4-6
優香は夢中で戦った。
向かってくる敵の額には次々に風穴が開き、優香が通った後はまさに戦場のごとく死体が転がっていた。
―――向かってくる段階からそれは既に死んでいたのだが。―――
そうして廊下を走り、角を曲がり、部屋を1つ1つ確認していく。
叫び声は止まないが、涙は止まっていた。
慣れた手つきでまた角を曲がると、突然他とは違う雰囲気に包まれた。
大型のエレベーターだ。
時々見かけた社員用のそれとは全く別モノだった。
扉の大きさからしてこちらの方が断然立派だった。
優香は迷わず降りのボタンを押し、エレベーターが上がってくるのを待った。
その間、背後から近付いてくる敵を倒し続ける。
もうマガジンは2度換えた。最初から装着してあった1本を除き、ベストには4本、ポーチに3本入れてきたはずだから、今使っている分も合わせて残りは6本。
まだ十分弾はある。
危なげなく敵を牽制していると、エレベーターの到着を知らせる音が背後から聞こえた。
すぐに振り返り、開くエレベーターの先へ銃を構える。
死体1つ乗っていない。
すぐに乗り込み、ボタンを見ると、昇降ボタンだけで階数のボタンは無かった。
ますます怪しい。
とりあえず降りのボタンを押し、扉が閉じるまでを、走ってくる敵を眺めながら待った。
物々しい音と共にエレベーターが急速に下降していく。
到着は予想以上に早かった。
エレベーターが止まる瞬間の浮遊感に襲われながら、また未開の地へと銃口を向ける。
扉が全開になった時、地上より更に冷たい空気がなだれ込んできた。
ゾンビはいないが、肌を撫でる死人のような冷たさに思わず身震いした。
油断無くエレベーターを降りる。
壁、天井はコンクリートかアスファルトらしい石造り。
証明の蛍光灯はとても乏しい光で空間を不気味に照らし出している。
床は緑色の何だか分からない樹脂でできているが、普通の床だ。
左右には道に沿うように排水口のふたをする金網が走っている。
道はそう遠くないところで丁字路になっていた。
優香は左の角の方へ小走りで近付き、壁に背中をぴたりとくっつけた。
道が広いから、こうすれば右の方は安全が確認できる。幸い、敵影はない。
パッと回転するように左の道を振り返る。
半開きの大きなシャッターが異様な存在感を誇る以外、何もない。
改めて右方向の通路を見ると、完全に閉じた大きなシャッターの頭上には「搬出入口」というプレートがあった。
このビルで搬出入するものなんか、決まっている。
やっと見つけた!
優香はまた振り返って左の方―――半開きのシャッターへ駆け出した。
半開きといってもシャッターそのものが大きいから、優香はかがむこともなく通り抜けられた。
高い天井に広い敷地。
壁際に多く積み上げられたダンボールが、空間を取り囲むように延々と奥深くまで続いている。
空間の真ん中にはまた大きな棚が3つほど平行に居座り、それぞれがダンボールに覆い尽くされていた。
おまけに、トラックが放置されている。
胸を躍らせながら近くの棚―――と言っても結構遠い―――へ駆け寄り、1番下のダンボールを開けた。
まだ新しい缶詰がギッシリ詰まっている。
「――――――やった!!!」
優香は久々に笑った。これで、あとは珪都とエラミルと合流できれば………
…そういえば、芳樹を助ける術は結局見つからなかった。
珪都とエラミルが見つけてくれていなかったら、諦めるしかないのか――――――
優香は任務を遂行した喜びが霧散していくのを感じた。
何を必死になって食べ物を探していたのだろう……。
本当に助けが来るまでこの星で暮らさなければならないのだろうか。
そのための食料調達だったのだろうか。
リディを犠牲にしてまで………。
ガチャン
――――――――――?
今の音は――――――?
優香がハッとしてシャッターの方を見ると、半開きだったシャッターが完全に閉まろうと下がってきているのが見えた。
「!!! 何で!!?」
すぐに駆け出したが、閉まる速度は思いの外速かった。
優香がシャッターにたどり着いたのとほぼ同時に、シャッターは大きな音を立てて通路と倉庫とを隔ててしまった。
すぐに横の壁に開閉ボタンを見つけ、押した。
反応はない。
「ど、どうしてよ…!?」
ボタンを連打しても結果は変わらなかった。
シャッターの向こうに人影は無かったから、誤作動としか言いようがない。
優香は自分の運の無さを呪った。
―――――――ォォオォォォ…―――――
「…嘘でしょ。」
優香は悪魔のような餓鬼共が吠えまくる声を確かに聞き取った。
振り返ると、遠くの方から大勢走ってきている。
いくら射撃に慣れたとはいえ、逃げ場のないこの倉庫ではあまりにも分が悪い。かと言って、今のうちから迎撃するには遠すぎる。




