64話
お仕事が一段落して、中庭で少し遅れた昼食を食べていたのですが……なぜか、小包を手にしたルーディス殿は私の目の前にいるのです。
お2人がルーディス殿を2、3日引き受けてくださるとおっしゃっていましたのに。
先輩とレオンハルト様からルーディス殿の到着日を聞いて7日……どうしてこうなったんでしょうか?
「フロース=フロウライト、久しぶりだな」
「……お久しぶりです」
突然、現れたルーディス殿の姿に食事の手を止めてしまいます。
何事もなかったかのようにルーディス殿は私の隣に座ると表情を変える事無く、持ってきていた小包を開きました。
……これがミルアさんのお菓子だとわかるなんて、私も充分に毒されていますね。
小包から出てきたクッキーの山を見て小さくのどがなってしまいそうになりますが何とか押し止めました。
「何かご用でしょうか? ルーディス殿はこのような場所で遊んでいる時間などないはずですが」
先輩やレオンハルト様からルーディス殿が私の下に現れる目的を言い聞かされているためか、警戒しながら聞きます。
王都まで足を運んだのはフェミルア再興の状況を国王様に報告するためです。
先輩やレオンハルト様の予想では国王様への報告が終了するのは最低でも10日かかるとおっしゃっていました。
それなのにまだ7日目……まさかとは思いますが報告をせずに私の前に現れたのでしょうか?
「終わらせた」
「……終わらせたんですか?」
ルーディス殿は簡潔に言うのですが、その言葉が信じられずに聞き返してしまいます。
私の言葉にルーディス殿は小さくため息を吐きました。
「フロース=フロウライト、領主としての仕事をしてきたのになぜ疑われなければならない?」
「……本当に終わらせたのですか?」
疑われていると思ったようでルーディス殿は小さく肩を落としながらも首を横に振るのです。
今までの彼の行いから見れば私の反応は当たり前の事だとは思いますが、彼にはまったく疑われる理由がわからないようです。
その様子にため息が漏れそうになりますが、彼の言葉が偽りだとすればすぐに先輩やロゼット様が連れ戻しに来るはずです。
……逃げられても、面倒な事になるのですがあまり関わり合いたくないのですが。
国王様への報告を後回しにしてこの場所に来た場合を考えて時間稼ぎをしないといけないはずなのですが先輩やレオンハルト様のお話を考えると……逃げ出したいです。
「フロース=フロウライト、お前が領主としてやるべき事をしろと言ったのではないか?」
「それは言いましたけど……だからと言って、国王様は忙しいのです。どうすれば日程の調整が利くんですか」
私に言われたからやるべき事をやってきたと言うのですがどうしても納得が行きません。
眉間にしわが寄ってしまいますが本当だった場合があるため、怒鳴りつけるわけにはいかず、真実かの確認をしてみます。
「レストやハルトを通すと何か工作をしてきそうだからな。あいつらへ連絡をするより前に陛下には王都への訪問、報告について連絡をしている。もちろん、あの2人には秘密にするようにと一文を添えている。何より、ロゼットのせいで出発が遅れてしまったからな」
「……なぜ、先輩とレオンハルト様に秘密にしているのですか?」
何も準備もせずにフェミルアから出発しようとしていたルーディス殿をロゼット様が引き止めた事で国王様への報告にお2人が考えていた予定と時間差が出来たようです。
そのために計画とずれが発生した事は理解出来ました。ただ、先輩とレオンハルト様にその事を秘密にしているかがわかりません。
「なぜと言われるとあの2人の事だ。私からフロース=フロウライトを引き離そうと様々な手段を取ってくるだろうからな」
「そ、そうですか……」
当たり前のように先輩とレオンハルト様が考えている事を理解している事に頭が痛くなってきますが、国王様もおヒマではないはずです。
なぜ、ルーディス殿の秘密にして欲しい言葉にのってしまうのでしょうか……婚約の件?
その時、レオンハルト様のご婚約のお話が頭をよぎりました。
国王様はレオンハルト様に余計な事を考えさせたくないようです。
私とルーディス殿の事を上手く扱われているような気しかせず、眉間にしわが寄ってしまいます。
「レオンハルト様も先輩もお忙しいですから、余計な事をさせたくないと言う事でしょう……ん!? な、何をするんですか!?」
「眉間にしわを寄せているとレストのように顔面が固まるぞ」
国王様にとってはレオンハルト様のご婚約の方が大事に決まっています。
納得はいかないものの、どうにか納得しようと割り切ろうとした時、口の中に何かが押し込まれ、口の中いっぱいに甘味が広がって行きます。
押し込まれたのがミルアさんお手製のクッキーだとすぐに理解できたのですがルーディス殿の突然の行動に声を上げてしまいます。
ルーディス殿は小さくため息を吐くとミルアさんのお菓子を1つ手に取り、口に運びました。
「……先輩と一緒にしないでください」
「そうか。それで本題に移っても良いか?」
クッキーには罪はないのでこのお話はここで終わらせようとするのですが、ルーディス殿は空気を読む事無く本題に移ろうと言い始めます。
そのお話は出来れば触れたくないため、小さく頬が引きつってしまうのですがルーディス殿は真っ直ぐと私を見てくるのです。
「休憩時間もありませんのでお断りします」
「……問題ない。フロース=フロウライトの上司にも許可を貰っている」
……なぜですか?
逃げ出そうとするのですが腕をつかまれてしまいます。
それもルーディス殿は私の上司から、私を連れ出す許可まで貰っていると言うのです。
「私はフロース=フロウライトの言う通り領主の仕事を全うできるようになったぞ」
「そ、そうですね」
先輩やレオンハルト様の言う通り、ルーディス殿は私の事を諦めてなどいなかったようです。
真っ直ぐと見つめられるのですがルーディス殿の顔をなぜか見返す事が出来ません。
何とか話をそらそうとするのですが頭が上手く回らないのです。
「……私は断ったはずですけど」
「私は諦めたつもりなどないが、まだ充分ではないと言うのなら、次は何を出来るようになれば良い? フロース=フロウライト、お前が頷くまで私は日々、改善をして行こう」
回らない頭で何とか、その件はフェミルアで終わっていると話を終わらせようとするのですがルーディス殿は私の事を諦めるつもりなどまったくないと言い切ってしまうのです。
そんな彼の言葉になぜか私は体温が上がって行くのを感じます。それと同時に何かが1つ1つ組みあがって行くような感じがしてくるのです。
「そ、そうですね。つ、次までに考えておきますのでフェミルアの領主の仕事に戻ってください」
それが何かなんとなく理解が出来るのですがすぐに理性が認める事など出来ません。
ルーディス殿の腕を振り払って逃げ出してしまいます。
逃げ出して思うのです……なぜ、こんな事になってしまったのでしょうか?
そして、次にルーディス殿にどんな顔をして良いのかわかりません。
ひとくちの魔法は今回で完結となります。
フロースがルーディスへの恋心を気が付いたと言う半端な感じですがまたも同シリーズへの丸投げと言う事になります。
次のヒロイン、ヒーローは考え中ですが次のシリーズもお付き合いいただければ幸いです。




