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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第八章 ジャングル迷宮編

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第135話 先に進もう

ラガビエンタというジャングルは、元ダンジョンが幽霊のような存在となって作り上げた空間だという玉藻の話。

 今までただ何ものかも分からない不気味な存在を相手にしていたときよりは、幾分か気持ち悪さは軽減した。



「成仏できるかもしれないか……。それならいっそ、レティコル探しは一度棚に置いて、ここの攻略に集中するのもありな気がしてきたな」

「もし成仏してくれるなら、先にやってみたほうが、のちのち楽になる気もするしね」

「ヒヒーーン」



 ラガビエンタの調査からレティコル探し、そしてダンジョンモドキの攻略と目的が何度もずれてしまっているようにも思えるが、どこにいるのかも分からないレティコルを保護しながら突き進むのは労力が高すぎた。

 できないわけではないだろうが、ひたすらそれをやるのは精神への苦行ともいえよう。


 であるのなら、さっさとここを正常な状態に戻してから、のんびりと普通のジャングルを捜索したほうがずっと簡単。

 そちらのほうが、むしろ捜索時間も短くなる可能性すらある。



「とはいってもー、ダンジョンの個がいなくなったところでー、完全にただのジャングルになるかどうかはー、微妙なところですけどねー」

「そうなの? あ、もしかしてこの結界のせいかな♪」

「はいー。それもありますねー。けれどそれをなくしたところでー、空間への後遺症のようなものはー、普通のダンジョン跡地よりも顕著に残ってしまうでしょうねー」

「ぐうかんへのごういしょう?」

「もともと取りづらい汚れを、わざと染み込ませるようなことをしてしまったわけですからねー。

 今更結界をなくしたところでー、大した意味はないでしょー」



 ここでも結界が裏目に出てしまうのかと、竜郎はため息をつきたくなる。



「……それじゃあ、もし成仏させることができてもこの場は変わらないのか?」

「そういうことでもありませんねー。ダンジョンとしての形を保っているのはー、やはり私の元同僚ですー。

 その要がいなくなってしまえば、今のように階層という概念はなくなりー、全てが1つに混じりあうような場所にー統合されるでしょーねー。

 少なくともーコロコロ場所が変わるようなことはー、なくなるはずですー。

 空間への後遺症でー、勝手に発動してしまう場所は残ってしまうかもしれませんがー」

「それでも今の状態よりもマシになりそうだね。魔物とかはどうなると思う? 玉藻ちゃん」

「そーですねー。今のように、大量に出現することはなくなるでしょー。

 全滅させてしまえばー、階層が変わることもー、意図的に増殖するわけでもなくなるのでー」



 それでもここの場合、ダンジョン用の魔物だった存在が勝手に生成される確率は普通のダンジョン跡地よりも高いらしい。

 それはこの大陸で暮らす人々にとっては脅威になりそうではあるが、ダンジョンのようにポコポコと出てくるわけでもないので面倒も少ないはずだ。

 寄り集まるから面倒なだけで、少数ずつなら妖精たちでもなんとかできるだろう。



「ならやっぱり、先に攻略してしまったほうが楽にはなりそうだ。

 可能な限りジャングルの火災は食い止めていく方針は変らないが、積極的に攻略していくという方向で動いていったほうがいいと思う。皆はどう思う?」

「私も、たつろーと同じかな」



 愛衣を筆頭に他の面々も同時に複数のことをこなしていくよりも、1つに絞ってやったほうが結果的に早く終わるだろうと、竜郎の意見に賛同した。




 それからは破竹の勢いで快進撃を進めていく。

 レティコル探しを切り捨て階層を進めることを優先した結果、どんどんと黄緑色の石を発見しては強化されていく魔物の猛攻を退ける。


 そして──実に39個もの石を発見し続けていった先で、ようやく最後が近づいてきたような雰囲気を感じることができた。



「わお~♪ これを見るとダンジョンって感じがするね♪」



 竜郎たちがいる場所を中心して、六角形を描くように等間隔に並ぶ強力な魔物が6体。

 それぞれの特徴としては──。

 炎を身にまとい、燃えて炭化しているようにしか見えない巨大な黒い木の魔物。

 漆黒の翼と氷の鎧をまとった、二本足で立つ黒い豚の悪魔の魔物。

 肥大化した胸鰭を羽ばたかせて、雷光をまとう青いナマズのような魔物。

 竜巻の中心で、苔むした岩が浮遊し寄り集まって人型をなしているゴーレムの魔物。

 光輝く体毛を持ち、モヒカンのように半円形の刃をはやした巨大ネズミの魔物。

 緑色の甲羅を持つ、巨大なアンモナイトのような魔物。

 ──となっている。



「いかにもボス戦って感じがするからね」

「けれどー、属性がバラバラすぎますー。これをボスとして用意するとなるとー、レベル10ダンジョンでも無理なはずですー。

 死因も推して知るべしとー、言ったところでしょうかー」

「使い込みすぎて自己破産──みたいなもんで死んでいたとなると、ここの元ダンジョンの個はちょっとア──いや、これ以上はやめておくか……」



 アホということになる。そう言おうとした口を、黙って閉じた。故人と言っていいのか分からないが、死んだ人を悪く言うのは気が引けたのだ。


 だがその可能性が一番高いようにも感じられた。

 なぜなら、ここまでの道中も進んでいくほどに敵の属性が増えていき、竜郎たちだからこそ、その全てに対応できたものの、多種多様な属性と技を持つ魔物たちの波状攻撃など他の団体からしたら悪夢でしかない。


 どれほど消費エネルギーをやりくりしたところで、どうにかなるようなものではない。



「ますたー。ごれから、どーする?」

「ここまで来たら、全部倒していくぞ。おそらく、その線を越えたら戦闘開始だろう。

 ダンジョンでいう扉の代わりなのかもしれない」



 足元を見ると、不自然に薄く発光する線で描かれた円の中に竜郎たちは立っている。

 魔物たちは竜郎たちが見えていないかのように、黙ってじっと立ちすくんでいた。


 向こうから仕掛けてくる気配はないが、前に一歩踏み出すと魔物からの圧が増していくように感じる。

 その線を踏み越えたら戦闘開始という、ダンジョンモドキのルールを順守しているのだろう。



「ねえ、たつろー。1体ずつってわけじゃないよね、これって」

「全員戦う気満々みたいだし、多方面での戦闘になるだろうな。とは言っても、勝てない相手ではなさそうなわけだが……」



 そこで竜郎はチラリと、ジャンヌの手のひらの上で守られている玉藻へと視線を向ける。

 目ざとく気が付いた玉藻は、何が言いたいのかそれだけで理解した。



「あまりあっさり勝ちすぎてもー、それはそれで作り手側からしたらガッカリすると思いますよー」

「だよなぁ」



 最後に一花咲かせて見送ってあげようと頑張ってきたのに、あっさり勝っては未練が残るかもしれない。

 けれど手を抜いているのが相手に伝わっても、それはそれで腹立たしいものもあるかもしれない。



「ってことで、なにかいいところを見せてもらってから決着をつけよう。珍しそうな魔物ばかりだし、できるだけ素材を残しておいてもらえると助かる」

「まー、そうなるよねー♪ キヨコさん、奇形はなしっぽいよ」

「キィー……」



 残念そうに清子さんは下を向くが、この子の遺伝子情報の書き換えは復元魔法にも適用されてしまうので、元の状態に戻すのが難しくなってしまう。その手は我慢してもらうしかない。



「楓と菖蒲は引き続きジャンヌに頼むとし──いや、俺がバックアップするから戦ってみるか?」

「「うー?」」



 まだ言葉の意味がよく分からず、楓と菖蒲はそろって首をかしげる。ジャンヌは気を使って、楓と菖蒲が竜郎と話しやすいようにと手の平を下におろした。

 それを見つめながら、横にいた愛衣が意外そうな顔をする。



「いいの? たつろー」

「道中でもそのポテンシャルは見せてもらったし、ここいらでいっちょ大物を狩っておくのもいい経験になるんじゃないか?

 正直、日増しに戦闘意欲が増していっている気がするから、血の気をここで下げておいてもって思惑もあるが」

「あー、ヴィータくんとかソフィアちゃんとか、他の竜王種の子たちは定期的に狩りをしてるけど、この子たちはあんましてないしね。

 やたらと戦いたがるのは、その辺が影響してるのかも。

 なら私も他の魔物が横入りしてこないように、後ろで護衛に回ろうかな。けど、それだと過保護すぎるかな? 私は他のとこに行ったほうがいい?」

「そのぶん、キータが、がんばるから、だいじょうぶ」



 キー太もチマチマとした戦闘ばかりで、そろそろ大味な戦いを欲していたところだったようだ。

 やる気満々で、魔物たちに視線を向ける。



「2人はどうだ? 戦ってみたいか? こう──バンバンってな」

「「うっうー!」」

「こっちも、やる気満々みたいですねー」



 眷属のパスを使ってイメージを伝えると、ちゃんとその言葉の意味も理解する。

 楓と菖蒲はでっかく適度に手ごたえがありそうな存在と、はじめてちゃんと戦えるとあって、万歳しながらジャンヌの手の上でピョンピョン跳ね回った。



「それじゃあ、2人はどれがいいのかな♪ 先に選んでいいよ♪」

「キータも、ぞれでいい」

「だってさ。どれがいい?」

「「うー………………あうっ!」」



 ある程度性格の違いも出てきてはいるが、それでもいつも一緒にいる2人。

 ほとんど同時に、黒い豚の悪魔を指さした。



「じゃあ、次はキータくんが決めていいよ♪」

「なら、あのいわのやつがいい。かぜもづかえるみたいだから、ましょうめんから、ぐいやぶりだい」

「キヨコさんたちは、どれがいい? フローラちゃんは、お魚料理がしたいなって思うんだけど?」



 巨大な空飛ぶナマズの魔物に、食材を見るような視線を向けるフローラ。

 清子さん、ウル太、ヒポ子はどれでもいいようなので、フローラの担当も決まった。



「ヒヒーン?」

「ジャンヌは片手で玉藻を守りながらでも、戦えるか?」

「ヒヒン!」



 もちろんと竜郎へ頷き返しながら、ジャンヌは黒い木の魔物を指さし指名した。



「ウサ子は戦闘には加わらず、危ないところがあったら自分の判断で援護に動いてくれ。できるか?」

「キュッ!」



 もとより戦闘を好むタイプでもないので、ウサ子はそれで構わないと頭を上下に振る。



「あとはあの巨大ネズミとアンモナイトみたいなやつだけだが、それでいいか?」

「キィィイィィ」「ヴァフ!」「ズモモ~」



 3対2では、ただでさえオーバーキルなのにいいのだろうかという考えがよぎるが、それで他に分散したところで大して変らない。

 ジャンヌも1人でできると言っているのだから、ここでサポートをつけるのもはばかられる。

 そんな考えから、巨大ネズミとアンモナイトには悪いが3体を同時に当てることにした。



「それじゃあ、楓と菖蒲にはこれも渡しておこう。好きなのを取っていいぞ」



 竜郎が近接用にと小さな子でも持てるサイズの武器を取り出し、2人に選ばせてみた。

 楓と菖蒲もどういう意味か眷属のパスを使わずとも理解し、おのおのどれがいいか見定めていく。

 そして──。



「うーう!」

「うー……あぅ!」



 楓が迷わず短槍を手に取ったので菖蒲もそうしようかと一瞬手を伸ばすが、やっぱりとこれと小さなナイフと盾を手に持った。

 2人は弓を矢筒と一緒に背中に回し、近接武器を両手に持ってランランと闘志を燃やしながら自分の敵に視線を向けた。


 そうこうしている間に、他のメンバーも自分の向かう方角を向いて準備を整え終わる。



「それじゃあ、ラスボス退治といこうか」

「成仏してくれるといいなぁ」

次話は水曜更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思いつく限りのアイデア全部盛りしてレギュレーションぶっちしちゃったんですねぇ こりゃある意味反則なメンバーでないと攻略できない訳ですな そして楓と菖蒲の今回の使用武器は分かれましたか プテ…
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