第4章 発見 ~Hope~
珪都とエラミルは散らばった書類を必死でかき集めた。
血に染まった書類をどうにかして読み進める。
「……が発…っいう…に……拡大………ああ、全然読めたモンじゃねえな。」
「でも重なって落ちてたのなんか結構普通に読めますよ。コレ見てください。」
珪都がほとんど汚れていない書類をエラミルに差し出した。
エラミルが目を通し始めた時、珪都がその内容の大意を説明し出した。
「これによると、人をゾンビ化させる原因物質は"花粉"らしいです。」
「花粉? 何の?」
「え~と…、"オオツタチスイクサ"?」
珪都は見慣れない文字列に目を凝らして読み上げた。
エラミルはそれを聞いて眉をひそめる。
「聞いたことねえな。血を吸う草?」
「この植物については何にも書かれてないですけど、この花粉を取り込んだ後にどうゾンビ化するかは書かれてます。」
「というと?」
「ええと、花粉は人間の体内に侵入した後、血管内で栄養を摂取して一気に生長し、新たな血管を形成するかのようにツタを体中に張り巡らし始めるそうです。それと同時に形成された根は神経系を侵食して脳に達し、脳内へと進出していきます。その結果、人間は理性を失ってあのように…」
「待て待て。」
エラミルが珪都の解説を制止した。
「植物だと? アイツらは明らかに死んでるんだぞ。どうやって動いてるってんだ?」
珪都の対応は冷静だった。
「それも書いてあります。難しい事は分かりませんが、細胞間の水分移動―――この植物の場合は血液の移動ですね。それで動いてるみたいで、原理はハエトリグサと同じです。」
「…全身のツタをそうやって動かして、人間の体を操縦してるってことか?」
「一応、理屈は通りますけどね。それでもこの植物の運動量は他と比較しても桁外れみたいですけど……。」
「マジか…。何から何までファンタジーだな、全く。」
エラミルが溜息混じりに言っている間も珪都の解説は続く。
「感染者はやはり急激な血液不足で死に至り、晩期死体現象? が進んでいくらしいですが、それを防ぐために奴らは生きた人間を襲うと書いてあります。」
「何…?」
「動物が死んだ後の腐敗については、その原因の微生物を殺してしまう毒素を宿主の死亡直後に発生させるので問題はないそうです。問題はもう1つの自家融解という、酵素によるタンパク質の分解現象。これを発生させる酵素を抑制する物質を、生きた人間から摂取しているとあります。」
「じゃあしばらく何も食わなけりゃアイツらも勝手に腐って死んじまうってことか?」
「でしょうけど、何故かそんな様子のヤツは1体も見ませんね……。」
珪都が少し目線を落としていった。
エラミルもそれは分かっていたが、ヤツらが自然消滅する可能性に少しでも希望を見出さずにはいられなかった。
「それに、今まで聞いた話で全部筋は通るな。」
「え?」
「つまり、奴らは脳を破壊すれば殺せる。出血多量でも死ぬのは、栄養が不足するうえ、移動が出来なくなるから。ただし、疲れや痛みは全く感じない。今まで判明したことがその文章で全部説明できるじゃねえか。」
「ヤツらが吠えるのは獲物を威嚇するため以外にないとも書いてありますよ。一応、肉食獣ですね、やっぱり。」
「とにかくだ。原因がそこまで分かってるって事は治療法が分かってても不思議じゃない。探すぞ。」
「はい。」
ゾンビの正体は分かったが、治療法が見つからなければ意味はない。
珪都たちは気合いを入れなおして捜査を再開した。




