2-6
橋を乗り越えると目的地、ドッグロードビルはすぐだった。
こちら側にゾンビは1体たりともいなかったため、援護射撃組は油断しかけては気を引き締めるという無駄なプロセスを何度か繰り返した。
車は無難にビルの前で停車した。
「任務開始だ。」
エラミルがそう言いながら軽快に車を降りた。
珪都と優香はそのセリフで、気を抜いていた自分達を戒めた。
この行軍は任務に就くための過程であり、本当の闘いはここからであることを忘れていたからだ。
「それにしてもゾンビがいないですね。」
珪都が言った。
「油断するなよ。私らはちょっととは言っても車でこっち側を移動してる。その音で遠くから走って来てる途中かもしれない。」
「それに大半がこのビル内に入って一暴れしたのかもしれない。その残党をこれから相手にすると思っとけ。」
リディとエラミルが嫌でも後ろ向きになることを言う。
珪都と優香はうつむきそうになって、何故か慌てて前を見据えた。
「さて、さっきまででもう大分弾を使っただろう? 助手席の予備弾から補充しておけ。ただし、持ちすぎるなよ。」
リディが指示し、珪都と優香は助手席へ向かった。
「いよいよだな。」
「任務内容の再確認。必要物資―――つまり食料と、できれば武器の調達、それに、脱出手段の確保。」
ここでエラミルが怪訝そうな顔をした。
「…脱出手段? この車があるじゃねえか。」
「悪いけど何処にあるかも分からない物資をここまで運ぶのに伴う労力とリスク、私らが探索している間に集結すると思われるゾンビの脅威を考えると、この車で脱出するのは相当難しい。」
「まぁ……確かに。商品輸送用の大型トラックとかあれば最高だな。」
「そうね。」
リディが抑揚の無い声で言いながら、ライフルをしまってサブマシンガンを取り出した。
エラミルも珪都と優香に加わり、橋の前で少しだけ使った弾を補充した。
リディが空を見上げる。
皮肉にも、今日は雲ひとつ無い青空だ。
ビルの方を見ると、透明の自動ドアらしき入り口の向こうは明かりの1つもない無機質な闇が支配している。
リディは身震いした。
軍にいた頃はどんなに相手の位置を把握しにくい複雑な建物内や、暗いエリアを探索する時にも、恐怖を感じることなど無かった。
この震いは武者震いに違いない。
リディには、そう自分を抑え込んでいるより他にできることがなかった。




