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2人はあっという間に死体の山を築いた。
珪都もこなれた射撃でエラミルを十二分にサポートし、大群を片付けるのに後退する手間も無かった。
エラミルも驚いたが、1番驚いているのは珪都だった。
この星に来てから自分の中で全てが変わったような気がした。
「ルーベクさんどうしますか?」
珪都が聞く。
「アイツ、一向に戻って来ねえな。喰われたんじゃねえのか?」
「でももし生きてたら…」
「生きてたら俺が殺してやるよ。アイツが俺らを置いてったのは自分だけ助かりたかったからだろ。そんなヤツ知るか。」
エラミルはさっさと破られたシャッターの方へ歩いていった。
珪都も一瞬エレベーターの方を見るが、物言わぬ扉を一瞥してエラミルの後を追った。
シャッターの先が商品倉庫だと分かると、エラミルは思わず笑って喜んだ。
珪都は、それよりも生き残っている方がどうなったのかを早く確認したかった。
「早く探しましょうよ。」
「そうだな。そういや、さっきの大群の中にはいなかった。」
「え?」
「死んだ方だよ。ゾンビ化してたらもしかしたらと思ったが、一体どこほっつき歩いてんだろうな。」
エラミルがいやに軽口を叩く。
珪都はそれに不謹慎さよりも、どこかヤケになっているような雰囲気を感じた。
もしかしたらエラミルは死んだのがリディだと思っているのかもしれない。
どうして―――――?
エラミルは放置されたトラックが1台あるのを見つけて駆け寄った。
すぐに運転席を確認する。
鍵が差しっぱなしだ。
「…何とも運がいいじゃねえか。」
エラミルが言った。
「ケイト、脱出手段が見つかったぞ!」
呼ぶ声で、1つだけ放置されて開封されていたダンボールを眺めていた珪都が近付いてきた。
「でも、出口までは死体だらけですよ?」
「踏み潰してくさ。血と油で滑るだろうがな。」
珪都がまた嫌なものを連想して気分を悪くした。
「あとは生き残ってるヤツを探すだけだ。」
「そうですね。」
2人はまず、大声で名前を呼んだ。
「ユカ――――――! リディ―――――――!」
「優香――――――! リディさ―――――――ん!」
広い倉庫だが、雑音が無いせいで2人の声は反響してまた耳に帰ってくる。
そして、どちらかの反応や姿はおろか、ゾンビ1体現れなかった。
数分間2人は呼び続けたが変化は無かった。
「変だな…。」
「まさか、もう1人の方も……?」
珪都が怯えるようにエラミルを見る。
エラミルもそれを恐れ始めていた。
仮に喰われてもゾンビ化していなければさっきの群れに混じっていなかったのも不思議ではない。
自分達の足で死体を確認しに行かなければならないのか…。
ゴン、ゴン、
「ん?」
背後にあるトラックの方から音がした。
「今のは…」
ゴン
「!?」
どうやらトラックの荷台の中から誰か――ーあるいはゾンビか―――が叩いているらしい。
「優香!?」
珪都は思わず本音混じりに叫んで荷台の扉の方へ走った。
ロックがかかっていない。
もし中に逃げ込んで内側から抑えることでゾンビから避難したのだとすれば………!
ガチャン
扉が開く。暗闇で奥が見えない。
「……優香?」
「………珪都?」
「優香!!」
「珪都!!!」
暗闇から優香が大泣きしながら飛び出してきて、そのまま珪都に抱きついてきた。
勢いがあり過ぎて珪都は倒れそうになったが、必死に踏ん張って、優香を抱きしめた。
「優香、良かった…。」
「珪都、り、リディさんが、リディさんがぁ……!」
優香はきっと、リディの死を目の当たりにしながら、それを乗り越えて1人で闘い、ここまで来たのだろう。
そして生きて仲間に再会できたことで緊張が緩み、今までせきとめられていた涙が今あふれ出たのだ。
珪都も静かに涙を流した。
エラミルは、分かっていたとはいえ、事実を知った時は改めて悲しみに襲われるだろうと思っていた。
だが、ユカはちゃんと生きていた。
リディの意志を受け取り、それを無駄にしなかったということじゃないか。
エラミルは上を向いて鼻で笑った。




