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30分ほど書類をあさったが、結局ゾンビの体内の仕組み、研究者が研究を始めたいきさつなど、治療法とは関係の無さそうな事項ばかりが見つかる。
しかも、ほとんどが血の汚れで読めなかった。
「何かあったか?」
エラミルが聞くが、珪都は首を横に振るだけ。
見つかったらすぐに呼ぶだろうことはお互いが分かっていたから、この確認はただ長時間何も変わらない状況に耐え切れなくなって行なわれただけのものだった。
エラミルもこの30分のうちで何度目かの溜息をつきながら、ふと顔を上げた。
床の書類に気を取られて忘れていたが、部屋にはもう1つ、出口以外に扉があったのだ。
「珪都。こっち行ってみるか。」
「え?」
珪都もエラミルに示されてようやく思い出したらしい。
エラミルは迷うことなく扉を開けた。
さっきまで自分達がいたところとは比べ物にならないほど設備が充実している実験室だった。
用途もよく分からない機械が壁伝いにびっしり設置されていて、右の壁にはかなり大きなモニターのようなものが壁に埋め込まれるようにして設置されている。
そして、左右にまた扉があった。
だが、右の扉はノブのところが大破していて半開きになっている。
ここに資料の類はないことを悟ると、2人はすぐ右の部屋へ近付いた。
中を覗くと、ただ広く、途方もない量の血で染まる地獄のような空間が広がっているだけだった。
「う…」
珪都は久々に強烈な血の臭いに不快感を覚え、声を上げた。
エラミルもここには何もないと判断し、反対側の扉へ2人で近付く。
扉を開けると、中はどうやら研究者の生活スペースだったらしく、簡単なキッチンと小さな冷蔵庫も見えた。
左側にはベッドもある。
――――そのベッドの向こうに何かがかがんでいるのが見えた。
「!?」
エラミルがすぐに銃を向け、それで珪都も気配に気付き、同じく銃を向ける。
「ま、待ってくれ!」
ベッドの向こうで、老人が搾り出すような声で言いながら両手を挙げた。
「誰だ?」
「頼む、撃たないでくれ。」
エラミルの質問にも答えず、ただ懇願しながらベッドの影から1人の研究員風の老人が姿を現した。
ただ、その白衣は大部分が赤黒く変色していた。
その人がこちらに近付こうとした時、エラミルが叫んだ。
「止まれ! 止まらないと撃つぞ。」
「わ、分かった、命だけは助けてくれ…!」
せっかく治療薬の事を知ってそうな生存者がいたのに、何故近づけないのだろうと珪都は思ったが、その後のエラミルとの問答を聞いてその疑問はすぐ解消された。
「咬まれたか?」
「咬まれてなどいない! アイツらに咬まれるのだけは避けて今まで生きていたんだ。」
叫ぶ声は元気だが、それは恐らく助け―――あるいは自分を助けるのに十分な武力を持つ者―――が来たことへの安堵からだろう。
顔はやつれきっていた。ろくな食事が摂れていないのは明白である。
エラミルと珪都はその研究者が自分達の脅威にはなり得ないと判断するとすぐ、質問攻めを開始した。




