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突き当たりの角を右折してすぐ、立ち入り禁止と書かれた重々しい鉄扉に行き当たった。
「何だこりゃ?」
エラミルがその場違いさに驚いている。声には出さないが、珪都も無論そうである。
と、通路の奥の方からゾンビの声が聞こえてきた。
声の主は次々増えていっている。ヤツらが通気孔から出てきたらしい。
「後戻りはできない。進むぞ。」
エラミルが言い、珪都は小さく頷いた。
それまで見てきた扉とは明らかに形態が違う。
エラミルは扉にぴたっとくっつくと、取っ手をしっかりと握り、ゆっくりと下ろして肩に体重をかけた。
扉は気だるそうに開放されていく。
奥には漆黒しか見えない。
完全に開放されても、廊下からの照明がわずかに室内を照らすだけで、その全容は分からなかった。
2人ともマグライトを取り出し、未知の空間を照らしながら部屋の中へと入っていった。
室内も2人の想像を裏切らず、異質だった。
棚に陳列された様々な薬品類。
実験室などにありそうな、水道、ガス栓が据えつけられた長机。
やはり理科系の実験器具。
散乱した何かの書類。
ただし、これだけは他の部屋と変わらず、飛び散った血痕が凄まじい臭いを放っていた。
「何だここは…。」
エラミルは手さぐりで壁に電灯のスイッチを探しながら言った。
指先に手ごたえを感じ、力を入れると部屋の電気がついた。
部屋の突き当たりに扉と、隅には全身を食い荒らされた死体が座るように存在していたのは見落としていた。
「何かの実験室……?」
「正直、俺は食いモンが手に入ればそれで上等だと思ってたが、もしかしたらものすごい収穫かもな、これは。」
エラミルと珪都が部屋を見回しながら言った。
ズチャッ
渇きかけの液体を引きずるような音がした。
音の方を見ると、隅に座っていた死体が立ち上がっている。
「チッ、またか。」
エラミルが銃を向ける。
それがこちらを向くまでに片は付いていた。
粉砕された頭から濁った血液が部屋の壁に撒き散らされ、それは動かなくなった。
「こいつの出で立ちは何か知ってそうな雰囲気だったが、死んじまってりゃな…。」
死体を見下ろしながらエラミルが呟く。
そいつは明らかに白衣を着ていた。それはもはや赤黒い色の不気味な上着と化していたが…。
よく見ると、ネームプレートが付いている。
それに気付いたエラミルがそれを掴んで引きちぎった。
「……汚れてて一部は読めんが…。
………粉………究員…エド……………イザー…?」
「何を研究してたんでしょう?」
「決まってんだろ、この悪夢の元凶だよ。」
何故かエラミルは断言したが、珪都もすんなりと納得した。
「ここを調べるぞ。もしかしたらヨシキを助ける手がかりが見つかるかもな。」
「芳樹を……!」
珪都の目はこの星に来て初めて希望を見据えていた。
芳樹を助けられる―――――!




