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優香は廊下のゾンビがオフィスになだれ込んでくると、同時に反対側の出口へ走っていった。
一度振り返ったとき、ヤツらはリディにしか群がらず、1体もこっちに来てはいなかった。
廊下に出ると、幸いゾンビはほとんどいなかった。
遠くに1体か2体姿が見えるだけだ。
だが、優香にはそれにも気付いている余裕はなかった。
あてもなく、ただただ走った。
泣き止めないせいで呼吸が安定しない。視界も涙で歪んでいる。
いくら最初はゾンビが集まっていなかったとはいえ、しばらくするとすぐに優香は逃げ場を失った。
それでまた近くの部屋に逃げ込み、内側から鍵をかけた。
扉を叩く亡者共の食欲が恐ろしかった。
優香はその小さな部屋で、大声で泣き喚いた。
そうして何度も壁を叩き、床を叩き、そのうち気力を失くしてその場にへたり込んだ。
あの時、リディが自分に襲い掛かってきたゾンビを倒してくれなければ、自分は今ここにいない。
あの時、自分がリディに襲い掛かったゾンビをちゃんと倒していれば、リディは生きていたハズ。
―――結局私は守られるばかりで、ちっとも守ることなんか出来なかったじゃないか!
「ウアアアア――――――――――――――!!!!!!!!!」
優香は目を見開き、天井を見上げて絶叫した。
悔しかった。腹立たしかった。
自分の無力さに心底腹が立った。
ふと、部屋の隅に転がっている事にも気づかなかった死体がゆっくり起き上がるのが見えた。
優香は何も躊躇う事はなくマシンガンを抜き、その頭を吹き飛ばした。
自分の無力への憤怒を、少しでも紛らすため―――もはや八つ当たりだった。
優香はマシンガンを強く握り締めながら、まだ叩かれている扉の鍵を自分で開け、すぐに距離を取り、銃を構えた。
開け放たれた扉の向こうにいたゾンビは意外と少なかった。
それでも入ってきたゾンビはすぐ全滅した。
優香は死体を踏み越えて部屋を出た。
その顔は怒りに満ちていた。
自分の弱さと、ゾンビの存在が許せなかった。
左右を見渡し、敵が少ないほうに背を向け、多いほうに銃を構えた。
ゾンビが獲物の存在に興奮し、叫ぶ中、優香も対抗するかのように叫んだ。
叫んでいないとおかしくなってしまいそうな気がした。
だからもう自分がおかしくなっていることに気付かなかった。
目の前のゾンビを次々に倒し、しばらくすると振り返って近付いてきたゾンビを倒した。
そうしてすぐ走り出し、現れるゾンビを片っ端から撃ち倒した。
時々余裕が出来ると振り返って追いかけてくる群れの頭数を減らす。
優香はゾンビに対して怨みをぶつけるように叫んだ。
そうして数十分行軍した。
敵が増えすぎたのでさすがに手に負えなくなり、優香は舌打ちをしながら近くに見つけたシャッターの開閉装置を操作した。
目の前で防火シャッターがゆっくり下りていく。
その間、敵を寄せ付けないように牽制し続けた。
ゾンビはほとんど近付いてくる余地がなかった。
シャッターが閉まりきるまで、足元の隙間からシャッターを開けようと出てくる手もその都度撃った。
もちろんシャッターを開けられることはなく、最後まで頑張っていたゾンビの手は潰されて指がこちら側に残った。
ヤツらは懲りずにシャッターを叩きまくっている。
その音を気にすることもなく、優香は先に進んだ。
こちら側にもゾンビはうじゃうじゃいて、休んでいる暇はなかった。




