3-2
その先にはちょっとした長さの廊下があった。
やはり明かりはついていないものの、右の壁に2つ扉が、そして突き当たりは右に曲がっていた。
……血痕の散乱具合が凄まじい。
「うっ…」
珪都がその生臭さに鼻を覆った。
「ケイト、我慢しろ。片手で銃持ってたって撃てないんじゃ意味無いだろ。」
エラミルが言い、珪都は仕方なく両手で銃を構えながら悪臭に顔をしかめた。
「会議室か…。」
エラミルがそれぞれの扉についているプレートを読んだ。
手前から会議室1、2となっている。
「目的の物はないだろうけど敵がいないことを確認しておかないとな。」
エラミルが先ほどと同じ要領で扉のノブに手をかける。
珪都はそれを合図にするようにエラミルと扉を挟む位置についた。
今度はカウントの後にゆっくりと扉を開けた。
長机やパイプ椅子などが散乱し、大量の血液が飛び散った痕がひどいが、敵影は無い。
「…よし、次だ。」
会議室2も確認したが、状況が会議室1と酷似している以外、変わったことはなかった。
今度は角を曲がる。
左手側に階段があり、2階に続いていた。右手側は自動販売機があるスペースへと続いている。
「ケイトは階段を上がりながら、俺が良いと言うまで背後を警戒してろ。俺が2階の安全を確認する。」
「分かりました。」
エラミルと珪都は背中合わせに階段を上り始めた。
珪都は、先ほど確認した会議室からでも敵が飛び出してきそうな気がした。
いくら安全を確認しても、神出鬼没に現れそうな雰囲気。
思わず銃を握る力が強くなり、銃は珪都の手汗でベトベトになっていた。
今さっき自分達が通った、あの角の先から、今にも大群が現れ、襲ってくるのでは?
生唾を飲み込む。
物理的に有り得ない考えを必死で振り払おうとして、いつの間にか警戒がおろそかになっているのに気付き、集中した。
大丈夫……、大丈夫……
「ケイト!」
エラミルがいきなり珪都を呼び、珪都はビックリして一瞬肩を浮き上がらせた。
「見たところ大丈夫だが、道が左右に分かれてる。右から行くから、お前は階段上がりきったら左を警戒してくれ。」
「は…はい。」
「? 顔色悪いぞ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。」
珪都は必死でひきつった笑いを浮かべて言った。
「まぁ、怖いのは分かるけどな。頑張れ。今のうちからそんなじゃ精神イカれちまうぞ。」
エラミルが心配そうに言った。
ビルに入ってからこれまで、自分達は数分しか動いていないし、その間に何か特別な事があったわけでもない。
なのにこんなに気疲れしてしまっているのに、珪都は今更ながら驚いた。
もしこれでどこかからゾンビがいきなり現れたら、本当にそれだけでショック死してしまいそうだ。
珪都とエラミルが階段を上がりきる。
左右が長い廊下になっていて、扉がたくさん見受けられた。
エラミルが手前の扉から順に開けていっているのが音で分かる。
自分はその探索のアシストをしなければならない、重要な立場だ。
しっかりしなくては―――――
珪都は心の中で何度も自分を励ました。
――――――ガチャッ
――――――バタン
――――――ガチャッ
―――――――――――ダン、ダン
「!!?」
「珪都! 走れ! どこかに逃げ込め!!!」
エラミルが銃を連射しながら叫び、こちらに走ってきた。




