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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十三章 竜の秘宝編

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第254話 宝の真実

 竜郎たちが黙ってしまっていると、エーゲリアは静かに姉だったかもしれないモノを見つめながら、管理者権限を受け継いだときに得た情報を説明しはじめた。


 それはまだエーゲリアも存在せず、九星すらニーリナ、エアルベル、トリノラ、ウェルスラースの4人しかまだいなかった時代。

 原初の竜セテプエンイフィゲニアは、他種族たちの営みを見守っているうちに、自身も子供を持ちたいと考えた。


 しかしそもそもの話、原初の竜にして最強。個として完成した存在である真竜は、彼女を創造した神からして子を産むという必要性はないと考えられていた。

 よって権能によって生み出す眷属でない『子供』をつくるという能力は、元より備わってはいなかったのだ。


 それは彼女自身も知っていたことだが、それでも我が子というものを母として抱いてみたいと強く願った。

 イフィゲニアはそれから自分の子を産む方法を思案し、ニーリナとエアルベルにも相談しながら研究を続けていく。

 他の2人は真竜の子をつくるという竜たちにとって一大事件を伝えるにはまだ幼かったので、あえて話すことはしなかった。



「当時は私がイシュタルを生み出したときのように、システムやらスキルやらなんてまったくなかった時代だから、本当に一からのスタートだったようね。

 けれどお母さまは研究が好きだったし、時間もたっぷりあったから、それについては苦ではなかったようだけど」



 基本は側近眷属を生み出す創造の魔法をベースにすることが決定した。

 側近眷属を生み出す権能は真竜の本能というのか遺伝子というのか、しっかりと根底に根付いているものなので、手順や方法を守っていれば安定して行える。

 さらに側近眷属は存在的にも他の生み出された竜たちよりも、かなりイフィゲニアに近しい存在なので、今現在もっとも子供というものに近しいとも言えたからだ。



「そしてついに当時の技術では、理論的に成功できるという確証を得られる方法を確立したの」

「けどそれって……」

「ええ、そうねアイちゃん。見ての通りお母さまは失敗したわ。

 実際にさっきその方法の情報も得られたから言ってしまうけど、失敗して当然と言えるほど原因がいくつも見つけられたもの」

「それじゃあ、イフィゲニアさんは無理やり敢行したということですか?」

「いいえ。それはお母さまの時代より進んだ技術に、ちゃんと真竜の子を生み出す方法を理解している私だからこそ、色々なところに失敗した原因があったとしたり顔でいえるだけ。

 当時からしたら、その方法で間違いないと思ってしまってもおかしくない理論ではあったんだもの。

 ほら、今お母さまが眠っている場所を思い出してみてちょうだい?

 あそこも昔はそれでいいと思われていた技術が使われていたでしょう?」

「たしかに……」



 イフィゲニアが世界中の種族のために人柱となった技術にも欠陥があった。

 それを今の技術に置き換え正すために竜郎たちも手伝ったことがあったからこそ、そのエーゲリアの言葉も実感をもって理解することができた。



「私がその方法を見た限りでは、一番の失敗の原因は周囲に隠すためにも、自分たちの力だけを当てにしたことでしょうね」

「んん? つまりどないなことなんどす?」

「普通の人でいうなら近親間での交配に近いかしらね。

 自分の複製ならまだ分かるけど、自分だけを使って自分と違うものを作り出そうとすること自体がそもそも無理だったのよ。

 ……まぁ、それも今だから言えることではあるんだけれど」

「たしか今の正しい方法は、イフィゲニア殿とは関係ない出自を持つ者の竜力が必要だったな」

「そうね。だからその方法なら自分の因子を持たせたうえで、外の因子も組み込めるということになるから、エーゲリアの言う一番の失敗の原因は取り除けたというわけか……。なるほど」



 真竜とは神に創られた完璧な存在。それに下手に手を加えてしまったうえで、無理やり真竜を生み出そうとするようなものだった。

 だから想定と結果が大きく異なり、それは竜の姿すら取ることはできずに終わってしまったのだ。



「そして残ったのはお母さまの因子を持った、お母さまではないナニか。

 意思のようなものはあるようだけど、逆に言ってしまえばそれでしかないからこそ存在するだけで危険だし、もしもまかり間違って妙なやつらが利用する方法を思いついてしまえば我が帝国でも大打撃を被る可能性があるモノでもある。

 だからこそ、本来ならばお母さま自らの手で消滅させるのが一番安全な方法だった。

 けど……また逆に意志のようなものがあると分かってしまったから、お母さまはそれができなかったのでしょうね。優しい人だったから……」



 それはエーゲリアがその立場でも同じことをしたんじゃないか。と竜郎たちは思いながら、そんなこともあって余計にエーゲリアの幼い頃の軌跡も厳重にしまっておいた心情も理解できてしまった。

 同じ場所にしまったのも、そのナニかも同じ子であると、あなたも同じ子なのだと祭壇の上に鎮座するモノに示したかった──というのもあったのかもしれない。



「当然ニーリナもエアルベルも滅すべきとは思ったでしょうけど、あの2人が傷心のお母さまにそれを言えるとも思えない。

 だからこうして厳重に封印するという大仰な方法を取るしかなかった──というわけね」

「けど今のエーゲリアさんの力なら、あそこにある存在を滅することもできるんですか?」

「ええ、できるわね。イドラも権限を受け継いだ今の私の決定には逆らわないようになっているようだし、お母さまもその必要があるのなら、そうしてくれても構わないと映像の中で言っていたわ」

「ならエーゲリア、あなたはどうするの?」

「どうするもなにも、やらないわよ、レーラ。

 だってここまでしてお母さまが守ろうとしたものなんですもの。私がそれをどうこうしようとは全く思えない。

 これからもイドラという最高の守護者に見守られ、封印されながらここにいてもらうだけ。何も変わらない。これからもずっと──ね」



 ここで竜郎はもう1つ気になることが出てきた。それはつい今さっきその名が出たイドラという存在についてだ。



「ここの存在理由についてなんかはエーゲリアさんのおかげで分かりましたが、イドラはどういう存在なんですか?

 マスターとあの子は言ってましたが、そのマスターというのはやはりその?」

「ええ、その祭壇にいるモノがイドラのマスターよ。

 あの子はどうやら、あのモノの側近眷属、私でいうセリュウスたちに近い状態のようだから、あながちマスターというのも間違ってはいないのよね」

「えぇ!? あの状態でも側近眷属を創れるものなの!?」



 他の面々も全く同意見だったが、その中でもレーラが一番大きく驚きの声を上げた。



「もちろん普通はできっこないわよ。でもお母さまは死を覚悟したとき、その後のここが気がかりだったみたいなの。

 自分の封印に加えて、それを守る上級竜の一族だっている。普通はそれで充分だけれど、中にいるのは真竜の因子を持ったモノ。

 外部からの干渉も確かに警戒はしていたけど、内部で万が一何かあったら……みたいにね」

「そりゃまぁ唯一無二の存在で前例すらないんだから、どうなるかなんて確実な予想を立てることなんてできないでしょうね」

「そうなのよ。だからこそ、最後の防波堤を用意することにした。それがイドラ」



 その工程は決して簡単ではなかったが、晩年のイフィゲニアが貯えた全ての知識と技術を総動員し、それを成してみせた。

 まず意思はあるが知能はないので、その部分はイフィゲニアが代行する。側近眷属を創るのに必要な主人の一部を半々で繋ぎ合わせ用意したことで、それをできるようにしたのだ。

 そして側近眷属創造の術理も全てイフィゲニアが調整し創造したことで、イドラという存在がこの世に生まれた。

 だがやはり正規の手段ではなかったので、通常の側近眷属たちとは大きく異なる事象も発生していた。



「まぁそれも、お母さまは織り込み済みである程度都合がいいように制御してみせたようだけどね」



 その事象としてまずあげられるのは二重意思。イドラはイドラであるが、イドラだけでもない。

 イドラはイドラという個が主体となっているが、同時に祭壇に鎮座するナニかの意思とも繋がった存在となっていた。

 だからイドラの目はナニかの目にもなり、彼女が感じた全てが共有される。

 これによってナニかの意思はここにいながらイドラを通して、退屈せずにい続けられるようになっていた。



「ねぇ、お姉ちゃん。あそこにいるのはお姉ちゃんのお姉ちゃんだったかもしれない人なのに、なんでさっきからずっと『ナニか』って言ってるの?

 名前を付けてあげよーよ」

「いいえ、ニーナちゃん。それはできないの。名前を付けるということはあの不安定な存在に輪郭を与えてしまうようなもの。

 可能性は限りなく低いけれど、もしそれが呼び水となって変質した場合、十中八九あそこにいる存在は真竜の因子を持ったとんでもなく強い魔物か魔竜となって暴れ狂うことになる。

 そうなったら私は、お母さまの思いも全て投げ捨て消滅させるしかなくなってしまうの」



 竜郎も気にはなっていたが、ここまでしてナニかを守ろうとし愛したイフィゲニアが、名無しのままにしているのは意味があると思っていたからこそ黙っていたのだ。

 ニーナもその答えに納得して、少し寂しそうに「そっかぁ……」と呟いた。



「話を元に戻すわね。先ほど言った事象としてあげられるもう1つは、存在領域。

 本来はどこにだって行けて存在できるはずの側近眷属だけど、イドラの場合はここ以外では存在を保つことすらできないの。

 けれどその代わりここにいる限り、そうね……たとえセリュウスとアンタレスが揃って全力でここに攻めてきても倒すことはできないでしょうし、防衛に徹された場合傷一つ負わすことはできない。それくらいの力を発揮することができるわ。

 さすがは意思だけとはいえ、真竜の因子を持った存在と繋がっていることだけはあるわよね」

「やっぱりすごいね、イドラちゃんは。喧嘩せずに済んでよかったよ」

「だな」



 それだけの力を持った存在を最終防衛ラインとして設置してはじめてイフィゲニアは安心し、この世を去ったというわけである。



「ちなみに最初の真竜の子の失敗を受けて、神々がそれができるように色々考えてくれた結果、私が安全に生まれることができたのよね。

 だからあそこにいるナニかがいなければ、もしかしたら私もイシュタルも存在しなかったのかもしれないわね」



 子を生み出すことに失敗したイフィゲニアだったが、そこに至るまでの彼女の世界への貢献はすさまじく、それは全ての神々が認めるところ。

 目に見えて元気をなくしたイフィゲニアを心配した全竜神が他の神々も巻き込んで、彼女の功績にこたえるためにも何とかできないか考え出したのだ。



「もっと早くそれをしてくれれば、悲しい思いもしなかったと思うのだがな……」

「神様たちは世界の維持に関すること以外では、基本的に傍観するのが当たり前だから。

 それにお母さまのことだから、自分が子供を作る方法を考えつくところも含めて、子供を産むことだと考えていたのでしょうね。

 まぁ、それに成功してしまっていたら私も産まれず今の未来にもつながらなかったでしょうし、そこで失敗することも含めて世界の意思だったのかもしれないわ。

 ……これは想像でしかないけどね」



 真竜の子を生み出す方法が確立された今でも、竜郎たちがいなければかなり大変な労力を要することになる。

 イフィゲニアの時代に竜郎たちはいないので、1人子供を作ったら2人目も──となるとは考えにくい。

 そうなった未来が神々にとってよくないものであったのなら、世界の維持を優先して何も言わなかったというのもあり得るのかもしれないと、竜郎もぼんやりと思い至った。

 あえて神に聞こうとは思わなかったが。



「ってことで秘宝探索小旅行はこれでおしまい。レーラ、あなたも満足できたかしら?」

「ええ、ありがとう、エーゲリア。この世界に残された大きな謎の1つを解決できて、とてもすっきりできたわ」

「このことを資料に残したり、周りに言ってはだめよ?」

「そのくらいちゃんと分かっているから安心してよ。

 このお礼というわけじゃないけれど、今度地球で手に入れた面白いお土産をたくさん持って遊びに行くわ」

「あら、異世界のお土産? ふふっ、今から楽しみね」

「ニーナもお土産買ってきてるよ!」

「ほんと! それはすっごく楽しみね!」

「私と対応が違いすぎるのが気になるけれど……、まぁいいわ。今はとっても清々しい気分だし」

「そうね。私もこれを知れて良かったと思っているわ。それじゃあ、ここから出ましょうか」



 エーゲリアはそう言うとまず竜郎たちを先に行かせ、自分は少し遅れてその後に続こうと歩き出し振り返った。



「今度はあなたの姪だったかもしれない子も連れてくるわ、楽しみにしてて。

 ……それじゃあ、またね、お姉さま」



 そう言い残し、今度こそエーゲリアはその場を後にするのであった。

木曜更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石の真竜も結構失敗してるんですね(´ω`)当時にリアがいれば どうでも良いことを書くと 偉い人「名前とはその物を指す記号のことだ」って言うので「ナニか」って名前で固定されるんじゃないか…
[一言] どうするのか分かっている。 けれど何も言わない。 きっと思いは通じてるから。
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