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「よし、これで大丈夫だ。」
エラミルが注射針を芳樹の腕から抜きながら言った。
「ありがとうございます。」
芳樹が自然な笑顔で言う。エラミルも微笑み返した。
全ての事情を知っている珪都と優香は、エラミルを本当に尊敬した。
自らの死を目の当たりにして、これほど他人のことで喜べるものなのかと。
「さて、お前らは早く脱出しねえとな。」
「え、エラミルさんは…? ていうか、リディさんはどこに…??」
芳樹がそこでやっと異変に気付いて、嫌な予感をよぎらせた顔で珪都を見た。
そこで珪都はためらうことなく、向かった先であった出来事を話した。
芳樹がみるみる罪悪感に捕らわれていくのがはっきりと分かった。
「じゃあ、俺を助けるために、リディさんと…エラミルさんも……?」
芳樹が本当に申し訳なさそうにエラミルを見た。
だが、エラミルは、
「もう遅ぇよ。お前らが死ぬまであの世で呪っててやるからな。」
と笑って芳樹の肩を叩いた。
「ゴメンなさ…」
芳樹は、今度は謝罪の涙を流しながらエラミルに謝った。ほとんど言葉になってはいなかったが。
「いいから、お前らは急がなきゃな。俺は屋上から援護射撃する。あのくらいの宇宙船ならお前らで操縦できるだろ?」
「はい。」
珪都はさっきエラミルが操縦しているのを見て、運転できる事を確認していた。
もとより、かっぱらった宇宙船を適当に運転して降り立った星だ。
4人はゆっくり階段を上がり、エラミルが地上への扉を少しだけ開けた。
先ほど追ってきた物の一部が残っていた。
「ここを出たら俺はすぐ屋上に行く。お前らはさっさとあれに乗って逃げろ。」
「はい。」
3人はエラミルの頼れる目を見て、しっかりと返事をした。
「お前ら。」
エラミルは地上の方を向いて3人を呼び、3人はまたエラミルの方を見た。
「しっかりな。」
向こうを向いていて見えない表情で、エラミルは3人に言った。
3人は必死で目の奥の熱いものをこらえた。
「行くぞ!」
4人は地上へと出た。
早速エラミルが室内のゾンビを片付けながら、階段を上がっていく。
3人は玄関へ向かって敵を倒しながら走った。
と言っても、芳樹は珪都と優香の銃捌きを見て驚き果てるだけである。
外に出てすぐのところに停めてある宇宙船へ、3人は走った。
3人は撃っていないのに死んでいくゾンビの様子を通して、エラミルを見た。
急いで乗り込み、珪都は急いで発進した。
ゾンビたちが扉を狂ったように叩きまくるが、すぐに宇宙船は浮遊し始めたため、扉が破られる心配はない。
珪都と優香はそれだけでもう安心していたが、芳樹は集まってくるゾンビの迫力にひたすら怯えた。
そして、こんなヤツらで溢れている場所へ出向き、自分を助けるための薬を取ってきてくれた珪都、優香、エラミル、リディにもう1度感謝した。
リディには直接その意を告げることができないのがあまりに残念だ。
既に宇宙船は地上を離れ、ゾンビの腕も届かない。
珪都たち3人がふとあの建物を見下ろすと、屋上でエラミルが、白い歯を見せて笑いながら、大きく手を振っていた。
「エラミルさん…。」
優香が泣き始め、それにつられて珪都と芳樹の涙腺も開放された。
数十秒後には、もうエラミルの姿は見えなくなった。




