1-7
優香が珪都を追いかけて通路の奥へ行くと、通路は意外なほどすぐ突き当たりだった。
その突き当たりの壁に珪都は両こぶしを打ちつけてひざまずいていた。
「…珪……都?」
――――グスッ
「何…?」
泣いてる?
「―――――芳樹はきっと大丈夫だよ…。」
「何でそんな事言えるんだよ!」
いきなりバッと振り向いて怒鳴られて優香はまたビクッとした。
珪都の顔は真っ赤になり、涙が一筋流れていた。
「そ……それは………」
優香は両手を口元に持っていって視線を右下に持っていった。
涙目になっているのは珪都も気付いた。
「芳樹は…芳樹は死んじまうんだよ…! あんな……化け物になって………くっ…」
珪都は自分の腕で涙を拭った。
「でも―――」
「うるさい! 一人にしてくれ!!!」
叫ぶのと同時に、優香を追い払うように右手を大きく振った。
そしてすぐ向こうを向いて座り込んでしまった。
どうしていいか分からなくなった優香は泣きながらしばらくその場で黙って立っていた。
終始両手の指を絡め、視線を右往左往させながら、珪都を直視する事はなく、声をかけるべきか否か悩んだ。
……結局何もせずに倉庫へ戻った。
足取りは重かったが、今無理に珪都に声をかけても仕方が無いと思った。
―――――
倉庫に戻ると、リディとエラミルの姿はなく、芳樹だけが先ほどと同じ姿勢で座っていた。
「あの2人は…?」
「何か相談しながら棚の向こうにいったよ。」
「そっか…。」
優香は無意識に芳樹の隣に座った。
「……悪いな。」
「え?」
見ると、芳樹は申し訳無さそうに自分の傷を見ている。
「さっき、珪都とさ、ケンカになってたじゃん。」
「け、ケンカって言うほどの物じゃないし…。それに芳樹のせいでもないよ。」
優香は慌てて言った。
何で自分が慌てているのかよく分からなかった。
「俺が…あん時ブレーキしっかりやってりゃ宇宙船は壊れなかったし、珪都を助ける時にもっと用心してれば咬まれることだって…」
「そんなこと言わないでよ…。」
芳樹が徐々に涙声になっていくので、優香もつられてまた泣きそうになり、顔をそらした。
「少なくとも俺が咬まれなきゃ変な心配させることなかったのにさ…。最低だよ…。」
芳樹は自嘲気味に笑った。
この時、優香も自分で驚くほど衝動的に口が開いていた。
「そんなこと言わないでってば! 今更心配させて悪いとか、芳樹らしくない!」
芳樹はビックリして優香を見た。大人しい優香は今の今まで怒鳴ったことがなかった。
「私達仲間でしょ? どんなことがあっても助け合ってきたじゃない! お互いが心配かけあう仲だったじゃない!!」
優香は涙の量でいえば大泣きしていた。
ただ、その潤いすぎた目は意志をもって芳樹を見据えている。
―――――――――
「ああ……。」
芳樹は「悪い」と付け加えそうになり、慌てて口をつぐんだ。
「ううん………。私こそ…急に怒鳴っちゃって……、らしくないね…。」
指で目をこすりながら優香も自嘲気味に微笑した。
芳樹は天井を見上げ、溜息をついた。
―――落ち着いてるつもりだったけど、俺もおかしくなってきてんのかな。
心の中で呟きながら仲間の存在に感謝した。
この危機も乗り越えられないほどのものではないのかもしれない。




