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しばらくすると、扉を叩く音も、無理矢理開けようとする力も無くなった。
2人はそれから更に数十秒後、扉に銃を向けながら恐る恐る後ずさりで離れていく。
ゾンビが入ってくる気配は全く無い。
リディは扉に鍵をかけるつまみがついているのに気付き、ゆっくりと近付いて静かに鍵を閉めた。
優香はまだ銃を固く握って扉へ向けている。
いつ引き金が引かれ、リディが撃たれてもおかしくない。
リディがそれに気づき、近付いていって銃を上から押さえ、銃を下ろさせた。
「ユカ、もう大丈夫だ。」
リディは外のヤツらを刺激しないよう、静かな声で優香をたしなめる。
そのせいで、優香にはその言葉がリディの思惑の数倍優しく聞こえた。
「しばらくここに隠れていよう。その間に脱出する方法を探すぞ。」
「…はい。」
優香は弱り切った表情で言った。
――――――
「くそ、早速篭城かよ。」
エラミルは休憩所のような場所で毒づいた。
エラミルと珪都の2人も大群に襲われ、命からがらこの休憩所に逃げ込んだのだ。
左右には色々な缶ジュースやアイスなどを売っていたらしい自動販売機があり、部屋の中央には自動販売機と平行に2つの長椅子が設置されていた。
その椅子に、珪都とエラミルは向かい合って座っていた。
「これからどうするんですか?」
「外はヤツらだらけ。俺らの腕じゃ強行突破は厳しいな。リディがいれば大分違っただろうが。」
リディもエラミルも射撃はかなりのモノのはずだが、リディの前ではエラミルはかすんで見えるということだろうか。
「さて…、外に出られない以上、アレしかないようだな。」
エラミルが天井の隅を指差した。
珪都がその先を見ると、四角く網がはまった通気孔がある。
「ああ……なるほど。」
珪都もそれが最も妥当な手段に思えた。
普段の珪都なら絶対そこを通ろうとは思わないだろう。
ほこりや汚れにまみれている狭い通路を這って進むなんて、今でも考えるだけで背筋がゾッとする。
だが、リアル背水の陣である状況で贅沢は言っていられない。
ほこりまみれで生きるか、血まみれで"ゾンビとして"生きるか、これほど簡単に選べる選択肢も無いだろう。
エラミルはチャッチャと自動販売機の上へ上がり、不安定な姿勢で網のフタを外しにかかる。
「ボルトで留めてあるな…。面倒だ。」
エラミルは赤黒く染まったナイフを取り出し、網を切断し始めた。
あの血はどこかでゾンビを始末した痕なのだろうかと珪都が余分な考察をする。
金属と金属がこすれ合う耳障りな音が響き渡り、外のゾンビに聞こえるのではないかと心配になるほどだ。
エラミルはただ、黙々と網を切断し続けていく。




