1-9
エラミルはゆったりと地下に戻った。
「車あったぜ。」
笑顔で報告。
「大きさは?」
「なかなかデカイ。俺ら全員と調達する荷物を載せるスペースも余裕だ。」
「よし。」
リディは勢いよく立ち上がり、芳樹たちがいるところへ向かった。
さっきまで芳樹と優香の喋り声が聞こえていたが、いつの間にかまた芳樹は1人で座っていた。
通路の手前まで行くと、優香が珪都に話しているのが聞こえたので立ち止まった。
――――――
芳樹と優香は数十分ほど黙っていた。
話すことは山ほどあるが、何を話していいか分からない。
話す気分にもならない。
ガラにも無く泣く珪都、ガラにも無く控え目な芳樹、ガラにも無く怒鳴った優香。
全員が全員、徐々に変わっていっていた。
―――脱出できたらまたいつもの皆に戻るかな。
優香はふとそんなことを考え、すぐに自分で否定した。
仮に助かったとして、今まで通りの3人ではいられないだろう。
この星に来てすぐの経験はあまりにも急で、衝撃的過ぎた。
ふと、エラミルが地上へ上がっていくのが見えた。
まるでちょっとトイレに行ってくるとでも言うような、余裕の背中。
芳樹が噛まれた時に泣いてばかりで何も出来なかった優香には信じられなかった。
今まさに化け物が跋扈する地上へ出ようとする人間が恐れる事もしない。
人間は何にでも慣れられるのだなと思った。
何となく、頼もしかった。
優香はスッと立ち上がり、珪都のいる通路へ入っていった。
珪都は先ほどと同じ体勢でいた。
「珪都…。」
「何だよ……。」
声はまだおぼつかないが、泣いてはいないようだ。
「芳樹がね、自分のせいでこんなことになって、私達巻き込んで悪かったってさ…。」
「……。」
「変だよね。芳樹…いっつも自分勝手で私達に真剣に謝った事なんてなかったじゃない。」
「………ああ。そうだな。」
「それに私もさ。聞こえてたと思うけど、自分でもビックリするくらい大きい声で怒鳴っちゃってね。」
「……ああ。」
優香はだんだん話が逸れてきているのを感じ、結局言おうとしていたことをすぐに言った。
「私達………まだ友達でいられるよね。」
――――
「俺も…悪かった……。」
「え?」
珪都が謝るのは全然おかしいことじゃない。
ただ、意表を突かれて戸惑った。
「…優香は何にも悪くないのに、八つ当たりみたいに…さっき…」
「別に…良いよ。」
喧嘩もしていないのに、何故こんな話になったのだろう。
「1番ツライのは芳樹なんだよな…。何で俺が…あんなに取り乱しちまったんだろう。」
「…仲間だからだよ。」
優香は言った。
「私たち3人、家族みたいに今まで過ごしてきたから、当然だよ。」
珪都はまたしばらく黙った後、「家族か…。」と優香にも聞こえない声でボソッと呟いた。
急にリディが通路に顔を出した。
「2人とも。話がある。こっちに来て。」
珪都はついリディを睨みつけた。
ほとんど無意識の行動だった。
リディには本当に危ないところを助けてもらった。それは感謝している。
だが、貼り付けられたような無表情に、なぜか珪都は挑むように視線を投げつけた。
リディもそれに気づいたが、やはり相手にせずにすぐに戻っていく。
行き所の無くなった視線は床へと落ちた。
何がこんなに自分を苛立たせるのかはよく分からなくなっていた。




