、さすがにそれはあからさま過ぎるから今回はやめておいてくれな。

 止めは向こうに任せるわけだし、火力はそこまでいらないと思うし」

「まあ武器とか持ってなくても、見れば何かしら感じ取りそうっすけど」



 アテナは自分の大鎌をグルグル回しながら、そんなことを口にする。

 相手は現役時代の九星で、ニーナにとってはおばあちゃんという存在であるニーリナとは姉妹のような関係を持つ竜だ。

 そんな竜の座を継いだニーナという存在に、なにも感じないわけはない。



「けど別に会うくらいならいいって話だし、気にしすぎてもよくなさそうだけどね。じゃあ、いこっか、たつろー」

「ああ、全竜神さまに連絡を取るぞ」

「「うっうー!」」

「ん、ちびたちもやる気満々」

「さすがに魔王種相手は恐いから、戦わせらんないけどな──」



 竜郎は戦いの気配を感じて興奮気味な楓と菖蒲を撫でて落ち着かせながら、竜に繋がる自分が持つスキルを意識し、全竜神へと声をかけていく。



(こっちの準備はできました)

『うむ。では少しだけそこでじっとしていてくれ』

(はい)



 エーゲリアが遠隔で過去に送ってくれるらしいので、あとは待つのみ。

 帰りはこの時代にこの場所を記憶しているので、竜郎でも時空魔法を使えば帰って来られるので、片道だけ送ってくれれば問題ない。



「お、きたっぽいっすね」

「ほんとだ。近くにいないのに、お姉ちゃんの力を感じるよ」

「周囲がグニャグニャしてきてる。たつろーのとは、少し違うっぽい?」

「遠隔転移魔法とかいう訳の分からない方法だしな。何か違うのかもしれないな」



 なんてことを話している間に、竜郎たちの周囲の空間に歪み発生し、球状に竜郎たち全員が空間ごと隔理される。

 そしてノイズのようなものが球状の壁に走ったかと思えば、体に重くのしかかってくるような負荷がかかり、完全に暗闇に。



「ん、終わった」



 時間にして4、5秒程度で空間の隔離が解け、竜郎たちは途方もないほど過去の時代へとやってきた。

 周囲は雪山で、先ほどと大して変わらない光景が広がっていた。



「システムのマップを見る限りだと、さっきいた山の反対側辺りみたいだな」

「それでそのリュルレアさんは、どこにいるのかな?

 下手に動かないで待ってた方が良い感じ?」

「下手に解魔法を使って、逃げ回ってる魔王種を刺激したりしても恐いしな。

 とりあえずもう少し分かりやすい、山の頂上の方へ移動しよう」

「「あう!」」



 すでに魔王種は解き放たれ、されどこの山の周辺からはそれほど離れないように、時空系統のスキルを使って逃げ回っている。

 なので万が一にも楓と菖蒲が被害を被らないよう、皆で注意しながら山の頂上を目指して進んでいく。



「お、なんか微かに強そうな気配がしてきたっすよ」

「ほんとだ。あんなに強そうな気配なのに、ニーナここまでこないと全然分かんなかったよ」

「なんというか雪山に同化して気配を消してるって感じがするな」



 山の頂上に近づいたころ。おそらく目的の竜──リュルレアらしき気配を捕捉した。

 竜郎たちだから気が付けたというレベルで、非常に自分の存在感を消すのに長けた能力を持っているようだ。



「ん、あれなら魔王種も気が付かない」

「それで近くに運よく来たら、ズバッってやろうとしてるのかもしれないね」

「息を吸うように転移できる相手が逃げに徹すると、攻撃を当てるだけでも相当苦労しそうだしなぁ」



 さてどんな竜なのだろうかと、魔王種への油断はせずに頂上に上り切ると、巨大な氷の塊が山の天辺を覆い隠していた。

 そして強者の気配はその氷全体から放たれていた。



「あのー、もしかしてそこで氷になっているのは、リュルレアさんですか?」

「──────さすがは全竜神さまが寄こした助っ人だけはあるわね。

 これを簡単に気が付ける者なんて、そうはいないのよ?」



 氷の塊から澄んだ女性のような声が響いてきたかと思えば、みるみる形を変えていき、体全体に鋭利な氷の刃物ような鎧のような外殻を身にまとった、青色の竜が現れた。

 その氷のような外殻は美しく、天から降り注ぐ太陽光が反射して明るく青く輝いて見えた。



『まさに明青みょうじょうと呼ばれるに相応しい見た目だ。

 あの人で間違いないだろうな』

『う~~~~っ!! もしあたしらの時代にいてくれたら、是非とも手合わせ願いたいくらいの強さを感じるっすよ!

 正直、まだ勝てる気がしないっす! 戦いたかったっすねぇ!!』



 アテナは戦闘狂の精神を発揮して、一人うずうずと体をゆすってテンションをあげていた。

 だがそれもそのはず。リュルレアは元の時代でほぼ敵なしともいえるほど、異常な強さを得た竜郎たちでも、ちょっと相手をしたくないと思わせるほどの力量を感じさせた。


 竜郎も魔力体生物組全員と融合して、ようやく勝機が見えるかもしれないというほどに。

 まだかなり昔の事なので成熟した竜王種くらいか、それより少し上程度の実力だと思っていたが、その考えでもかなり甘かったようだ。



『全盛期のアルムフェイルさんとかも、凄かったんだろうねぇ』

『ニーナ、生きてる頃のおばーちゃんと、若い頃のおじさんも見てみたかったなぁ』



 竜郎もそれにも興味はあったが、そんなことをするのは許されていない。

 竜郎たちは旅行に来たわけではないのだから。

 ニーナもそれが分かっているからこそ、それ以上念話で何かを言うことはなかった。



「こんにちは。僕は竜郎、波佐見です」

「こんにちは、不思議な同族──いえ、タツロウくん。

 私がリュルレアで合っているわ。今日はよろしくね」

「ええ、手伝い程度くらいしか許されてはいませんが、できる限りは協力しますよ」

「……未来にはイフィゲニアさまに所縁のない、あなたたちのような力を持つ竜たちがいるの──いえ、それ以上考えるのもよくないわね」

「ですね。あまり未来のことを知るのもよくないみたいですし」



 いきなり彼女の前に現れていれば、まったく知らない勢力の莫大な力を持った竜種と、それに劣らない力を持つ人間(あい)の集まりという謎過ぎる存在として警戒されていただろうが、全竜神が話をしておいてくれたおかげでスムーズにリュルレアも竜郎たちを受け入れてくれた。


 そしてこちらのことも未来人だということを知っており、できるだけ自分が知らないほうがいい人間たちということも心得てくれているので、話もしやすい。

 ──が、それでもどうしても気になるものは気になるようで、楓と菖蒲もそうではあるが、竜郎を見ているようで意識はずっとニーナを捉えていた。



「……うぅ、気になりすぎるわね。ちょっといい、お嬢さん?」

「ぎゃう? ニーナのこと?」

「……ニーナ。ますます気になるじゃないの…………」

「あの、詮索はあまりしないでもらえると……」

「分かっているわ、ええ、分かっていますとも。けど、けど、ニーリナお姉さまにあまりに……。ちょっとこっちに来てっ」

「ぎゃう?」



 素早く尻尾でニーナを巻き付け、リュルレアは自分の元へと引き寄せる。

 悪意はないので大丈夫だと思うが、未来の情報を必要以上に与えないと頼まれてる以上、それに触れやしないかと竜郎はヒヤリと背中が冷えた。


 だがニーナを引き寄せると、そのままギュッとぬいぐるみを抱く子供のように抱きしめて、幸せそうな顔でその頭を撫でつけはじめる。



「きゃわいい……、なんて可愛いのこの子。

 ああ、可愛すぎる……。まるで、幼いお姉さまだわ」

「ぎゃう? ぎゃう?」

『えーと……? 特に探りを入れるとかじゃなくて、ただ可愛がりたかっただけっぽい?』

『……みたいだな。軽く調べた限りでも、何か探ろうとしてるわけじゃなくて、ただ抱っこして頭撫でてるだけだ』

『ニーナっちは、超常のドラゴンを引き付けるフェロモンでも出てんすかねぇ』



 エーゲリアとアルムフェイルは、既にニーナに骨抜き状態。

 その座を譲ってくれたニーリナも、憎からず思ってくれていたことは間違いない。

 そして次にリュルレア。彼女も魔王種討伐という仕事が残っているというのに、蕩けそうな顔でニーナを可愛がっていた。

 ただそんな顔をしていても、常に周囲に気を張っているところは、さすがというべきなのかもしれないが。



「「にーねー! にーねーたん!」」

「ニーナ赤ちゃんじゃないんだから、そろそろ放してっ。妹たちが見てるから!」

「ええ? 妹? ……──っ!? えっ!? この子たちって……え!? ええっ!?」

『ん、ニーナちゃんに夢中で気づいてなかったみたい』

『まあ彼女からすれば竜王種よりも、同じ兄弟姉妹ともいえる存在に関係していそうな方が気になるわな、そりゃ』

「かわいいじゃない! あなたたちも、いらっしゃい!」

「「あう?」」

「そっちかいっ!」



 思わず竜郎がそうツッコミを入れたくなるほど、鮮やかに楓と菖蒲も尻尾で攫い、ニーナと一緒に懐に抱きこんだ。

 とはいえ実際これは半分以上やけっぱちと言えばいいのか、気になる心を抑えるために可愛さ成分で誤魔化そうという彼女なりの未来を知りすぎないようにするための防衛方法だったりする。



『まあ、なんかいい人そうだし、魔王種の気配もまだないから、しばらくこのままでもいいんじゃない? たつろー』

『本人たちも、そこまで嫌がってるわけでもないしな』



 ニーナも赤ちゃんのように扱われる自分を楓と菖蒲に見られるのが恥ずかしかっただけで、頭を撫でてもらうこと自体は嫌がっていない。

 であるのなら、この本来ありえない邂逅を、しばし楽しんもらうのも悪くはないだろう。



『けどなんだ……。美味しい魔物なんか出さなくても、ニーナがいれば何の問題もなかったみたいだなぁ』

『ニーナちゃんと一緒にいるってだけで、私たちの印象までよくなってるっぽいしねぇ。

 ニーナちゃんの人気は凄いねぇ。九星の人たち相手なら、ある意味無双できるんじゃない?』

『あははっ、それは言えてるっす!』



 リュルレアはニーリナを特に姉と慕っていた九星でもあり、あの凛々しいお姉さまの可愛い版がいる! ──と、いわばギャップ萌えも発動しているというのもあってのことなのだが、そんなことを知らない竜郎たちからすれば、『九星ってみんなこんな感じなんだなぁ』と思ってしまうのも無理はないだろう。


 結局その後もしばらくニーナに楓、菖蒲は可愛がられ続け、魔王種の話になるまでに、少しばかり時を要したのであった。

次も木曜更新予定です!

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