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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第七章 おつかい編

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第110話 ゼンドーとの再会

 竜郎のシステムに入っているマップ機能は、最大限まで拡張したことで《完全探索マップ》という最高峰の能力を持っている。

 けれど今回の場合、ヤメイトという男の存在は知っているが、37年経った後の彼を竜郎が想像できず個人を指定した探索ができなかった。


 だからこそ今回はあっちこっちうろつく羽目になっていたのだが、なんと今回は神様がわざわざ一個人の居場所を特定するのに手を貸してくれるという。


 神様通信が入ったことを身振りだけで皆に伝えると、そのまま竜郎にとってこの世界での後見神でもある等級神との会話に集中していく。



(ありがたい話なんだが、急にどうしたんだ? 等級神。人一人探すのに神様がいちいち手を貸してもいいのか?)

『ちょうど頼みたいことができたときに、ちょうどタツロウたちが困っているようじゃったからのう。世界力の安定のためならば、それくらい問題ない。

 それにタツロウたちも、儂らに貸しを作っておいたほうがいいじゃろう?』

(まあ、な)



 地球からこの世界に人を呼ぶ場合、少なからず神々の調整が必要となってくる。

 竜郎や愛衣はこちらの世界のせいでやってきてしまったので勝手にやってくれたみたいだが、当然ながら好き勝手に地球人を呼び寄せる許可はおりない。


 そして迷惑料や帰界のときに行った世界力の調整作業でより世界の安定をはかれるようになった報酬もかねて、竜郎か愛衣の血縁者限定で、5人までならいいと許可された。

 なので両親たちは、5枠のうち4枠を使って呼ぶことができた。


 この先、竜郎も愛衣も大人になり、結婚をしたら子供も欲しい。子供が成長したら、この異世界にも連れてきてあげたい。

 けれど今のところ2人は子供が欲しいねと話し合っているのに、それでは残り1枠足りない。

 ならばどうやって枠を増やすのか──、それは神たちからの依頼をこなしていき、貸しを積み重ねていくこと。


 どうやら今回の報酬は枠を増やすための貸しの積み立てのおまけとして、なんか困ってるから教えてあげようという等級神なりの気遣いらしい。

 


(けど内容にもよるぞ? さすがに、もう命がけの戦いはこりごりだ)

『前にも言ったと思うが、そのあたりはわきまえておる。

 それに今はだいぶ安定しておるから、今のお主たちが命を懸けねばならないような化け物が出てくることもないはずじゃ』

(ならいいんだけどさ。具体的な内容を聞いてもいいか?)

『うむ。実は今、儂らはお主たちのときのようなことが二度と起きぬよう、もう一度、無尽蔵にわき続ける大量の世界力の調整を見直している最中なのじゃ。

 それにより今までは無視してもよいと考えていた、小さなよどみにも手を出してはどうかということになった。

 その第一のモデルケースとして、今から約257年前までさかのぼり、とある雷山らいざんで雷山化する原因となっている物質の一部回収と、その周辺に暮らす小妖精たちの救助をしてほしい』



 雷山とは山のような隆起した場所に見られる、世界力の流れがいくつも交差している特殊な場所に、強い雷の属性の力を宿した物質が嵌まってしまうことで、山全体が雷の属性に変化してできあがる、この世界特有の現象である。


 ちなみに属性違いの別の場所も存在し、竜郎たちもこれまで炎山、風山に行ったことがある。

 それどころか風山に至っては、カルディナ城のある領地に一つ人工的に作った場所があったりもする。

 現在はかなり風山化が進み、風山独自の魔物が生まれつつある。



(雷山になる要因となった物質か。ぜひ欲しいな)

『そういうと思っておったわい』

(そういう強力な属性物質は素材としても一級品だからな。リアもきっと喜ぶはずだ。

 けどそれはいいが、小妖精の救助っていうのはなんだ?

 過去に行って命を救うってのは、だいぶ因果を捻じ曲げる?とでもいえばいいのか、変えてしまうことになりそうだが)

『そのあたりも当然、こちらも織り込み済みじゃから問題ない。

 逆にそこで小妖精たちを助け暮らしてもらうことで、より安定化が図れると見込んでおるからのう』

(なるほど。見殺しにするより気分はいいし、こっちはそれで異存はない。

 ちなみに何から守るんだ? 程よい強さの魔竜とかだと嬉しいんだが)

『さすがに竜は出てこんわい。まだお主たちが出会ったことのない種じゃが、せいぜい一般人にとっては脅威を感じる程度の魔物じゃ。

 お主たちがどれだけ慢心しようとも、傷一つ負わせられんだろうて。

 しかし、それがいたずらに小妖精たちを食い散らかしたせいで、自浄作用も滞ってしまったようじゃのう』



 妖精は魔力だけの存在でもある精神体と非常に似通っている生命体。

 それゆえに大気中の力を吸収することで体をより安定させられるので、いるだけでほんの少しだが世界力安定に役立ってくれる。

 等級神曰く、そこで小妖精たちを救ってしまえば、竜郎たちがへたに手を出さなくても十年程度で安定するようになるのだそう。



(おおよそやることは理解した。いちおう皆と相談するが、たぶんやることになると思う)



 一度会話を切って、愛衣たちにも相談を持ち掛けてみれば、皆あっさりと首を縦に振ってくれた。



(ってことで了解した。詳しい場所を教えてくれ)

『うむ。雷山の場所は──』



 場所は今いるイルファン大陸より南東にある、すぐ隣のセルパイク大陸。

 そのセルパイク大陸のイルファン大陸側の海に面している場所にある山々の一部が雷山化しているのだとか。



『では、よろしく頼む』

(ああ、任せておいてくれ)



 おおよその詳しい場所まで聞けたところで、会話を完全に切った。



「新しい強力な雷の属性物質が手に入る上に、ヤメイトさんの居場所まで知れるなんて神様様ですね」

「神様様って変な感じだけどねぇ。そんでいつ行く? このメンバーなら余裕で行けるっしょ」

「過去に行くために必要な記憶も、レーラさんがいるしな」

「ええ、そこは任せてちょうだい」

「ピュイィー!」



 カルディナも「探し物なら私に任せて!」と、張り切ってくれている。

 楓と菖蒲も、カルディナのまねをしてピィピィ言って元気そうだ。


 戦力的にも竜郎、愛衣、カルディナ、レーラ、ニーナと戦闘を得意とする強力なメンバーがそろっているので、もしものときの楓や菖蒲の護衛に関しても不安はない。

 リアとて鍛冶師でありながらスキルや魔道具を駆使すれば、竜郎たちと並びたてるほどには強い。

 そこいらの魔物相手に後れを取るなど、あり得ないだろう。


 物資に関しても竜郎の《無限アイテムフィールド》に何でもかんでも突っ込んであるので、困ることもないはずだ。



「けどまあ、先にゼンドーさんに挨拶してから行くとしよう。

 今日もう一度訪ねるからって、おばあさんに言っちゃってるしな」

「それもそうだね」



 探索も短時間で終わってしまったのでまだ時間はあるが、257年前からまたこの時代に帰還するさい時間がずれて翌日になっていた──となっては申し訳ない。

 今日はひとまず、ゼンドーに会うことを優先することにした。



「ねえ、パパ。ところで神様がヤメイトって人の居場所を教えてくれるってことは、生きてるってことでいいんだよね?」

「それでいいとおもうぞ、ニーナ。ここがヤメイトの居場所──そう、墓じゃ! なんて意地の悪いことをする神でもないからな。

 死んでるならそもそも、そんな提案もしてこないだろうさ」

「それじゃあ、今どこにいるんだろうね、あのおっちゃんは。私たちが渡したお金で今も遊んでるのかなぁ」

「大過なく節約しながら暮らしてれば40年くらいは、それだけで生きていけそうだが、どうなんだろうな」

「あの人の性格ならパーっと使ってしまって、どこかでその日暮らしの生活をしてるってのも十分あり得そうだけれどね。

 下級鍛冶師としてみれば器用で腕も確かだったし、大金は稼げなくても職にあぶれるってことはないでしょうし」



 竜郎たちよりも彼と付き合いが長かったレーラであっても、とっくの昔に使い切ってそうと評されてしまう。

 一体今どのような暮らしをしているのか、ますます謎が深まるばかりであった。




 ヤメイトの家に鍵をかけて外に出て、しばらくオブスル内をさまよって時間をつぶしてから、改めてゼンドーの家の前までやってきた竜郎たち。

 今度は躊躇することなく家の扉をノックすると、ドシドシという大きな足音が耳に届く。



「タツロウ! アイ! 久しぶりだなぁ!!」

「ゼンドーさん!」「おじいちゃん!」



 扉を開けてこちらの顔を見るなり、竜郎と愛衣の名前を叫ぶおじいさん。

 竜郎たちと別れたときと比べ、体つきがやや細くなり顔のシワも増えてはいるが、それでもガハハと豪快に笑った時の力強さは変わっていない。

 この人こそ、はじめて異世界で優しくしてくれたゼンドー・バウリンに間違いないと、竜郎も愛衣もすぐに分かった。


 3人は同時に笑みを浮かべ、喜びを分かち合った。



「そっちのトリも前と色が違う気がするが、元気そうじゃねーか」

「ピユィユィー!」



 カルディナのことも覚えているので、そちらにも懐かしそうにゼンドーは声をかけてくれた。



「私も忘れないでくださいよ、ゼンドーさん」

「おお、レーラもいるんだったな! わりぃわりぃ」



 聞いていた通り、100歳越えのおじいさんとは思えないほどパワフルなままだった。

 竜郎も愛衣も、懐かしそうに頬が緩むのを感じる。



「あなた。いつまでお客さんを外に立たせておくつもり? 中にいれておあげなさいな」

「ああん? わーってるっての。今、そう言おうと思ってたんだろうが」

「ほんとかしらね」



 考えていなかったことなどお見通しだとばかりに肩をすくめる奥さんに、ゼンドーは少し恥ずかしそうに頬を掻いた。



「まあ、なんだ。そういうことで上がっていってくれ。

 新しいお仲間さんもいるみてーだし、いろいろ話を聞かせてくれ。このばあさんの話は、毎日同じことばっかで詰まんねーからな」

「あら、失礼な人ね。どうぞ、皆さん上がってちょうだい」



 ゼンドーの憎まれ口など慣れたものだとばかりに華麗に受け流し、おばあさんは竜郎たちを中へと招き入れた。


 そこで竜郎は夕ご飯をふるまってくれるというおばあさんに、美味しい魔物をいくつかお土産として渡し、リアは手伝いますといって一緒に調理することになった。



「なるほどなぁ。それでタツロウもアイも、あのときのまんまの姿だったってわけか。よくよく変なことに当たるなぁ、お前たちも」

「我ながらそう思いますよ、ほんとに」



 時間もあったのでゼンドーにはなぜ、竜郎たちが年を取っていないのかを説明してみれば、やはりこちらの世界では不思議なことにたいしての受け入れ具合が地球と比べてガバガバなせいで、すぐに納得されてしまう。



「けどそーすっと、あれからタツロウたちの中じゃあ、2年も経ってねーのか。不思議なこともあるもんだよ、ほんとに」

「私たちも、いきなり36年も時間が進んでたって知ったときは、皆でびっくりしたもんだよ」

「だろーな。がっはっは!」



 竜郎たちの話をした後は、ゼンドーの話も聞いてみる。

 こちらは適度に生魔法使いを呼びながら、解魔法使いによる定期検診も受けているおかげで体調も万全。

 若いころに比べて食欲は大分落ちているようだが、それについては老化と割り切るほかない。


 最近では塩製造の第一線からは退いてはいるものの、若者の育成に精を出し、何人も一人前の塩職人になってくれて、このオブスルの塩業の未来は明るいと本当に嬉しそうに笑っていた。



「おじいちゃんのおかげだね!」

「あいつらも頑張ってたからだよ。俺のおかげってのも、ちっとばかりはあるだろうがな。がっはっは!

 …………ん? それにしても、なんだかすげーいい匂いがしてきたな」



 のんびり竜郎たちと話していると、料理の匂いに誘われてゼンドーのお腹の虫が鳴りはじめる。

 いつものおばあさんの料理では、ここまで顕著な反応はしなかったので、ゼンドーは首をかしげながらお腹をさすった。



「今回はとっておきの食材を奥さんに渡しておいたので、驚きますよ、ゼンドーさん」

「おおっ、そうなのか! タツロウが言うんなら間違いねーだろうな」



 ゼンドーが待ちきれないとチラチラと厨房のほうへ視線を向けるようになった頃、厨房に行っていたおばあさんがやってくる。

 お客さんに──などと言われたが、おばあさんにだけ料理を運ばせるわけにはいかないと、リアやレーラ、ニーナが率先して料理を運んでくれた。

 竜郎や愛衣は、ゼンドーの相手をしていくれとおし留められた形である。


 今回の料理はチキーモを使った煮込み料理。竜郎たちにとっては、よくある田舎町の家庭料理といった感じで、なかなか趣があって新鮮に感じた。


 そしてゼンドーやその奥さんのほうはといえば、見たこともない食材に、嗅いだこともない食欲をそそる香りで、視線が料理にくぎ付け状態でスプーンをすでに握りしめている。


 それでは食べましょうかと、最後の一皿を置いたリアが声をかけた瞬間、ゼンドーと奥さんは、ほぼ同時に料理に手を伸ばした。



「なぁああんでぇっ、こりゃぁっ!?」「美味しすぎるわ!!」

「温かな家庭料理といった感じで、ほんとに美味しいです──って、聞いてないな……」

「あははっ、でもまあ美味しい魔物シリーズを初めて食べたんなら、しょうがないよ、たつろー」



 竜郎たちは美味しいと感じる舌は変わらずとも、すでに耐性ができているので大げさなリアクションを取らなくなったが、初心者はそうもいかない。

 けれど料理自体も、チキーモなどの食材を使わなくても美味しかったであろうことが分かる、心温まる料理だった。


 皆が皆、満足しながら自分の分の料理をきっちりと完食した。

 食欲が落ちた──なんて言っていたくせに、今日ばかりはゼンドーも奥さんもたくさん平らげられたようだ。

 満足そうな笑みを浮かべながら、少し苦しそうにお腹をさすっていた。



「これはいったい、なんて食材を使ったんだ? こんな美味い肉を食ったのは、はじめてだ」

「チラーキモア? だったかな。私たちは普段チキーモって呼んでる、鳥さんの魔物でね、今たつろーが養鳥してるんだよ」

「養鳥……ってことは、こんな美味しいお肉が沢山あるってことなの!?」

「ええ、なんならもう少しお分けしましょうか?」



 是非に──とゼンドーは口を開きそうになるが、ぐぐぐとこらえて喉の奥に押し込んだ。



「い、いや、待て、タツロウ。こんなうめーもんを、タダで貰うわけにはいかねーよ。

 おい、お前、うちのとっておきの塩を持ってこい」

「分かったわ」



 そうして竜郎たちの前に出されたのは、大きな瓶の中に入った大量の高級塩。

 百貨店などで買えば、これだけでかなりの値が付くお金持ちしか食べられない品物だ。

 これこそゼンドーたち塩職人が作っている、この町が誇るオブスル産の高級塩である。



「これと交換ってことで、分けてもらえないか」

「いえ、ゼンドーさんにはお世話になったんですから、別に──」

「俺も、お前たちには世話になってんだよ。施しを受けるつもりはねぇ。

 俺は、お前たちとは対等のダチでいたいんだよ」

「ゼンドーさん」「おじいちゃん」



 年は離れていれど、友として自分たちを見てくれていることに竜郎も愛衣も嬉しく思う。

 だからこそ、竜郎たちはゼンドーの思いをくむことにした。



「では、ありがたくいただきます。それと、チキーモ以外にも美味しい魔物を今後も捕まえていく予定なので、楽しみたいのなら、もっともっと長生きしてくださいね」

「がははっ! そいつぁ楽しみだ! もっといっぱい、塩を作ってため込んでおかねーとな!」

「あなた、がんばってね!」



 もうそろそろ落ち着いてくれても──なんて言っていたはずの奥さんも、完全にゼンドーが働くことを応援する側に回ってしまった。

 あらためて美味しい魔物の恐ろしさを肌で感じる、竜郎たちなのであった。




 余談であるが、後にゼンドーが塩で竜郎たちと、とんでもなく美味しい魔物を取引をしていると知った職人たちが、俺たちにも塩と交換してくれと押し寄せてくることになる。

 もちろん町の外に売りに出す分は別として、それ以外の職人たちが普段使っている分が竜郎たちのもとに集まることになり、それから何十年、何百年と美味しい塩で困ることはなくなったという。

次話は水曜更新です。

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