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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第七章 おつかい編

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第111話 おつかいイベント開始

「でかい領地をもらった上に町まで作るたぁ、もう訳が分からねぇな」



 話すべきではないことは省いたが、竜郎たちが町を一つ作ろうとしているというのを聞いたころには、ゼンドーの脳内は突拍子もない情報を前に白旗を上げた。


 それと同時に出会った頃はなにも知らない、お坊ちゃん、お嬢ちゃんだった2人が、ここまでたくましく生きていることを嬉しくも思った。



「作るといってもほとんど国にというか、王様たちに丸投げするだけなんですけどね」

「丸投げする相手が、おかしいだろうが……。カサピスティと言ったら、こんな他国の小さな田舎町に住んでるジジイや子供だって知ってるレベルの大国じゃねーか」

「へー、そんなすごい国だったんだねぇ」

「知らねぇやつもいたみたいだな……」



 相変わらず知らないことは多いくせに滅茶苦茶なやつらだと、細かいことはそれほど気にしないゼンドーですら苦笑するしかない。



「ですが面白い町になりそうなので、いつになるかはまだ未定ですが、できたら遊びに来てくださいよ」

「遊びにって言ってもなぁ。あそこまでどんだけ距離があると思ってんだ。さすがに無理ってもんだ」

「移動手段なら気にしないでいいよ、おじいちゃん。空から行けばすぐに着いちゃうから」

「ああ、タツロウたちはそうやって世界中ぐるぐる回ってるんだったか。

 そうさなぁ、死ぬ前に一度くらいはダチが作った町ってのを見てみるのも悪くねーか。

 分かった。そのときは、よろしく頼む」

「ええ、まかせてください」「うん。頼まれた!」



 竜郎と愛衣、そしてゼンドーは、以前とは違い、確実に会うことを前提にした約束の握手を交わし、再びそれぞれの日常へと帰っていくのだった。




 ゼンドーと別れた竜郎たちは、レーラが一度見に行ってみたいと言うので、その足で今度は冒険者ギルドに向かった。


 相変わらず武骨な石造りの建物に、レーラを先頭にして入っていく。

 レーラは見知った──といっても前よりも年老いた職員に声をかけ、久しぶりだと挨拶を交わしはじめたところで、竜郎たちは適当に今出てる依頼を確認することに。



「依頼を見る限り、私たちが出て行ったあとから無事、もとの普通の町に戻れてるみたいだね」

「まあ、あれからしばらくベテラン冒険者の人たちも残ってくれてたみたいだしな」



 この町には危険な森が近くにあるのだが、基本的に近づかなければ問題はない。

 けれど竜郎たちがここにきたときは、ちょうどその常識が崩れてしまっていた時期だった。


 なので今もまだ常人が持てあましそうな依頼があるなら、久しぶりに普通の冒険者らしく依頼を消化していこうとも思っていたのだが、すでに常識的な範囲内の実力者でも十分こなせるものばかりになっていた。



「これなら兄さんたちが話していた、あのおばあさんの息子さん──エルウィン・ディカードさんでしたっけ?

 ある程度実力があるなら、ここを出ていったほうが稼ぎもいいでしょうし、故郷を離れるのも頷けますね」

「少なくとも、ここの依頼をこなしていてもランクはもらえないだろうからなぁ」



 会えるかどうかは知らないが、竜郎たちとも少しだけ縁のある冒険者に思いを巡らせていると、レーラが戻ってきた。



「話は終わったわ。なにかいい依頼はあったかしら?」

「いんや、なんもなかったよ」

「そう──、ならもう帰りましょうか」

「……ん? レーラちゃん、ちょっと元気ない?」

「あら? ニーナちゃんは目ざといのね。けれど分かっていたことだから、気にしないで。この年になると、よくあることだしね」



 彼女がいた頃、ここのギルド長をしていた、かなり高齢の老人がいた。

 レーラは彼が子供のころから知っていて、少なからず縁のある人間だった。

 けれど当然のごとく寄る年波には勝てず、その彼は既に他界していたことを先ほど聞かされたのだ。


 万の時を生きる彼女からしたら、友や知人が死んだ──、死んでいた──なんてことはよくあることだが、それでもやはり何度味わっても寂しいものなのだろう。

 今のレーラの表情は、少しだけ愁いを帯びていた。


 本人が気にするなというのなら、無理に聞き出すのも野暮だろう。

 竜郎たちはあえてそこから聞くことはせず、冒険者ギルドから、そしてオブスルからも出て行った。




 翌日。さっそく竜郎たちは、昨日頼まれた等級神からのお使いをこなすべく、レーラの記憶を頼りに257年前まで転移した。

 竜郎を含め、一緒にやってきたのはオブスルに行ったメンバーと同じメンツ。


 この頃のレーラは別の大陸にいたが、それほど遠くもなかったのですぐに目的地であるセルパイク大陸の雷山までたどり着く。

 そこは大陸の北西部を縁取るようにそびえる長い山脈の一部。


 雷山内にはいないが、この山脈内にはいくつかの山岳民族がちらほらと暮らしているのだそう。

 ただ雷山になると危険な魔物も大勢いるので、基本的に現地民は近寄ろうともしないので、人目を気にせず作業ができる。



「地球でいう手持ち花火がそこら中にあるみたいに見えますね、姉さん」

「ねー。バチバチしてて、ちょっと綺麗かも」



 かなり深く雷山化している影響で、地面に転がる小さな小石に至るまでバチバチと火花のように放電していた。


 草木は完全に雷化し、雷がそのまま木や草の形をしたように変化して、なんの魔法抵抗がないものが触ってしまえば感電死しかねない。

 そして当然のように、全てが周囲に放電している。一般人ではここに踏み入るだけで、危険が付きまとうことになるだろう。



「うー? あうっ!? うー!」

「うっうー!」

「この子たちは、まったく問題ないようね」



 レーラの視線の先では、パチパチと火花を散らす草を引っこ抜いては手に持って振り回し、目をキラキラとさせて遊んでいる楓と菖蒲の姿があった。

 さすがに、今のこの子たちでも雷山の草木が持つ雷程度ではダメージは通らないようだ。



「カルディナちゃん。属性物質とかいうのが、どこにあるかもう分かった?」

「ピューィ」



 その一方で地中に探査を飛ばしているカルディナに、ニーナが質問をしていたが、問いかけられた彼女はこの辺りにはないと首を振った。



「ならもう少し奥か。……ん?」

「どったん? たつろー」

「いや、その……なんだ? この、うじゃうじゃした反応は」



 地中の探索はカルディナに任せ、竜郎は周辺に探査を飛ばして、もう一つの目的でもある小妖精を探していた──のだが、何かの魔物が一か所に大量に集まっているのを発見した。


 なんだろうと気になったので皆で直接見てみようと確かめに行ってみれば、そこには雷を周囲に放つ1メートル近い巨大ネズミが大繁殖しており、その周辺を埋め尽くしていた。

 雷属性の影響か体毛は刺々しく逆立ち、ハリネズミのようになっている。



「なんじゃこりゃ」

「あのサイズのネズミがうじゃうじゃいると、絵面的にキモイね」

「ニーナが吹き飛ばそーか?」

「いえ、ニーナさん。ちょっと待ってください」



 ニーナが小さなサイズのまま、口をパカッとあけていつでも一掃できるように構えていたら、突如リアから待ったがかかった。

 興味をそそられたレーラが、すぐにどうしたのかリアに問いかける。



「あのネズミに何かあるの?」

「なにかあるというかですね、レーラさん。あれ、兄さんが探そうといっていたパルミネの亜種……のさらに上位種みたいですよ」

「……パルミネ? って、魔物だけが美味しいって感じるあのパルミネか?」

「ええ、サイズも形もだいぶ変わってしまっていますが、この山の特殊な力場の中で進化した個体ってところでしょうね」

「ちなみに、あれも魔物は美味しいと思うのかしら? リアちゃん」

「えっと……、原種のパルミネには劣るようですが、あれでも十分魔物にとっては魅力的な食材ではあると思います。

 しかしながら群れているうえに原種よりもかなり強いので、あれを食べられる魔物はそれなりの力がなければ、逆に捕食される側に回ることになるでしょうね」



 以前、竜郎たちがみたパルミネという魔物と比べて、たしかに目つきも鋭く、バチバチと放電する上下の前歯も頑丈そうだ。

 とてもではないが、食物連鎖の最下層に位置する魔物を元とする魔物とは思えない力量を携えていた。



「もしかしてアレが、今回小妖精ちゃんたちを食べちゃってる魔物なのかな?」

「いえ……たぶん違うと思いますよ、姉さん。いざとなったら小妖精なら空が飛べますし、この辺にいるということは雷属性に適応した人たちです。

 けれどあのパルミネ上位亜種は空を飛べませんし、遠距離への攻撃は雷系統のスキルしか持ち合わせていません。

 全滅の恐れがあるほどの難敵とはならないはずです」

「ならハズレかぁ。残念」

「だが、愛衣。別の意味では当たりだぞ。ただの亜種で雷属性ならパルミネからでも魔卵は作れるが、その上位種となるとできないだろうからな。

 聞かなくてもこの光景を見れば想像は付くが、繁殖力のほうはどんな感じなんだ? リア」

「非常に旺盛。雌雄を1対持ち帰るだけで、わんさか増えてくれること請け合いです」



 なら1対だけ連れて帰ろうということで、サクッと群れに割って入って1対だけテイムして戻ってきた。

 他は威圧をかけたら蜘蛛の子を散らすようにして逃げていったので、目の前にはもういない。


 そんな何もないパルミネ上位亜種が去っていくのを見ていたレーラが、ポツリとリアに呟いた。



「ねえ、リアちゃん。上位亜種なら頑張れば人間でも食べられるようになると思う? なんなら私と未知の味を求めて一緒に研究してみない?」

「ごめんなさい」



 昔、美人補正もマイナス直下するほど吐き散らかしながら、研究のために食べたと言っていたのに、まだ懲りてないのかとリアは能面のような無表情で「私をかかわらせないでバリア」を張った。


 それに対して、レーラは「そう──」と少し残念そうな顔をするのだった。




 思わぬところで有用そうな魔物が手に入ったとルンルン気分で竜郎は小妖精を、カルディナは属性物質を探していく。



「ピユィーー」



 カルディナが先に目的のものを発見したようだ。



「お、見つけてくれたか。ありがとな」

「ピィュピュィー♪」



 竜郎がお礼を言いながらカルディナの頭をなでると、そのまま地面を魔法で掘っていく。



「なんかピカピカしたのが見えてきたよ、パパー」

「あれが今回の第一の目的で間違いなさそうだな」



 数時間くらいなら取り出しても山には影響がないとリアが断言してくれたので、遠慮なく魔法で引きずり出していく。


 目の前に現れたのは、一言で言い表すのなら、8メートル近くはあろう黄色い水晶。

 放電はしていないが常に周囲に強力な雷属性の膜を覆っており、さすがにこれは今の楓や菖蒲では触れば手が痛いだろうというほどだ。


 「なにあのキラキラー!」とばかりに、また目を輝かせて駆け寄りそうになるのを愛衣とニーナが片方ずつ抱っこして止めてくれた。


 その間にリアが《万象解識眼》で、詳しい情報を集めていく。



「うーん……どうやらこれは、雷属性の精神体と雷属性の魔物の混合物といったところでしょうか」

「混合物? 具体的にはどんなものかは分かる? リアちゃん」

「ええ、経緯までは分かりませんが──」



 その昔、ここには2体の強力な魔物がいた。片や精神体、片や獣型。

 そしてその2体は争いの果てに、獣型が精神体を食らったことで勝利した──かに思えたが、それまでの戦いで負ったダメージによって結局、獣型もこと切れた。


 だがその獣の死体は精神体の影響で、他の何者も触れぬほどの放電をし続ける。

 そのせいで死肉を他の魔物にあさられることもなく腐り溶けていき、精神体のエネルギーと死肉が混ざり合い結晶化。


 それが長い長い月日とともに地中に埋まっていき、ちょうど山に影響を与えてしまう場所に嵌まってしまう。

 これが、この場所の雷山化の原因である。


 リアは上記の内容に近いようなことを、憶測も交えて説明していった。



「こんな形になってまで残るほどの魔物なら、さぞ強かったんだろうな。

 さて、等級神の話によればここから4分の1くらいを回収するってことらしいが、その前に」



 竜郎は一度、自分の《無限アイテムフィールド》にそれを収納すると、その機能を使って属性物質を複製。

 合計2個になったところで、原本のほうをとりだし元の場所に置いた。


 これで竜郎は一部どころか、まるまる1つ素材を入手したことになる。



「まあ、一部のほうも貰ってくんだけどな。んで、あとは切り取るだけなんだが、どうやって切り取ろうか」

「私がやろうか? 最近、あんまり剣を振り回してない気がするし」

「なら頼むよ、愛衣」

「はいよー」



 愛衣は《アイテムボックス》から極彩色に輝く宝石でできた大剣を構えると、その巨大な物質に向かって斬撃を縦に飛ばしていく。


 生半可な攻撃なら表面を覆う雷の膜に弾かれ、そこを越えたとしても中の鉱物には傷を負わすこともかなわないのだが、愛衣のそれは薄紙を切り裂くように容易く約4分の1程の場所に綺麗な縦線を入れた。


 あまりにも見事すぎたせいで、物質が切られたことを理解していないかのように、切り取られた部分はそのまま微動だにせず、くっついたままである。


 けれど竜郎が風魔法で少し風を当ててみれば、ぱたんと属性物質の一部が横に倒れた。

 それを改めて《無限アイテムフィールド》で回収すれば、綺麗な断面とともに以前の4分の3ほどの大きさとなった属性物質だけがそこに残った。



「よし、これで一つ目のお使いはクリアだ」



 そうして残ったものを、綺麗に元の場所に埋めなおすのであった。

次話は金曜更新です。

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