1-2
「…何だこりゃ。」
芳樹が呆気に取られた様子で言った。
言い終わっても口が塞がっていない。
「これじゃあここに住むどころか、脱出用の宇宙船だって…」
「そんな……そんなのヤダ! こんなトコで…、こんなトコで……!」
優香がもう涙目で叫んだ。
珪都も泣きたいところだったが、だがまだ宇宙船がないと決まった訳ではない。
人はいないだろうが、脱出のしようはあるはず…。
「ここで泣いてたってしょうがない。ダメ元ででも探してみるぞ。」
芳樹は困っているような、何かを悔やんでいるような、そんな顔で頷いた。
優香の目から涙が溢れていたので、励ましながら背中を叩いて捜索を開始した。
しばらく歩いていくが、あるのは崩れた建物だけ。
植物は普通に生えているし、だからこそ人間の住める環境になっているわけだが、
住めても住みたくない星だったら話は別だ。
早く出て行きたい焦燥が珪都の胸の奥を熱くする。
と同時に、この星に恐れをなした。
直前まであんなに嬉しそうだった芳樹、あんなに得意げだった優香が、一瞬で絶望のどん底に叩き落されたのだ。
「こんな状態じゃ、宇宙船があったって…。」
心の中でそんなことをふと思うと、目の前に突きつけられた現実がまた大きくのしかかってくる。
ここで3人で飢え死にする様子が、3人で脱出する様子よりよっぽど鮮明に浮かび上がってきた。
「…!」
怖くなって、嫌な感情を振り払おうと深呼吸をして、ようやく気付いた。
死臭がする。
生ゴミの腐った匂いの、数十倍はあるだろう不快な匂いを含んだ空気が珪都の鼻を通って肺一杯に吸い込まれた。
「ウッ…ゴホッ、ゴホッ!」
「ど、どうしたの?」
優香がまたオロオロしながら心配してきた。
「いや、なんか、メチャメチャ臭くないか…?」
咳き込みながら珪都が言った。
言われて気づいたのか、芳樹と優香も鼻を覆って眉をひそませる。
「こりゃあいよいよ…だな。」
芳樹が何を言おうとしたのかはよく分からなかったが、珪都も優香も覚悟ができてしまった。
せめて人がいてくれれば―――――
ガサッ
「!?」
近くの茂みで何かが動いた。
人…じゃなかったとしても、何か別の動物でもいい。この星で初めて生物の気配を感じた。
そして、同時に途方もない期待がこみ上げてきた。
「何かいた!」
芳樹が叫ぶのと同時に、その何かは何ももったいぶることなく茂みから姿を現した。
一瞥して人だったのだが、よく見ると何かがおかしかった。
蒼白の肌に、真っ黒な口、生気のない視線…
だが特筆すべきは右腕だった。
上腕の肉がゴッソリ無くなって、しっかり骨が見えている。
出血がひどかったのは当然だろう。右腕は全体的に赤黒く染まっていた。
「ヒッ……」
優香が息を呑んだ瞬間、目の前のソレは獣の咆哮を上げてこっちへ走ってきた。




