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「あいつらさっきから何騒いでんだ?」
「放っておけばいい。私らだって最初は取り乱してたじゃないか。」
リディとエラミルは棚の奥で備品を整理していた。
「それで、武器はどう?」
「ああ。拳銃とその弾は腐るほどある。実際、マガジンの何本かは錆び付いて使えなくなってた。」
エラミルは錆びたマガジンを5本ほどリディの前に置いた。
「なるほど、アイツらと戦ってなくても…か。」
「で、ショットガンと、弾はシェルが36発。」
「地上は広いからな。正直有用性は低いぞ。」
エラミルは少し不機嫌そうに「分かってるよ。」と言い、続けた。
「サブマシンガンは500発マガジンが9本。空マガジンが2本あった。」
「なるほど。ライフルは?」
「ライフルは弾も含め、お前が持ってるヤツだけだ。」
リディは思わず背中のライフルを抜き取り、ながめた。
「弾は58発あった。」
ライフルを背中に戻しながらリディが報告した。
「で、食いモンはどうだった?」
「缶詰が20箱、スナック菓子が62箱、飲料水が85箱だった。」
「賞味期限は?」
「ほとんど切れてるよ。分かってるでしょ?」
「…まぁな。それよか、3人も入ってきちまったけど。」
リディは少し笑いながら返事をした。
「しばらくは心配ないよ。水が本格的に腐らなければね。」
「おいおい、冗談じゃねえぞ…。」
「そうだな。冗談じゃない。」
リディは急に真剣な顔つきになって言った。
「そろそろ供給しないと、毎日下痢しまくることになるぞ。」
「この倉庫に来るのがもう少し早ければね…。無駄になる分も少なくて済んだんだけど。」
リディ達は3ヶ月前にこの星に降り立ち、この倉庫にはその3日後にやってきた。
最初は点々と民家に隠れながら移動し、餓死を覚悟しかけた時にこの倉庫を発見したのだ。
だがその時点で放置されていた食料の状態は良くなかった。
それでも今までは体調を崩すほどではなかったのだが、昨夜、水の1本にカビが生じていた。
「この近くでまともな食いモンにありつけそうな所は?」
「一応大分前から見当はついてたんだけどね。これ。」
リディは1枚のボロボロの紙を取り出し、エラミルに渡した。
「……食料販売専門………ドッグロードビル?」
「ああ。就職案内のビラだ。ここから西に30kmらしい。」
「らしいって…。30kmも歩くのか?」
「いや、いくら何でも足がもたないよ。」
一瞬の沈黙。
「いやいや…。―――じゃあどうすんだよ?」
「上にガレージがあっただろう? 車があれば使わない手はない。」
「無かったら?」
「別の手を考えるさ。」
「誰が確認するんだよ?」
エラミルが言ってすぐ、2人は顔を見合わせた。
数秒後、無言でじゃんけんをし、負けたエラミルが行くことになった。
「―――くそったれ。」
毒づきながら外へ出る。
相変わらず外は酷い腐臭だ。
裏口から静かに外へ出ると、ゾンビはまだこちらに気付いていない。
「良い子だ…。」
エラミルは余裕で呟きながらガレージの方へと回った。
シャッターは開いており、そのまま中に入って運転席を覗き込む。
鍵は差しっぱなしだ。
恐る恐るノブに手をかけると、鍵はかかっていない。
「ラッキー。」
また呟きながら来た道を戻っていく。
ふと見ると、ゾンビの1体が思い切りこちらを睨んでいた。
「よっ。」
指で挨拶すると、怒ったように吠えながらこちらへ走ってくる。
エラミルは慌てずナイフを抜き、飛び掛ってきたそいつの喉目掛けてナイフを掲げた。
ズブッ
鈍い音がしてゾンビは空中に固定された。
血が噴水のように噴き出してエラミルに浴びせかけられる。
やがてバタバタと動かしていた手足も動かなくなった。
ソイツの腹に足をかけて押し出すと、無造作に地面に倒れた。
「きったねぇな…。」
エラミルは周辺のゾンビに気付かれる前に家の中に戻った。




