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ルーベクがある程度施設の構造を知っていたため、3人は予想よりずっと早く玄関ロビーへ戻ってくる事が出来た。
事情を知らないルーベクが外に停めてある車を見て、あれで脱出しようと騒ぎ出す。
「まだ物資調達ができてない。」
「だが、目の前に脱出手段があるのに……」
「お前行くあてがあるならあれで1人で逃げても構わねぇぞ。俺らはやることがある。」
エラミルが言うと、ルーベクは何も言わなくなった。
逃げる場所のアテがないなら、ビル内も外も、地獄である事に変わりはない。
「で、任務達成のためにはあんたが食いモンの置いてある場所を知っていてくれれば1番早ぇんだがな。」
「悪いが、私はこの会社の一攫千金のために外から雇われてきた者でな。そこまで詳しくもないのだ。あの研究室からここへ来るまでの道だけは分かるが…。」
「まぁ、しゃあねえか。」
「優香たちが行った方へ行ってみますか?」
珪都が提案した。
玄関ロビーまで戻ってきてまた同じ方向へ戻る気にはさすがになれなかったエラミルは首を縦に振った。
優香たちが通ったはずの廊下は酷い状況であった。
ゾンビの死体がそこら中に転がり、足の踏み場がないところもある。
「アイツら……無事だろうな。」
エラミルが目を丸くしながら言った。
珪都も優香の身の危険を案じ、体中が緊張した。
死体を避け、時には踏み越えながら進む。
死体の密集率で進んだ道が分かるので、3人はまた道に迷う事がなかった。
―――歩くこと約30分
何かの部屋の前で死体の道が途絶えていた。
「…第2オフィス…か。」
エラミルが扉の上のプレートを読み上げる。
ここに2人が隠れているかもしれない。
扉は開けっぱなしになっていたので、3人はすぐに部屋へ入った。
エラミルと珪都は誰もいないオフィスに銃を向ける。
ここにはほとんど死体が転がっていない。
だが、イヤに大きな血だまりが目を引いた。
エラミルが恐る恐る近付いて指を滑らせる。
まだ血が新しい。
「……。」
エラミルがきつい鉄の臭いを感じながら歯を食いしばった。
珪都もその血がまだ新しいことには気付いていた。
――――――明らかにここで誰かが犠牲になっている。
「エラミルさ…」
「行くぞ。奥の扉が開いてるからな。」
優香とリディのどちらかが確かにここで喰い殺された。
しかも、死体が無いという事は、もうゾンビ化している。
それでもエラミルは悲観的な表情を見せずに珪都に言った。
「どちらか一方がまだ生きているのは確かだ。そっちを優先しよう。悲しみに暮れてる暇はない。」
珪都は納得しながらも、心の奥ではどうしても腑に落ちなかった。
人の死を真剣に悲しむ事も許されない状況を憎んだ。
奥の扉から出ると、驚いたことに、ゾンビの道が無かった。
道なりに進んでいくと、しばらくして別の部屋からゾンビの道の続きが伸びていた。
珪都には意味が分からなかった。
ルーベクは道の続きを見つけてホッとした。
エラミルは死んだのがリディであると確信した。でなければ、どうしてオフィスからしばらく敵を倒していない区間があろうか。




