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一方リディと優香は途方に暮れていた。
唯一の通気孔は細身の優香が装備を全て外しても通れる大きさではない。
まさか一企業の社員用ロッカールームに隠し扉があるハズも無いだろう。
リディは部屋の隅で座ってライフルやその他の装備を整備していた。
優香はそんなことができないから、いよいよやることがなくなってただ座るしかなかった。
この状況を打開できる策がリディの口から発表されるのを心待ちにして何分も無駄にした。
依然リディが動きを見せることは無い。
優香の目は不気味なほど静かになった廊下への扉とリディとを往復する。
この"状況密室"を突破する出口はただ1つ、扉からしかない。
だが、外にはヤツらがうようよいる。
そしてそれらを相手にするにはあまりにも分が悪かった。
何しろ、優香はまだ、撃たなきゃ殺される状況でゾンビを倒したことがない。
ここから飛び出してすぐ、こちらに向かってくるゾンビを正面から撃ち殺す度胸が、優香にはなかった。
それは自分でもよく分かっている事であり、だからこそここは"状況密室"なのである。
ガチャッ
銃の機関音がして、優香はリディを見た。
リディはすっかり整備を終えてしまったようで、もうサブマシンガン以外の武器はしまっていた。
そして、久々に口を開いた。
「ユカ、色々考えたが、やはり脱出手段はその扉からしかない。」
ああ、やっぱり…。
想定していた中で最良であり、最悪の選択だった。
「アンタは扉を出たら右のヤツらを片付けろ。右の方が廊下が短いから敵も少ないはず。左は私がやる。」
リディは立ち上がった。
優香はまだ座っていたのでリディを見上げる形になった。
「何してる? 急げ。」
優香は不服そうな顔で重い腰を上げた。
その顔だけでリディは十分イライラを覚える事が出来た。
まだ優香には覚悟が足りない。だから、まるで親の言いつけに面倒臭がりながら従っているような顔をする。
リディはたまりかねて言った。
「ヨシキを助けたいんだろう。時間が無い。戦うことを覚えろ。」
―――――――――!!!!!
優香はそこで芳樹の姿を思い出し、泣きそうになって慌てて涙腺を締めた。
芳樹の恐怖はこんなモノじゃない…。自分が化け物に変わりゆく恐怖は、こんなモノじゃないのに……
優香は自分の感じる恐怖と、少しの怠惰―――もはやどうなってもいいという、人生への倦怠感―――に任せて、いつしか芳樹の事を忘れかけていた。
―――
芳樹は、その間も自分達の事しか考えていなかったのだろう。
信じるものが自分たちしか無い状態。
珪都が去り際に芳樹に言い放った「必ず戻ってくる」という言葉は、決して珪都だけの言葉じゃない。
―――
「はい。」
しばらく間を空けて、返事をした。
リディのイライラは、優香の勇気へと変換された。
リディは優香の顔を見て自分の言葉が良い方に効いたのを確信し、扉へ向かった。
優香もそれに続く。
リディはノブに手をかけ、もう一度優香を見た。
優香がうなずくと、リディはゆっくりと扉を開け、2人は外へ出た。




