3-6
廊下に出ると、すぐにリディは後ろ手で扉を閉めた。
2人は背中合わせになり、銃を構えた。
2人が部屋から出てきた音で周りのゾンビは既にこちらを認識していて、こちらが臨戦態勢に入ると同時にヤツらが飛びかかってきた。
優香は歪む視界に神経を集中し、向かってくるゾンビの顔を正面から見据えた。
銃はしっかり構えてある。
銃口は敵の額を真っ直ぐ向いている。
引き金を引く。
――――
最初の1発だけ、優香は意識を持って射撃をした。
あと4体ほどいたが、距離が近すぎていちいち集中している暇は無かった。
しかし、体は勝手に動いて引き金を引くのをやめようとしなかった。
そうして気付いた時、目の前には数体のゾンビの死体が、全て仰向けで倒れていた。
それを確認すると、おびえる暇も無しに振り返り、先ほどから射撃を続けているリディに加勢する。
何体倒しても、奴らは次から次へと廊下の角を曲がって現れる。
「進むぞ。」
リディは一言そう言って、ゾンビを倒しながら前進しだした。
優香も驚きながら後に続く。
ゾンビをどれだけ倒そうと敵の数が減るとは思えない。
ただし、倒すたびに死体はどんどん山を築いていくから、一旦避難してからもう一度…などとやっていれば、同じことを何度も繰り返して全く進めない上、どんどん足場は悪くなっていく。
ならば、なるべく早く、危険に立ち向かってでも進むのが最善の策。
―――であることを優香が理解したのはそのずっと後のことだったのだが。
その時は単純にリディがせっかちなんだろうと思い、自分がモタモタしているよりはついていった方がずっと良いとそれだけは理解してリディの後を追っていた。
次々現れる、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ――――――
優香は決してひるむことをせず、時々目をこすりながらひたすら倒すことに専念した。
その時、優香は必ず撃とうとした個体の顔を正面から見た。
リロードも最初は弾が切れて瞬時パニくっていたのが、今は焦らずにマガジンを入れ替える事が出来る。
廊下を進むたび、敵が現れる場所は増える。
自分たちが通ってきた方とは違う通路、そこら中の扉、そして、進行方向。
四方八方に、2人は常に全ての感覚を研ぎ澄まして敵を察知、排除していった。
だが、いくらリディがついているといっても、状況が悪すぎた。
「くっ…。」
リディが渋い顔をしながら苦しげな声を漏らす。
それは優香の鼓膜を休むことなく痛め続ける銃声と咆哮の合間にはっきりと聞こえた。
百戦錬磨のリディが苦戦している。
今までリディがどんな手際で任務をこなしてきたのか、全く見た事の無い優香でさえゾッとした。
もしエラミルがここにいたらどんな反応をするだろう―――。
もはや敵を倒すことに慣れすぎて、無駄なことを考える余裕ができてしまった。
射撃は既に、優香にとって難しい事ではなくなっていた。




