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ひたすら走った。
体力の限界は既に通り越し、それでも喰われたくない一心でただただ走った。
全方位から聞こえてくる何重もの恐ろしい叫び声の合唱が徐々にその迫力を増す。
「クッソ…!」
珪都は心の中で毒づきながらふと後ろを見た。
――まさにその時、一番近くにいた化け物が飛び掛ってきた。
「!」
目の前に迫った人喰いの形相。
死の匂い。
覚悟。
耳を劈く一発の銃声。
――――――
「こっちだ!」
叫ぶ女の声と、ホイッスル―――指笛―――の音。
「!?」
一軒の民家の玄関でこちらに手を振る、ライフルを持った軍服の女がいる。
何も考えず、3人は方向を変えてその女のもとへ向かった。
「ガアアッ!!」
「グアァッ!」
せっかく見つけた獲物を逃すまいと、化け物共が更に興奮して声を荒げる。
見るとその女は走ってきた1体の化け物を、ナイフ1本で首を掻き切り、さらりと瞬殺した。
その首から噴き出す血の量に吐き気を覚えながら、その女が誘導するままに家の中へ駆け込んだ。
女は玄関の鍵を閉めるとすぐに3人の後に続き、部屋の奥の開放された扉へと促し、「行け。」と素っ気無く言った。
その奥には暗く、寒い降りの階段があり、3人は足元に注意しながら急いで降りた。
降りきった先には倉庫のような場所が待っていた。
突き当たりには左に曲がる通路があるようだが、ここは広く、左右の壁が棚になっている。
更に部屋を3つの通路に区切るように棚が更に2列あり、それぞれに様々なものが積まれていた。
切れかけの電球の乏しい明かりの中、3人の死を乗り越えたあまりにも荒い息遣いが響き渡る。
しばらくして先ほどの女が階段を降りてきた。
「お前らは何者だ? どこから来た?」
珪都は何とか答えようとするが、酸素の供給が間に合わない肺がまるで針でザクザクに刺されまくったように痛み、会話を許さない。
女もそれに気づいたらしく、「少し休憩するといい。」と言って棚の奥へ消えていった。




